↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
騎士になりたかった魔法使い  作者: K・t
第五部 太陽の城と盾編
63/193

第五話 つわものの杖・前編

※第四話と繋がっています。先にそちらをお読みください。

 魔術の実地訓練ということで、場には屋外が選ばれた。魔力を抑える腕輪の効果で本来の威力は発揮できないとしても、術によっては広範囲に広がるからだ。


「うーん。夢だったってオチなら最高なんだけどな」

「実力を試す良い機会じゃありませんか」


 ここは王の住まう城だ。うっかり燃やした、吹き飛ばした、なんてことになったら一大事だ。まだ牢獄暮らしは体験したくないんだよ。


「ファタリア騎士団副長のルイーズです。以後、お見知りおきを」


 外で待っていたのは、メガネ美人という言葉がぴったりの女性だった。

ぱっと見た感じでは30前後。副長という立場にしてはかなり若い。すらりとした体型に魔導師用の騎士服を纏(まと)い、魔導書を抱えている。

 この人も格好良いなぁ。魔導騎士ってのも悪くないかも……いやいや、きっと綺麗なお姉さんにときめいただけ……って、それも微妙だぞ、落ち着け俺!


『よろしくお願いしますっ!』


 周囲に何もない開けた空間で俺達はルイーズを囲み、その周囲に剣士が見学している。ちなみに、とばっちりを食らう恐れがあるので、周りには師匠が結界を張ってある。


「どこからでもどうぞ」


 ふむ、どうやらルイーズの方からは攻撃してこないようだ。が、最初は誰も呪文を唱えようとはしなかった。


「ど、どうするよ」

「悩みますね」


 どうぞと言われても、何をどう仕掛ければいいのか分からない。

 皆、目配せし合って互いの出方を伺(うかが)っている。味方を伺うなんて変な話だけれど、魔導士は援護に回りがちで自ら前に踏み込む機会が少ないのだ。指示待ちに慣れた人間には酷な訓練である。


「おや、来ないのですか? ここが戦場であれば、あっという間に命はないでしょうね」


 確かにその通りだ。こうして悩んでいる間にやられてしまうだろう。


「ええい、ヤケだ!」


 俺が息を吸い込み、それを察したココ等数名が同じタイミングで詠唱に入った。


『炎熱の担い手、その腕を振るえ!』


 ごうっ! 振った腕から生まれた炎の塊が、尾を引いてルイーズに躍り掛かる。火の攻撃系魔術の初歩だが、威力はそこそこで呪文も短い。

 大技を使ったって勝てる相手じゃないのは分かり切っている。なら、人数を活かして量とスピードで勝負するに限る。


『凍てつく息吹よ、眠れる抱擁(ほうよう)を!』


 次いで、俺よりひと呼吸後に完成したココの術が発動する。きらきら光る氷の粒子が、相手を包み、高速で突き刺す術だ。


『鉄壁の盾、我が身を守らん』


 透き通った声に呼ばれ、目に見えない壁が現れる。壁は炎を遮り、反射されたその熱が氷雪を溶かした。


「なんて早い反応速度だ」


 誰かが落胆を零す。詠唱もだが、なにより判断が鋭い。

 経験が浅い、或いは魔力に乏しい術者なら、ここはまず炎を消し、それから氷に対処するのが定石だ。一つの術で二つとも凌いでしまうなんて規格外の発想だ。

 とにかく、これを皮切りに本格的なやり合いが始まった。


 前にも言った通り、こちらは「数打ちゃ当たる」戦法を取った。

 だが、誰かが渾身の雷を落とせば方向を変えられ、別の仲間に当たる。風を起こせば誰かが吹き飛ぶ。それを繰り返しているうちに、味方がルイーズの防御術ひとつでバタバタと倒されていく。


「くそっ、てんで相手にならないぜ」


 思わず毒づく。しかも、時間をかけるほどこちらが不利になることに途中で気が付いた。


「うっ」


 呻きに近い誰かの声に目を向ければ、仲間がかざした指先から幾ばくかの光が生まれかけて消えるところだった。ちっ、魔力切れかよ。


「無理ないです。ずっと唱え続けているのですから」


 そういうココも精神力の消耗が激しいのか、顔には大粒の汗が浮き出ている。改めて見回せば、味方は残り数人にまで減らされていた。こうなっては手数で攻めるどころじゃない。


「なんであの人は疲れないんだよ?」


 頭が疑問でいっぱいになる。攻撃魔術に比べれば魔力の減りは緩くても、防御系の術だって疲れるはずなのだ。それも、一人で全員分の攻撃を防いでいるのだから!

 ルイーズは最初と同じように涼やかな表情で本を抱えて立っている。その腕に視線を走らせれば、嵌(はま)った腕輪の石はココと同色。こんなに差が出るなど、妙としか言いようがない。


「きっと、魔力の使い方に一切の無駄がないからですよ。消耗を最小限に抑えて戦う、長期戦を見越したやり方です」


 確かに小さな動きで大きな効果を出す、それが魔術の基本だ。でも、理屈は理解できても、実行は難しいものだ。経験の差に、誰もが顔をしかめずにはいられなかった。


「……これが騎士団長の右腕」


 まるで壁を生み出すだけの人形のようで、背筋に寒気を感じた。まさに鉄壁の盾。副長の名は伊達じゃない。


「ココ、行くぞ」


 小さく呟くと、ココは大きな目を更に見開いて「まさか」と応えた。そうは言いながら、心のどこかで同じことを考えていたのだろう。


「相手が攻撃してこないんだ。絶好の機会だろ」

「ですが」

「今度はこの前みたいにしくじったりしないさ。それとも、他に策があるか?」

「……分かりました。やります」


 少し意地悪な言い方だったか。でも、他にこの状況を打ち破る方法は思いつかなかった。俺は腹に深く息を吸い込んでゆっくりと吐く。これまで以上に集中力が必要な場面だ。


「なぁ、おい……」

「まさか」


 周囲の奴らも俺達が何かをやろうとしていることに気付いたらしく、じわじわと後ずさりを始めた。あぁ? 今度ばかりは逃がすかよ。苛々(いらいら)を助長するその態度に声を張り上げる。


「おいコラ逃げんな! 前に出る自信がねえなら、せいぜい時間でも稼いでろ!」


 なんとか立っている全員がびくりと震えるのが感じられた。一目散なら追わないにしろ、中途半端な逃げなど敵にチャンスをくれてやるだけだ。

 ルイーズは突っ立っているだけで反撃の素振りすら見せないが、まだ体力が残っている味方に高みの見物なぞさせてやるものかよ。


「せめて、ちらっとでも相手の気を逸らすくらいの役には立ってみろってんだ!」

「ちっ」

「偉そうにしやがって」

「あとで覚えてろよ」


 舌打ちや悪態がちらほら聞こえた。へっ、元気じゃねぇか。いいぜ、後でいくらでも相手になってやるから、この場は力を貸しやがれ。

長めになったので分割します。新たな作戦を思い付いたヤルン。反撃なるか?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。