表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
89/111

 剣筋

♢50♢


 1人逸れた(みやび)。それを追う志乃(しの)。その時、残りのユウキと亜李栖(ありす)の2人は混戦の最中にいた。

 集まってくるプレイヤーたちに、新たに大量出現したモンスター。そのどちら共を斬り捨てるために。


 集まってきたプレイヤーたちは2種類いて、執拗に雅を探す一団に、大量に出現したモンスターを倒しにきたプレイヤーたち。

 それが両方合わさってしまい大混戦となり、どちらがどちらか区別がつかなくなってしまった。そこで、残った彼女たち2人が出した結論は簡単なものだった。


『全て斬り捨てれば追う者はいなくなります』


『流石はユウキさん。それでいきましょう!』


『──よし、分かった。お前らはバカなんだな。勝手にしてくれ。雅は確保しておくから』


 ヤル気の2人についていけない志乃は、早々に説得を諦め1人で雅を探しに離れていった。と言っても、雅を追うプレイヤーたちから情報は得ているから、当てずっぽうではなくおおよその見当はついている。それでも。


『私たちでは分かりませんからね』


『はい。だいたいで雅さんを見つけられるとも思えません。ならば。ここで野郎たちを斬って足止めしていた方がいいでしょう。というわけだったんですが、志乃さんは誤解したまま行ってしまいました。まぁ、誤解は終わった後で解きましょう』


『そうですね。シノの位置は把握できますし、ここさえ済めば合流は簡単でしょう』


 ゲートのアプリによるフレンド機能。これを志乃と亜李栖が使用している。

 それにより2人のマップ上には、フィールド内のプレイヤーを示す赤色アイコンの他に、フレンドを示す青色が存在している。


『さてと。いきましょうか。こっちは私がヤリますから、ユウキさんそっちお願いします』


『わかりました。油断なくいきましょう』


『では、後ほど』


 モンスターも合わせると敵の数はとても数え切れない。更に増える可能性すらある。

 しかし、この2人に恐れなどはありはしない。そんなものは、きっと何処かに置いてきてしまったのだろう。


 何故なら、時間が経ち後に残ったものは、無数の斬った感覚と、斬った分だけの経験値。それが残るだけだったのだから。


「200までは斬った(かず)(かぞ)えていたんですが、結局何人いたんでしょうか?」


「私は最初から数えてなかったので分かりません。誰も立っている者がいないということしか」


 2人合わせていくつ剣を振るったのか。

 いくつの剣筋が描かれたのかは定かではない。


「辺りはスッキリしましたし、──レベルも上がりました! 雑魚だろうと経験値は経験値。またひとつ学びました。これからはゴミだろうと斬っていくつもりです……ふふふふっ……」


 ユウキが倒した分も残らず亜李栖は経験値として処理した。理由は3つ。

 再度追わせないようにするため。単に経験値が欲しかった。今日はもうゲートをくぐれないようにするための3つだ。


「それにしても、これだけやってレベルが1つしか上がらないとは驚きました……。先は長いですわ」


「私はそれよりも、再度ゲートをくぐれないという事の方が驚きました」


「ええ、一度負けて経験値となり、フィールドから消えると、魔力0で向こうに戻されます。魔力が回復するまで、つまり翌日くらいまで再度ゲートは通れない。これは仕様のようですよ」


 新宿でのボスキャラとの一戦。志乃と亜李栖の2人はボスキャラにやられた後、雅たちのところに戻ろうと近くのゲートを探しくぐろうとした。


 でも、出来なかった。


 それで彼女たちはゲートの事をアプリで検索しているうちに、配信された動画へと行きついたのだった。


「それが死なない対価ということなんでしょう」


「あんな無様な姿は二度と晒しません。そのためには更に強く、より聖剣を完璧にしませんと!」


 レベルが4となった亜李栖。本人は気づいていないが、この成長速度は他のプレイヤーの比ではない。

 志乃は未だにレベルが2のままだし、他のプレイヤーにしてもここまでの短期間でのレベルアップは珍しい。


 ユウキが斬った分も、志乃が倒した分も、余すことなく貪欲に回収した成果と言ってもいいが、彼女に気質によるところも多分にあると思われる。

 目指すものに対して一直線に突き進むというところが。


「ここは済みましたし、志乃さんに連絡して追いかけましょうか」


「そうですね。こうなっては長居は無用です」


「あらあら、ずいぶん暴れたわね〜。やられた子たちは不運だったわね。これじゃあ……ねぇ」


 そんな2人の前に突如として女が現れた。

 見通しが良くなっていたはずの場所に。唐突に。


「えーと、ふわふわさん?」


「アイリですよ」


「そうでした。アイリさんでした」


 雅がそう呼ぶから亜李栖は一瞬、聞いたはずの名前が出てこなかった。対して、ユウキがちゃんと覚えていたのは、この女への警戒感からだろう。


「こんにちは。アリスにユッキー」


「何の用ですか? 雅たちを追わないといけないので、貴女に構っている暇は無いのですが」


「雅は雅で暴れてるから大丈夫よ。あの子、エッグを全部取るつもりなのよ。困っちゃう」


 困っちゃうとは言いながらも、今日のイベントの責任者はここにいて、雅を止めるつもりは最初からない。


「そうですか。では、失礼します」


「そんなに邪険にしなくていいじゃないの。お話しましょうよ?」


 あくまでも無視するつもりのユウキに対し、アイリは道を譲るつもりもないらしい。

 その進路を阻むように立ち塞がる。


「お断りします。貴女に構っている暇は無いと言いました。邪魔するなら……」


「他の子たちのように斬ってみる? それもいいかもしれないわね。お互いをよく知るためには。出来るかは別だけどね?」


 合図はそれだった。

 台詞の次の瞬間には鞘に戻された刀は抜き放たれていて、峰打ちではなく刃が振るわれる。


「そこが一番速度が出るところよね。鞘走りを利用しての抜刀。居合抜き。思ったよりも本気ねー、ユッキーは」


 刀は同じ銀色のものに防がれる。

 そんな用途ではないはずのものに。


「……スプーン? なんでそんな物を……」


 横から見ていたというか、気づいたら金属音がした亜李栖には、アイリの持つ銀色のスプーンが特別なものには見えなかった。


「アイス食べてたからよ。今までね。アリスもどう。ご馳走してあげるから一緒にこない?」


「確かに今日は暑いですし、ではなく! スプーンで刀を受けられるんですか?! そっちの方がビックリなんですけど?!」


「ユッキーがスプーンを斬れるなら受けられないけど。スプーンは斬れないみたいよ?」


 アイスが溶けやすい熱伝導が良いスプーン。

 手に持っているのはそれだ。やはりただのスプーンに間違いはない。


「……くっ……」


「ユッキーはせっかちさんねー、それとも余裕がなかったのかしら」


(くろがね)の魔法。貴女はいったい……」


 ユウキなら、ただのスプーンくらいなら斬れたはず。しかし、そうならなかったのは理由がある。

 鉄の魔法。見覚えのあるその魔法が答えだ。

 

「あら博識ね。どこで見たのかしら? 使える人間は限られているはずなのに」


「はあっ──!」


 何度、刀を振るおうとただのスプーンに全て止められる。攻めてはこないが、一切の攻撃も意味をなさない。


「上手相手にも臆さない。それはいいことだけど、時と場合によっては下策よ。無理だと思ったら退かなくちゃ……死んじゃうわよ?」


 女は初めて受ける以外の動作をとる。

 手に持つスプーンが、その長さと形状を変化させる。


(くろがね)


 スプーンであったものが、銀色の槍と化し振るわれる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