裁きの娘
ご指摘をいただいて、表現を多少変えました。また酷いミスがございましたので、訂正させていただきました。内容に変更はありません。
そこは、裁断の場であった。
いるのは数人の少年少女。1人の少女の周囲を4人ばかの少年が囲い、そんな彼らの前に1人の少女が立つ。
端から見ればそれは、たった1人で立つ少女を断罪する場面のようであろう。彼らは皆、険しい顔で少女を見ている。
だがそれは、少女による、彼らの断罪の場であった。愚かにも、少女を貶めようとした、馬鹿な彼らを裁く、裁断の場。
少女は言う。
「もう一度言ってごらんなさい。それが正しければ、その身は無事でしょう。ただし、それが偽りであればその舌、切り取られて生涯声なしとなるでしょう」
たいして調べもせず私に喧嘩を売るからこうなるのです。少女の唇が三日月型に歪んだ。
神よりの加護により在る国、ラタージャ。そこには神より守護の加護を賜った王家を筆頭に、様々な加護を賜った者達が多くいる。
加護を持つ者は皆、神への信仰が深い民を守り助ける存在としてなければならない。加護は信心深い民の祈りによって、賜ることができるものだからだ。
そのため、加護を受け取ったものは王家より創立された学校に通わなければならない。これは義務である。幼少の頃より、加護の使い方に慣れさせ、また民に報いるその心を成長させるのだ。
だがしかし、皆一様に微妙な年頃。また、特殊な力を持つ者達だ。時には驕り高ぶり、間違いを犯すこともある。それを正し成長させるのも学校の役目。ただし、幼い生徒、学校内と言えど全てを許容できるわけではないのだ。
「リーリャ。君には失望したよ」
少年が言葉を発する。
緑豊かな学校の中庭で、数人の少年少女が彼女の前に立っていた。皆、整った容姿を持つ者ばかり。1人の少女を囲う少年達は、皆が皆彼女を睨んでいた。
彼女に声を掛けたのは、その中の1人。淡い橙色の髪と瞳を持つ、彼女の婚約者だ。
「はて。突然呼び出して失望したとはまた随分ですね?」
彼女は己の長い艶やかな黒髪を耳にかけながら、突然の言葉にも動揺することなく、言葉を返した。それに婚約者の彼は顔を歪ませた。
「心当たりがあるだろう?」
「無遠慮に呼び出しを受け挨拶もなく侮辱を受けるような心当たりはありませんね」
途中で区切ることなく彼女が言い切る。どこか冷たく見えるその様に、別の少年が声を荒げた。
「しらを切るな!聞いているぞ、貴様がシュヤを貶めようとしたことは!」
彼女が視線だけを向ける。今声を上げたのはこの国の王子か。隣に立つ、儚げな容姿の少女の腰に手を回しながら、将来この国の頂に立つ男は此方を睨んでいる。
あらやだ手の早い男。
クスリと小馬鹿にしたような笑みを浮かべて、彼女が言葉を溢す。一応の配慮か小声だったそれは、それでも王子の耳に届いたらしい。なんだと、と王子がいきり立つ。
そんな王子を無視して、少女を挟んで王子の反対側に立っていた少年が、今度は口を開いた。彼は騎士団長の息子か。
「シュヤの部屋を荒らすこと数回。シュヤに関して事実無根なことを口さがなくしたこと数回。その他、シュヤを傷つけようと手を回してもいたようですね。全て調べはついています」
「お前、それでも加護を賜った人間か?この屑が」
騎士団長の息子に同意するように、少女の取り巻きと化した集団の1人になっていた、これまた結構な立場である侯爵家1人息子が吐き捨てた。
彼女は彼らを一様に眺めると、最後に彼らに囲われる少女を見た。少女は可哀想なほど、顔を真っ青にさせていた。
その姿に、彼女は凄絶に笑った。
ーー力量なく手を出すからこうなるのよお馬鹿さん
「『調べがついている』?それは本当に調べたのですか?私の元に誰一人として聴取に来ていないのですが」
「シュヤ本人と、目撃者に話を聞いた。容疑者に話を聞いてもどうせ事実は言わないだろう。充分じゃないか」
久方に婚約者が口を開いた。しかしその内容は、本人が言う充分とは到底かけ離れたこと。彼女は冷たく切り捨てた。
「馬鹿を言わないでくださいな。そんな偏りきった調査など、調査とは言いませんよ」
それでもそれが本当に充分だと言うのなら。
彼女が告げる。開廷の言葉を。裁きの場を生み出すその言葉を。
「審判を始めましょう」
彼女の出生を知るものは、極一部の人間しかいない。彼女はこの神の加護にて在る国で、特異な存在だった。
一部の人間が信奉する、知られざる神。地獄という場で死者を裁くと云う冥府の神、閻魔。
その閻魔と信者との間に生まれ落ちた子。それが彼女、リーリャ・ゴクト。彼女は神を信仰する国にて、神の血をひく人間だった。
そんな彼女の加護。否、彼女が親より受け継いだ力は裁きの力。嘘を、偽りを述べた者の舌を切り取り
声を奪うものだった。
彼女の目の前に少年少女が膝をつく。皆一様に口を押さえ、痛みに震える。彼らの口を押さえた手から零れ落ちる血が、彼らの証言を嘘だと偽りだと告げていた。
「だから聞いたじゃない。それは本当に調べたのですか?って」
先程と違い敬語を外し声に抑揚をつけて、彼女は愉し気に言う。膝をつく彼らを見下して、無慈悲に告げる。
「貴方達の言葉は全て嘘偽り。よってその舌切り取って、嘘偽りを吐くその声を取り上げます」
ふふふ、とその場に合わない笑いが響く。
「馬鹿な女に捕まって、可哀想。声を無くし前科を受けた貴方達は、これからいったいどうなるのかしらね」
生気をなくした目が5対、彼女に向けられた。




