93話 ナナミデータベースを使っての異世界化学実験
俺の所へやってきた、ナナミという女。 自称、自動人形というロボットだという。
それが、本当なのか、それともただの洗脳されたメンヘラなのか、判断がつかなかったのだが、彼女に色々と仕事をさせているうちに、徐々にそれが本当なのでは? と、俺も思い始めた。
まずは、正にコンピュータ並の計算能力。 どんな桁数の計算でも答え一発!
すぐれた記憶力。 チラ見しただけで、なんでも覚えてしまう。
奴隷商で、彼女自身の権利書を一瞥しただけで、OK出したのは、瞬時に問題無しと判断出来たからなのだ。
頭を動かした、距離と角度から、測量も出来ちゃったりするし……。
要は、頭の中にコンピュータがあって、手足は制御プログラムで動いているから、人間には出来ないような複雑な動きも可能。
人間だと、右手で○を描きながら、左手で□を描いたり△を描いたり出来ないが、ナナミは普通にやってのける。
利き腕もないので、リアルに答案2枚返しが出来るのだ。 つまり、両手で違う文章がスラスラと書ける。
まさに、驚異的。
ナナミには悪いが、彼女で見世物やっても、普通に稼げるかもしれない。
それどころか、ナナミの話によると、生体ボディってやつに省かれている機能を追加すれば、妊娠も可能なのだという。
生まれてくる子供は、マジで人間だ。
こんな物を作って、ゼロってやつは、何をするつもりなのであろうか。
彼女の手足がコンピュータ制御だと解って、俺が最初に取り掛かったのは、俺の工房にある工作機械のバージョンアップだ。
彼女の頭の中で設計をして、コンピュータ制御の手を使って、工作機械を動かす。
これはもう、リアル生体CNC工作機械だ。
元世界でも、CNC加工機械を買えば、数千万から数億円はするだろうから、CNCを買ったと思えば、高い買い物でも無かったと思えるようになってきた。
例えば、歯車1つでも、俺は適当に作っていたのだが、インボリュート歯車やら、サイクロイド歯車やら、それ専用の計算式があるらしくて、それもナナミの頭の中で設計図を作って、出力できる。
複雑な形の部品でも、文字通りコンピュータ制御の加工機械のように、1発抜きだ。
それらの部品を使って、俺の工作機械を造り直せば、精度を2桁程上げる事が出来るだろう。
そうすれば、俺の力では難しかった蒸気機関やら、他の内燃機関の製作も可能になるかもしれない。
むう、夢がひろがりんぐ――だが、やる事が山積みだ。 1つ1つクリアしていかないとな。
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色々とやらないと駄目な事が増えたが、とりあえず資金不足だ。
そこで、ファルキシムの商人、ミラルがやって来た時に、新しい商売を売り込んでみる事にした。
「これはこれは、真学師様。 いつもお世話になっております」
ミラルが、俺の工房へ訪ねてきた。 彼は、新進気鋭の若い商人ということで、評判も急上昇中だ。
「忙しいところ、申し訳ないね」
「いえいえ、真学師様が考えた新しい商売となれば、聞き逃す訳にはいきません」
「まあ、とりあえずこのパンを食ってみてくれ」
ミラルに丸いパンを手渡す。 元世界のアンパンぐらいの大きさのパンだ。
「それでは……」
ミラルが一口パンを頬張って、驚き、目を見開いた。
「味はどうかな?」
「いや、美味しいです。 まさか、パンの中に肉が入っているなんて、思いませんでした」
このパンの中には、甘辛く煮たひき肉、玉ねぎモドキとスパイスに小麦粉でトロミを付けた物が入っている。 元世界の肉まんに近いだろう。
「こちらのパンも食ってみてくれ」
今度、手渡した物には、シチューが入っている。
「こ、これも美味しいです」
パンを食べているミラルに、商品の説明をする。 要は、パンの中に何かを入れて食べさせる、元世界の調理パンだ。
「これは売れますよ!」
「ちょっと、その売り方も考えてみたんだ」
少々大きな工房を作って、大量の材料を買い、一箇所で大量生産する。 それを小売りに配り販売をさせ、それから上がりを何割か貰う。
元世界でよくあった、チェーン店方式だ。
「その方式の利点は……どのような点でございましょう?」
