ささやかなパーティ ②
褒めてもらおうと思って声を掛けたら、すでに様子がおかしかった。症状としては、ろれつが回らず、話を聞いているのかも分からない。これは話に聞くアレだと思う。
「雅……お前は……いつもいつも……心配ばっかりかけやがって……ヒック……人の気も知らないで、ヒック──」
誰だ。飲み物の中に酒を混ぜたのはーーっ。
いや、決まってる。何故なら酒を飲めるのは1人しかいないからだ。あのダメ姉めーー!
「志乃ちゃん、それはお酒。あたしたちが飲んではいけないやつだよ。こっちにしなよ」
頭から否定してはいけない。無理矢理に取り上げたりはせず、いつもの志乃ちゃんの感じに寄せて説得しよう。
真面目な志乃ちゃんは、いつも真面目なことを言うからね。これなら。
「──うるせぇ、これはジュースだ! 見たことあるだろ!」
ダメだ──。全然、いつもの志乃ちゃんじゃない!
ううん、まだ諦めたりはしない。説明すれば分かってくれるだろう。
「うん。見たことあるけど、これはお酒だよ。ジュースの中にお酒が入っているんだよ。だから、こっちのコーラさんにしなさい」
ラベルまで一緒だから、お酒の見た目はジュースに見える。これは姉も悪いが、売り方も悪い。
もっと、お酒ですとデカデカと書かないと、誤飲されてしまうよ。こんなふうにさ。
「あたしを信用できないと言うなら、──雅、お前も飲め! 飲んでみろ、ヒック──」
あろうことか志乃ちゃんは、すでに空になったお酒のカンを投げ捨てて、新しやつを手に持ち封を開け、それをこっちに向ける。
「──ええっ?! これは予想外の展開。このパターンは予測できなかった。やめて、お酒臭いから近寄らないで!」
そして、あたしは飲まないと思ったらしく、立ち上がり近寄ってくる。お酒を飲めと手渡すとかではなく、あたしの口に直接、お酒を流しこむつもりのようです。
「酒じゃないと言ってんだろ、ヒック──」
「そんなわかりやすい酔い方してるのに? それはお酒だよ!」
乾杯から飲んでいたんだとしても、弱すぎない? お酒ってすぐにこんなんなるの?
志乃ちゃんがすごく弱かったってこと……──そんな場合ではない! このままでは、あたしもお酒を飲まされてしまう!
「ちょ──、のしかかってきたら重いし、動けないよーー。助けて、誰か助けて!」
後ずさったら背後のソファに追いつめられ、押し倒されてしまった。これでは逃げられない。のしかかられたら尚更だ。
「何で……、『志乃ちゃん、助けて』と言わないんだよ! 目の前にいんのに!」
「その志乃ちゃんがヤバいから、他に助けを求めているんだよ。誰か、早く助けてーー」
ダメだ。酔っぱらいには理屈は通じない!
言葉ではダメだ。かといって物理では敵わないし。
現に力一杯押してもビクともしないし。
「いつも、いつも……」
今度はメソメソし始めた。
お酒とは情緒不安定になるものなのか。
「ごめんなさい。いつも謝っているけど、ごめんなさい」
だが泣いているとあっては、強くも言えないしできない。なんか可哀想になってしまった。
「──ごめんなさいが軽いんだよ! いつも同じごめんなさいばっかりだしな。ヒック──」
次は理不尽なこと言い始まった。
もう、どうしたらいいのさ……。
「ええっ、ごめんなさいに軽いとか重いとかあるの? ……じゃあ、ありがとう? いつもありがとう」
と、止まった。
なんか知らないけど志乃ちゃんの動きが止まった。
「雅────っ!」
「今度は抱きついてきた?! なんなんだもう。あー、あー、お酒こぼれてるし……。というか誰か助けてよ!」
こぼれてお酒の脅威もなくなったし、いい子いい子しつつ助けを呼ぼう。そのまま大人しくしていてくれよー。
「──雅さん!」
おぉ、早速助けが来た。
辛味の迷宮に迷い込んでいたが、我に返ったらしい亜李栖ちゃんがやって来てくれた。
「亜李栖ちゃん、助けて! この酔っぱらいをどけて!」
「……」
おや、何故にスマホを取り出すの?
どうして動画の撮影を始めるの?
助けてくれないの?
「私にお構いなく。さあ、続けてください」
「いやさ……助けてよ?」
「もったいないから嫌です。さあ、続けてください」
もったいないって何?!
あたしは本当に、本気で助けてほしいのに。
「酔った勢いでこんな展開になるとは……ごくり……」
こうなってしまうとこの子はダメだ。役に立たない。
あの、一切こっちを見ていない。ひたすらムシャムシャしているやつらもダメ。こうなったら──。
「ユッキー! ユッキー、助けて!」
乾杯以降ずっと台所で、何やら作業をしているユッキーに助けを求めるしかない。ユッキーなら助けてくれるはず。
「どうかしましたか?」
流石はユッキー。すぐ来てくれる。
役立たずたちとは違い、あたしを助けてくれるでしょう。
「ユッキー、あのね──」
「──なんでもないです。雅さんがふざけて呼んだだけですわ」
──な、なにぃ?!
この子は、そこまでして動画撮影したいというのか。
「?」
行かないで! 戻って行かないで!
ユッキー、ちょっと素直すぎるよ。
見たらわかるよね。普通じゃない状況なんだよー。
「いや、待ってユッキー。違──」
「雅────っ!」
「なんなんだーー!」
この後、役立たずたちに助けを求めることを諦め、呼んでも帰されるユッキーに助けを求めることを諦め、ブレずに動画を撮影し続ける子に助けを求めることを諦め、何とかどうにかこうにかして、酔っぱらいと化した志乃ちゃんから逃れた。
はぁ、はぁ……ぐだぐだのパーティは続く。




