【ムカ着火ファイヤー】
バイト帰り、不細工に絡まれたBは…
何がどうしてこうなった。
Bは不細工な男達を見上げて味のしない苺を食べた時の様な顔をしていた。
確か数分前まで、アルバイトの後に駅前にある深夜まで営業している量販店に足を運び、ガチャガチャを楽しんでいた。
間違いない。
最近の仕事帰りの楽しみだ。
戦利品は玄関の棚に並べている。
初めは同居人が「何の儀式だ気持ち悪りい」とか言っていたが、そいつは元より大雑把で細かい所に気付けない無神経野郎なので、10を超えた辺りから増えても気付かなくなった。
某市の非公認全国区ゆるキャラのマスコットを何処に配置しようか考えながら話を聞いていたら、嘗めているのかと小突かれた。
早く飽きてくれるか、得意の荒事に発展しないものか。
果物の妖精さんの配置が決まった今、Bは帰りたい一心でそれを露骨に顔に出してしまった。
品も教養も無い不細工達は馬鹿にされる事に敏感で、油を注がれた火の様に燃え盛った。
その火の粉がBの胸倉に飛んだ時、Bは後ろから伸びた手に引かれて難を逃れた。
「もう、太郎ちゃんったらこんな所に居たの?探したのよ?」
「え?あっ、」
「一人で先行かないでって言ってるのに。私がこんな時間に迷子になったらどうするの?お腹空いたし早くご飯行こう?」
「うん。ごめんね?」
Bはヒールの所為で自分よりも背の高い年上の可愛らしい女性に引き摺られ、不細工達は突然舞い降りた天使を呆然と見送ってしまった。
「あの、助けてくれてありがとうございました。」
「別に。」
店から少し離れた所で女性は突き飛ばす様にBから手を離し、急に素っ気なくなった。
Bは女性の急変に戸惑うばかりだ。
女性は盛大に溜め息を吐き、フリルで盛られた胸の前で腕を組んだ。
「女に守られてる様なか弱い男が、一丁前にこんな夜中に一人でふらふらしてんじゃないわよ。子どもはさっさと家に帰って寝なさい。」
「はあ?」
か弱い辺りで カチン と来たBは口答えしようとしたが、女性に綺麗に装飾された指先でデコピンされて出来なかった。
「警察沙汰になって困るのは貴方でしょう?それに、貴方にはまだ心配して帰りを待ってくれる家族が居るのだから、特に身の振りには気を付けるべきだわ。じゃあね。」
「…。」
複雑な気持ちで女性を見送ったBは、暫く呆然としていたが、我に帰ると頭を掻き毟ってその場で地団駄を踏んだ。
―*―*―
「ええー!?何それ、どう考えても俺の役やんか!」
ウィスキーに口を付ける風雅の隣、酒の肴についさっきの話を聞かされたCはジンリッキーを飲み干したグラスをテーブルに叩き付けた。
「何で俺に連絡くれへんの!?」
「仕事中にたまたま出くわしたんだぞ。見て見ぬ振りをしなかっただけ良しと思え。」
「あーもー俺も天使の彼女なりたいし!腕組みたいし!めっちゃ羨ましいし!ズルイわこのムッツリ!!」
「あ?」
「すみませんごめんなさい口が滑りました。」
飲み直そうと手酌でカクテルを作るCを、Aは鼻で笑う。
「お前の女装はBと釣り合わねーんだよ。清楚さとか可憐さが微塵もねえし、ケバくて馴れ馴れしいクソアマにしか見えねえしな。」
「ろくに髭も剃らんボッサボサのくせ毛野郎に身なりの難癖つけられる覚えないわ、死ね。」
「やんのかコラ?」
「上等じゃコラ。」
「今、玲、さりげなくB君と釣り合うのは清楚で可憐な子って言った」と恵麻は思いながら、幻の芋焼酎の香りと味を楽しんだ。
そんな誰も止める者が居ない殺伐とした空気を、甲高い電子音が切り裂いた。
Aは虫でもあしらう様に手を振ってCと距離を取り、スマホを取り出した。
それはBからのメールの着信で、迷わず開いた。
固まるAの肩口からCも風雅も覗き込み、二度程内容を読み返した。
「何で俺?」
「日頃の行いだな。」
「ええ気味や!」
吹き出す風雅と爆笑するCを押し退け、恵麻もAのスマホを覗き込む。
「24時間後、いつもの公園で待つ?」
それは確かにBからAに宛てた果たし状だった。
―*―*―
指定された通り公園に来たAは、遠目からでもめっちゃくちゃ念入りに身体を温めているBを見てうんざりとしていた。
「ったく、懲りねえな。」
同居し始めて直ぐ、何かと怒ったBが「今日こそケリを付けてやる」と勝負を申し込んで来たものだが、毎度毎度コテンパンに伸してやれば学ぶもので、最近は大人しかったのに急に何がどうなってこうなった。
「もう直ぐ終わるから。」
汗を袖で拭ったBは準備運動に戻った。
Aは煙を吸って吐いて見守っている間、無神経ながらも何がどうしてこうなったのか思考を続けていた。
毎日驚く程真面目に鍛えている肉体を、たまには試したくなったのか。
身体を満足するまで動かしたい衝動に駆られるのは自分にもよくある事で、Cとの喧嘩は割と良い運動になっている。
何だかんだ言ってBとまともにやりあえる人間は近所に自分くらいしかいないし、そう言う事なら面倒臭くても同居の誼で付き合ってやろう。
Aは短くなった煙草を捨てて踏みにじった。
Bは眼鏡を掛け直し、Aに向き直る。
「現時点で僕がAに勝てないのはわかっている。だけど、今回の勝負には目的があって、それにはAの協力も必要なんだ。」
「ふうん?」
「僕が鍛えてもない女性に守られる様な、人間終わってるAにまで心配される様な、まだそんな弱い男かどうか後で教えてね。」
「…。」
風雅としてはこれを機にBの帰省を促したかったのだろうが、Bは根っからの武闘派だ。
風雅の思惑とは全く違う所に着火してしまい、瓶底眼鏡の向こう、誇りを傷付けられたBの目は怒りで燃え盛っている。
Aは「うわ、下らねえ事に巻き込まれちまった」とは顔に出すだけに留め、毒を食らわばなんとやら、来てしまったからにはいつも以上に丁寧にBを伸してやった。
そういやB君の女装、今までありそうでないな by C