「1つは、大量に材料を買って一箇所で作るので、原価が下げられるという事だな」
「なるほど……」
「もう1つは、前もって工房で作るので、売店に厨房などを揃える必要がなく、小さな店や露店などでも販売出来る。 歩き売も出来るしな」
「販売する側に設備が必要なくなるというのも原価を下げられる、要因になりますね」
「そのまま、食堂や商店に卸しても良いし。 例えば、街からちょっと離れた工事現場等じゃ、飯を食うところもないだろ? そういうところへ売りに行っても良いだろう。 大量に作るので、味にバラつきがないのも利点になるな」
通常、工事現場では施工主から飯が出るのだが、不味かったり、量が満足じゃなかったりと評判が悪い事が多い。
「それなら、工事の施工主へ、直接売り込んでも良さそうですね」
「発想次第で、商売の幅も広がると思う」
「これは、大変興味深いお話を聞かせていただきました」
「まあ、このパン2つじゃ、飽きられてしまうだろうから、色々と手を変え品を変え、商品の開発もしないと駄目だろう」
「それはその時、改めて依頼させていだだきますので、よろしくお願い致します」
ミラルが深々とお辞儀をする。
ミラルとの商談は成立した。 このパンのレシピと商売のネタは金貨50枚(1000万円) 也。
もし、ネタだけ聞いて、金も払わずにそのネタで商売してしまったらどうなるのか?
これは、信用の問題になるのだが、そんな仁義に欠ける行動をすれば、いざという時に助けてもらえなくなるだけで――。
真学師に嘘を吐いてもすぐにバレるし、へそ曲がりが揃っている真学師に、何をされるか解らん危険な行為で、まともに打算が出来る人間なら、まずやらない。
ミラルから貰う金貨の報酬の他、株式会社を設立するらしいので、その株券も5株貰える事になった。
株券は売ることも出来るし、この商売が上手くいけば、定期的に配当金が貰える。
自分で経営したほうが儲かるのだろうが、俺は商売には向かない人間だ。
どちらかと言えば職人気質で、金はどんぶり勘定、面白ければ赤字でも良い――こんな人間は商売をやっちゃダメだ。
俺1人なら良いが、商売となると人も雇わないと駄目だし、対外関係もある。 いい加減な事をやってしまっては、沢山の人に迷惑が掛かってしまう。
そこら辺は全部ナナミに任せればクリア出来そうな気もするが、とりあえず面倒くさそうなのは勘弁願いたい。
旋盤で、部品でも削ってた方がマシだ。
とりあえず、当座の金は用意出来た。 金貨50枚もあれば、無駄遣いをしなければ、しばらく持つだろう。
金で思い出したが、ナナミの給金はどうしようかと考えていたのだが――。
「必要ありません」
――と、素っ気無い彼女の返事。
保護してもらい、食事と休める場所を提供してもらっているので、他には何も要らないと言う。
彼女の言うとおり、彼女自身が人形だというのであれば欲もないだろうし、金など必要無いって事か。
仕事に必要な物があれば、すぐに購入するので、言ってくれ――とだけ、ナナミに伝えた。
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ナナミの電脳――多分、電脳なんだろう――で設計し作った部品で、俺の工作機械を全部組み直した。 旋盤もフライス盤も、ガタも無くスルスルと滑らかな動き。
続いて、彼女の目が持つ精度を活かした定規や曲尺を新規に作り、それに伴い、ノギスやマイクロゲージ、ダイヤルゲージ等の測定器も揃えた。
ナナミがゲージ用のギアなどの精密加工をしている横で、俺は、ダイヤルゲージ用のマグネットスタンドを作ってみた。
マグネットは、もちろん白金合金製だ。
これで、鏡を使って軸ブレを確かめたり、ややこしい事をしたりせずに済む。
内燃機関を作るなら、プラ○チゲージやシックネスゲージも必要になるのだが、そういう物はおいおい揃える事にする。
これで、精密加工もこなせるようになった……はず。
工作機械の精度が上がっても、俺の技術が上がるわけじゃないからな。 あとは、精進あるのみだ……。
ナナミがいつまでいるか解らないし、可能な限り彼女の技術や知識を吸収しないと。
せっかく、新しくなった工作機械なので、ナナミに何か作らせてみる事にした。
