第五章
本条戒斗はまだ帰らない。
彼が来て6日目、なぜか居着いてしまったらしく学校から帰ると決裁を待つ重役が廊下にズラリと並んでいるのにも慣れた。
なんで、いるんだろう。
めったに喋らない彼がいても家が賑やかに感じるワケもない。
ただ、いるだけ。
益をもたらすでもなく害をなすこともない存在に−−咲耶はおおいに、とまどっていた。
まぁ、喋らずとも2人の空気に慣れ始め、話し掛けたのはそれから2週間と少しあと。
咲耶が学校のテストで500点中498点を取り、成績ではAだらけの5しかない通知表をもらって夏休みに突入、それから5日ほど経ってからだった。
「いつ頃、帰るんですか?」
朝食をとりながら聞くと、戒斗は首を傾げながら答えた。
「夜。…ご飯はいらない。」
「分かりました。」
平然と返しながら、もっと早くに言ってくれたらよかったのに、と心の中でまゆをひそめた。
冷蔵庫には野菜やら何やらが入っているのだが、それには二人の分量で入っている。
自分と戒斗の。
夏場は食べ物が痛みやすいのだから食べるのには間に合わないだろう。
処理するにはもったいない。
せめてものあてつけに、今日の昼ご飯はピーマンだらけにしてやろう。
戒斗がピーマンが苦手だと知ったのはつい最近だ。まさか本家の実力者に嫌いな野菜があるなんて誰が思うだろう。
…考えてみれば彼だって1人の人間なのだから苦手なモノがあって当然なのだが。
まぁ、そういうわけで。
この謎の同居生活は終わりを告げた。