【転がり堕ちる様に】
Bは本屋で中村とグラビアを眺めていたら…
Bは中村と夕飯を食べに行った帰り、本屋で雑誌を立ち読みしていた。
今年の夏に発売される新作ゲームの前評判の良さにわくわくが止まらないBの隣、大学生未だ彼女無しの中村は青年誌のグラビア特集に心躍らせていた。
「そういや田中さんって何で抜いてんの?」
「素面で人目も憚らず君は本当に凄い男だよ。」
Bは売り物の本を乱雑に扱う訳にもいかず、戻してから改めて素手で中村の頭を叩いた。
それでめげる中村であれば、一人くらい付き合ってくれる女神の様な女性が居たかも知れない。
「俺は、この真ん中の黒髪ロングFカップがタイプッス。」
「へえ、意外。君はこの茶髪のくるくるした髪に毬栗みたいな目をした子が好きなんだと思ってたよ。」
「いや、そう言う子は絶対俺みたいな男に興味無いんで、想像段階で萎えるんスよねー。」
「きっと黒髪ロングの子も中村君には興味無いよ。」
Bは中村の蹴りをさっと避け、反対に脛を蹴ってやった。
中村は唯一Bに勝っている身長を見せ付ける様に肩を組んで、数人のグラビアアイドルが肩を寄せ合う見開きを見せた。
「こんだけ並んでたら一人くらいタイプがいるっしょ?この右から二番目の元カノに似た娘ッスか?それともまさかの小麦色の肌が魅惑的なお姉様ッスか?」
「うーん、この中だとこの明るい茶髪のストレートの子かな。」
「ほんと、ストレート好きッスよね。この黒髪パーマの子は?ストレートの子より胸でかいッスよ?」
「僕、あんまり大きさに興味無いんだよね。やっぱこう、ほら、あれだよ。」
「あ、美乳派ッスね。佐藤と同じッス。」
「うわー、爽やかイケメン佐藤君のそういう話聞きたく無かったー。」
「はあ?あいつ割と下ネタ言いますよ?」
「あー、あー。」
中村が頁を捲り、Bも覗き込む。
二人は何も言わずとも好みの子を指し合い、子どもの様に笑い合った。
「へえ?田中君そんな子が好みやったんや。ふーん?」
「「!?」」
急に掛けられた声に驚き、Bと中村は雑誌を投げ捨てて抱き合った。
声をかけたCは雑誌を拾い、払ってから開いた。
「全然タイプちゃう恋人おんのに悪い子やなあ。」
「何ーッ!?田中さん、いつの間に!?」
「え!?いや、その、」
中村に揺す振られるBは顔面蒼白だ。
そんなBに、Cは穏やかな笑みを見せる。
「あれ?俺の勘違いやったんかな?」
「あの、」
Bは中村を振り払い、雑誌を棚に戻して去ったCを追い駆けた。
「待って、Cさん。」
「待たへん。」
「じゃあ追い付きます!」
BはCの背中に飛び付き、捕まえた。
「あの、えっと、」
「嫌やったらハッキリ振ったってや。」
「…、」
CはBを背中に貼り付けたまま歩き続ける。
「嫌じゃ、ないけど、…その、」
「嫌じゃない?思わせ振りは嫌やで?」
「そんなつもりじゃ、」
「なくて、少しでも俺の気持ちに応えてくれる気があるなら余所見せんとってや。」
「…すみません。」
Bが少しCに抱き着く力を強くしたので、Cは足を止めてやった。
BはCに抱き着いたまま、離れない。
「すみません。僕、男性に好意を寄せられるのに慣れてなくて、その、嫌な事の方が多いけど、Cさんは嫌じゃなくて、でも、どうしたら良いかわからなくて。」
時間も遅く、幸い辺りに人影は無かったが、Cにそこまで思考している余裕は無かった。
Cは振り返りBを抱き締めて口付けた。
Aがその場に居たら「瓶底眼鏡相手に良くやるよ」と言ったに違いない。
少し驚いて開いたBの唇の隙間から舌を捻じ込んだ。
「本当に嫌じゃない?」
「嫌だったら蹴ってます。」
Bは男らしく口の端を手の甲で拭い、Cを見上げる。
Cはいつもの人懐っこい笑顔をしていない。