何が良いか……とりあえず、俺には作れそうになくて、役に立ちそうな仕組み――。
というわけで、差動歯車装置と自在継手の模型を作ってみた。
加工し易いように軟鉄仕様だが、実際は鋼鉄で作らないと、すぐに壊れてしまう。
早速、作ったものを工作師工房へ持ち込む。 ナナミが作った物を俺の物にするのはちょっと気が引けるが、彼女はただの端末だというから名誉欲もないし、金にも興味無いというのだから、問題ないだろう。
ナナミの所有者も俺だしな。 彼女の物は俺の物――という事にしておく。
――と心で解っていても、何か後ろめたい気持ちが……え~い、ままよ。
「これはなんですかな?」
工作師の親方、ラジルさんも見たことがない部品を覗きこんでいる。
「まずは、自在継手です。 こうやって、角度がついている場所にでも動力が伝達できるという代物」
俺は、自在継手を手で持って、クルクルと回してみせる。 元世界では自動車のドライブシャフトに使われている物だ。
他の工作師も、自在継手を持って、クルクルと回して試している。
「次は差動歯車装置です。 馬車の車輪などは、車軸で連結していますが、曲がり角を曲がろうとすると、内側と外側の車輪が移動する距離が違うために、円滑に動きません。 そこに、この部品を使うと、自在に曲がれるようになるという装置です」
俺は、差動歯車装置を搭載された模型の台車に括りつけられた紐を引っ張り、テーブルの上で自在に走らせてみせる。
「これは、巧みな動きをする装置ですね。 なるほど……」
俺の紹介で、工作師工房へ弟子入りしたラルク少年も興味津々だ。
「だが、作ってみたが、余り使い道が思い付かないし、一応皆に見せて、使い道を考えてもらおうという腹なんだが」
「そうですなぁ。 この歯車装置は、高級馬車ぐらいにしか使えませんな。 普通の荷馬車に使うには高価すぎます」
「この自在継手は、工作機械とかに使えるかもしれませんよ」
ラジルさんとラルク、他の工作師の面々も頭を捻っている。
自動車等が、一般に広まれば、確実に必要な技術なんだがなぁ。 ちょっと早すぎたかもしれない。
「ショウ、其方ここにおったのか。 丁度良かった」
殿下が、工作師工房へお見えになった。
「なにかございましたか?」
「いや、其方が教えてくれたコークスだがな。 石炭を蒸し焼きにすると、黒いドロドロが出るのだが、これはどうすればいい?」
ドワーフが取り仕切っている鍛冶場の横に、樽に詰められた黒いドロドロが保管されていた。
「はあ、石炭タールですね。 これは消毒力が強いので、木に塗ったりして、防腐剤として使えますよ。 木の杭や、丸太の砦などは、すぐにキノコが生えたりして、ボロボロになってしまいますが、これを塗れば防ぐ事が出来ます」
「なるほど、木酢液と似たような使い方ですな」
ラジルさんとラルクが、石炭タールを眺めている。
人体の消毒にも使えるのか? という殿下の質問があったのだが、毒性が強いため、止めたほうが良いと助言しておいた。
そんな治療法もあるみたいな事をネットでみたような記憶もあるのだが、発がん性があるはずなので、やはり拙いだろう。
石炭タールからはベンゼンやフェノールが抽出できるのだが、使い道が思いつかない。
フェノールからはフェノール樹脂が作れるらしいが、これに使うホルムアルデヒドの合成が大変だし、ナナミの話では結構強い毒だという。
有機系は毒が多いからな。 迂闊に手が出せない。
間違って猛毒や、毒ガスを作ってしまったら、大変な事になってしまう。
フェノール樹脂なんて、そんな無理して作ってみたいもんじゃないからな。
有機系は爆発物も多い。
フェノールとベンゼンといえばピクリン酸(2,4,6,トリニトロフェノール)やトリニトロベンゼンとかか……。
ここら辺は化学の有機の参考書で見た記憶があるのだが、危険な爆薬だし扱いが難しいよな。
ピクリン酸なんて、ちょっとした衝撃でも爆発するとか読んだ気がするし。
もっと、危険が少なくて、役に立ちそうな化学物質は……。
と、色々とナナミを質問攻めにして、研究の道筋を探すと、良い物が見つかった。
現在、伯爵領でミルーナが肥料として使っている、赤い塩――正式には塩化カリウムというらしい。
これを使って、ガラスを製造する際に木灰の代わりに使用する事ができないか?
