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 ささやかなパーティ ④

 それはお世辞にも上手とは言えない出来だった。

 あたしが同様にやったやつが隣にあるが、それと比べたら、100パーセントの確率でミヤビちゃんの優勝になってしまう。


 こんなの所詮はスポンジに生クリーム塗るだけなんだから、もっと上手くやれると思う。聞いてくれれば、いくらでも教えてあげたのに。そうしたら、もっと売ってるやつ感が出たのに……。


(みやび)、これを。見よう見真似で作ったので上手ではないですが、私から貴女へです』


 しかし、そんなことはどーーでもいい。

 重要なのはユッキーが作ってくれたということだ。

 これによりミヤビちゃん作のやつは敗退。もう、ゴミになってしまう。


『…………』


 この時、すぐには何も言えなかった。

 なんか知らないが涙が出そうだったし。


『雅? 雅が微動だにしないのですが……。自分が作ったものと比べて、あまりに下手だからでしょうか』


『──違う。ユウキ、気を付けろ! 来るぞ!』


 自分のために。本当は、それが何より嬉しかった。

 自分にそんなことをしてもらえるだけの価値があるんだと、そう思えたからだ。


『ユッギーーッ、みずくさいよーー。言ってくれだら手伝ってあげたのにーー』


 でも、すぐに誤魔化してしまう。

 いつもと同じように。

 何も嘘じゃないけど、何も本当でもない。


『ミヤビちゃんのと比べると下手だな。見よう見真似ではこんなとこだろうが』


『また、抱きつく。本能のままに行動するなと言ったばかりなのに。まぁ、喜んでるしいいか……』


『撮れ高もバッチリです。今日はいい日ですわ』


 雲母(きらら)さんも、志乃(しの)ちゃんも、亜李栖(ありす)ちゃんも知っていた。ユッキーが1人でケーキ作りにチャレンジしていることに。


 ユッキーが帰りのスーパーで言いだしたらしい。それを、みんながサプライズにした方がいいと入れ知恵し、あたしにナイショでスマホでコソコソ連絡していたらしい。


『手伝ってもらっては意味がないじゃないですか。私が1人でやったから意味があるんです』


 それで、あたしがユッキーのためにケーキを作っているのを後ろで見て、しっかり覚えてすぐさま実践したようだ。だから、パーティが始まってから台所に立っていたんだ。


 なんて甲斐甲斐しいユッキー。なんて可愛いんでしょう。これは本当に、本当に思っている! 偽りのない気持ちだ!


『ところでこれ……何のケーキ? あたし、ユッキーにケーキ作ったよ?』


『貴女。今日、誕生日ですよ?』


『えっ──』


『やっぱり。気づいてすらいなかったんですね。どれだけ自分に興味ないんですか。どれだけ自分が嫌いなんですか。まったく……』


 自分の誕生日だと誰かに言われて思い出す。

 あたしはこれを、毎年毎年やっている。

 誕生日が特別な日だとは思わないし、祝ってほしいとも思わないからだろう。


 誕生日も、クリスマスも、お正月も。個人的には何とも思わない。昔は祝われていた気がしなくもないけど、それはずっと昔のことであって、あたしが生きてきた年数の半分以上は、ずっと何もない日だ。自分の中でそれらの日は普通の日と大差ない。


