7月30日 ②
♢44♢
遅寝早起きした今日。
朝食の準備は済ませ、朝からお風呂に入って、ピカピカの制服(冬のやつ)に袖を通した。
夏服はボロボロになってしまったのを忘れていた。買わないとだな。
雲母さん提案による戦法で今日は戦う。
……戦う。戦うんだよね? きっと戦うんだよ。
本当に、あたしのやり方ではない。
ヤられる前にヤれ。が出来ないから仕方がない。
それでもあたしも仲間だから、今日はそれで我慢してやろう。
「おはようございます」
「ユッキー、おはよう。昨日はわくわくして眠れなかったかい?」
「いえ、普通に眠れました」
ユッキーにそういうのはないらしい。
今日もいつものユッキーですね。安心。
「ところで……どうして制服を着ているのですか? 学校に行くんですか?」
「ふっふっふ、これは戦闘服なのだよ」
何か、制服着て戦うのが多いから。今は夏休みなのにさ。
今日も暴れたら駄目になりそうだし、これは本当に制服の予備が必要だなー。
『7時になりました。7月30日。月曜日の朝のニュースをお伝えします』
…………おや? 気のせいか、今のキャスターさんの台詞に何か違和感が……。
7時なのはふつう。7月30日もふつう。朝というのもふつう。
月曜日……何かあった気がする。
週刊誌の立ち読み。じゃなくて、もっと大事なことが──
「──学校だ! 今日、普通に学校だ! 夏休みだけど!」
今週まで学校だ。世間は夏休みなのに!
寝坊助たちは起きてきてすらいない。
「貴女は朝から忙しいですね……」
志乃ちゃんも亜李栖ちゃんも、この事を忘れているに違いない。急いで起こして学校だと言わないと。
ダッシュで起こしに行かないと!
「──志乃ちゃん起きて! 今日、学校だった!」
「ぐっ……。いきなり乗っかってくんな!」
「ぐえっ──?!」
いきなりダイブしたら、同じくらいの勢いで押しのけられた。そして今の一撃が変なとこにはいった……。
ついでに横の亜李栖ちゃんにもぶつかってしまった。
「……雅さん。おはようございます……」
「げほっ……あ、亜李栖ちゃんも大変なんだよ! 今日学校だよ! もう7時なんだよ。遅刻するよー」
「今日は自主休講だ。昨日言った……お前、話聞いてなかったんだったな。雅に言われなくても分かってたよ。今日はサボって新宿に行くぞ」
なんだと……。
サボるだなんてそんな悪い事、ミヤビちゃんにはできないよ。
ただでさえ調子悪いと休みがちになる、か弱いミヤビちゃんなのに。行けるときは行くが信条なのに。
「ユウキのためだ。1日2日仕方がないよな」
「──そうだね。ユッキーのためなら仕方がないね!」
そうとなれば朝ごはん食べて、しっかりと準備運動して、いざ新宿へ! だね。
学校などユッキーとは比べられない。
学校好きだけどユッキーはもっと……おっと。
あたしは何を言ってる。平常心。平常心。
「よし、これからは全部これでいこう」
「もう。雅さんに聞こえますよ」
♢
今日は新宿周りでイベントとやらをやっているらしい。
移動の時からムダに人が多いなぁ。と思っていたら理由があったのか。それにしても……。
「暑い……」
「冬服なんて着てるからだろ。私服でよかったと思うんだが。今日は暑くなるってテレビで言ってたぞ」
「志乃ちゃん。私たちはJKなんだよ? ここは制服でしょう」
JKとか気になった語句をあれから調べたんだ。いろいろと。
制服着てきたのに大した意味はないけど、理由を付けないと志乃ちゃんうるさいから。
「なんでもいいけどさ。亜李栖たちは遅いな」
渋谷駅についたら人がうじゃうじゃいて、正直言ってやってられない。
1人だとはぐれそうなあたしを志乃ちゃんが見張っていて、亜李栖ちゃんとユッキーは固定のゲートの様子を見に行った。
プレイヤーが、この中のどのくらいの人数なのかは、この時点では分からない。
感覚は鈍いし、弱すぎるとそもそも分からない。
「涼しいところにいこう。アイス食べたい」
「いかないぞ。1人でいなくなるなよ。心配だから捕まえとくか」
「──なぜ手を握る! あたしは子供か!」
手を握られて逃げられない!
