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 敗走と撤退 ④

♢33♢


 少女を1人残し、己は撤退という不本意極まりない選択肢しか持ち得ない自分に、彼女は苛立ちを隠しきれない。


 それを表に出さないのは彼女が大人であることと、ひたすらに謝罪を口にするユウキがいるからだろう。

 戦う力があろうとも発揮できなくては、無いのと同じこと。それが更に苛立ちを加速させている。


「もう少しで新宿を出る。そうすれば出口はすぐそこだ。もうちょっと我慢しな」


「……姉さん。ごめんなさい……」


「何回。同じことを言うつもりだ?」


 涙を流すことがない代わりに、ずっとユウキは謝罪を口にする。


「……ごめんなさい」


「完全に私の判断ミスだ。あんなものがいると最初から分かっていたなら……やりようもあった。準備不足。情け無い限りだ」


 これほどの事態になるとは誰も思わなかった。

 まして彼女たちは仕事帰りと、買い物帰り。

 戦う用意などあるわけがない。


「私もエッグを使って(みやび)のところに……」


「それは不可能だ。私たちに(、、、、)アレは使えない。フィールドの恩恵とやら無しであんなものと戦うことは許可できない。今度は死ぬぞ」


「それでも雅を1人残すより──」


「あの子の覚悟を無駄にするな。あの子はお前のためにエッグを使ったし、お前のために残った。私はミヤビちゃんは、絶対エッグという魔法を使わない。そう思っていた」


 追い詰められての選択。

 そうでなければ雅は絶対にエッグを使用しなかった。それは間違いない。


「誇りというか。変なプライドというか。教えられ方の問題なんだろうが、あの子は他人を頼らないし、何でも自分の力だけでやろうとする。これは風神(かざかみ)自体に言えることだ。頼るということは弱いということ。彼らはそれを良しとしない。時代錯誤甚だしいが、それが風神という家系だ」


 でも、雅はもう違うのだ。変わった。

 

「でも、ミヤビちゃんは少し変わったんだろう。プライドを捨てることを選んだ。代わりに違うものを取った。チームプレーがその証だろう。以前なら、ミヤビちゃんは1人でやってたはずだ。ユウキみたいにな」


 頼ってもいいのだと。

 強くなくてもいいのだと知った。

 この変化は雅に力を与えた。

 

「言い出したら聞かないところと、カッコつけていたいというところは変わらなかったようだがな」


 負けると分かっていて立ち向かう。

 それには理由がある。

 自分の後ろには守りたい人がいるから。


「ユウキ。お前にできるのはミヤビちゃんの覚悟を無駄にしないことと、あの子の帰りを待っててやることだよ」


「…………」


 ユウキはもう「ごめんなさい」とは口にしなかった。


 ♢


 体力。魔力共に限界の(みやび)

