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29話 意固地

 



 大教会を訪問する少し前のウェリタース家。

 フィービーが家出をして一カ月半以上が経過したウェリタース家では、ゴーランドとミリアンを除けばいつもの日常を送っていた。



「ジゼル、それは?」



 いつかフィービーが帰って来ると信じているジゼルは、その日が来るまでに立派に成長した自分を見てほしい一心で家庭教師との勉強に精を入れていた。まだ幼いながらも淑女としての自覚を持ってくれて嬉しいと抱く反面、大好きな姉に会わせられない申し訳なさがエイヴァにはあった。

 偶々ジゼルの部屋の前を通った際、扉が開いていて中の光景が見えた。方向転換をし、部屋に入ったエイヴァはスケッチブックをテーブルに広げていたジゼルに声を掛けた。



「お母様! これはジゼルとねえ様とお母様!」



 ジゼルが見せてくれたのは、ジゼルを真ん中に左右の手をフィービーとエイヴァと繋いでいる絵だった。



「ねえ様が帰って来たら、三人で手を繋いで庭を歩きたい!」

「ジゼル……」



 きっとフィービーとてジゼルの心配や罪悪感を感じているだろう。いつかさえ来るのかすら分からなくてもそうなったらいいという希望を描いたジゼルを優しく抱き締めた。



「ジゼル、いつかフィービーの居場所が分かったらお母様と二人で会いに行きましょう」

「二人で? お父様やお兄様は?」

「旦那様とミリアンは、別の機会にね」

「うん!」



 幼く純粋なジゼルに複雑極まる状況を知ってほしくない。今はただ何も知らないまま、健やかに育ってほしい。

 ジゼルを離し、また後でと部屋を出たエイヴァは付き従うダイソンにくるりと振り向いた。



「大教会に行ってフィデス司祭に会います。私が不在の間、旦那様とミリアンをしっかりと見張っておいてね」

「承知しました」



 フィービーがいなくなった最初は、今までのフィービーへの仕打ちに後悔や懺悔をしていた二人だが、日が経つにつれゴーランドは精神に異常をきたし、ミリアンはフィービーを責めていた。特にゴーランドの様子がおかしい。



『フィービーは戻って来ないのか……娘なのに……私の側にいてくれないのか……』

『ダイの声を聞きたい……ダイと同じ声を……』



 エイヴァがウェリタース家に嫁入りした為、生家はウェリタース家の主治医となった。

 病に伏せていたダイアナの主治医をエイヴァの父が務めていた。若い人が罹ると病の進行は恐ろしく早く、常に元気で病気知らずが自慢だったダイアナですら病に勝てなかった。エイヴァ自身も医師免許を所持しており、結婚より仕事に人生を捧げると決めた為、すっかりと婚期を逃していた。父が主治医を務めていたダイアナの診察には同行しており、男性より女性の医者がいた方が話せることもあるだろうと踏んで。


 ——実際、それは当たっていた。


 出掛ける準備をするべく部屋へ戻ろうとしたエイヴァの前にミリアンが現れた。二日後に開催される皇帝の誕生日パーティーでフィービーの偽造された診断書で欠席の理由にすると話した際、反対するならジゼルを連れて離縁するとゴーランドに叩き付けた。エイヴァとは政略結婚であろうとジゼルのことは愛しているゴーランドは、娘が二人ともいなくなるのは耐えられないと悟り現在は大人しい。但し、ミリアンは違う。



「母上! もう一度、考え直してはいただけませんか。フィービーの欠席の理由に、偽造した診断書を使う等法に反します!」



 またか、とエイヴァとダイソンは諦めの悪いミリアンに頭を痛くするも、口を開きかけたダイソンを制したエイヴァは淡々と説明した。



「何度も言いましたね。フィービーが家出をしたことを知るのは、ウェリタース家とアリアージュ家、それにアシュフォード家だけだと。馬鹿正直に長女が家出をした為、出席出来ないだなんて説明ミリアンに出来ますか?」

「それは……」



 法律に反しているのはエイヴァとて覚悟の上。そして、診断書を偽造してくれた弟も。皇帝より最も敵に回してはならないフィデスを味方に付けろとは父の言葉。ウェリタース家に嫁ぐと決まった際、些細なことでもいいからフィデスに世間話という体で相談をしておきなさいと伝えてくれた父には感謝しかない。実際に役に立つとは思ってもみなかった。



「ミゲル様とダイアナ様の関係、フィービーとのことを知っている貴族は大勢います。旦那様がフィービーにミゲル様とダイアナ様の関係について厳しく叱責していたことも知られています」

「そんな! フィービーが言い触らしたのですか!?」

「違います」



 自分よりも長く家族として生活していたのにフィービーが陰湿な真似をすると思えるのか。ミリアンへの失望は加速するまま。エイヴァは誰とは言わないが不満を持っている人が周囲にいただけと話す。

 因みに言い触らしたのはアイだ。フィービーがいなくなった途端、今までの仕打ちを忘れたかのように愛していた等と叫ぶゴーランドや我慢が足りないと不満を露にするミリアンにキレて。

 すっかりと引き籠り生活を送る様になったミリアンに社交界の話は耳に入らない。故に知らない。



「とにかく、フィービーの欠席は診断書を使って納得していただきます。無論、旦那様もミリアンもこのことについて一切他言してはなりません」

「フィービーは周りへの迷惑を顧みずに出て行ったのに、何故私達が負担を強いられないとならないのですか! 母上なら……ダイアナお母様ならこんなこと絶対しなかった!」

「フィービーはダイアナ様ではありません。フィービーにダイアナ様の面影を重ねるなとは言いませんが貴方達二人は度が過ぎています。どうしてフィービーが出て行ったか、今一度よく考えなさい」



 病弱なダイアナを優先し、約束を破るミゲルに疲れたとしても、家族が味方でいたならフィービーは家出を決行することはきっとなかった。亡き母の面影を見ているだけでフィービーを見なかったゴーランドとミリアンに疲れ、エイヴァに悩みを打ち明けられず、ずっと一人で抱えていた。軈て容量が限界を迎え、家出を決行してしまった。まだ納得がいかないと顔にありありと書いてあるミリアンの対応をダイソンに任せたエイヴァは大教会へ行くべく部屋に戻って支度をした。




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― 新着の感想 ―
更新ありがとうございます。 お兄さんはなんなの? マザコン? もう新しいお義母さんがいて、またダイアナお母さんのこと言ってる あと、お父さんの再婚の理由は何ですか? 長男と長女一人ずつあったし、エ…
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