第六話 小箱の中身・後編
長々と書いてしまいましたが、パーティー本番までもう少しです。
「手際、早ェ~」
「さすがは王城に勤める方々ですね」
使用人の女性達が隙のない動きを見せるごとに、会場はあっという間に整えられていく。その光景を前に、別の持ち場から戻ってきたココも感嘆の声をあげた。
「同じ会場でやるから、片付けにもっと時間がかかるかと思ったぜ」
「飾り付けを改めてやらなくて良いのは楽だよね」
テーブルに残った料理や食器類を下げ、テーブルクロスの皺を伸ばして新たな食事を置いていく。間髪入れずに運ばれてくるところを見ると、厨房はまさに戦場状態なのだろう。
先ほどまで並んでいた煌びやかな品々には遠く及ばないが、ぱりっと焼けた肉やソースのかかったクラッカーなどが香ばしい匂いを放ち、十分に胃を刺激してくる。
「私達も何か手伝いましょう」
見れば、仕事から解放されたファタリアの兵士達も荷物運びなどに手を貸し始めている。確かに高みの見物を決め込むには息苦しい雰囲気だ。
「でも、何をやれば良いんだか」
俺達は余所者だ。どこに何があるのか、誰に指示を請えばいいのかさえ分からない。むしろ足手まといにしかならない気さえする。腕を組んで三人で悩んでいると、唐突にココが手を打った。
「下でお役に立てないなら、上でお役にたちましょう♪」
『上?』
等間隔で灯されたランプの油が切れかけたのか、幾つかは明滅し始めていた。それを眺めていると、ココの澄んだ声音が響き、白い光が点された。おお、という歓声と共に、室内が前以上に明るくなる。
「なるほどー」
「これなら邪魔にはならないな」
それじゃあ俺もと軽く息を吸い込んだ。
『笑み絶やさぬ春の精、希望を我が指先に』
呪文に応え、指先がぽっと暖かくなった。水気を散らすような仕草で払うと、周囲に熱が広がる。またも歓声が上がり、会場内がほっとする温度に包まれた。
「明るいし暖かいわ」
「助かるよ!」
お役に立ててなによりです。お礼の声に二人して笑顔で返した。
「さすが! んじゃ、次の見張りの時もよろしく~」
「お前はさっさとランプの油を補充しろっ!」
どさくさ紛れに馬鹿な発言をしてくるキーマに、思い切り蹴りを入れてやった。
ドレスも宝石もないパーティが、ささやかだと思っていたら、とんでもない。装いこそ落ちるものの、貴族達にも劣らない華やかで賑やかなパーティだった。
「皆さん、よくぞお集まり下さいました!」
企画者の一人が、壇上で声を張り上げる。
「この会場にいるのは同士ばかり! 今夜は堅苦しさを抜きにして、おおいに楽しみましょう!」
わあっと会場がわく。部屋の中のはずが、まるで雑踏みたいな人いきれだ。丸一年ため込んだ鬱憤を晴らす場なのだと、誰もが全身で語っているようだった。
途端、アップテンポの曲が流れだす。街人が飲み屋で楽しむような、俗っぽくて愉快な曲だ。
灯りが向けられた先には、数時間前まで王侯貴族のために腕を振るっていた楽団が再び現れて音楽を奏で、それに合わせて数人のメイド達が体を揺らしながらのどを震わせる。
「さぁ、料理を腹に詰め込むもよし、真ん中で踊り狂うのもよし!」
司会者の言葉通り、すぐさま二極化が起こった。脇で飲み物片手に料理をむさぼる連中と、男女で連れ立って中央でステップを踏み始める者との。
「ヤルン、どうする?」
どんどんヒートアップする雰囲気に、キーマが呆けた顔で聞いてくる。そんなこと、聞くまでもないだろうに。
「決まってんだろ!」
だっとテーブルに駆け込んだ。最初の料理なんて、あっという間になくなるはずだ。近づくと予想通り、飢えた者たちが我先にと群がっていた。空腹のところに、あれだけ胃を刺激する香りがすれば当然の成り行きだ。
「おい、そりゃ俺のだ!」、「お前はそっちのでも喰ってろ!」などとパーティーには不似合いな怒声を浴びせあっている奴らもいる。
「えー、あれに突っ込むって?」
「来ないなら可愛い子でも誘いに行けば!?」
「腹が減っては、ですよ!」
キーマが問い、俺が応えて、ココがファイティングポーズで気合いを入れた。気持ちで負けたら終わりだ。俺達は黒山の人だかりへと飛び込んだ。
