独り占め ③
すっかりみんなのことを忘れていた……。
エッグを取っているのが楽しかったんだ。
まだ実感は薄いが、強くなっていくというのも楽しかった。きっと、あたしが誰よりもこのイベントを楽しんでいるに違いない。
しかし、このままでは志乃ちゃんに怒られ、亜李栖ちゃんにシメられ、ユッキーに嫌われてしまうかもしれない。
意外と全員恐いから、個別に説教される可能性もある。
これはまずいな……。
電話してみようかな? 誰がいいかな。
志乃ちゃんだと怒られるのが目に見えてるな。これが亜李栖ちゃんだと、場合によっては志乃ちゃんより怒られるかも。
じゃあ、メッセージで反応を見るか?
こっちは文字だけだし、怒られるにしても文章。
メッセージがいい気がする!
なんて、ダメだよ。向こうから電話かかってきたらどうするのさ。
ユッキーなら笑って許しては……くれないな。
そもそもユッキーは、今日は邪魔だと言って携帯を持ってない。出かけてくるのにユッキーだけは手ぶらに近かった。ユッキーだけはどちらも無理か。
どうしよう……。
考えるだけ無駄な気がする。
結局どうやっても怒られるんじゃないだろうか?
「何か分からないが動きが止まってる。今だ!」
「貰ったーーっ!」
──ハッ!
そうだ。エッグはまだあるんだ。
なら、渡すわけにはいかない。
風の魔法を提供してくれていた子たちも倒してしまったし、ここからは自分で風を発生させないとか。MPに気をつけながらいこう。
ひとまず、人間砲弾が狙っているエッグを横からかっさらって。
「──渡すか! 出直してこい! ……んっ?」
……おや? エッグが潰れない。
固い。何これ、──超固い!
握力1桁のあたしでは、とても割れない!
特に変わったところもないのに。急になに?
『それで100個目。取るに取ったわね。雅……貴女どんだけ取るの? 馬鹿なの?!』
再びずっといなかった、ふわふわの声がする。
やはり気配のようなものは無い。声だけするな。
どこから見ているのかも不明。
しかし、いいタイミングだ。
「ふわふわ。何でこれ割れないの?」
エッグが割れない理由は、運営の人に聞けば分かるでしょう。もし不具合とかなら訴えてやろう。
あたしに関しては、次のレベルまでもバグってるのかもしれないし。
『もう必要ないから割れないのよ。雅はもう許容量マックスまで喰ったのよ。よく破裂しないわね。貴女、ブラックホールみたいよ』
つまり……。
「もうエッグを取っても強くはならない?」
魔力が増えてる実感が薄い。
許容量マックスと言われても分からない。
でも、割れなくなった理由としては妥当な感じ。
『……1人で100個も使っておいてよく言うわね。貴女1人で今日用意した内の三分の一を消費したのよ。もうビックリよ。可愛い顔してやってくれたわ』
「えへへ──」
ふわふわは可愛いとあたしを褒める。照れる。
『褒めてないわ……』
「えっ……そうなの? 可愛いくない……」
『……貴方は可愛いわよ。もういいでしょ。これ以上は雅にエッグは意味がない。エッグの流れを壊したのも怒らないから、もう他の人たちに譲りなさい。100個持っていかれてるし私の負けよ。おみそれいたしました』
そっかー、もうミヤビちゃんには意味がないのか。
ふわふわに勝利したし、可愛いと言われたし、エッグも100個取ったと聞くと満足感も出てくる。
「わかったよ」
『よろしい。お友達のところまで案内してあげるから──』
「──なら、ここからはお土産として回収する! それを賄賂に怒らないでもらうんだ!」
まず亜李栖ちゃんは怒らない。
聖剣使いとして強くなるから。
志乃ちゃんとユッキーは……無理かもしれない。
だが、1人分叱り時間が減るんだ。やる価値はある!