「俺んち直ぐそこだけど?」
「エロ同人みたいに都合が良いですね。」
BはCについて行くどころか先に行ってしまうくらい、もう迷いは無かった。
―*―*―
早朝。
Cは仕事が立て込んでいなくて良かったと、まず思った。
寝乱れた髪を手櫛でなんとかし、スマホを操作して昨晩の内に処理しておこうとしていた仕事を確認した。
終わる頃には現実逃避も終わってしまい、隣で健やかな寝息を立てる現実を見た。
「(大人気無いにも程があるし、女々しいにも程がある。)」
昨晩、流石に「優しくしよう」とか「初夜で最後までは」とか辛うじて残っていた理性で紳士振ろうとしていたCに、Bは瓶底を外して良く見えない目を顰めてハッキリと言った。
『男同士でまだるっこしいの嫌いなんで、やるならさっさとやって下さい。』
「俺の天使マジ男前マジ惚れ直す!」とは今だから冗談めかして思える事だ。
しかし、それ以上に思う事がある。
「(B君、初めてや無かった。)」
勝手なイメージで傷付くのはお門違いだが、久し振りだった様だがBは実に慣れていた。
「(男子高恐るべし、ってとこやろか。)」
Cの綺麗な指先が、Bのサラサラの黒髪を撫でる。
絡まないそれはAとは正反対だ。
黒髪を辿り、首筋を撫でた所でBは目を覚ました。
「まだ寝とってええよ。」
「いえ、何か良く寝たんで。流石高級寝具、マジパネエってやつですね。」
「…そりゃ良かった。」
Cの天使は男らしく欠伸をしながら腹筋だけで身体を起こした。
しかし、その顔には自分と同じく髭のひの字も無く、眼鏡を探すその姿はとても可愛らしかった。
「はい、これ。」
「どうも。」
Bは自分が動く事でベッドの下に落ちたスマホを拾い上げ、中村からの怒りのLineを華麗に既読スルーし、着替え始めた。
「すみません、何か。」
「へ?」
Cは謝る事はあっても謝られる覚えは無く、Bが何を言ったか直ぐには理解出来なかった。
Bはサルエルパンツの腰紐を結び終え、上半身裸の男らしい姿のまま苦笑った。
「Cさん、僕の事いつも天使だとか言ってたから。随分前から献血出来ない身体なのが申し訳無くて。」
「そんな、謝る事じゃねえだろ。」
「でも、少なからずガッカリしたでしょう?Cさんの息子さんが萎え無くて本当に良かった。」
Bは少し皺になったシャツを羽織り、釦を閉める。
薄手のカーディガンを頭から被り、ずれた眼鏡を直した。
Cはシーツを硬く握り締め、恐る恐る口を開いた。
「その、差支えなかったら答えて欲しいんだが。」
「どうぞ。」
それが「初めての相手だったら差支えるなあ」と思いながら、BはCの問いを待った。
「Aと、」
「無い!あり得ないですから!僕にだって相手を選ぶ権利がありますし、もしAに襲われたら舌咬み切って死ぬし、あのAが瓶底眼鏡相手にその気になったら次の日地球は滅亡しますから!」
「うん、何かごめんな。」
Cは降参とばかりに両手を上げ、Bは威嚇する猫の様に乱れた呼吸を整えた。
「それじゃあ、僕。今日友達と遊ぶ約束しているので失礼します。」
「佐藤君?」
「よくわかりましたね。」
鞄を背負ったBは、真っ直ぐ寝室を出る。
最後に別れの挨拶をと振り返ったら、Cがベッドの上で不貞腐れていた。
「Cさん?」
「千隼。」
「ええと、じゃあ千隼さん。どうしました?」
「別に。」
Bは今日初めて表情を緩め、微笑んだ。
「巳鶴。」
「え?」
Cは戻って来た天使の笑顔に惚れ直した。
「Bって、凄く萎えるから二人の時は巳鶴って呼んで下さい。じゃ、また連絡します。」
寝室を出る直前にBのスマホが着信を告げる。
BはCに短く詫びてから慌ただしく部屋を出て行った。
まったく、大人のくせに子どもっぽい人達だなあ by B