 実はかなり無理をして立っているカイアス。

 やせ我慢が得意な2人だが、それにも限界が近い。


「クソピエロ。黒ブタマンに取り付いて自爆してよ。その隙に何とかなるかもしれないから……」


「そんなことしても倒せませんよ。といいますか、どうやって倒すんでしょう? これ?」


「……運営がクソゲーだと認めた」


「いえ、ボスキャラは管轄外なんですよ? これは放っておいても現れてしまう。それも表側に。そうなったら大変でしょう?」


 ダメージを与えても回復する。

 対価として魔力は少なくなるが、2人の限界の方が確実に早く訪れる。負けの見えている戦い。


「倒せないボスキャラを配置してるとか、プレイヤーから訴えられるぞ。もう少し難易度下げろよ」


「下がってますよ。だって元と比べたらクソ弱ですよ? 対抗手段が確立されないとダメですね。もしくは数で押してみるとか?」


「それ、失敗した時さ……黒ブタマンが強くなるだけだよね? これ以上強くなって手に負えなくなったら世界が滅ぶよ」


 倒したプレイヤーから力を奪い、ボスキャラは強くなる。今日削った魔力も明日になれば元に戻るかもしれないのだ。


「お喋りは終わりですね。出てきますよ」


「一休みもできやしない……」


 カイアスごとボスキャラを巻き込んだ雅。

 シャボン玉の爆発に呑まれ、雅が下じきにしようと倒したビルに潰されたはずだのボスキャラは、倒壊したビルを持ち上げ立ち上がった。


「ビルは持ち上げられないと思うのは普通だよね?」


「ワタクシにも不可能ですよ。あれはもう怪力というレベルではない!」


「同じ風の魔法を使ってるはずなんだけどなーー」


 力も速さも桁違い。

 持ち上げられたビルの半分が投げられる。


「──避けらんない! から、穴開けてやるから前に行け!」


 横向きに竜巻が生まれビルを貫通する。

 竜巻の中はレールのようになっていて、雅の靴があれば移動が可能になる。


「……この竜巻に喰われろと?」


「──早く行けよ!」


 カイアスの背中を風が押す。

 無理矢理。竜巻の中に押し込まれる。


「──これ、前に吹き飛ばされた時より強力ですよね?!」


 カイアスは雅に吹き飛ばされた際に、試さなかったことを実行する。竜巻に剣を突き立てた。


「なんだ。竜巻に喰われて死ねばよかったのに……」


「自分だけ悠々と移動してーー!」


 ギュルギュルと音を出して剣が竜巻内を進む。

 引っ張られるかたちでカイアスは進み、竜巻内の風を捕まえ加速して雅も進む。

 出口は竜巻の先端部のボスキャラ。


「ちょうどいいじゃん。その風を使って黒ブタマンをぶった斬れ! あたしは腹に風穴開けてやるから! ……お前ごとな」


「今、ずごく物騒な発言が聞こえました! お嬢さんがお先にどうぞ!」


「──ちぇ。腹わたぶち撒けろ!」


 雅が先に竜巻から飛び出し、勢いそのままにボスキャラを蹴り抜く。

 片足のヒールの先は槍のように尖り、腹をぶち抜いた。


「今の効いたんじゃないですか? こちらはオマケです!」


 カイアスは竜巻に刺さったままで大剣を振るう。

 竜巻ごと振り下ろされた、何倍もの威力に増幅した一撃はボスキャラを四散させた。


「効いてんのかなんて分かるか! どうせ復活するんだろ?」


 四散した身体は霧のように集まり再び再生する。

 これまでより確実に力を消費しているが、消滅は遠い。


「魔力だけあれば無限に回復するとかゾンビか……。もう、専門家の人にお願いしよう?」


「魔払いの専門は火神(かがみ)の人たちですね。オトモダチにいないんですか?」


「──なんだと。今の発言はなかったということで……」


「えっ、知り合いがいるなら呼んでくださいよ。祓ってもらいましょうよ!」


 カイアスを無視し雅はボスキャラとの距離を取る。

 空へと上昇し、瓦礫を浮き上がらせ弾として発射する。


「さっきからどうしてワタクシを巻き込むんですか?!」


 雅には余裕がない。それにカイアスは強いとも知っている。

 隙と思えば攻撃しないと自分が危ないし、もう少し時間を稼がなくてはならない。

 

「あと少し……」


 それは雲母(きらら)とユウキが脱するまでと、自分の限界と、もう1つ……。


 ♢


「入る時は仕様なのかと思っていたが、この結界は後から施されたものなのか。ここが新宿との境界線。もう大丈夫だな……。自分で歩けるか?」


「……はい。大丈夫です」


 境界線を越え、ボスキャラの行動範囲から逃れた2人。すぐに出口には向かわず新宿側へと向き直る。


「怪獣でも暴れているような有様だな。だが、暴れているということはミヤビちゃんは闘っているということだ。ほれ、並べるの手伝え」


「これが役に立つんでしょうか?」


「さあね。頼まれたからやってやるだけだ。 ……帰ったら掃除しないと駄目だな……」


 雅から頼まれた仕掛けを境界線へと配置する。


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