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 悪足掻き

♢57♢


 ユッキーが勝った! 疑ったわけではないけど、黒ブタマンにユッキーが勝ったーーーーっ!

 バッチリ動画も撮ったし、帰ったら雲母(きらら)さんにも見せよう。そして拡散しよう。


 ……いや、冷静になって考えろ。そんなことしてユッキーのファンが現れては困るからやめよう。

 もしそんなヤツが現れたら、あたしも亜李栖(ありす)ちゃんのように、そいつを始末したくなってしまいそうだからね。


「──痛いから、いい加減に離れて!」


 ユッキーの勝利を喜び、抱きついたままだったあたしを、怒ったユッキーが突き飛ばす。


「──あうっ」


 ユッキーが冷たい……。

 喜びを分かち合いたいだけなのに。

 ただ、それだけなのに。


「はいはい、お前はこっちに来てましょうね。お姉ちゃん怪我してるからね。亜李栖。これは見張っておくからユウキを頼む」


「はいはい。お任せを」


 志乃(しの)ちゃんは亜李栖ちゃんにユッキーを任せて、自分はあたしの手を引いてユッキーから遠ざかる。いやいや、ちょっと待て!


「──あたしは子供か!」


「良い子ですから、大人しく待ってましょうね?」


「そしてお母さんか! なんなんだ!」


「怪我してるやつに抱きつくな! やめてくれってユウキが言ってんのに聞きやしない。本能のままに行動しすぎだ! これが子供じゃないならなんだ。言ってみろ!」


 ぐぬぬぬぬ……何も言い返せない……。

 本能のままに行動してしまっていた。

 いつもクールなミヤビちゃんらしくなかった。


「ごめんなさい。特にユッキー。ごめんなさい」


「はい。よくできました」


「お母さんはやめて? 謝ったじゃない。だから、やめて?」


「……」


 あっ、やめないつもりだ。

 子供扱いを続けるつもりなんだ。

 なら仕方ない。話をすり替えよう。


「ところで黒ブタマンが燃え尽きてないわけだけど、これはどうなんの?」


 ユッキーに斬られた黒ブタマンが燃え尽きていない。まだ、斬られてない身体の部分はそのまま残っている。斬られた部分だけは燃えて無いけど(頭と腹と右半分)、残りは未だ宙に留まっている。このまま、じきに消滅するんだろうけど不気味だ。


「動かないんだから死んでる。燃えてんだから消えんじゃないのか?」


 志乃ちゃんも同じ見解か。


「最期は人間みたいだったよね。ユッキーを待ってたし、ずっと卑怯なことはしないやつではあったけどさ」


 こいつが卑怯な真似なんて必要がないくらいに強かったからかもしれない。でも、卑怯なことはしなかった。

 ふわふわにやられたことも怒らず……と言っても、喋んないから本当のとこは分からないけどね。


「お前はボスキャラとして大変強かったです。お疲れ様でした。もう休みなさい」


「迂闊に近づくな。何かあるかもしれない。危ないぞ」


「大丈夫だよ。復活するわけじゃないし……」


 志乃ちゃんは心配性だな。

 黒ブタマンからはもう何も感じない。

 こいつにはもう魔力のカケラもない。


 ふわふわにやられていたとはいえ、再生の限界はまだ先だったはずなのに。ユッキーの斬撃は、それすら斬ってしまったようだ。ふわふわの魔法も斬ったみたいだし。


 魔法自体を斬り捨てる技に、あの朱色の刀。

 炎を生み出し続ける刀。(あかね)ってユッキーは呼んだ。

 あれはスゴい武器だ。使えればだけどさ。


『ヨケイナコトヲ。シテクレタモノダ』


 手が喋った……。

 燃え残りの左半身。その掌に口が出来て、急に喋った。

 機械の合成音みたいな声。性別も不明。しかし、喋った!


