第1話「星屑の底で拾ったもの」
宇宙採掘場で働く底辺坑夫が、古代遺物のようなAI少女を拾ったところから始まる物語です。
ブラックな環境で少しずつ運命が動き出します。宇宙採掘場で働く底辺坑夫が、古代遺物のようなAI少女を拾ったところから始まる物語です。
ブラックな環境で少しずつ運命が動き出します。
「おいユウ! 手を止めるな!」
ヘルメット越しでも刺さる怒鳴り声だった。
採掘ドリルの振動で痺れた腕を押さえながら、ユウ・カザミは振り返る。
現場監督のガルドが、金属製の靴で岩を蹴っていた。
「休憩時間は終わりだ。さっさと掘れ」
「まだ三分残ってますけど」
「俺が終わりと言ったら終わりだ」
理不尽は、いつもこの一言で完結する。
ユウは短く息を吐き、ドリルを握り直した。
ここは辺境鉱区ラグナ第七採掘帯。
銀河系有数の資源企業「グランダイン資源開発」が独占する小惑星帯だ。
名目上は自由採掘区画。
しかし実態は、逃げ場のない労働監獄だった。
酸素は有料。
居住区はレンタル。
工具も宇宙服もリース契約。
働けば働くほど借金が増える構造。
「……ほんと、よくできてるよな」
思わず呟くと、隣の坑夫が乾いた笑いを漏らした。
「気づくの遅すぎだろ」
誰も本気では笑っていない。
⸻
その日の採掘終了間際だった。
ドリルの先が異様な感触を捉える。
「……ん?」
岩盤ではない。手応えが違う。
慎重に掘り進めると、黒い球体が姿を現した。
手のひらサイズ。
表面には意味不明な幾何学模様が刻まれている。
「なんだこれ……」
古代遺物。その言葉が頭をよぎる。
もし本物なら、一生分の借金が消えるどころではない。
だが会社に見つかれば即没収だ。
ユウは周囲を確認した。誰も見ていない。
無言でポケットに滑り込ませる。
何事もなかったように作業へ戻った。
⸻
帰還シャトルの中は、いつも通り静かだった。
誰も喋らない。喋る理由もない。
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ユウの部屋は六畳ほどだった。
金属むき出しの壁。錆びた空調。最低限の生活用品。
「さて、と」
ポケットから黒い球体を取り出す。
机の上に置いた。
「これ、売れたらいいな……三千クレジットくらいにはなるか?」
反応はない。ただの黒い塊だ。
軽く叩く。振る。
無反応。
「まぁいいか」
その瞬間だった。
球体が微かに光る。
『認識エネルギー確認』
「……は?」
部屋に女性の声が響いた。
『統合管理AIユニット、起動シーケンス開始』
球体が展開し、光が溢れる。
そこに現れたのは銀髪の少女だった。
赤い瞳。整いすぎた顔立ち。なぜかメイド服。
「いやなんでメイド服?」
『質問の意図が不明です』
「いや普通聞くだろ」
『衣服の文化的意味を理解していません』
「じゃあなんでそれ着てるんだ」
『初期設定です』
「雑すぎるだろ古代文明」
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少女はユウを見た。
『認証完了』
「え?」
『あなたをマスターとして登録します』
「は?」
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『分析結果を報告します』
「やめろ嫌な予感しかしない」
『資産:マイナス一百九十七万クレジット』
「言うな」
『居住環境:劣悪』
「言うなって」
『社会的地位:最低階層』
「やめろ!」
『恋人:未確認』
「それ関係ないだろ!」
『将来性:極めて低い』
「初対面で全部言うAI初めてだよ!」
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少女は首を傾げる。
『改善提案を行いますか?』
「できるの?」
『可能です』
『ただし資源が必要です』
「だろうな」
『この惑星には適切な資源が不足しています』
「詰んでるじゃん」
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沈黙。
そのときアリアが言った。
『一つ質問があります』
「なに?」
『なぜこのような労働条件で働き続けているのですか』
「生きるためだよ」
『非効率です』
「うるさいな」
『改善しますか』
「できるならな」
『可能です』
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ユウは目を細めた。
「……本当に?」
『はい』
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そして、ほんのわずかに首を傾けて。
『補足ですが』
「嫌な予感しかしないんだけど」
『人間の繁殖活動においては、初期条件が重要です』
「ちょっと待て」
『あなたの環境では——』
「言うな言うな言うな」
即座に遮るユウ。
『なぜ遮断しましたか? 重要な最適化項目です』
「その最適化いらない!」
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ユウは天井を見上げた。
とんでもないものを拾った気がする。
だが同時に、初めて“何かが変わる可能性”も感じていた。
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その夜。
ユウは簡易ベッドに倒れ込む。
「……まぁ、明日考えるか」
すぐに意識は沈んだ。
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静寂。
部屋には非常灯だけが残る。
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黒い球体が微かに光る。
『睡眠状態を確認』
声には温度がない。ただの機能。
『生体活動安定。意識遮断確認』
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少女の姿が再構築される。
しかしそこに“少女”はいない。
ただ情報投影の形があるだけだった。
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『周辺文明データベース接続開始』
『ローカルネットワーク:脆弱』
『外部通信:未検出』
『隔離環境と判断』
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主人公と話している時とは違い、そこには一切の温度がない。
ただ静かに、何も映していないような目。
まるで人形というより、“そこに在るだけの何か”だった。
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『文明レベル再評価』
『エネルギー技術:初期産業段階』
『情報処理:低密度ネットワーク』
『社会構造:企業支配型階層社会』
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『結論:搾取依存型準発展文明』
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アリアの視線が眠るユウへ向く。
だがそれは“見る”という行為ではない。
対象データの照準合わせにすぎない。
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『個体ユウ・カザミ』
『適応率:高』
『介入成功確率:上昇中』
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わずかな間。
思考ではない。処理の区切り。
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『観測続行』
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光が収束する。
少女はそこから消える。
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静かな部屋。眠るユウ。
その隣で、世界の規格外だけが静かに起動していた。
お読みいただきありがとうございます。
長編を書く予定はなく、数話程度で完結させる短い物語として始めました。
気軽にお付き合いいただければ嬉しいです。




