剣筋
♢50♢
1人逸れた雅。それを追う志乃。その時、残りのユウキと亜李栖の2人は混戦の最中にいた。
集まってくるプレイヤーたちに、新たに大量出現したモンスター。そのどちら共を斬り捨てるために。
集まってきたプレイヤーたちは2種類いて、執拗に雅を探す一団に、大量に出現したモンスターを倒しにきたプレイヤーたち。
それが両方合わさってしまい大混戦となり、どちらがどちらか区別がつかなくなってしまった。そこで、残った彼女たち2人が出した結論は簡単なものだった。
『全て斬り捨てれば追う者はいなくなります』
『流石はユウキさん。それでいきましょう!』
『──よし、分かった。お前らはバカなんだな。勝手にしてくれ。雅は確保しておくから』
ヤル気の2人についていけない志乃は、早々に説得を諦め1人で雅を探しに離れていった。と言っても、雅を追うプレイヤーたちから情報は得ているから、当てずっぽうではなくおおよその見当はついている。それでも。
『私たちでは分かりませんからね』
『はい。だいたいで雅さんを見つけられるとも思えません。ならば。ここで野郎たちを斬って足止めしていた方がいいでしょう。というわけだったんですが、志乃さんは誤解したまま行ってしまいました。まぁ、誤解は終わった後で解きましょう』
『そうですね。シノの位置は把握できますし、ここさえ済めば合流は簡単でしょう』
ゲートのアプリによるフレンド機能。これを志乃と亜李栖が使用している。
それにより2人のマップ上には、フィールド内のプレイヤーを示す赤色アイコンの他に、フレンドを示す青色が存在している。
『さてと。いきましょうか。こっちは私がヤリますから、ユウキさんそっちお願いします』
『わかりました。油断なくいきましょう』
『では、後ほど』
モンスターも合わせると敵の数はとても数え切れない。更に増える可能性すらある。
しかし、この2人に恐れなどはありはしない。そんなものは、きっと何処かに置いてきてしまったのだろう。
何故なら、時間が経ち後に残ったものは、無数の斬った感覚と、斬った分だけの経験値。それが残るだけだったのだから。
「200までは斬った数を数えていたんですが、結局何人いたんでしょうか?」
「私は最初から数えてなかったので分かりません。誰も立っている者がいないということしか」
2人合わせていくつ剣を振るったのか。
いくつの剣筋が描かれたのかは定かではない。
「辺りはスッキリしましたし、──レベルも上がりました! 雑魚だろうと経験値は経験値。またひとつ学びました。これからはゴミだろうと斬っていくつもりです……ふふふふっ……」
ユウキが倒した分も残らず亜李栖は経験値として処理した。理由は3つ。
再度追わせないようにするため。単に経験値が欲しかった。今日はもうゲートをくぐれないようにするための3つだ。
「それにしても、これだけやってレベルが1つしか上がらないとは驚きました……。先は長いですわ」
「私はそれよりも、再度ゲートをくぐれないという事の方が驚きました」
「ええ、一度負けて経験値となり、フィールドから消えると、魔力0で向こうに戻されます。魔力が回復するまで、つまり翌日くらいまで再度ゲートは通れない。これは仕様のようですよ」
新宿でのボスキャラとの一戦。志乃と亜李栖の2人はボスキャラにやられた後、雅たちのところに戻ろうと近くのゲートを探しくぐろうとした。
でも、出来なかった。
それで彼女たちはゲートの事をアプリで検索しているうちに、配信された動画へと行きついたのだった。
「それが死なない対価ということなんでしょう」
「あんな無様な姿は二度と晒しません。そのためには更に強く、より聖剣を完璧にしませんと!」
レベルが4となった亜李栖。本人は気づいていないが、この成長速度は他のプレイヤーの比ではない。
志乃は未だにレベルが2のままだし、他のプレイヤーにしてもここまでの短期間でのレベルアップは珍しい。
ユウキが斬った分も、志乃が倒した分も、余すことなく貪欲に回収した成果と言ってもいいが、彼女に気質によるところも多分にあると思われる。
目指すものに対して一直線に突き進むというところが。
「ここは済みましたし、志乃さんに連絡して追いかけましょうか」
「そうですね。こうなっては長居は無用です」
「あらあら、ずいぶん暴れたわね〜。やられた子たちは不運だったわね。これじゃあ……ねぇ」
そんな2人の前に突如として女が現れた。
見通しが良くなっていたはずの場所に。唐突に。
「えーと、ふわふわさん?」
「アイリですよ」
「そうでした。アイリさんでした」
雅がそう呼ぶから亜李栖は一瞬、聞いたはずの名前が出てこなかった。対して、ユウキがちゃんと覚えていたのは、この女への警戒感からだろう。
「こんにちは。アリスにユッキー」
「何の用ですか? 雅たちを追わないといけないので、貴女に構っている暇は無いのですが」
「雅は雅で暴れてるから大丈夫よ。あの子、エッグを全部取るつもりなのよ。困っちゃう」
困っちゃうとは言いながらも、今日のイベントの責任者はここにいて、雅を止めるつもりは最初からない。
「そうですか。では、失礼します」
「そんなに邪険にしなくていいじゃないの。お話しましょうよ?」
あくまでも無視するつもりのユウキに対し、アイリは道を譲るつもりもないらしい。
その進路を阻むように立ち塞がる。
「お断りします。貴女に構っている暇は無いと言いました。邪魔するなら……」
「他の子たちのように斬ってみる? それもいいかもしれないわね。お互いをよく知るためには。出来るかは別だけどね?」
合図はそれだった。
台詞の次の瞬間には鞘に戻された刀は抜き放たれていて、峰打ちではなく刃が振るわれる。
「そこが一番速度が出るところよね。鞘走りを利用しての抜刀。居合抜き。思ったよりも本気ねー、ユッキーは」
刀は同じ銀色のものに防がれる。
そんな用途ではないはずのものに。
「……スプーン? なんでそんな物を……」
横から見ていたというか、気づいたら金属音がした亜李栖には、アイリの持つ銀色のスプーンが特別なものには見えなかった。
「アイス食べてたからよ。今までね。アリスもどう。ご馳走してあげるから一緒にこない?」
「確かに今日は暑いですし、ではなく! スプーンで刀を受けられるんですか?! そっちの方がビックリなんですけど?!」
「ユッキーがスプーンを斬れるなら受けられないけど。スプーンは斬れないみたいよ?」
アイスが溶けやすい熱伝導が良いスプーン。
手に持っているのはそれだ。やはりただのスプーンに間違いはない。
「……くっ……」
「ユッキーはせっかちさんねー、それとも余裕がなかったのかしら」
「鉄の魔法。貴女はいったい……」
ユウキなら、ただのスプーンくらいなら斬れたはず。しかし、そうならなかったのは理由がある。
鉄の魔法。見覚えのあるその魔法が答えだ。
「あら博識ね。どこで見たのかしら? 使える人間は限られているはずなのに」
「はあっ──!」
何度、刀を振るおうとただのスプーンに全て止められる。攻めてはこないが、一切の攻撃も意味をなさない。
「上手相手にも臆さない。それはいいことだけど、時と場合によっては下策よ。無理だと思ったら退かなくちゃ……死んじゃうわよ?」
女は初めて受ける以外の動作をとる。
手に持つスプーンが、その長さと形状を変化させる。
「鉄」
スプーンであったものが、銀色の槍と化し振るわれる。