ダンス曲が三つほど流れると、楽団はそれを静かなBGMへと変えた。踊って楽しんだ者も、一通り食べ終わった者にも、充足感に満ちた雰囲気が漂う。
「皆さん、楽しんでますかー?」
司会者が再び声を張り上げた。最初は良く見えなかったが、スーツに赤い蝶ネクタイなんて、いかにもな格好をしているようだ。
「はーい」
「たのしんでまーす!」
といった返事があちこちであがる。どうやら早くも酒に酔った連中がいるらしい。来年もやりたいなら羽目を外し過ぎるなよと注意したくなるが、余所の国の風習だし、こんな日くらいはいいのかもな。
「余興はまだまだ続きます! まずは我が城一の奇術師による手品をご覧ください!」
段上にすっと現れた白スーツの男が、これまた白いシルクハットを挨拶代りにくるりと回すと、その帽子から数匹の鳥が飛び出した。
本物の鳥である証拠とばかりにばっさばっさという羽音が会場内に響くと、歓声と拍手が沸き起こった。
「へ~、手品か。おっ、今度はステッキが花束になったぞ。どうなってんだろうな!」
「あれって魔術じゃないの?」
「魔力が感じられませんから違いますよ。わぁ、見て下さい!」
生き物、紙吹雪、旗と出るわ出るわ。部屋が広い分、遠くでもはっきり見える大技の連続に、観客は大いに楽しんだ。
同じことは魔術でも出来るが、種が分かってしまう分こんなには盛り上がらないだろう。魔力抜きでやってのけてしまうから凄いのだ。
割れんばかりの拍手の中で奇術師が退場したあとも、妖艶な踊りや見事な合唱など、余興は飛び入りも加わって賑わいがどんどんと増していった。
「今日はありがとうございました~!」
きらきらした夢のような時間は、あっという間に終わりを告げる。
俺達には、胸に残った高揚感の余韻を楽しむ時間などない。明日からはまた、いつもの訓練漬けの日常が待っているのだ。とっとと寝なければ差し支える。師匠も今日だけは夜の訓練をナシにしてくれたし。
司会者が労いの言葉を述べる中、出口には大きな白い袋を手に微笑む女性達が何人も立っていて、そういやプレゼント交換があったなと思い出した。
「何が当たるかはお楽しみ! お部屋に戻ってから開けて下さいね」
迷っても無意味だろうと、手を突っ込んで取り上げたのは手のひらに乗るサイズの赤い小箱だった。誰が選んでくれたものだろう? そう考えるとちょっとくすぐったい。
帰りの廊下でキーマとココに選んだプレゼントの中身を尋ねてみた。さすがにもう喋ってしまっても構わないはずだ。
「私は色々と考えてペンにしました。男性でも邪魔にならないかと思って」
もっと可愛いチョイスだと思っていたから意外だ。でも、実用的な贈り物もココらしい。キーマはレースのハンカチにしたらしい。キザったらしくてそつのない感じがむかつく。
「で、ヤルンは何にしたのさ?」
「……細工物のブローチ。安モンだけどな」
「へぇ、ヤルンにそんなセンスがあったなんて驚きー」
「今日はベッドで寝たくないんだな? 燃やしとこうっと」
「嫌だなぁ、冗談だって!」
受け取った人は気に入ってくれるだろうか、身に付けてくれるだろうか。
誰もが、貰ったプレゼントを大事に抱えて自室へ向かう。温度なんてないはずなのに、誰かが必死に悩んで選んでくれた贈り物は、気持ちが詰まってほんのり暖かい気がした。
この赤い小箱の中身はなんだろう? 大したものが入っているわけじゃないとは分かっていても、開けるのが惜しくなってくる。
「きっと、小箱の中に先ほどまでの楽しい時間が残っている気がするからですよ」
開けたらそれが逃げてしまいそうで、終わってしまいそうだから、惜しい気分になるのだとココが言う。
「女子だなぁ」
「え、駄目ですか?」
駄目じゃないが、かなり恥ずかしい。ココだから許されるセリフだと思う。プレゼント片手にふと見上げると、窓の外ではやんでいたはずの雪がまた降り始めていた。
クリスマス回でした。大人になるとパーティーより飲み会って感じになりますよね。
皆様も素敵なクリスマスをお過ごしくださいませ。




