作戦会議
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そうめんというやつは、単調な味だから飽きるのだ。そりゃあ同じ味で食べ続ければ嫌にもなる。
毎日そうめんが出てきた日には、キレもするだろう。
しかし、キレる前に工夫してほしい。
飽きるのはそれからでも遅くはないと思います。
「薬味を変えるのが基本。とはいえ限界はあるので、それはほどほどに。今日はこんなふうにしてみた」
そうめんに、トマト、大葉、ごま油を合わせてみた。去年の成果と言っていい、この味。
「去年、雅さんはそうめんを食べ続けたらしいです……」
安かったから買いすぎたんだ。
結果1人ではどうやっても処理しきれない量で、志乃ちゃんをよく呼んで無理矢理そうめんをご馳走した。
「3日間同じやつが出てきたところでキレた」
「よく3日も付き合ったな……」
「3日じゃないんだ。そこから雅はそうめんを研究し始めて、あとの夏休み中もほとんどそうめんを食わされた。正直言って今年は見たくなかった……」
夏休みの自由研究だね。どうしたら、そうめんを飽きずに食べ続けられるか? の研究。
まぁ、そんな宿題はなかったので発表したわけではない。ただ、そうめんレパートリーが増えただけ。
そして志乃ちゃんが主に食べてくれたので、あたしはそうでもない。今年も普通にそうめんを食べられる。
「でも、コレ美味しいよ? 志乃ちゃんもそう言ってたよね?」
「言いはしたが、実際にこうしてまた出てくるとな」
むーーっ、そんな反応するとは……。
前に美味しいと言っていたからこれにしたのに。
「なんだよー、嫌なら食べるなよー」
「食べないとは言ってない。1年は……経ってないけど久しぶりだし、1回くらいは食べるよ。いただきます」
「──はい、召し上がれ! みんなもお食べ。志乃ちゃんのお墨付きだよ。おかわりもあるからね」
姉もそうめんは嫌だと言っていたが、食べている。
おそらく普通に茹でただけのやつが出てくると思っていたのだろう。
甘いな、ミヤビちゃんはそんなの出さない!
「まさか、そうめんにこんな食べ方があるだなんて」
「初めてだ。そうめんに具があるのは」
亜李栖ちゃんも雲母さんも箸が止まらないようだ。よしよし。
「──でしょう! そうめんだけで1ヶ月はいけるよ。明日もそうめんにする?」
「「「それは遠慮します」」」
ユッキー以外の全員が同じことを言う。
毎日、お昼がこれでいいなら作るの楽なのに。
「ユッキーはそうめんでもいいよね?」
「食べ物にこだわりはないので別に構いません」
「よっしゃー、明日もそうめんに決定だ!」
明日は辛い系にしよう。
キムチとかも合うんだ。
「ユウキ、それは考え直せ! 本当にミヤビちゃんは、毎日そうめんを出すぞ!」
「……美味しければいいと思います」
「ユウキさん! 食べたいものをリクエストすれば雅さんは喜んで作りますよ!」
あぁあ……ユッキーが迷っている。
このままでは毎日そうめん計画が。
「──そうだ! 作戦会議しよう。作戦会議。明日に向けてね」
「それ、今思いついただけだろ」
「そ、そんなことないよ? ずっと考えてたよ」
みんなが冷たい目をしているけど、気にしない!
なんとか作戦会議でうやむやにして、明日もそうめん出そう。
「分かった。全員がお昼を食べ終わったらそうしよう。私はちょっとやる事がある。ご馳走さま」
食器を下げた雲母さんは自分のオフィスに行くのかと思ったら、廊下に出ていく。
トイレにでもいったんだろうか?
少しして廊下から、部屋の中にいても聞こえる声がした。その大声にみんな一斉にドアの方を見る。
『──チビ助、出てこい!』
ドンドンドン──
『ちっ、鍵なんて付けさすんじゃなかったな……。聞いてんだろ!』
バンバン──
『出てくる気がないならしょうがない。ぶっ壊す』
バキッ──
「壊した……」
何をとは言わないけど、壊した。
そしてギャーギャー聞こえる。
ニャーニャーも聞こえる。しかし、猫ではない。
♢
──ゴクリ
「……ううっ……えぐっ……ごめんなさい……」
これを、なんと表現したらいいんだろう。
可愛い? ──確かに。
守ってあげたい? ──確かに。
もっとその顔を見ていたい? ……これはちょっと危ないかな。
「と、チビ助ことフウも謝っているので許してやってほしい」
風香ちゃんというらしい。
11歳。小学生。ちんまい。可愛い。
なんだろうこの生き物は……。
なんかが、ものすごく刺激される。
「ゆーき。きららがカギをぶっ壊した! フウの聖域がなくなってしまったーー」
フウちゃんがユッキーに抱きつき、ユッキーがよしよししている。
どちらも羨ましい。してるのも、されてるのも。
「ついにやりましたか……。あとで直させますから泣かないでください。みんな見てますよ? ほら、涙を拭いて」
「うん……」
しかし、今はしたい。あたしもよしよししたい。
なんとかならないだろうか?
上手いことフウちゃんに近寄る方法は。
「ミヤビちゃんの邪魔をしたのは出来心だったそうだ。実害を被った2人にはちゃんと謝罪させるから」
さっきの見えない壁の犯人はフウちゃんだったようだ。この子も魔法が使えるらしい。
「いや、こんな子に頭下げさせんなよ!」
それより、はぁ……はぁ……。
あたしもやりたい。あわよくばギューっとしたい。
「そうは言うが、最近はろくに部屋から出てもこなくてな。久しぶりに出てきて最初にした事が、初めて会った人を魔法で攻撃では、叱るなと言うのは無理だろう?」
「いいよ。今、ごめんなさいって言われたし。風香ちゃん? 悪い事は言わない……──今すぐ部屋に戻れ! 様子がおかしなのが2人もいる!」
もう、限界。それにあたしに謝ってくれるらしいので、いいよね?
「フウちゃん。あたしも怒ってないよ? だからね。そのまま大人しくしていて……──捕まえた!」
ゆっくり近づいていって、ガバッと!
志乃ちゃんから貰ったぬいぐるみのような抱き心地。
「にゃーー! はなせ、離せーー!」
「大人しくよしよしされなさい。そうしたら許してあげるから」
「……ううっ……ゆーき、助けて……」
涙目で助けを求める姿も可愛い。
なんていうか、小動物のような感じ?
「雅、やめろ! この変質者が──」
「──雅さん、私にも! 志乃さんはちょっと邪魔ですわ」
ハァハァしていた亜李栖ちゃんも同じ気持ちだったらしく、志乃ちゃんを押しのけ隣にきた。
「あぁ──、愛らしい。私はひとりっ子なので子供と接する機会には恵まれずにきました。しかし、こうして目の前にいては、我慢しろという方が無理です」
わかる。妹というやつだね。
こんな妹ならほしい。
「……アリス? 雅もどうしたのですか?」
「待て、ユウキ。おもしろ……罰になるからしばらく放っておこう!」
「姉さんが言うなら。シノ、大丈夫ですか?」
このあと志乃ちゃんからしこたま怒られました。
フウちゃんは一番志乃ちゃんに懐きました。
逆にあたしたちはスゴく警戒されています。
次はちゃんと作戦会議しようと思いました。




