鬼ごっこ ②
鬼ごっこという遊びは、鬼か決まっているから、逃げる側が鬼が誰なのか分かっているから遊びである。
鬼からは逃げる者が分かっていて、逃げる者からは理由すら分からない。
そんな状態は、遊びと、遊戯というだろうか?
「──なんだ、あいつらは?」
彼女たちは知らないが鬼は複数いる。
「野郎たちがゾロゾロと……。雅さんは大変な状態だというのに」
相手が抵抗できないと知りながら襲いくる。
目的としては非常に下卑たこと。
あるいは単に遊び半分で。
この場所で何をしようと罪になど問われない。
それは鈍らせるのだ。常識すら。
「揺れるー、安全運転はどうした? あんまり揺らされると吐きそう……」
数は20人あまり。全員が魔法持ち。
次に出くわせば、鬼ごっこは終わりになるだろう。
「……あれが魔法」
改めて目にした魔法。
有ると無いとでは遊戯にすらならないのだと、彼女たちは真には理解していない。
「武器を作る者と変化のない者。数も向こうが上ですし、こちらには魔法もない。どうしますか?」
亜李栖は志乃に尋ねはする。けれど、その答えは返事を聞くことなく決まっている。
「それしかないよな。雅……ウチらは魔法ってやつを使う。お前のアレを見た上で言ってる」
苦痛を伴うものである一面を見て、それでもそう口にする。本来なら苦痛はないのだろう。
だが、あんなものを見てるだけなのは、一度きりで十分だから。
「えぇ、次はあのピエロにも容赦しません。雅さんを虐めてくださった分は、万倍億倍にして返してあげますから」
ただ、逃げることは不可能だったのだろう。
だから雅は体を張って立ち向かったのだと、2人の親友は理解している。
無茶をした説教は脱出してからでいい。
そう言われたし、そう思う。
「もう、好きにしなよ。今のあたしには止められない。亜李栖ちゃんの言うところの、あんなことやそんなことをされても、一切抵抗できない無力な雅ちゃんには止められない」
「────えっ……それは思いつきませんでした」
「あれっ? 今の余計な発言だった?」
「余計も余計だ! いらんことを言うな。亜李栖も真面目な顔して止まんな!」
余裕があるように見えるのは3人一緒だから。
怖くても、辛くても、痛くても、1人ではないからだろう。
「──志乃ちゃん! 前から来る、3人」
「雅。お前……」
「大丈夫だよ。無理はしてない。ここは魔力に満ちてるんだ。向こうより簡単に楽に魔法が使える。これは魔法とは……ごほっ……ごほっ……言わないけどね」
守る立場のやつが、守らなくちゃいけないやつに教えられなくちゃ、何もできないなんて……。
その志乃の内面は得る魔法の形を決定する。
「──お前ら邪魔だ!」
それはもう少し先の話。
今の志乃には吠えることしかできない。
今はまだ……。
「見つけた。連絡回せ。遅れたやつは、その分後になるってな」
「魔法も無いって話だし、役得だよなー」
少年が3人現れる。
口ぶりから、さっきのやつらの仲間であることは明白。
2人は手に武器。1人は携帯電話。
残りに連絡を入れている。
「──狙うなら後ろのやつ!」
判断に間違いはないし、その迫力には鬼気迫るものがある。
「……何か亜李栖ちゃん。怖くない?」
乙女の嗜みである防犯スプレーを死角に構え、電話をかける少年に、スプレーを噴射する。
反応を待つことなく男の急所に一撃。
次いで防犯スプレーを囮に、本命を用意し残る2人へ突撃する。
「雅、喧嘩っていうのは場数らしい。よりこなしてるヤツの方が強い。亜李栖はなんだ……お家の事情で慣れてる。こういうことに」
──バチッ バチッ
そんな音がして少年2人も倒れる。
志乃はおぶっている雅からは見えないように、亜李栖とは違う方向を向く。
「他愛ない。ちょっとお話を聞いてきますから、周囲の警戒をよろしくお願いしますね?」
「志乃ちゃん。どこいくの? 亜李栖ちゃんも、その倒れてる人をどうするの?」
「……気にするな」
少し距離を置いたが、どうしても背中のやつは様子が気になるようで動く。
仕方ないので建物の陰に入り、お話が終わるのを待つ。
「──これで頭カチ割れたくなかったら、聞かれたことに大人しく答えろ!」
……うわぁ。
内心そう思いながらも志乃は何も言わなかった。
何も知らない雅は、ただ不思議そうだった。
♢
「亜李栖。さっきからさカラカラうるさいんだけど。 ……それ、やめないか? 位置とかバレるし……」
「そうですか? ……つい擦ってしまうんですよねー」
お話して帰ってきた亜李栖は、手に金属バットを持って帰ってきた。
少年の1人が持っていた金属バット。
もちろん普通の物ではない。
少年から生じた魔法。スペルによるものである。
手に入った情報は多くはない。
亜李栖に倒された少年たちも、ただ呼ばれただけ。
フィールド内にいる雅たちを見つけて、連絡を入れろ。その後は好きにしていい。
そんな連絡が来ただけ。誰が、どうして指示を出したのかまでは分からなかった。
「それ魔法だよね? 重さとかどうなの?」
「特に変わったところもなく、普通の金属バットだと思いますわ。丈夫ですし、殴っても血が出ないというところはありますが」
「「──えっ」」
(殴っても? 今、そう言ったよね?!)