俺のこの問に、ナナミは化学式を紙に書きだした。
熱水で大量に溶かした塩化カリウム水溶液を電気分解して、出来た物質に二酸化炭素を吸着させると、炭酸カリウムになるという。
この炭酸カリウムこそが、木灰に含まれるガラスの成分そのものずばりなのだ。
電源は、水力発電機や、俺が持っている大型の魔石からの出力でなんとかなるし、二酸化炭素も魔法でドライアイスが作れるので、これは使える。
というわけで、数々の合成実験のすえ、炭酸カリウムを作る事に成功した。
これは、ミルーナを呼んで見せた方が良いだろう――と、伯爵領から呼びよせた。
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「ショウ様、この方は……」
挨拶もそこそこに、ミルーナはナナミの事を上から下まで眺めて、質問してくる。
どうも、彼女の短いスカートが気になるようだ。
「彼女はナナミだよ。 俺の助手をしてもらっている」
俺は答えながら、ミルーナに淹れたお茶をテーブルの上に置いた。
自分はピコを淹れて、お茶菓子はクッキーにしてみた。 ナナミは、必要な物以外は口にしないので、嗜好品は一切取らない。
「ナナミでございます。 よろしくお願い致します」
ナナミがぺこりとお辞儀をする。
「まあ! ショウ様の助手なんて……なんて羨ましい……」
「はい?」
「私も、ここに通い詰めて……」
「はいはい、落ち着いて」
ナナミがここで寝泊まりしているのは、隠しておいた方がいいな。 話がややこしくなりそうだ。
「この方と、ここで暮らしているというのは本当なのですか?」
俺は、飲んでいたコーヒーを吹き出した。
「どこからその話を!」
ミルーナ曰く、話の出処はステラさんらしい。 またかよ……と言いたいところだが、ナナミが一緒に住んでいるのは確かだ。
「この服装ですね! この服装をすれば、私もショウ様と一緒に!」
「そんな訳無いでしょ」
ミルーナのミニスカ――ちょっと見てみたいが……いや、こんな言い合いをするために、彼女を呼び寄せたわけじゃないし。
なんとかミルーナを宥めて、本題に入る。
彼女に、炭酸カリウムの作り方を教えて、実際に錬成をしてみせる。
実験の最中に、伯爵領の事や、伯爵領へバイトに行ったダークエルフのミルミルの事を聞いた。
彼女の話では、ミルミルを酷使したつもりは無かったというのだが……。
「わざわざ、ミルーナを呼び寄せたのは、これを見せたかったんだよ」
「では、この赤い塩から作った薬品がガラスの材料になるのですか?」
「そう、要はこの白い粉が木灰に入っている物と同じ物って事」
「では、これがあればもう木灰を使わずに済むし、木も伐採しなくても済むようになると……」
「燃料は、ファーレーンで採掘を始めている、石炭を使えば良い。 石炭の話は聞いているだろう?」
「はい、燃える石だと」
伯爵領では、電気分解するための電源が必要になるが、魔石を使うか、電撃の魔法を使える魔導師を使うとか選択肢は色々とある。
ドライアイスを作る方法は、ミルーナに教えたしな。
赤い塩――塩化カリウムは大量に余っている、岩塩を採掘する際の邪魔者なので材料に困ることはない。
塩商人は役に立たないゴミが処分できるので、喜んでいるぐらいだ。
「こういう研究を、ナナミと一緒にやっているんだよ」
「く、悔しいですが、私ではこのような事は……」
「まあ、ナナミはタダの助手なので、ミルーナが心配するような事はないよ。 っていうか、ミルーナは公務を優先してほしいんだが」
「もちろん、仕事は致しますが、それとこれとは別でございます」
「はぁ」
原料が出来たので、実際にガラスを製錬してみることに。
魔法のブーストを使うので、フローを引っ張ってきた。
しばらくタダ働きなので、フローは不満顔でブツブツ言っている。 コイツはそんな事を言える立場じゃないんだがなぁ。
「フロー、文句があるなら、金を返してから言え」
「フローさんが何かなさったんですか?」
「俺の名前を騙った、詐欺だ」
「まぁ、またしでかしたのですか? 前は師匠でしたわね」