そして、今の貧弱なあたしでは志乃ちゃんを振りほどけない。
いつも貧弱ではあるが、フウちゃんにリストバンド付けられてからはさらに酷い。
あたしはこんなんで大丈夫なんだろうか。
「子供だろう。言うことを聞きなさい」
「どこにもいかないから手を離してよー」
「ダメだ。2人が戻るまでこのままだ」
くそー。人を怪獣とか言うくせに、自分はその怪獣が引っ張ってもビクともしないんだけど?!
これでは逃げられない。2人とも早く戻ってきてーー。
パシャリ──
早く戻ってきてとは思ったけど、写真撮ってほしいとは思わなかったんだけどな。
「おっ、戻ってきたな。遅いぞ。何やってたんだ?」
「遅くなりましたー、ちょっと絡まれてしまいまして。雅さん、こっち向いてください」
もう慣れたけどさ……。
こっちってこっち?
「そう、そのままでお願いします」
「雅、付き合うな。長くなるぞ」
そうは言っても撮らないと満足しないじゃん。
そして、手を離してくれたらいいじゃん。
亜李栖ちゃんは勝手に撮ってるし、志乃ちゃんは手を離してくれないし。
ユッキーにどんなもんだったのか聞こう。
「ユッキー、絡んできた人たちはどうしたの?」
「全員立ち上がれないようにしてきました。固定ゲートは駄目ですね。出入りを人為的に制限されています。強行突破は中に入ってからのリスクが高いですし、日替わりの方のゲートを探しましょう」
……後半部分は役立つ情報だった。
しかしだね。最初の「全員立ち上がれないようにしてきました」ってところ。
この2人がやったんだよね? 大丈夫なの。やられた人たち。
「あのやり口は、数に限りがあるエッグをグループで独占するつもりのようですね。ゲート自体を封鎖して中に入れない。理にかなってますが、やり方が気に入らないのでヤってしまいました」
「どうする。他って言っても近いのどこだ?」
亜李栖ちゃんの今のはあえて無視したんだろうか。
あたしも掘り下げない方がいいんだろうか。
「たしか代々木公園の中でしたね。そこが一番近い日替わりのゲートですね」
「じゃあそっちに行くか……」
「ここでは人目も多いですからね。移動はバスがいいでしょうか?」
なんでもいいけどさ、そろそろ手を離してよ。
♢
雅たちが断念した渋谷駅にある固定ゲート。
その向こう側では、今まさにゲームの開始が宣言されるところだった。
『みんな〜、集まってくれてありがとう〜。なお、この映像は固定ゲート近くの街頭モニター全てに映っているから大丈夫だよ〜。生放送も行なっているから、まだ到着していない人も安心してね」
新宿周りであれば、開始場所はどこからでも変わらない。スタート時点ではプレイヤーたちに差がつかないようにされているからだ。
『では、さっそく始めたいと思います。長ったらしい挨拶とか時間の無駄なので、特にありません。今日はみんな頑張ってねー。アイリは〜、みんながボスキャラを倒してくれるって信じてるよー』
エッグがどうばら撒かれるのかという疑問は、プレイヤーたちの予想を裏切る方法がとられる。
『でも……簡単にエッグをあげもしません』
アイリという彼女は最初から一本の紐を握っていた。
その先には300個のシャボン玉が繋がっている。
『新宿の周囲を回るように、ここからシャボン玉が飛んでいきます。高度と速さは一定です。キャッチするには、かなり高いところじゃないと届かないかなーって思います。追うもよし。待つもよしのゲームです』
立ち並ぶビルより高い場所を移動するシャボン玉。
取るには高い場所に上るか、地上から落とすか。
ただ、地上に落ちた場合、自分が捕まえらるかは分からない。
シャボン玉を狙う人間は周りにいる全員なのだから。
『秘密だったエッグのスタート地点は渋谷でした! ここから半分ずつを左右に飛ばします。じゃあ、いっくよーー!』
プレイヤーたちは高い建物に向かうか、地上からシャボン玉を落とすか。
どちらにせよ争いとなるだろう。争奪戦という言葉が相応しい。
『ゲームスタート!』
限りがあるものを何倍もの人数が奪い合う。
繰り返すがルールは無い。
これから大規模な戦闘となるのは明らかだ。