雅はポンポンと志乃の肩を叩くが、首を横に振られた。
(何も言うな……)
志乃は小声でそう言うことしかできなかった。
♢
ここまで出くわしたのは3人だけ。
最初に出くわした少年たちはどうしたのか?
もう追ってはこないのか? 諦めたのか?
誰も口には出さないが、道行きも残りわずか。
ここまで来ているということは、連中は近い方の出口へと向かった。
そう結論づけてもいいはずだった。
「この建物の陰に出口があるようですわ」
亜李栖の言う建物は路地に入っていくようで、裏側は見えない。
「人の気配も呼吸も感じないし、誰もいないみたいだね」
「雅! お前はまた……」
雅は、大人しくおぶさっているのかと思えば、魔法とやらを使っている。
志乃は文句の1つも言おうとしてやめた。
自分たちが出来ないことをこいつはやっている。
ここまでの道だって、雅が安全な道を選んだから無事に着いた。
無理をするのは自分たちが何の力もないからだ。
「志乃ちゃん、もうおろして。ここまで大儀であった。褒めてつかわす!」
「ほら、いい加減重くなってきてたところだ」
その言葉の半分は本当。
もう半分は、情けないと感じてるのを気づかれたくなかった。
「なんだとー、重いだと?」
「はいはい。戻ってから続きは聞くから……その前にお説教だけどな」
「あらあら。しかし、お説教は免れませんからね?」
裂け目があった。
その場所だけ暗闇が広がっていて、渦を巻いている。
位置も間違いはないし、事前に確認しておいた。
あとは、この裂け目を潜るだけ。
鬼が現れることなくゲームは終了?
まさか。そんな簡単には終わらない。
♢
出口である裂け目。
そこは狙いのつけやすい場所だった。
公園から、出口として使うであろう場所は三ヶ所。
近い、真ん中、遠い。それぞれの場所。
頭の悪いやつ。考えの浅いやつ。言われるままに行動するやつ。
1人として、ここだとは思わなかった。
だから自分しかいない。
……あとは引くだけだ。
「いちお連絡したよ。見つけた。撃ち殺していいんだろ?」
フィールド内は魔法があれば死なない。
怪我もない。痛みがあるだけ……。
けど、なかったら死ぬだろう。
銃弾が当たるんだから、当たり前だろう。
「……真ん中のやつはダメ? いや、全員やるよ。本当に死ぬのか試してみたかったんだ」
「ダメだと言ってるじゃあないですか。ワタクシの獲物です!」
電話の向こうにいたはずの相手がいきなり現れる。
何処にいたのかは知らないが、ピエロ男は間違いなく近くにはいなかった。
「ビックリしました? もっとビックリしますよー」
意味がわからずにいると、裂け目の前。
3人の少女の前に10人。後ろ側にも10人現れる。
「ワタクシたちも行きましょう! 鬼ごっこは終わりになるでしょうからね」
足元が光ったと思ったら景色が変わる。
「お嬢さん方、さっきぶり。オトモダチの皆さんはご苦労様でした。風神のお嬢さん以外には興味ないのでお好きにどうぞ」
ピエロ男の言うオトモダチこと、ゲーム開始以来オトモダチとして行動している奴ら。
数が多ければ有利なのはすぐに分かった。
銃を持ってる自分が有利なのもだ。
それなりに折り合いをつけて5日間やってきた。
仲間だとも、友達だとも、互いに思っていないだろう。
効率よくゲームを進めるために協力しているに過ぎない。経験値を稼ぎ、レベルを上げる。
この場にいる半分は1レベルを上げているし、自分はその先にいっている。
「勝手に初めてあれですが……鬼ごっこは終わりですか? 風神のお嬢さん」




