ささやかなパーティ ③
ひどい目にあった。お酒というやつはこわい。
飲めるようになっても飲まないようにしよう。
本当にひどい目にあった……。
それもこれも、今この瞬間も食べたかったお肉をパクパクと食べ続けている雲母さんのせいだ。
そんな雲母さんに騙され、酔い潰れてしまった志乃ちゃん。その仇だ。ぶっころしてやる。
「おい、ダメ姉! 貴様は未成年に酒を飲ませた。よって死刑だ!」
「何を騒いでいるのかと思ったら、それが原因か」
「助けにもこずに、お肉ばかりパクパクとー」
「微笑ましく見守っていたんだ。あまり関わりたくもなかったしな」
「──それが本音じゃないか!」
ふざけやがって! ……とは言え、正面からではダメだ。ぶっころすにしても策がいる。
いっそテーブルをまるごとひっくり返してやろうかなぁ。それなら流石の姉も隙を見せるだろう。
「しかし、私じゃないぞ。私は自分の酒を分け与えたりはしない。そもそも、あんなジュースみたいなのは買わん」
確かに。姉はビールしか飲んでいるのを見たことがない。だが、それだけでは何の証拠にもならない!
「……物はあったし、被害者が出ているけど?」
これが全て。起きたことが全てだ!
実際お酒はあり、それを飲んだ志乃ちゃんが暴走したんだから。
「帰りに寄ったスーパーで、飲み物担当は誰だった?」
あたしが肉と野菜。亜李栖ちゃんがお菓子。姉は自分の酒。志乃ちゃんとユッキーが、飲み物とケーキの材料だった。
「志乃ちゃんとユッキー」
「なら、あの2人が間違えて大量にカゴに入れたんだ。払いは私だから、普通にレジも通る」
「そんなバカな……」
しかし、理屈は通る。
志乃ちゃんはジュースだと思っていた。
ユッキーはあまり関心がなさそうだし。
「気づかなかった私も悪いが、シノのアレは自滅だ。そして、シノが飲んでいるということはだ……。ミヤビちゃんも飲んでると思うぞ?」
「いや、ミヤビちゃんはコーラしか飲んでいない」
酔ってないし。
お酒を飲むなんて悪いことしないし。
「どこにもふうが空いたコーラなんてないぞ? そっちにあるのも全部、空いてないぞ」
「──本当だ」
だけど、飲んでいたのは間違いなくコーラだった。
飲み物は確かユッキーがみんなのをコップに注いでいた。その最初にみんなに注いだやつの空は……これだ!
「缶チューハイというやつだな。コーラ味もあったんじゃないか?」
ほ、本当だ……。表面にアルコールの表記がある。
飲んだことないやつだなー、くらいにしか思ってなかった。新発売なやつなのかと思っていた。
「全員が飲んだが、シノだけが酒に弱かった。そんなところだろう。その後も気を良くして飲みすぎたのもあるだろうがね」
姉は推理力も半端ないな。そして今思うと、亜李栖ちゃんも少し酔っていたんじゃないか? 辛味の迷宮にはまっていた辺りから。その後は、いつも通りだったけど。
「あたしの勘違いだったようです。ごめんなさい」
「勘違いは誰にでもある。気にするな。酔いもなんとかしてやる。そして、パーティは仕切り直そう。全員で乾杯からやり直そう」
実は姉はいい人。こんないい人を疑ってしまった。
これは反省しないといけない。反省反省。
「シノを起こすからコップに水を持ってこい」
「わかった。ずくに持ってくる」
姉のことだ、酔っぱらいにも対処法があるに違いない。期待して水を持ってこよう。
「ユウキも時間が掛かったが終わったようだし、もうキッチンに入ってもいいだろう」
……そういえば、ユッキーはパーティに参加せずに何をしていたんだろう? ユッキーのためのパーティなのにだ。最初はいたけど、すぐに姿が見えなくなっていたな。
「早くしろー」
「──はい、ただいま!」
そうだった。今、優先するのは水だ。
早く水を持っていって、志乃ちゃんを復活させてもらわないと。
♢
「みやびは忙しい。あれで歳上なんだよね?」
「大人しいよりはいいだろう。自堕落でもないし、料理も上手い。ああいう子供になってほしいなぁ。1日中部屋にこもってゲームをやっていたり、人見知りでコソコソ隠れたりもしない子供になぁ」
「そ、それは誰のことを言ってるのか、まったくわからないなー」
「ずいぶんと都合のいい耳だな。風香ちゃんの耳は」
「うっ……。きららー、これもお酒?」
「ふん、逃げたか……。それは間違いなくジュースだ。私が冷蔵庫から出したやつだからな」
「フウもお酒を飲みたかった。しのは楽しそうだったからな」
