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騎士になりたかった魔法使い  作者: K・t
第七部 魔術学院の講師編
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第三話 ウォーデン魔術学院・前編

三話にしてやっと到着です。今回は新キャラが2人登場します。前後まるっと状況説明回なので、さらっとどうぞ。

 遠くから人のざわめきが聞こえる。馬車の揺れ方が変わった気がして、目を覚ました。見れば、キーマもココもぼうっとした顔で目をこすっているところだった。


「おい、見ろよ」


 馬車の窓にかかったカーテンを手でよけると、白と灰の間の色をした壁に鮮やかな屋根を乗せた家々が流れていく。

 揺れ方が変わったと感じたのは石畳がより精密に敷き詰めてあるからで、ここはすでにウォーデンの町中だった。



 太陽が中空に昇り切る頃合い。馬車に届く「ざわざわ」が「がやがや」に変わっていく。家が店に変わり、それも進むにつれて雑多な雰囲気から洗練されたものに変化していった。

 馬車はまっすぐ大通りを走っているみたいで、その先に高い壁に守られた大きくて広い建物が鎮座しているのが見えた。


「へぇ、あれがウォーデンの城かぁ」

「とっても大きいですね」


 隣国との関所として機能するために領地の隅に建築されたスウェル城と違い、ウォーデンは町のほぼ中心に民家と同じ色の壁をした城が建てられていた。

 正門は堂々と開け放たれ、数え切れない数の人間がひっきりなしに出入りしている。ココとキーマが話をしている間にも、馬車は長く伸びた(にぎ)やかな大通りを城の手前で右に折れた。


「学院はこの先になります。もうすぐ着きますので、お荷物をご確認ください」


 おじさんの忠告通り、カバンや周囲をチェックする。ちなみに爆発寸前だった荷物は、今ではすっかり大人しくなっている。ココが女子力を発揮してくれたおかげだ。開ける時はマジで大変だったけどな。


「どんなところか、ドキドキしますね」


 からからと規則正しく鳴り続けていた馬車の音が段々とゆっくりになり、やがてそれも止まった。ややあって、おじさんが馬車の扉を笑顔で開けてくれる。

 まずはキーマが降り、自然な仕草でココに手を差し伸べる。それに彼女も白い手を重ねた。


「足下に気をつけて」

「ありがとうございます」


 二人とも見た目が良いこともあって様になっている。物語か絵画のワンシーンのようだ。あの、今回の主役というか、用事があってきたのは自分なんだけど? 忘れてない?


 などと口の中だけで呟きつつ、最後に降りた俺は目の前の建物を見上げた。

 柵で覆われた敷地内には丁寧に手入れされた庭園に包まれるようにして敷石がうねうねと並び、向こうに赤と白を基調とした大きな建物がある。屋根には鐘がひとつ下がっていた。


「ここがウォーデンの魔術学院……」


 スウェルでは兵役に就くときに魔力の有無を測定し、素養があれば魔導士兵として登用される。けれどもウォーデンのように人口の多いと、必然的に魔力を持った人間も多くなる。

 そのため、兵役前から魔術の教育を受けられる機関として設立されたのがこのウォーデン魔術学院である、らしい。


「つか、要するにエリート学校だろ? 俺に何しろってんだよ」


 来る途中でココが見せてくれた資料には、学院に入りたいと他領から引っ越してくる人間までもがいると書かれてあった。


「素養さえあれば入れるそうなので、エリート学校というわけではないと思いますよ」


 御者のおじさんに礼を言って別れ、俺達は学院の入り口を目指して歩き出した。人影はないが、どこからか子どもらしき甲高い声がちらほらと聞こえてくる。授業の真っ最中だろうか。


