朝ごはん
最初、ユッキーの言っていることが分からなかった。真剣な様子だったし、てっきり記憶に関係することだと勝手に思っていたからだ。
でも、ユッキーが口にしたのはボスキャラのところにもう一度いきたいという、あたしの予想を裏切る内容だった。
「雅、昨日はごめんなさい。私はこのパスタをいただきます」
「いや、時間経ってるし夏場だしやめなよ。お腹壊すよ」
それにこっちの今日作った和食をね、食べてほしい。さり気なくすすめよう。
「この家は空調がずっと効いてますし、姉さんの言ったようにせっかく作って貰ったのだから食べます」
作った側としては嬉しいけど、時間が経ってるのを食べさせるのはどうなんだろう?
朝ごはん作るのに夢中で、処分するの忘れてた。失敗した。
「ユウキはどうしたんだ?」
「分かりません。でも、何か違いますよね」
ユッキーの変化にみんな気づいてる。
なんていうかマイルドになった。そんな表現があうと思う。
寝て起きたらマイルドになっていた。
……そんなことあるだろうか?
「ユウキ。何か思い出したのか?」
そっか。それは気づかなかった。
内面に変化をもたらすようなことを思い出したなら。
「いえ、そういうわけではないんです」
違うらしい。
「じゃあなんなんだ。今のお前は昔のよう……」
雲母さんは途中で言葉を止めた。
そして、──しまった! というような表情をした。
「昔……。そうなのかもしれない。自分の中から冷たい炎が消えたからか、なんだか不思議な感じなんです」
「炎が消えた? もう、あの青い炎は出せないってこと?」
「そうかもしれません」
じゃあ、あの青い炎はなんだったんだろ。
あれはユッキーがやってたわけじゃない? なら、あの炎は何処からきて、何処に消えたんだろう。
「……そうなのか。あの日、お前が取り込んだ炎は使い切ったのか」
「──えっ、待って! あの青い炎は、炎の記憶にあった炎なの?」
「そうだ。ユウキ自身を燃やした炎だ」
あたしたちが見た過去はユッキーに刀が刺さるところまで。でも映像が途中でとんでたし、最後には全部炎に包まれてしまっていた。
考えてみるとあの炎の中で生きているのは不思議だ。そこで炎がユッキーの中に取り込まれた、となるんだろうか?
「記憶焼却。その現象を発生させたのがあの炎なら、それがなくなったということはユッキーの記憶が戻ったりはしないの?」
「どうだろうな。前例が無いし、ミヤビちゃんの言ったことを否定はできない。可能性としてなら、なくはないと言いたいね……」
炎が記憶を奪っていたなら、原因がなくなった今なら記憶が戻る可能性はある!
「記憶。なくなってしまったそれを、取り戻す方法があればと思っていました。自分が何者なのかを知りたいと思っていました」
「そうか……そうだったのか」
雲母さんが昨日気にしていたことが、ユッキーの口から直接聞けた。
今までユッキーは言わなかったんだろう……。言えなかったのかもしれないな。
「だから、もう一度あの男の前に行きたいんです」
「あのボスキャラに、ユッキーの何かがあるの?」
「まだ分かりません。でも、確かめたいことがあるんです」
猪子の言ってたユッキーが狙われた理由と、黒ブタマンの台詞か。結びつかないな……。
ユッキーにしか分からないことがあるのかな? まぁ、どちらにしても。
「──なら行こう。今度こそ黒ブタマンを倒して世界を守ろう! 違うな……ユッキーの記憶を探すついでに世界を守ろう!」
「ついでって……」「世界がついでなのか?」
ついででしょう? ユッキー以上に大事なことなんてそうそうない。逆にそんなのあるなら教えてよ。
「ミヤビちゃん。気づいてたのか?」
「何を?」
「今、世界を守ると言ったじゃないか」
あぁ、そのことか。あたしに気づいてたのかと言うってことは、姉も気づいていたらしい。
「ボスキャラは、その内こっちに現れるってこと? なら、気づいてたよ。だからあたしの役目だともね」
「「──はっ?!」」
「2人ともどうしたの。そんな驚いて……」
志乃ちゃんと亜李栖ちゃんがスゴく驚いてるけど、驚くようなとこあった?
「雅。今のは、あのボスキャラがってことか?」
「そうだよ」
「私たちのいる、こちらにってことですか?」
「そうだよ」
2人は箸をおいて、いっぱい息を吸い込んで、声を揃えて言った。
「「──そんな重要なこと知ってたなら、もっと早く言え(言ってください)!!」」
「なんであたし?!」
このあと何故か2人から怒られました。
頑張って朝ごはん作ったのに、怒られました。
そして片付けはしておくからお前は寝ろとも、怒られました。
♢
観ていた者たち。それも自分もと思った者たち。
7月28日、29日。両日とも彼らは挑む。彼女たちは臨む。
──少女が1人で闘っていた怪物に。
自分こそ。自分たちこそがと思い戦う。
もう少しで勝てそうだった。そう観えたし、そう思えた。
それにボスキャラは弱っている。
スピードは落ちているし、身体には治っていない傷がある。右胸のところに傷があるのだ。
今なら勝てる……愚かにも皆そう思った。
それを理解する者は挑みはしない。
勝てる力が手に入るまで。勝てるレベルに到達するまで。
「──これ、見てください!」
この様子もまた映像として見ることができた。
「見るだけ無駄だ。こいつらじゃアレは殺せねぇ……」
映像を見ながら会話する少年たち。
彼らは裏東京。その渋谷にいた。
「でも、弱ってりゃ分からないじゃないか!」
「……分からないじゃないですか。だ」
「すいません」
遊戯開始前からいた役100名のプレイヤーたち。
始めたばかりのプレイヤーたちとは一線を画す彼ら。もちろんボスキャラに挑む者たちも大勢いた。
「テストプレイからやってるくせに見てわかんねーのか? こいつらじゃ昨日のヤツにだって束になっても勝てねぇ。 ……空域に阻まれて触れもしねぇかもしれない」
しかし、一部のプレイヤーは黙って見てるだけだった。誰が動くのかも気になったし、仮に倒せるヤツがいたなら……。
「じゃあどうするんですか?」
「当面の目標は兵隊集めだ。新宿に入るにはここを通る。勧誘してこい。あと、暴れてたヤツらも探せ」
「そっちは何のために?」
「兵隊に手を出されて黙ってたんじゃ示しがつかない。従えるか、ぶっ殺すかしなくちゃな」
誰しもがすぐに動くわけではない。
様子見をしているプレイヤーたちも存在する。
まぁ、会話する少年たちは、また違う目的を持っているようだが……。
「もし見つけたら連絡しろ。俺が直接やる。全員にどっちも連絡回せ。テメェらは新宿に入るヤツらを狩れ」
「分かりました」
「あぁ、ルールを忘れんなよ? ──行け!」
指揮する少年はルールを与えた。
このゲームに存在しないものを与えた。それが彼のやり方だから。
「兵隊が足りねーから渋谷を抑えんので精一杯だ。あとは自分で何とかしろよ」
誰に投げかけたか分からない言葉。だが、少年は新宿に手を出すつもりはないようだ。
こうして新宿へと向かうための道が1つ、人為的に塞がれる。決戦となる7月30日まで。




