7月28日
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今朝の朝練はなしだし学校も休み。
夏休みなんだから休みが当たり前だと思わなくもないけど、休み。
土日の休みを利用して買い物に行く予定だったけど、ユッキーは昨日帰ってきて気分が悪いと部屋に入っていったままだ。今日は買い物に出掛けるかどうかもあやしい……。
それにユッキーは昨日から、ご飯も食べてないし心配。 ──しかし、昨日決めたから。色んなものを作ると!
「なので、朝から気合入れて朝食を作ります」
現在午前5時過ぎ。まだ誰も起きてません。
眠れなくて気づいたら朝だった。寝てないから回復してない。でも、眠れないんだからしょうがない。
「昨日はパスタだったから〜、今日は和食でいこうかな〜」
何作ろっかなー。和食かつ朝食。
玉子焼きは食べたい。味噌汁も欲しい。
豚肉は昨夜使ったし、肉肉になってしまうのも良くないので魚。
「シャケはない。この家定番のチンするやつもない」
焼き魚はできないな。魚はあるけどこれは煮魚用……別にいいか? 時間あるし煮魚にしよう。
野菜も使いたいな。サラダでもいいけど和じゃないし、こっちも煮物がいいね。
ついでに常備菜も作っとくか。
緑が足りないので、きゅうりの和え物と、ピーマンの──
「なんだミヤビちゃん。もう起きてんのか?」
隣のオフィスのドアが開き雲母さんが出てきた。姉こそ、もう起きてんのか。
「おはようございます。私は起きているのではなく寝ていないのです」
「昨日、あれだけ暴れたんだから寝ろよ……」
「今日は休みだし別にいいでしょ? 眠たくなったら寝るよ」
実に夏休みらしい時間の使い方だよね。
好きな時に寝て、好きな時に起きられるとか! 最高だと思う!
「これが若さってやつか……」
「そして夏休みというやつだよ」
姉はユッキーの部屋の方を見ている。
心配なんだろう。わかる。その気持ちとてもわかる。
「ユウキはあれから一度も部屋から出てきてないのか?」
ユッキーの分の昨夜のパスタはそのままになっている。目につくところにあるし、書き置きもした。気づかないということもないと思う。
「みたいだね。あたしたちが部屋に戻った後も出てこなかったみたい」
「そうか……。あいつも昨日は無理をしたし寝てるならいい。ミヤビちゃんもちゃんと休めよ」
姉は冷蔵庫から飲み物を取り出し、自分のオフィスに戻っていってしまう。
そのまま行かせるわけにはいかないので、呼び止める。
「朝ごはん食べないの? 何か手伝ってくれてもいいよ」
「できたら呼んでくれ」
「──何も手伝わない?!」
「シェフに全てお任せします」
バタンと本当にドアを閉めやがった。
普通は何かしら手伝うところじゃないの?
姉には女子力とか無いんだろうか……。
「……最初から誰もいなかった。そう思って調理しよう」
そして1人で調理した。
朝食プラス常備菜も沢山作ってやった!
やっぱり自分の分だけ作るより楽しい。
食べてくれる人がいるというのは大事なんだね。
今度、お弁当も作ってみようかな。
♢
「おはよう」「おはようございます」
6時過ぎになり志乃ちゃんと亜李栖ちゃんが起きてきた。2人とも、とても可愛いパジャマを着ている。2人ともね。
「おはよー、もう朝ごはんできるよ」
「──何だこれ、作りすぎじゃないか?!」
「雅さん。何時から起きてるんですか?」
テーブルに並びに並んだ品々を見て、2人は予想通りの反応をする。見たまえ1時間の成果を。
「どう? 頑張ってみました!」
「朝から何やってんだよ……」
「ミヤビちゃんスゴいと褒めろよ!」
褒められたかったわけではないけどさ。
志乃ちゃんは少しあたしを褒めてもいいと思う。
「スゴいですね。よくもまあこんなに……」
「亜李栖ちゃん。今のは褒めてるの?」
「褒めてます。そして半分呆れてます。どうするんですか、こんなに」
「だいたい常備菜だから残っていいんだよ。本当はすぐタッパーに入れようと思ったんだけど、この家タッパー無いんだ」
普段いかにして生活しているのかが分かる。
チンするやつ生活してるからーー!
「作っちゃったのに?」
「作っちゃったのに。だから今日買いに行くよ」
「雅、それなんだけどな。1回家帰るわ」
……志乃ちゃんは、そんなことを言ってはいた。でも、買い物に出掛けるんじゃないの?
「ユウキもだけど、お前もちゃんと休めよ。どうせ寝てないんだろ?」
「明日にしましょう。魔法の鍛錬も休みですし、今日は休みにしましょう」
「うーー、楽しみにしてたのに……」
昨日は散々になってしまったから気分転換したかったのに。確かにユッキーは心配だけど……。
「明日の朝には戻ってくるからさ」
「分かったよ。駄々をこねても仕方ないしね。朝ごはんは食べていきなよ? せっかく作ったんだから」
「それはもちろんいただきます」
連泊はマズイのかもしれない。
2人とも帰る家があるし、家族だっているんだから。
あたしも、もうここに住もうかな。
ダメかな? この家の子になりたいな……なんてね!
「何やればいい?」
「いいよ。ご飯と味噌汁よそうだけだし。顔洗ってきなよ」
「雲母さんは?」
「あー、じゃあ呼んできて。あたしはユッキーを呼びにいくから」
昨日は声を掛けなかった。
具合悪そうだったし、あたしと同じく魔法の使いすぎだし、辛そうだったから……。
でも、作ったご飯は食べてほしい。
起きているのかは分からない。
ユッキーは気配が薄い。意図してそうしてるんだろうけど、何かプロみたい。殺し屋とかそんな感じ。
「ユッキー。起きてる?」
……反応無し。
「朝ごはん作ったんだけど、お腹空かない?」
…………反応無し。
「今日は朝練も休みだって。あっ、夜もやんないらしいから1日休みだね!」
………………反応無し。
きっと寝てるんだ。無視されているわけじゃない。わけじゃないよね?
「──ユウキ、朝飯だ! 出てこい!」
「──ちょっと!」
雲母さんがドアをドンドンやって呼びかける。いや、これはちょっと……。
「いつもの冷凍食品とは違うんだ。作った人がいるんだ。出てこないならドアぶち抜くぞ」
「そんなことで壊すなよ!」
「いいんだよ。私の家だ」
それはそうだけど──。
この姉は本当にやる。
「やめなよ、こんなんで破壊するものじゃないよ?!」
「雅、大丈夫です」
姉の脅しに驚いたのかユッキーが部屋から出てきた。昨日と同じ格好だし、なんていうか。
「ごめんなさい。でも、もう大丈夫です」
……なんだろう。何か……。
「姉さん、雅、お願いがあります」
「なに! なんだって言ってくれて──」
「──お前、どうしたんだ?」
嬉しさが先行してしまったけど、雲母さんが言うことも気になる。
何か、違う……昨日の冷たさとも違うし。
「私はもう一度、あのボスキャラの、あの男の前に行かなくてはならない。どうしても確かめたいことがある」
ユッキーは決意を秘めた真剣な表情だった。




