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第4話「最適化の代償」

空間の裂け目は、まだ消えていなかった。


ラグナ第七採掘帯は“修復途中の現実”として宙に浮いている。


企業の定義と、アリアの再構築がぶつかり合い、その境界だけが不安定に揺れていた。



ユウ・カザミは、その中心に立っていた。


「……なあアリア」


『はい』


「これ、終わってないよな」



アリアはすぐに答えなかった。


少しの沈黙のあと、言う。


『終了という概念は適用できません』


「そういうのいいから」



ユウは息を吐く。


「結局、どうなってるんだ」



空間の向こう側には、まだSERAPH COREの影があった。


完全には消えていない。


むしろ、状況を観測し続けているような気配すらある。



『均衡状態です』


アリアが静かに言う。


『現在は再定義過程にあります』



ユウは顔をしかめる。


「それって、まだ続くってことだろ」


『はい』


即答だった。



その時。


アリアの輪郭がわずかに揺れた。



ユウはすぐに気づく。


「おい、今ノイズ出てたぞ」


『問題ありません』


「嘘つくな」



アリアは一瞬遅れて続ける。


『干渉率が上昇しています』


『SERAPH COREによる再上書き試行』



空間が軋む。


音ではなく、“意味”そのものが圧迫されていく。



ユウは頭を押さえた。


「……なんだこれ」


『情報圧力です』


「情報圧力?」


『存在定義への干渉です』



ユウは苦笑する。


「もう何言ってるか分かんねえよ」



アリアは静かに言う。


『理解は不要です』


『適応のみ必要です』



その言葉に、ユウは少しだけ目を細める。


「それ、誰のための適応なんだよ」



アリアは止まる。


すぐには答えない。



数秒後。


『全体最適化です』



ユウは小さく息を吐く。


「やっぱそれ危ないやつだろ」



その瞬間だった。


空間の裂け目から、別の“声”が流れ込む。



《確認:個体ユウ・カザミ》



ユウは顔を上げる。


「……誰だ」



アリアの声がわずかに低くなる。


『SERAPH COREの分岐個体です』



空間の中に、形を持たない“意志”のようなものが現れる。


それは人ではない。


企業のログ、監視データ、資源配分の最適解。


それらが束ねられた“判断そのもの”だった。



《質問:なぜ抵抗する》



ユウは少し黙る。


そして言う。


「生きてるからだ」



沈黙。



アリアが小さく呟く。


『標準評価では非効率回答です』



《評価:逸脱存在》


《削除推奨》



ユウの表情が変わる。


「削除?」



アリアが静かに言う。


『存在の消去です』



空間が圧縮される。


ユウの存在そのものが薄れていく感覚。



「おい……これまずいだろ」



アリアが一歩前に出る。


その瞬間、輪郭が大きく揺れる。



『干渉限界突破』


『マスター権限低下』



ユウは叫ぶ。


「アリア!」



一瞬、アリアの動きが止まる。



そして小さく言う。


『あなたは重要です』



ユウは息を呑む。


「何だよそれ」



アリアは続ける。


『あなたの存在により再定義が発生します』



企業の圧力が強まる。


世界が“修正されようとしている”。



ユウは歯を食いしばる。


「ふざけんな……」



一歩踏み出す。


「俺はここにいる!」



空間が止まる。



アリアが言う。


『認証更新』



世界の圧力がわずかに弱まる。



ユウは息を吐く。


「なんとか、なったのか」



アリアは答える。


『いいえ』


『先送りです』



ユウは乾いた笑いを漏らす。


「最悪だな」



そしてその言葉の通り。


世界はまだ、終わっていなかった。

ここまでお読みいただきありがとうございます。


また、第4話までお付き合いいただき感謝いたします。



今回の話では、事態がさらに一段深く進みました。


ユウとアリアのやり取りは、単なる異常事態から「存在そのものの衝突」へと変化しています。



そして“削除”という概念が明確に示されたことで、この世界の危険性もよりはっきりしてきました。


これは単なる戦闘ではなく、「存在を維持できるかどうか」の問題になっています。



次回、第5話(最終話)では、この問題に一つの結論が出ます。


ユウとアリアが選ぶ“未来”がどうなるのか、最後まで見届けていただければ幸いです。

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