チームワーク ⑤
「ちっ──、納得のいく結果ではないが、戦いに想定外はつきものか」
見えない壁に激突し、地上へと落下していく雅。
それを助けるべく空中に作り出した足場から、今まさに飛び降りようとした雲母。その時だ。
「──まだ、終わりではありません!」
「ユウキ?! お前、何をやって──」
振り返る暇もなく、自分の真横をユウキが通り過ぎる。タワーマンションの屋上にいたはずの、拘束したはずの彼女がだ。
ユウキは落下する速度に、更にマンションを蹴ることでスピードを加えて加速していく。
「死ぬつもりか?! 馬鹿娘共が……いや……」
そこで気づく。この予想外の展開に。
ユウキの魔法は動いているということに。
なら、ここで2人を助けるという選択は間違いであるということに。
「……どうやってアレを破った。計算に間違いはない。ユウキの魔力量では不可能なはずだ。気合いや根性なんていう精神論ではない。なら、なんだ?」
代わりに疑問に思う。
絶対に間違いのない計算だったはずだと。
仮に拘束を解いたとしても戦う力など、ドレスを使用するだけの力が残らないことを雲母は知っている。
そんなユウキに与えたのが、あのドレスなのだから。
「それに、どうするつもりだ。飛行能力などないぞ?」
全員まだ諦めていない。上の2人も同様に。
そこまで思い至り、次の行動を決める。
「ミヤビちゃんを炙って氷を解くかな? あとはミヤビちゃんがなんとかするだろうし。なら──」
新たに青い弾を込める。
ユウキの言ったように、まだ終わってはいないようだから。
「ひとまず上か!」
落下していく2人は捨て置き、屋上に残る2人を目指し上昇する。
足場を1回、マンションを1回、足場をもう1回と蹴ったところで屋上が見えた。
「やはり拘束を破っている。どうやったのか」
ユウキが力を残している以上、氷を破壊したのは志乃か亜李栖のどちらかとなる。
しかし、2人ともに変化は見られないのだ。
「何も変わりない。そんなはずはないのだが……」
魔力の値にも一切変化が無い。
これでは何をしたところで、あの魔法は破れないはず。
「──唸れ聖剣!」
先日のように、亜李栖がその魔法を使おうとする。
自らの剣に魔力を集め、それを一気に放出しようとする動きをする。
雲母は一度、これが水かけ遊びだったのを見ている。
それから日にちも経っていないし、出来るはずがない。だが、亜李栖は自分の思い描いた通りの魔法を発現させる。
「なに? 一体どうなっている」
巨大な水柱が振り下ろされる。
まだまだ斬るには程遠い。
ただ水が形を得て落ちてくるだけの魔法。
「とりゃゃゃ────!」
「ユウキが入れ知恵したわけか……」
バッシャーンと滝のように水柱が叩きつけられた。
斬れ味など無い鈍。鈍器のような一撃。
「よっしゃーーっ。当たりました!」
「バカ、あんなんでどうにかなるわけないだろ!」
浮かれる亜李栖を、志乃が叱咤する。
「まったく……」
水は雲母を避けたように、その場所だけ一切濡れていない。何も無かったように雲母は立っている。
「ほら見ろ。怪獣たちにはあんなの効かないんだ」
「しかし、要領は分かりました。あとは鍛錬次第だとも……ふふふふっ」
再び剣に魔力が集約されていく。
それは技術としては遅く、実戦ではまだまだ使えない。
でも、現実として形になりつつある。
「そうだ。いきなりミヤビちゃんのようには出来ない。なら、時間をかけて行えばいい」
そうしているうちに力を集約させる速度は速くなり、より多く力を集められるようにもなるだろう。
やがては自分のスキルへと昇華するだろう。
「まぁ、黙って見ているつもりはないけどな──」
込めた分の青い弾が発射される。
銃を相手に向けて引き金を引く。
この動作は銃を予め構えていない以上は、必ず必要な動作だ。そして雲母はそれをしていなかった。このことが明暗を分ける。
「それはこっちもおんなじだ!」
志乃は大楯を下に突き立てる。籠手がある方の手で。
これは親切なサービスによって出来るようになった、魔法である。
「──力が増した? しかし、どんな仕組みで」
放った弾は、盾ごとであっても凍らせることが可能だった。
現にさっきはそうなった。でも、今度はそうならなかった。
凍り付いた部分からヒビ割れて砕け散る。
何故だか増した土の属性の力により、相性だけでなく魔法としても有利を得た。
「──亜李栖!」
待ってましたと言わんばかりに、志乃の魔法が及んでいない亜李栖は剣を振るう。
タメの時間は回数をこなす毎に、速く正確になっていく。
「今度は逃がしません! 覚悟!」
雲母は銃を構えた腕も、地についた足も動かない。
「そのようだ……」
まるで身体だけ石にでもなったように動けなかった。
水柱を携えた聖剣が振り下ろされた。
♢
新宿での最後とは逆の立場。
今日はミヤビが空中で抱えられる。
「しっかりしなさい。終わりではありませんよ」
「ユッキー。パラシュートなしのスカイダイビングは、ただの自殺だよ?」
「助けに来たのにこれですか……」
「本当のことじゃん」
タワーマンションから落下中の2人。
2人は、もう少しで地面へと到達してしまう。
「早く上に戻りますよ。シノたちが心配です」
「足が凍っていて動きません」
「問題ありません。燃やして溶かします」
「ちょ──、嘘だよね! ユッキー?!」
嘘などではなく、本当に凍っている部分に炎が広がる。氷は溶けていくが直に炙られている雅。
「いやーー、燃えてるよーー! 熱いよ。これじゃ助けるどころかトドメだよーー!」
「──嘘を言わない。ジタバタしない」
「そんなこと言ったって……本当だ。熱くない?!」
「加減していますから熱くはないはずです」
片足だけの氷なら、時間は大して掛からず解けた。
あとは、どう上へと戻るのか? どう落下を止めるのか?
「では、いきますよ?」「よし。こい!」
答えは簡単だ。
1人で無理なら2人でやればいいのだ。
「一閃・火天」
ユウキは、雅から手を離し下方へと炎を放つ。
その全力の一閃は地面へと着弾し炸裂する。
「空域制御」
雅はその炎の熱を利用する。
温まった空気を制御し上へと昇る。
「ユッキー、掴まって!」
暖かな空気は勝手に上っていく。
雅はそこを操作し道を作り出す。
すると、炎が渦を巻いているような見た目の道が出来上がる。あとは流れのままに上昇していくだけ。
「上昇気流というやつだね!」
「普通は上昇気流に乗れはしないでしょう……」
「これはアレだね。ユッキーがいれば飛べるね」
「一時的なものですから、ずっとは飛べないですよ?」
風を捕まえておける靴と、火事のような炎があって出来ること。
相性では風は火に負ける。
でもそれは、ぶつかった場合の話だ。
掛け合わせることが出来たなら、違う結果が生まれる。
「ところで、ユッキーはどうやって氷を溶かしたの? 自分で焼いたの?」
「あぁ、私たちのはシノがやりました。雅は覚悟しておいた方がいいです」
「何の話かな?」
「アレで殴られたら私も死ぬと思います……」




