チームワーク ⑥
雲母の身に起きた現象は石化現象などとは異なる。
実際に石になったわけではなく、石にでもなったように感じたが正しい。
「どうだ。やったか?」
それを引き起こしたのは、志乃が手にした新たなスペル。この遊戯で言うのならばだが。
振動により様々なものを破壊することが可能な籠手。その範囲すらも操れる代物。
「ダメみたいです……」
元からあった盾は範囲を指定するのに利用できる。
そんな機能を付けられたから。
振動をより正確に伝える役割を担うことになった。
「驚いた。まさか一本取られるとは思ってもいなかった。持っていたエッグを使用したわけか。それをギリギリまで隠し、なおかつ使いこなしてみせるとはな。キミたちの認識は改めないといけないようだ」
振動による破壊と拘束。
今のところ、志乃に扱えるのはこの2つになる。
彼女の感覚の鋭さがあって可能になる魔法。
「亜李栖。剣は当たったんじゃないのか?!」
「当たりましたし、手応えもありました。しかし……」
籠手にはいくつか弱点というか、必要な条件がある。拘束にはまず対象の足が地面に触れてないとダメ。これは術者も同様に地上にいるのが望ましい。
「最初に言ったろう。真面目にやると。魔法に出し惜しみはしない。動きを止めたくらいで、いい気にならないことだ。足元をすくわれるぞ?」
土の魔法であるからには、外せないこれらの条件。
そして、このくらいのことは雲母には予想できている。
「直接かますか、もっと近くでやんないとダメか」
当たり前だが、直接攻撃するには接近することが必要である。
盾があるのだから接近自体は可能だろう。
そこから先は術者の力量によることになるが。
「無理じゃないですか、それ。剣で斬っても、あの人傷1つつかないんですけど?! 鉄でも斬れるくらいでないとダメージにならないとか……」
亜李栖では斬れない。
技量にしても、魔法にしても及ばない。
「面白いな。ミヤビちゃんの靴もだが、その籠手も相当愉快な代物に見える」
ミヤビたちの攻撃は、遠距離でも近距離でもダメージになっていない。
4人いて誰も雲母にダメージを与えられていない。
そして雲母はどちらも平均以上の性能を有する。
この差は一朝一夕には埋まらない。
「あぁ、どうしましょう。ボスキャラどころの話ではないです」
「勝手に止めるわけにはいかないし、踏ん張るしかないだろ。それに……もう来るさ」
新宿のボスキャラを前にしても条件は変わらない。
なら、彼女たちはどうしたらいいのだろう?
「──待たせたな、そしてよくもやってくれたな! お返しだ!」
その答えはチームワークという言葉にあるのだろう。だから、雲母はそれを分断したし個別に撃破しようとした。
しかし、予定は狂った。予想は上回られた。
「真紅の一撃。気高く咲き誇る赤い薔薇。 ──雅、いきますよ!」
「知ってるか? 火は煽ると勢いを増すんだ!」
真紅の炎でできた薔薇が、翠の色の風を受けその花びらを散らす。2つの色の炎の渦が空を覆う。
「──必殺! ミヤビちゃんスペシャル!」
雅とユウキによる合わせ技。
これは1人では届かなかった結果。
『ピピピッ、ピピピッ、ピピピッ──』
渦が放たれる直前にそんな音が響いた。
電子音がしているのは雅のポケットからだ。
「──なんだよ。今いいところなのに!」
「「アラーム?」」
電子音の正体は携帯のアラーム。
二度寝の起床時間として設定してあったものだ。
「そうか。お昼になったか……時間切れだな」
アラームの鳴った時間は12時ちょうど。
そして、これは雲母が最初から決めていたこと。
「バトルは終わりだ。時間切れでキミたちの勝ちだ。はい、終了ーー」
12時までと。もし、時間まで1人も脱落することなくいられたらと。そう最初から決めていた。
手は抜かなかった。
それでも約1時間持ち堪えて見せた。
自分が思っていたより、少女たちは強かった。
「えっ──、終わりなの? これどうすんの?」
「1発余った。これで処理してやろう」
雲母はこれまで使っていた銃を、上空の渦へとぶん投げる。炎の中へと消えた銃には、青い弾が入ったままだ。
「そんな馬鹿な。そんな雑にミヤビちゃんスペシャルが……」
上空の魔法は、別な魔法により消滅する。
キラキラと水滴がわずかに降ってくるだけになった。
「あんな即席の魔法で何とかなるわけないだろ? 比率も悪いし、何よりネーミングが最悪だ。朝練は終わりだ。シェフ、お昼にして」
♢
「ダサい。雅、最後のはダサい……」
「でも合体技でしたし、即席にしてはいいと思いますよ?!」
「慰めないで! これからもあの技は、ミヤビちゃんスペシャルでやっていくんだから!」
時間切れで負けではなく、なんと勝ちになった。
勝利をもたらしたあの技は今後も使っていきたい。
「お断りします」
次はないらしい……。
ユッキーは気に入らなかったらしい。
「今日のお昼は何だ?」
「何も手伝わないくせに、姉は誰よりもご飯を気にするね」
不完全燃焼感はあるけど怪獣とのバトルは、誰ももうやりたくないから勝ちはありがたく頂戴しました。
本当にあたしたちの勝ちでいいらしい。
あのまま続けていたら……どうなっていたかな?
あれだけやって雲母さんは無傷なので、想像はしたくない。
「今日は手伝っただろう。私自ら遊んでやったし」
「あれで遊びだというなら、世界はとても平和だよ」
そんな世界は嫌だ。
4人がかりで傷1つつかないとか笑えない。
黒ブタマンだって傷くらいつくよ?
しかし、何やかんや姉は手加減してくれた。
あたしたちに諦めさせるのが、目的だったからでしょう。本気で殺しにきてたら3秒くらいで死んでると思う。
「及第点をくれてやろう。ユウキ以外は死なんわけだしな」
「……じゃあ、あの時間は何だったの? 最初からいらなくない?」
「そんなことはない。若い子をどつき回せて楽しかったよ、私は」
雲母さん以外は全員苦い顔をしている。なかなかの修羅場だったからね。
少なくともこれから先、みんな多少の事態には狼狽えないと思う。
「シェフ、早くお昼ごはん! お腹空いた」
「今日はそうめんです」
「えーー、もっと凝ったやつにしてくれよ」
「何もやらないんだから黙って待ってなさい」
♢41.5♢
昼食を準備する4人。それを眺めている雲母。
彼女も内心は納得してはいないが、頭から否定もできなくなっていた。それだけのものを見てしまったから。
「姉さん。本当にいいんですか?」
「なんだ、自分で言い出したのに怖気づいたか?」
「真剣に聞いているんです」
茶化した気は無かったが、ユウキはムッとした表情をする。このユウキの変化もまた1つの要因である。
「ユウキ。私は、お前たちは結局は1人で向かって来ると思っていた。でも、ミヤビちゃんを助けに飛び降りたのを見て違うと分かった。今のお前なら大丈夫だ」
「それは……」
「お前が何に気づいたのかは分からない。だが、それにはきっと意味がある。確かめたいと言うなら、確かめてこい」
頭で理解するのと、実際やるとでは違う。
口で言うのと、行動するとでも違う。
「……だが、どうしても不安だというなら、お姉ちゃんが一緒に行ってやろうか?」
「必要ありません。家で待っていてください」
「お姉ちゃん離れが進んでいるな。悲しいことだ」
「もう、冗談ばかり言って──」
ユウキはむくれて調理組の方へといってしまう。
しかし、冗談ではなく本当にそうだし、それを姉役は嬉しく思う。




