作戦会議 ⑤
♢43♢
魔法という技術を使用するには、基本的に2つのパターンが存在する。
自分の力で行うのか。自然の力で行うのかだ。
どちらにしても自己の魔力を消費はするのだが、その割合と、起きる結果に違いが出る。
自己の魔力で行う魔法より、自然の力を利用した魔法の方が強い。これが通常の結果だ。
しかし、風神 雅を始めとする一部の人間に限っては、自己の魔力で行う魔力の方が強いという結果になる。
これには、そもそもの出来や、その人間が元から持つ才能や、秘められた力の量が関係すると思われる。
雅は空域という箱で範囲を括り、内部の風を使用し魔法を行なってきた。
自己と自然。その両方ともの力を利用していた。
これは、彼女にはそうしなければ魔法など使えなかったからだと思われる。けれど、もうそれは存在せず、2つの力を利用できる事実だけが残ったのが現状の雅。
分かるだろうか? この事がもたらす恩恵を。
片方だけで並だとしても、2つ合わされば天才となる。しかし、もしも両方ともが並以上だったら?
それはもう天才という言葉では収まらなくなる。
そんな彼女に欠けているのは、知識と己が体力。
ろくに走ったこともなかった雅に体力などあるはずがなく、誰も彼女に魔法を教える事など出来るはずもない。何故なら、普通の人間には自然の力を雅のように使うことは不可能なのだから……。
「空域制御──」
そして現在、雅は欠けているものに悩まされている。力を制御する知識など無く、体力でそれをやろうというのも難しい。
「──うわっ?! 箱すら作れない。風をどうこう以前の問題になってしまった……」
雲母のくれたカードで風を発生させ、それを制御する。これを練習しているのだが上手くいかない。
自分の力ではないもので箱を作る事は成功せず、力で押さえようにも筋力も体力も足りない。
「重症だな。制限されていても半分だけなら魔法が使えたのにな。フウが悪いんだからな」
「大丈夫だって。ゆーきが倒すから」
「それは明日の話だろう? その後はどうするんだ。アレで終わりじゃないんだぞ」
「大丈夫だって。ゆーきが倒すから」
雅は風の力を半分。水の力を半分きっかりを封じられている。その力の内0〜50%を封じられている。
51%からなら問題なく使えていた力も、水の枷が追加されてからは機能しなくなっている。
「くそー、もう1回だ!」
雅が風だけを持つ人間ならこうなりはしなかった。
いや、以前はそうだったのだ。
それしか持ってはいなかった。だが、ゲートの向こうで得た色が雅のバランスを崩している。
「フウ、それは無理だぞ。ユウキだって万能ではないからな。どこかで限界がくる。そんな時、お前は黙ってるのか? ミヤビちゃんのように何かしようするだろう?」
「…………」
崩れたバランスを取るには、精密な力の制御が必須。付けられた枷は、与えられた試練と言ったところだろう。
「1人で戦い続けられるヤツなんていないよ。もしそんなヤツがいるとするなら、そいつはもう人間じゃない。弱いから人間は力を合わせるんだ」
強ければ他者を必要としない。
個が全てを凌駕するならば。
例えば、雅はそれに当てはまる。
彼女なら1人で戦い続けられるだろう。
「もう無理だーー。助けてーーっ、明日どうすればいいか教えてーー」
でも、人間だから誰かを必要とする。
人間だから言葉も届く。人間だから孤独を嫌う。
「……諦めたか。まぁ、仕方がない。風香。お前がミヤビちゃんに課した枷は大きい。けどな。それでも飛べるなら、あの子はどこまでだって行ける。その力は何者をも凌駕する。ほら行くぞ、雛鳥に飛び方を教えてやらなくてはいけない」
一度、羽根が全て抜け変わるのだろう。
そうしてより強い羽根を手に入れ、今より高く舞うのだ。
羽根が大きければ多くを抱えても飛べる。