「貴族の子は王都の王立学院や騎士学校に入るのがほとんどだから、エリートっぽい子は一部じゃないかな」


 フォローなのかどうかイマイチ怪しい二人の助言に「ふぅん」と返す。たとえ普通の家の子どもばかりだとしても、秀才だらけじゃないのか? あまり気休めにはならないなぁ。


「お待ちしておりました」


 遠くからかけられた柔らかい声に目を凝らすと、建物の玄関から人影が出てくるところだった。


「スウェルからお越しくださったヤルンさんと、お連れの皆様ですね」


 出迎えてくれたのは二十歳前後の女性だ。白と黒を基調とした服装は教員らしいきりっとした佇まいをしている。


「あ、はい。ヤルンです。お世話になります」


 少し見惚(みと)れてしまった俺は、慌てて頭を下げた。ココとキーマも続けて挨拶をすると、女性も「学院へようこそ」と微笑んだ。彼女はオフェリアと名乗り、俺達を中へと案内してくれた。

 重厚な扉の奥は幅広の階段があり、2階へ続いている。1階の左右も同じように通路が伸びていて、幾つかの部屋が並んでいるようだ。


「まずは学院長にお会いになって下さい。こちらです」


 言って、明るい色の階段を上がっていく。踊り場の壁には絵が飾られていた。城や平原を描いた風景画に加え、誰かの肖像画もある。学院の関係者だろうか?


「あの、どうして自分達が到着したって分かったんですか?」


 数歩先を行く彼女は、後頭部で結った(つや)のある黒髪を揺らしながら顔だけをこちらに向ける。


「鳥を飛ばしておりましたので」


 俺とココは「なるほど」と納得したが、キーマはきょとんとして「鳥?」と聞き返した。


「伝令術、覚えてるか?」

「えぇと、遠くの人と連絡しあうための術だっけ」


 そうだ。魔力で作り出した生き物にメモを持たせたり、自分の声を吹き込んで喋らせたりするのが伝令術である。魔術版伝書(ばと)だな。


「オフェリアさんの『鳥』もその応用で、来客があったら教えるように術を組んでいた、ということで合っていますか?」

「えぇ」


 ココの予想に、オフェリアが笑んで返す。


「あ、じゃあ、オフェリアさんも魔導士なんだ」


 キーマの呑気な一言にずっこけそうになる。ここは魔術学院なんだから当たり前だろ! ……いや、待てよ? 魔術学院の教師なら、「魔導士」ではない可能性がある。


「もしかして、オフェリアさんはもう『魔導師』の称号を?」

「えぇ、半年ほど前に得たばかりです」


 凄い、と思わず口から感嘆が(こぼ)れた。魔術を扱う人間にはランク付けがあり、魔力を持ち、魔導書を得さえすれば誰でも名乗れる「魔導士」と、マスタークラスの称号である「魔導師」の二つがある。

 これは他の分野でも同様で、「剣士」と「剣師」、「弓士」と「弓師」などと呼び分ける。リーゼイ師範は非常に若い剣師だが、オフェリアは更に若いはずだ。


「この学院は兵役以前の年齢から入学できます。学び始めるのが早いので、他の領の方よりも少し先に課程が修了するだけですよ」


 謙遜(けんそん)が過ぎる。淡々と勉強しさえすれば得られるという地位ではないのだ。早く一人前の魔導師になりたいと願うココが、オフェリアに真剣な眼差しを送った。


「オフェリアさんはどんな研究をなさったのですか?」


 手っ取り早く「魔導師」になるには何か功績を残すことが必要だ。彼女は広く皆に認められるような魔術の研究を行ったのではないか。ココもそう考えたらしい。


「昔から治癒術の分野に興味があって、自分で試行錯誤していたことをまとめたら評価されまして……。よろしければ、後程お見せいたしましょうか」

「ぜひお願いしますっ」


 ちょっとちょっとココさん、鼻息が荒いって。お嬢様がそんな顔しちゃ駄目だってば。そんな会話を挟みつつ、オフェリアは俺達を2階の突き当りの部屋まで連れていった。


「さ、こちらです」


 落ち着いた色合いの扉には格調高い字体で「学院長室」と書かれたプレートがかけられていた。

オフェリアは上品なインテリ系女子です。ココと違って……と書くと彼女に笑顔で回し蹴りされそうですね。

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