 要らない子を祝う殊勝な人はおらず、要らない子にプレゼントをくれるサンタクロースも来ず、要らない子にお年玉をくれる人間などいるわけがないからだ。


『これは誕生日ケーキです。急だったのでプレゼントは用意できなくて。私からはこれだけです。ごめんなさい』


 そんなあたしに誕生日ケーキがこうしてある。

 10年は遡らないと記憶にはない。

 いつ以来かの誕生日ケーキが目の前にあった。


『雅の誕生日は夏休み真っ只中だからな。誕生日と言っても無反応だし……クリスマスもか。だから、そういうのはずっとやってこなかったけど。ほら──』


『これは私からですわ。是非とも使ってくださいね!』


 志乃ちゃんと亜李栖ちゃんからは、何やら袋が渡された。いわゆるプレゼントが入っているような袋がだ。


『……これは何?』


 プレゼントなんて貰えるとも、欲しいとも思わないから素で返事してしまう。


『誕生日プレゼントだよ。今年は一緒なの分かってたからな。亜李栖と2人で渡そうと決めて買ってきた』


『私たちがいなかった日があったでしょう? あの日、実はプレゼントを買ってから解散したのです!』


 つまり、一昨日から用意されていたプレゼント。

 強化合宿自体が急遽決定したことだったし、あたしに気付かれずに買うタイミングがあったとしたら、そこしかなかったんだろう。


『私たちからは何もないぞ。誕生日だなんて知らなかったからな』


『ないぞ。しらなかったからな』


 そう、知らなかったはずだ。

 あたしは、タワーマンションで誕生日の話などした覚えがない。志乃ちゃんと亜李栖ちゃん以外は、知らないのが普通だ。


『しかし、他はプレゼントありとなると、大人の面子があるな……。現金でいいか?』


『──ず、ズルいぞ、きらら。自分だけ! フウも明日まで待ってくれれば現金を……』


『いや、チビ助が何を言ってんだ。だが、現金というのもあれか。そうだな……明日は寿司でも食いに行くか! 回らない寿司に連れて行ってやろう』


『えっ、フウも食べたい』


『一緒に来るなら食べられるぞ? ネットでポチポチでは回らない店の寿司は食えないからな。一緒に出掛けるならチビ助にもご馳走してやろう』


『……それは……うぬぬっ……考え中』


 知らなかったなら、それで終わりでいいんじゃないんだろうか? 今知って誕生日のお祝いをするとか意味が分からない。


 知っていたとしても、おめでとうでいいんじゃないんだろうか? プレゼントなんて、わざわざ用意する必要があるのかな?


 そう思っていた……ずっと……。


『雅。知ってるか? 1回プレゼントを貰ったからには返さなくちゃいけない。貰ったものをじゃないぞ? 同じように誕生日プレゼントをあげなくちゃいけないってことだ。そして、返したらまた次の年にプレゼントをとなり、これがずっと続くからな。あと、クリスマスの場合も同じだからな? 今から言っておくが、今年はクリスマスもやるからな』


『その時は、全員でサンタコスですね。そうか。そういうのもありか……それなら合法的にいろいろ着せられる……』


『……亜李栖は置いといて。なんか言ったらどうだ? 誕生日の人』


 嬉しくないわけじゃないけど。

 嬉しいわけでもない。


 ──分からない。


 何て言えばいいのか。

 何て言うのが正しいのか。


『……何で? 何でこんなことをするの?』


 だから、口から出たのはそんな言葉だった。

 嘘ついて、みんなありがとう! とは言えなかったから。嘘を口にしてはいけないと思ったから。


『誕生日は祝う日だし、誕生日のヤツを祝いたいからだ。雅、ここはお前の1人きりのアパートじゃない』


 夏休みは学校の日以外は家にいる。1人の家に。

 好きなテレビをずっと観ていられる。1人で。

 たまに遊びに行く。そして1人の家に帰る。

 遊びに来ることもある。でも、すぐにまた1人になる。


『思えば……お前は魔法も同じだよな。ずっと、見えない箱に閉じこもっていた。あの魔法はお前そのものだ。見えず、捉えられず、でも存在している箱。雅、箱の中が全てじゃないんだ。箱の外が世界だ。分かるよな。もう違うよな? その箱は、1人きりの箱はもう必要ないはずだと』


 あのアパートがあたしの唯一の場所であり、その場所に1人でいるのが普通だった。暑くても、寒くても、辛くても、苦しくてもだ。 ……悲しくても、孤独でもだ。


 頼るということは弱いということだ。

 弱さとは他人に見せないもの。見せてはいけないもの。だったはずなのに……。


『あたしに、こんなことをするだけの価値があるの?』


 悲しくなどなかったはずなのに。

 涙など流れなかったはずなのに。

 こんなに弱くないはずなのに。

 1人でよかったはずなのに……。


『──ありますよ。もちろんです。生まれてきてくれてありがとうと思っています。本当に。もう本当にです!』


 その言葉に嘘はないと分かる。でも、それだけだ。

 嘘じゃなければ本当。なんてのは、いいふうに考え過ぎだ。


『貴女が無いと思っていては価値はありません。いくら周りが祝っても、当人がそれでは意味がない。ですが、その涙は本物です。貴女は今、悲しくて泣いているんですか?』


『──違うよ。悲しくなんてない。悲しいわけないじゃん!』


『なら、その涙は嬉しいから流れているんです。それだけで十分に価値はあります。ここからは誕生日パーティーにしましょう』


 価値は自分だけでは決まらない。

 他人から与えられたものだけでも決まらない。


 要らないという人が沢山いても、必要だと言ってくれる人が少しいればいいんだ。

 あたしは、自分を、少しだけ好きになれそうです。


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