「飲みたいなら飲んでも構わんが、飲んだら口に手を入れて全部吐き出させるぞ。それでいいなら、そっちのテーブルにいっぱいあるぞ? 行って飲んでこい」
「や、やめておくよ。ジュースでいいよ」
「そうか。それは余計な手間がかからなくて良かった」
♢
姉は水をどうするのかと思ったら、普通に志乃ちゃんに飲ませた。拍子抜けというか、普通。
これだけならテレビで見たことあるよ。酔っぱらっている人に水を飲ませるシーン。しかし、こんなんじゃ、すぐには復活しないじゃん。
「そんな普通のやり方では、志乃ちゃんが復活しないじゃん。パーティを仕切り直せないじゃん!」
「ただの水だが、酒もアルコールがなければただの水だ。さらに、飲ませたのも普通の水だが、飲ませたのは魔法使いさんだ。さて、普通のやり方だったでしょうか?」
姉は水の魔法使い。
今の水に仕掛けがあってもおかしくない。
例えば酔いを治す魔法とかがあってもおかしくない。
「酔いを治す魔法ってこと?」
「そうだ。効果は酔いの度合いによるが、缶チューハイくらいならすぐに良くなる」
台詞の直後、志乃ちゃんが目を開けむくりと起き上がる。酔いを治す魔法は存在するようだ。いまいち使い勝手が分からないけどね。
「志乃ちゃん。おはよう。お気分はどうですか?」
一応、距離を置いて様子を見よう。
起きはしたが効果のほどが不明だから。
また、抱きつかれてはたまらないから。
「雅。なんか変な感じだった気がする。妙な感覚だったような……」
「酒を飲んで酔っぱっていたんだ。間違えて買ってきたな?」
「──えっ、本当に? これ、酒なのか?」
これはいつもの志乃ちゃんだ。よかった。
状態異常の酔っぱらいから復活した!
「私も一緒にいながら気づかなかった。自分で買ったものしか見てなかったんだ。すまなかったな」
「それはなんて言っていいか。ユウキが……──あっ、何でもない!」
あたしの方を見て急に、「何でもない!」って言われても。絶対になんかあるじゃん。
志乃ちゃんは、ユッキーがキッチンで何をしていたのかを知っているようだ。ということは姉も亜李栖ちゃんもかな?
また、みんなして隠し事か。またか。
また、あたしだけ知らないやつか。
「じーーーーっ」
「な、何だよ」
「いや、なんでもないよ。じーーーーっ」
じーーっと見つめるプレッシャーで喋らせよう。
怒られる案件もないし、志乃ちゃんはこういうのに弱い。続ければ間違いなくボロが出るはずだ。
「──そうだ! これ、美味かったぞ。唐揚げ食べたいとは言ったけど、こんなに美味いとは思わなかった。どうやったらこんなにジューシーに揚がるんだ?」
そんなもんで誤魔化せると思っているのか。
唐揚げよりユッキーの事の方が大事。あたしは誤魔化されない。
「今度作りたいから作り方を教えてくれ。あっ、メモ取るからちょっと待ってくれよ」
「……本気かい?」
「あぁ、普段揚げ物なんてやらないけど、こんなに自分でも美味く作れるならな。教えてくれよ」
本気のようだ。これは教えてあげないとダメだな。
美味しいものを作りたいと思うのは当たり前だ。
そして、知りたい人がいて教えてあげられるなら、教えなくてはいけないと思う。
これで誤魔化されたりはしないが、それとこれは別だ。美味しいと褒められたからではないからね。
「──よし! ならば、ミヤビちゃん流の唐揚げを教えてしんぜよう! まず、下味が重要なんだ。いっぺんに調味料を入れて揉み込むと思っている人がいるけど、あれが間違い。あれでは化粧水と乳液とクリームをいっぺんに顔に塗っているのと同じなんだよ。そんなことしたら効果ないよね。ヤバイやつだよね。順番に使うよね。という話から下味に戻るけど、まずは塩コショウを揉み込む。次に、にんにくとかしょうが。最後に酒としょうゆ。あと、ごま油も忘れずに。ごま油により、揉み込んだやつがお肉から離れなくなる。ぎゅーっとなるんだよ。ここまではいい?」
「そんなに一気にメモ取れるか! 少しゆっくり教えてくれよ!」
この程度で根を上げるとは、情けない。まだ半分も話していないというのに。
漬ける時間とか、油の温度とか、二度揚げとか。教えることは山のようにあるというのに。
「少しいいですか? 雅に見てほしいものがあります」
「ユッキー?」
「おっ、唐揚げは後でだな。ユウキの方が重要だからな」
唐揚げより重要なこと。
……ユッキーが持ってきたこれが?




