ささやかなパーティ
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聖剣の恐怖から逃れ、遅いお昼ごはんである、そうめんを食べさせたのはかなり前のことだ。あれも今はいい思い出……ではないな。
亜李栖ちゃんの、あの聖剣の鞘はヤバい……。
あの鞘は水圧で剣を発射するという意味不明な物だった。水で斬れ味は増し、抜刀の一撃は遠くのものをも斬り捨てる。あたしは髪の毛を斬られた。
それだけでも意味不明なのに、剣を発射した後も撃てるんだ。つまり銃的にも使える。自分の魔力を対価にバンバン撃てる。ビームみたいに水が出る。
水鉄砲といってもいい気もするけど、水鉄砲は突き刺さらないから水鉄砲ではない。とても危ない代物だった。
『ごめんなさい。まだ、いまいち感覚が掴めなくて』
『あたしに刺さるところだったからね。練習する時は周りに気をつけようね。あと、そうめんできてるから食べよう。お腹空いたよね?』
『そうですね。今日は終わりにします』
そのあと遅いお昼をみんなで食べて、すぐに取り掛かった。下ごしらえして、ちょっと休憩して、時間のかかる料理から作ってした。何の料理かというと──。
♢
「それではこれより、ユッキーがボスキャラに勝った記念のパーティを、ささやかながらとり行います! コップもった? みんないるね。では、乾杯!」
──そう、パーティ料理だ!
「「──乾杯!」」
作りに作った料理の数々。全員の食べたいものを聞いて、全員の食べたいものを作った。疲れているけど作った! ユッキーのためだから!
そしてお祝いといえばケーキ。だが、時間の都合上できてるスポンジに、生クリームとイチゴのせただけになってしまった。申し訳ないので今度は、時間がある時に1から作ります。
「流石はミヤビちゃん。よくもまあ短時間でこれだけ作ったな。見事見事。美味しいぞ」
リクエストが一品ずつ。あとは足りないところは、ミヤビちゃんのレパートリーから作った。
10品以上は作った。どれもこの上ない出来である。
そんなあたしを姉は褒める。照れる……。
料理を頑張ったかいがあったというものだ。
「褒めるな、褒めるな」
しかし、謙遜するのが美徳。日本人だから。
本当はもっと褒めてくれていいけどね。
最強特権はいかせなかったが、褒められたから良しとしよう。もっとだ。もっと褒め称えて!
「じゃあやめよう」
「──やめないで! もっと褒めて!」
「他に構ってもらえ。私は忙しい。ユウキ、そっちの皿のとって」
謙遜しただけじゃん、本当は違うんだよ!
本当は褒めちぎってほしいんだよーー。
あー、姉は料理に夢中になってしまった……。
「うま、うま、うま──」
こうなったら近くの人に褒めてもらおう。
「フウちゃん。あたしを褒めてー」
朝から見送りにも来ずに、ずっと寝ていたらしいフウちゃん。自堕落が極まっているこの子だが、お腹が空いたし、パーティな雰囲気だから部屋から出てきたようだ。
フォーク片手に、あっちの皿、こっちの皿とパクついている。行儀悪いから叱りたいけど、今はいい。
「みやびは料理上手。一家に一台欲しい。これでおしとやかなら、嫁に出しても恥ずかしくない。意外といいやつ」
「うんうん、それで?」
「うま、うま……美味しいよ?」
「うん。わかってる。それで?」
──フウちゃん、もっとあるでしょ。
いや、言葉のチョイスではなく、スゴい、カッコいい、できる女、可愛い、とかでいいんだよ。
質より量だよ! あたしはそれを求めているんだよ!
「フウは玉子焼きで忙しいから、他に遊んでもらって」
「そんなこと言わないでーー」
玉子焼きが美味しいのは知ってるから。
それ作ったのあたしだから!
あー、フウちゃんも料理に夢中になってしまった。
ミヤビちゃんの料理が美味しすぎたのか……。
「気を取り直して他の人に……亜李栖ちゃん!」
自分のリクエストした中華料理を食べている、亜李栖ちゃん。三品は中華にしたからね。中華は作るの全体的に楽なんだ。
「雅さん、どうされました?」
「その、料理はどうかなーと思ってね」
学んだ。直接褒めろと言ってはいけないんだ。
謙遜。美徳。おしとやか。が大事。
「ええっ、とっても美味しいですわ。全員のリクエストも聞いてくれてありがとうございます」
美味しいと言ってもらって、こちらこそありがとうございます。いいぞ、この調子だ。
「中でもエビチリが美味しいですわ」
「それなら良かったです。亜李栖ちゃんは意外と辛いの好きだよね」
「……自覚はないですが、そうなんでしょうか?」
「うん。これまでも結構辛いの食べてるの見てるよ? 今日は無いけど麻婆豆腐食べてた時、激辛だったよ?」
他にも多数の辛いの食べてる。
そうめんも今日は辛いやつだったし。
「そう言われるとそんな感じがします。私は辛いのが好き……」
「うん? ずっと、そんな感じでしたよ?」
「刺激がいいのか。カッとくる熱さがいいのか。むむむっ……」
あれーっ? なんか自分の世界に入ってしまったよ。この子は、そういうところはあるけど、何も今じゃなくてもいいんじゃない。
「亜李栖ちゃん?」
「すいません。ちょっと」
これは話しかけるなということだね。
自分の中で辛いのが好きというのが、はまっていないようだ。ここでしつこくして、聖剣で真っ二つにされてはかなわないので撤退しよう。
褒めてくれるか望み薄だけど、志乃ちゃんのところに行こう。美味しいくらいは言ってくれると思う。
えーと、志乃ちゃんは、何か飲み物を飲んでいるな。しかし……買ってきたやつに、あんなのあったかな?