それこそ世界だって抱えて飛べるかもしれない。
♢
「みやびには、何故だか風に水。あとよく分からない色の力が混じっている。これらは独立して機能していて、互いに干渉はしていない。でも……なんて言ったらいいか……現在MPは雅が。HPは水の力がまかなっている。わかった?」
「──ぜんぜん。なんでHPとMPが独立してるの? 実はミヤビちゃんは2人いるの? 悪い雅は実在したの?」
雅の現状が説明されたのだが、本人には全くと言っていいほど自覚がないらしい。
「…………。ねぇ、きらら。フウには無理だ」
「投げんなよ。諦めんの早いぞ」
「分かるように言ったよ? みやびの謎な中身について、可能な限り分かりやすいように言ったよ?」
ブラックボックス。雅の中身については開けてみないと分からない。
カイアスは雅を殺せば中身が分かると言っていたが、それは定かではない。
「じゃあ……あれだ。ミヤビちゃんの中には悪い雅もいて、その悪い雅がHPを担当している。今の猫被りミヤビちゃんはMP担当。これでいこう」
「猫被りなんてしていません」
ホワイトボードに雅の現状が分かりやすく描かれていく。屋上での特訓は無駄だと判断され、室内へと移動。居残り授業のように雅1人だけ講義を受けている。
「私がMPを、フウがHPをそれぞれ半分封じた。これにより現在バランスが崩壊している。出力は安定せず、独立している力は勝手に動いているから、なんともしようがない状態になっているんだ」
「──えっ、聞こえてないの? ミヤビちゃんの声は届いていないの?」
雅の言葉は無視され、ホワイトボードには要点がまとめられていく。書き終えたところで解説が始まる。
「改善にはバランスを取ること。つまり、ミヤビちゃん自身による力の制御が必須だ。それもユウキくらい正確なね。だが、これをすぐには解決できない。今からでは、どーー考えても無理だから、明日は諦めて一日中寝てなさい。はい、解散」
「そんなわけにいくかーー! 自分も投げてんじゃん! 諦めないで明日活躍する方法を考えてよーー」
無理。それが結論。
リストバンドを付けられた時点で、この結論しかなかったのだろう。
「ごめんね? 明日はフウと遊ぼうよ。一日中ゲームやろ?」
「また、くすぐり倒されたいのか……」
「──にゃ?! おやすみなさい!」
猫被ってない本気の雅に危機を察したフウは逃げ出した。
「諦めが悪いな……。私がミヤビちゃんの代わりに行ってやろう! これなら問題あるまい」
「真面目に言ってる。ユッキーが闘うなら、その手助けくらいはしたいんだ」
「……分かった。そこまで本気なら1つ提案しよう。ただし、キミのやり方とは真逆のやり方だ。嫌だと言うなよ?」
♢43.5♢
裏東京。この広い都市の中のとある場所。
プレイヤーたちは気づきもしないところ。
その場所に現状住んでいると言っていい、ゲームを運営する彼ら。
そこで己が配信した動画の反応を解析し、発案者かつ責任者は笑みを浮かべる。
「──反響は上々。これなら明日は期待していいんじゃない?」
言葉を投げかけられたのは真紅の眼の男。
ボスキャラと同じ眼をした、同じTYPEというカテゴリーの男。
「アイリ。キミのやり方に反対はしない。プレイヤーたちに力を与え、ボスキャラの討伐を促す。しかし……いや、言うまい」
「あら……これはあなたの望みでもあるじゃないの。そ・れ・に・最初のステージでいつまでも詰まっているゲームなんて、見ていてツマラナイでしょ?」
「オレはオレでやらせてもらう。イベントとやらの成功を祈っているよ」
これで言葉を切り男は暗闇へと消える。
「思ってもない言葉。レンは雅を買っているようだけど、あの子よりユッキーでしょ。価値が分からないわけじゃないでしょうに……。でも、誘わなくても来てくれるわよね? 2人とも」