「──志乃ちゃん聞いた! 手に口が生えて喋った!」


「今の……(みやび)が言ったんだよな?」


「残念ながらあんな声は出せない。腹話術はできないし、口動いてるよ? ほら、しっかり自分で見て?」


「気持ち悪い! そんなの見たくない!」


「えーーっ、見てよ。志乃ちゃんも一緒に見てよーー」


「嫌だ! お前、1人でやってくれ!」


 怖がりな志乃ちゃんは耳を塞いでしまった。

 仕方ない。動画に残そう。そしてあとで見せよう。

 あっ、そろそろ充電がヤバめ。


『イヤ……アノ……』


「あー、ごめんごめん。続けて続けて。もっと喋ってね……──はいスタート!」


『……ヨケイナコトヲシテクレタモノダ──』


「おい、同じこと言うなよ。腹話術だと思われるだろ。空気読めよ口。もう1回最初からね。はいスタート」


 腹話術疑惑を持たれては、せっかくの珍現象が台無しだ。リテイクしなくては。


『ナンダコイツ。マアイイ……シネ』


「……なに?」


 いま、死ねと言わなかったか? この口。


『ヤクタタズ。オマエモ、スコシハヤクニタテ』


 急速に膨れ上がる黒い力。発生源は石。

 手に現れた口の中から黒い石が、舌に載って出てきた。口はそれを噛み砕こうとする。


 これはマズい……。

 悠長に状況を語っている場合ではない。


「志乃ちゃん、盾! 早く出して!」


「…………」


「──志乃ちゃん!」


 いつまで耳を塞いでんだ! 目もつぶってるし!

 ユッキーたちは気づいてない……──えぇい! 緊急回避!


「うぉ、急に何すんだ!」


 志乃ちゃんごとユッキーたちのとこまで緊急回避。

 あれが砕かれたら爆発する。あの力の膨張では破壊の規模は予測できない。


「志乃ちゃん。盾出して! 口が爆発する!」


 ユッキーが闘ってくれたから、あたしは余力がある。良かった。あたししか、もう魔法は使えそうにないからね。

 それでも確率は高くない気もするけど。あたしがやらなくては!


「……はっ?」


「あの口は爆弾。最後の悪足掻きだ! あたしたちを吹き飛ばすつもりなの! だから、早く盾出して。地面に固定して!」


「あぁ……爆発するって本当か?」


「マジ! 早く盾突き刺して固定! みんなして死ぬよ!」


 志乃ちゃんを中心に風を巻く。

 盾の正面には壁を。これに全力を。

 残りの方向は上手く逸らすしかない。


「雅、どうしたのですか? 何を慌てて……」


「──みんな。死んだらごめんね」


「雅さん?」

 

 あの黒い石が黒ブタマンの核だ。

 あの口がユッキーの斬撃から核を逃がしたな。

 悪足掻きしやがって。黒ブタマンと違って往生際が悪い。


 だが、見せ場が回ってきた。

 ミヤビちゃんだけ空気だったからね。


『──シネ』


 たかが口の分際で、殺せるものなら殺してみろ。

 もう、攻めるだけのあたしではないんだ。みんなを守れるあたしなんだ。




「勝負あったな」


 実に無様な最期であった。

 しかし、見届けた……。

 其方の武は確かに有った。


「……貴様は……」


 ……? これは……。


「なんだ。何が起きている?」


 何処から介入されている。

 出来損ないなれど、その最期を虫螻風情が嘲笑うか……不快。


「──待て! スメラギ!」


 やはり其方は我を知るか。

 次に相見える時は──。


「ちっ──、カイアス!」


「なんでしょう? というか、どこから声が?」


「なんでも構わん。オレはしばらく身体には戻らん。ボスキャラは討たれた。凍結したゲートはそのままに、プレイヤーたちを外へ出せ。貴様1人では荷が重いだろうから、残る2人にも声を掛けろ。分かったな!」


「分かりました。事務的な作業は得意な人に任せ、プレイヤーたちを退出ですね。手筈も任せると。了解しました」


「これでいい。完全にヤツを見失うわけにはいかん。足跡があるなら、捉えておかなくては……」

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