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20代最後のゲイのエッセイ  作者: 赤井獺京


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病んだ夜にはキャンドルを

この年齢になってキャンドルの火をまじまじと観察するとは思わなかった。まだ29歳ではあるけれど昨日何していたかを聞かれてキャンドルの火を見ていたと言えば病んでると思われるだろう。


まあ実際少し病んでいた。


年に一度の体調不良で体の節々が痛くなって発熱もありそうだった。体温を測って実際に熱があれば風邪と認めざるを得ないから測らなかった。仕事の休みの連絡を入れるのも面倒で仕事にも行った。全く動けないというわけではないけれど、いつもの能力の4割くらいしか出ない感じで何とか仕事を終えた。帰って眠りについていくらか体調も良くなったけれど今度は精神的に病み始めた。


 何のために生きているのか、自分は何をしたいのか、最近は感情の起伏が無くて昔好きだった音楽も聞くに堪えないと、気が付けばCHATGPTに相談をしていた。その返信は「無理に感情を起伏させようと頑張らなくていい、静かな部屋で聞こえるもの、感触、匂い、そういったものに触れてみましょう」との事だった。


それで思いついたのがキャンドルだった。だけどこれが結構面白い。


数年前に買ってお風呂場に置きっぱなしのIKEAのランタンと洗面台下の棚に入れて芳香剤代わりにしていた大量のキャンドル。これらを組み合わせる。


湯船にお湯を溜めて外の新鮮な空気を取り入れるために窓を少し開けて電気を消す。これで準備は万端、タバコをやめて使わなくなった古い100円ライターを押し入れから持ってきて火をつけた。ランタンを浴槽の枠に置いて湯船に浸かる。


お湯の揺れる音がはじめは乱雑にそして静かになる。窓の外からは隣の家の煮込み料理の匂いがかすかに、外から入る風が顔を包んでくる。


 うん、悪くない。純粋にそう思えた。


だけど目を閉じて風を感じて数分経つと、もういいかなとすぐに飽きが来てしまった。でもせっかく雰囲気つくりをしたのだからと目を開けるとランタンの火に目が奪われた。それしか見るものが無いのが正直なところだけど。

 火の先端は尖っているように思えて、よく見ると丸みを帯びていた。それが可愛く思えて体を前に近づけてランタンの目の前まで顔を近づけた。


一人暮らし独身男性の夜である。


 火の足元は透明でそこから少し上がると青紫色に変わる。それから半透明の黒、オレンジに変わっている。ように見えた。


 風に揺れて長くなったり縮んだり、右に揺れたり暴れたりだけど小さな火は簡単に消えなかった。妖精が躍っているのを見たようなそんなロマンチックな気分になれた。


 そして火を消そうとしてみると生半可な気持ちの息では消えてくれないことも分かった。消そうと思ってふっと、吹いても消えなかった。これは面白いとあえて浴槽の壁に背中をつけて遠くから息を吹いてみた。手で丸を作ってそこから吹いてみたり、火は意外にしぶとく消えなかった。


ふっ。


蝋の匂いが浴槽に広がった。


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