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 02

表向きは、敵の仲間割れによる自滅で任務は完了、アルファは殉職、ということになったのだが、リバーはずっと、心を閉ざしていた。

 信頼していたベリアル・リーダーが実はアルファと同じシェイカーだったこと、任務にはその力を利用して、たび重なる危機を乗り切っていたこと、そして、あの時には彼とアルファを救うためにシェイカーとして禁断の手を使ってしまったこと。

 ベリアルは、シェイクによって彼らを全滅させたのだった。

 聞けば聞くほど、恐ろしさがつのった。自分に暗い絶望の闇をみせた、彼らの力が心底怖かった。そして、その力を憎んだ。

 ベリアルはリーダーを退き、支部の拠点にひきこもった。

「その一件から、彼は自らの力を封印した」

 リバーも特務として復帰することはなかった。

 同じ技術部のあちこちの部署を転々として、それでも、持ち前の几帳面さと粘り強さで技術部長にまで昇ったのだった。

「彼女とはすぐ、別れた」さっぱりとした言い方だった。

「あの当時はね、精神的にもメチャメチャだった。かなり荒れていたよ」

「その後、ベリアルとはその件について話はされたのですか?」

「いや……」ナカガワは、メガネを取って手ぬぐいで顔をぬぐう。

「彼に会うたびにね、思い出してしまう。理性的にふるまおうとすればするほど、心の中でパニックが起こってしまうんだ。憎いというより、そう、まだ怖いんだよ」

 だからキミのことも怖い。理屈以前に、受け付けないのだ。

 そう言いながらも、ナカガワはくつろいだ様子で座っていた。

「キミは、この話を聞きにきたのではないんだろう?」

 木陰ではすでに、秋の虫が鳴き始めている。冷たい風が海の方から吹いた。

「新しい部長が、何故キミを標的にしたか」

 サンライズは少し寒くなって膝を抱え直した。

「そうです」

「これは中尊寺も知らないことだろう」少しだけ、かつての傲慢そうな笑みをみせた。

「ラチに引き継ぎをする時、わざわざ廊下に呼び出された」

 ナカガワ部長、デスクだと盗聴されるからここでお伝えしておきますね。ラチは爽やかな笑顔を浮かべて、こう切り出したのだそうだ。

「ナカガワ部長」わざわざもう一度、そう呼んでから

「いや、かつてはコードネーム・リバーでしたね」イヤな笑い方をする。

「かなり昔はね」

「チシキ・レンという名にご記憶があるでしょうね」

 ナカガワは表情を変えずに、ラチの顔をみた。

「もちろん」アルファの本名だ。一日たりとも、忘れたことはなかった。

「あなたのドクターファイルを、見せていただきましたよ。あの時の」

 極秘の事件調査書を、どういうツテか知らないが、閲覧したらしい。

 彼は顔色を変えた。

 すべて、真実に近いところが記録として残されていた。中身を知っているのは、たぶん、ベリアル、リバー、そして担当した医師と当時の上層部数名のみだろう。

「本部技術部長の読める代物ではないが」

 わざと冷たく言い放つ。

「そうですね」

 ラチは、落ち着き払っている。

「しかし、必要としているニンゲンには読む権利はある」

「キミが、必要としているだって?」

 ナカガワが大声を出した。「なぜだ」

 ラチがついに牙をむいた。

「そう。復讐のためにはね。あなたと、ベリアルへの復讐に」

「何だって」

「レンは、ぼくの弟ですから」


 誰にも話すつもりはなかった。たとえ、ベリアルにでも。彼ならば、自分で何とか解決できるだろうし、やられるのならばそれはそれで仕方がない。少しでも関わりになるのはまっぴらだったから。

 自分も、四国の拠点に引きこもってこのまま朽ち果てようと思っていた。

 電話がかかってきたのは、そんな時だ。ベリアル……中尊寺支部長からだった。

「ラチについて、知っていることがあったら教えてほしい」

 いつになく、切羽詰まった声だったという。

「キミが私のことを憎んでいるのは、重々承知だ。それでもお願いしたい」

「どうしてですか? アナタの方が中央に近い、十分に。調べる方法はいくらでもあるでしょうに」

「調べ始めたところで、脅迫状が届いた」

 ベリアルとあろうものが、そんなことで怯えているのか、ヤキが回ったもんだ、そう言ってやろうとしたナカガワに彼は言った。

「ヤツは、サンライズを破滅させてやる、そう言ったんだ。私の代わりに」

 名乗ってはいなかったが、ラチからの挑戦状だということは明白だった。

 やはり極秘の調書を閲覧して、ベリアルの一番弱いところを衝いてきたのだ。

『オマエの子飼いだろう? アイツもシェイカーだとすぐ分かった。

以前若いシェイカーを見殺しにしてしまったオマエだが、もう一度だけチャンスを与える。今回も、見殺しにしたくなかったら現在の調査から足を洗うように。

調査を止めさえすれば、ヤツの命だけは助けてやる。命だけは』

 ナカガワは彼に言った。

 そんなにサンライズが心配ならば、彼をこちらに来させるように。私から直接話す。

「お願いします」

 ベリアルはかつての部下に頭を垂れて乞うた。


 ナカガワが木陰から立ちあがった。

「キミがやられようがどうなろうが私は知らん」

 座ったままのサンライズに向ける目には、それでも以前のような憎しみはなかった。

「しかしやはり……ベリアルには逆らえないんだ、何故なのかな」

 サンライズは畑に戻って続きを耕す彼をしばらく眺めていたが、やがて立ち上がり、遠くから一礼して去っていった。

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