第118話 真夜中の可愛いお客様
『は、はじめまして……』
「「よよよ、妖精さんだー!!」」
ライアとユティは私の着込んだコートの中からおずおずと顔を覗かせた、その身を星屑の瞬きのようにキラキラと輝かせる小さな存在に、一瞬で心を奪われていた。
……って、先に寝るように言ってたはずなんだけどなあ。
どうもユティが「夜中に珍しいお客さんが来る」と未来予知してたみたいで、2人とも起きちゃってたっぽいのよね……。
「星妖精のキラリちゃんよ。
諸事情あって、しばらく我が家で預かる事になりました」
「「すごーい! かわいー!!」」
星妖精のキラリちゃんーーー闇オークションの最後の目玉としてオークショニアが用意していたのは、妖精の中でも最も希少とされている、星の加護を受けて生まれた星妖精だったの。
大きさは……うーん、15㎝くらいかな?
これぞ妖精って感じの金色の髪に白いドレス姿で、小さなお姫様のような風格すら漂わせててね……。
星の観測者である魔女からすれば星妖精は遠い親戚みたいなものだし、絶対に見過ごす事は出来なかったって言うか……だからまあ、ギルマスの許可を頂いて、しばらく我が家で養生して貰おうと思いましてね。
「公国と帝国が戦争していた頃、住んでいた森が戦いに巻き込まれて、仲間ともはぐれてしまったところを、つい最近になって悪い人達に捕まったらしくてね。
魔力を封じられて、ずーっと逃げられない状態にされてたらしいの」
「ひどい!」
「……お母様。そいつらの処遇は?」
キラリちゃんがこれまで受けていた扱いを聞くや、ライアは途端に泣き出しそうになり、ユティは怒りを隠そうともしなかった。人間として、正しい感情だわ。
……ええ、この件に関しては母様もちょっと怒ってますとも。
「大丈夫、悪い人達はもう捕まったわ。
それと30年くらいは尿路結石で苦しむ呪いもかけておいたから」
「にょーろけっせき?」
「私達魔女には縁が無い病気だから、ライアは気にしなくていいのよ」
「???」
そういう訳で。
ーーー希少生物を取り扱う闇オークションへのヴィーナの冒険者ギルドによるガサ入れは、無事に完了した。
「(リーネ……もとい、ネリちゃんが三面六臂の大活躍だったのよね!)」
さすが暗殺者、明かりが消えて真っ暗になった大テントの中でも即座に武器を携行した相手の位置を把握して、痺れクナイで行動不能にしちゃってたわ。
……勢い余って、また男性陣のタマタ……睾丸を破壊して"不能"にしちゃわないか、ハラハラしたけども!
その隙に私はキラリちゃんを保護、魔獣使いの悪徳冒険者も蜘蛛神の糸玉でグルグル巻きにして、ミイラ状態にしてやった。
「(お金欲しさに冒険者の本分を忘れて悪事に荷担するなんて……許しちゃおけなかったからね!)」
で、開催者や希少生物を違法に捕獲していた魔獣使い、オークションに参加していた貴族や商家らは全員捕縛され、これまでに行われたオークションの顧客リストも回収。
落札された希少生物も会場内に居た子達は全て保護され、今後どうやって元の生息区域に帰してあげるか検討するとの事だった。あと既に売約済みの子達も、落札した連中をリストで特定して逮捕しつつ、買われた子達を保護する方針で行くとの事。
公国外から違法に持ち込まれた生物ばっかりだったし、他国との話し合いなんかも必要になって来るかもね。
今後は芋づる式に逮捕者が増えていくでしょう……でも、当然の報いだわ。
命を娯楽や商売の道具にして弄んだ罪は重いんだから!
「キラリちゃん、この子達が私の娘よ。
赤い髪がライアで、青い髪がユティ。
まだ"魔女見習い"だから正式な魔女じゃないんだけど……。
でも2人とももう1/3くらいは魔女になりかけてて、キラリちゃんの言葉も分かるはずだから」
『本当? ……私の言葉、分かる?』
「分かるよ! はじめましてー!」
「私も分かるぞ。はじめまして」
『良かった……しばらく、お世話になります』
キラリちゃんは安堵したように私のコートから身体を出すと。
自己紹介するように、そのまま宙を蝶のようにパタパタと飛んで見せた。
でも、
『あ、あれ? ……力が……あぅ』
「あ、キラリちゃん!
……まだ体力も魔力も戻ってないんだし、無理しちゃダメよ』
『……ありがとう、ディケー』
すぐに力を失ってフラフラと着地しそうになるキラリちゃんを私は慌てて両手で受け止めた。
……やっぱり捕まってた期間が長かったせいね。
冒険者に配布される回収袋の異空間内に仮死状態で閉じ込められていた時間があまりに長過ぎて、体力も魔力も相当に落ちてしまってる……。
星妖精は月光や星の光を浴びて魔力や生命力を得る種族って話だし。
劣悪な環境でろくに魔力も補充出来なかったんでしょう……闇オークションの開催側からすれば異空間に閉じ込めておけば逃げられる心配もないものね……何て連中なのかしら!
「この山は月も星も年中綺麗に見えるから、キラリちゃんが養生するにはピッタリだと思うわ。
まずはゆっくりと元の身体に戻れるようにしていきましょ。
私も魔力が回復しそうなドリンクを作ってあげるわ」
「あ、母様のエリクシルジュースだね!」
「あれは効くからな。すぐに元気になるぞ」
『うん……』
さて、じゃあキラリちゃんに一日も早く良くなって貰わなきゃね……明日から忙しくなりそうだわ!
「(……あ、ナタリア様に借りた現金も返却しておかないと)」
かなりの額を現ナマで借りたんだけど、結局オークションでは使わなかったのよね。事の成り行きを伺うのに夢中で競りなんてやってる場合じゃなかったし……。
で、ここぞのタイミングでネリちゃんが隙を見て大テントの明かりを消しつつ用心棒達をクナイでKO、私がさささっとキラリちゃんを檻から出してコートの中に隠しつつ、魔獣使いを捕縛。
その数十秒後に冒険者ギルドの潜入チームがオークション会場の外に居た関係者達を制圧しつつ、大テントに突入して「全員動くな!」、これですよ。
「(檻が魔術でロックされてたのが幸いだったわ。私でも解錠出来ちゃったし)」
魔術封じの結界をオークション会場に張ったところで、私達が強制消失魔術で対策してた事に気づけなかったのが相手の敗因よね。
こういうのは敵の裏をかかなきゃだわ。
「キラリちゃん、今夜は私の部屋で寝ましょうか。
窓から月や星も見えるし」
『本当?』
「ええ。
よければ、明日は子供達の部屋でも寝てあげて。
2人の部屋からも空は見えるから、光を浴びて回復出来るから」
『分かった。そうするね……ふぁ』
「疲れちゃったのね。
大丈夫、怖い人達は全員捕まえたから。
今夜からは安心して眠れるわ」
『……うん』
再び私のコートの中に戻ったキラリちゃんは、眠気眼を擦って小さくう頷くのだった。
……さすが妖精さん、何気ない仕草もキュートだわ!
星妖精って、レジェグラの主人公の相棒の種族でもあるのよね。
グ◯ブルのビィ君とかF◯Oのフォウ君みたいな、作品の顔でもあるマスコット的な存在なんだけどーーー。
「(主人公の相棒と同種族の子が一時的とは言え、私のうちに居る……。
本格的にレジェグラ本編の時間軸が動き始めた感じがするわね……)」
まあ、今はまだ漠然とした勘みたいな物なんだけども……。