『じゃあ、行きましょう。こっちよ……──えっ、まだ取るの?! 本当にやめて。やめなさい。流石に怒るわよ!』
「あたしを止めたければ自分で出てくるんだな! その時には、もう1つもエッグは残ってはいないかもしれないがな! むっ──」
ふわふわと喋っていた間に、いくつかシャボン玉が減っている。喋っている間に盗られてしまったらしい。自分には必要無いと言われて、気も緩んでいたし少し油断したな。
『──ちょっと聞いてるの! やめなさい!』
犯人は、はしゃいでいるあいつらか。
どうしてくれよう……。いや、あいつらの処遇の前に、最大値までいったエッグの力を試してみよう。
割れたシャボン玉は上にない。
あるのは残っているシャボン玉だけ。
そして破壊した風の流れは横の流れだけ。
縦の流れは破壊していないから、エッグのある高さは変化なし。
自分を中心に引き寄せてみようかな。
雲母さんに言われてやった時とは違い、浮かせる工程は必要ない。飛んでるエッグを引き寄せるだけだから。
「とても空域の箱の範囲では囲えないところまでの距離。この範囲を引き寄せるには大量の力と破壊が必要。でも、もうそれはやめよう。剛ではなく柔を。剛よく柔を断つではなく、柔よく剛を制す。これでいこう」
楽な剛の力ではなく、難しくても柔の力を。
普段の魔法は剛のタイプだから、エッグの魔法は柔のタイプで。両方出来たらきっと最強だと思う。
「軸足を支える柔に。蹴り足を引っ張る剛に。これで余計なものを壊すことなく、対象だけを引き寄せられるはず……──おりゃ!」
姉の言った力の制御というのは、要は強弱をつけろということだろう。自力では無理だったけど、違う力を利用すれば可能なはず。
これの結果次第で理論は確証になる。
♢
いとをかし。
何故、己が力を律する。
何故、他の虫螻を気に留める。
何故、ヒトとして有ろうとする。
理解し難し。
元より虫の思考など理解は不可能か。
やはり虫螻は虫螻か……。
価値は全て同じ。須く無価値。
興味は失せた。
価値無きモノに意味も無し。
悉く蹂躙せよ。
「これはどういう事だ……」
……よもや邪魔が現れおった。
此度はこれまでか。
「──カイアスはどこに行った!」
「これはこれは、お父上様。何ですか? ワタクシ、レベル上げに忙しいのですが?」
「異変があったら知らせろと言っておいたはずだが? 貴様、何をやっていた……」
「何ってレベル上げを……──今からまじめにやります! だから許して!」
♢
──うん。いい感じ。
みるみるうちに集まってくる。
風はしばらく続くし、今の内に1つにまとめとこう。
空のシャボン玉にエッグを入れていって。
「まてまて、空っぽ? これもこれもこれも、空っぽ?! 誰だ、中身だけ抜き取ったやつは!」
空っぽを放置するとはマナーの悪いやつだ。
頑張って取ったシャボン玉が空っぽだったら、どれほどショックだと思うのか。
──そんな人が出ないように全部割ってやる!
『……雅も同じことしてたわよ?』
直接出てくる気はないらしいふわふわ。
そのままいるという事は、あたしを見張っているつもりのようだ。
「全部同じ方向から来たやつだ。あたしの目を盗んでたくさん取ったやつがいる!」
『どうして全部自分のだと思ってるのよ』
「このまま空っぽばかりではお土産にできない。それでは全員から怒られてしまう」
『怒られなさいよ。心配ばかりかけてるんだから』
やっぱり電話しよ。誠意を見せよう。
直接話してなんとか許してもらおう。
とりあえず志乃ちゃんに……うわぁ……ワンコールで出た。
「もしもし、志乃ちゃんでしょうか?」
『何か言うことはないか?』
「ごめんなさい。もうしません。許してください」
『はぁ……そのまま続けてイベントとやらは終了させろ。今そっちに向かってるから──』
誰か一緒にいるらしい。
ざわざわと他の声が聞こえている。
『──雅さん。エッグを是非とも私の分も!』
「亜李栖ちゃんか。とりあえず1個はあるから。これで許してね?」
『もちろん。エッグをくださるなら──』
揉めている。志乃ちゃんからスマホを奪った亜李栖ちゃんだったが、再び志乃ちゃんに取り返されまいと揉めている。
『──ザッ──』
スマホを落とした……。
見えなくても様子が分かる。
『雅……』
「ユッキー! 何か久しぶりだね。元気だった?」
『その女に気を付けなさい』
その女ってふわふわ?
気を付けろって声しかしないのに、どうやって?
「──雅! アレが来るわよ!」
「うわぁ!? ふわふわ、貴様どっから現れた!」
急にふわふわが現れ、スマホを持っていた手を掴まれた。
引き寄せる風があるはずなのに、それに掛かることなく直接現れた。ワープでもしてきたみたいだ。
「話はあと。備えなさい!」
「備えなさいって何に……オマエ……」
どうしてここにいる。
新宿じゃないのに。
新宿からは出られないって聞いてたのに。
「これは異常事態ね。カイアスは何をやっていたのかしら……」
黒ブタマンが目の前に現れた。