ミルーナはフローに冷ややかな軽蔑の眼差しを向けている。
「うう……っす」
ステラさん相手に、似たような事をやらかしたのを、ミルーナも知っているようだった。
「良い事を思いつきましたわ。 ショウ様の被害額は如何程でしょうか?」
ミルーナが、パンと手を打った。
「金貨100枚」
「ステラ様の時は、確か――金貨200枚と聞いていましたから、ここはどうでしょう、私が金貨400枚で債権を買取るというのは」
「なるほど、借金を一本化するのか。 でも、金貨が100枚増えてるぞ」
「利子でございます。 金を借りれば利子が付くのは当然でございましょ?」
「それなら、ステラさんも賛成してくれると思うよ。 多分、もう諦めていると思うし」
「は、反対! はんた~いっす! ショウ! 頼むっすから、それだけは勘弁してくれっす!」
フローが俺に泣きついてきた。
「いや~、俺としては金が返ってくれば、どうでもいいし」
「あたしに対する愛はないっすか!」
「無いね」
「アイィィィ!」
後から聞くと、ミルーナは優しそうな顔をして、こういうのには凄い厳しいのだという。
そして、一緒にステラさんの下にいて、彼女の情け容赦の無い&手段を選ばない性格を知ってるので、泣きが入ったというわけだ。
ミルーナが引き連れている職人たちにもそこら辺をやんわりと尋ねた事があるのだが――。
やはり、仕事には厳しいと言う。 だが、決して無理はさせないし、職人達の家族にもフォローが行き届いているので、信頼関係は厚い。
ミルミルが、人使いが荒いと言ってたのは、仕事に対する厳しさを感じたせいかもしれないな。
そうか、このフローから泣きが入るぐらい厳しいのか。 ちょっと伯爵様が気の毒な気が……。
まあ、伯爵様はミルーナにぞっこん(死語)らしいので、いいか……。
「それは、我々の業界ではご褒美です」
――って言うかもしれん。
その後、実際にガラスを製錬してみて、炭酸カリウムが材料として利用出来るのを、ミルーナに見せてやった。
木灰には炭酸カリウムが30%程含まれているらしいので、木灰をそのまま使うより、配合は変わってくる。
だが、余計な不純物が混入しないので、ガラスの透明度を上げられる利点がある。
炭酸カリウムを合成する手間は掛かるが、クオリティが高くなれば高価で捌けるし、そこら辺は問題にならないだろう。
ナナミのデータベースにはもっと低温で溶けるソーダガラスという物もある。
元世界でガラスやコップ等普通に使われていたのが、このソーダガラスだ。
だが、この世界において現時点では今の水晶ガラスの方が材料が手に入りやすい。
溶かすのに高温が必要なのが難点だが、現状は高級品なのでしばらくはこのまま少量生産でも良いだろう。
カリウム、ナトリウム関係では、塩素酸カリウムや塩素酸ナトリウムなども作れて、爆薬の材料に出来たり、黒色火薬の威力アップに使えそうだが、爆発し易い等の欠点があるようで使えない。
やはり、黒色火薬辺りが無難なのか。 爆発事故とかで死にたくねぇからな。
目の前で爆発が起きたら、腕輪の防御が上手く働くのかも不明だし……剣呑剣呑。
しかし、その後の実験の結果、少量の塩素酸カリウムを混合して、黒色火薬の威力を1.5倍程度にする事に成功した。
当面は、このぐらいの威力があれば十分だろう。
火薬に対する安全策として以下の決定をした。
――保管をする際には水分を含ませて、使用時に魔法で乾燥させる事にし、備蓄は集積せずに数カ所に分散させる。
後は、遊びで炭酸水素ナトリウムを少量作ってみたが、これはまるで使い道がない。
ベーキングパウダーとして使えない事もないが、直に使うとお菓子やパンケーキに苦しょっぱい味が混じってしまい、使えないんだよなぁ。
元世界で売っていたベーキングパウダーには、色々と混ぜ物がしてあって、苦しょっぱい味を抑えているらしい。
さすがに、ベーキングパウダーを再現するのはちょっと大変そうなのだが、アルカリ性の重曹を中和するために酸性物質を混ぜればいいらしいので、なんとか出来るかな……むむ。
いやいや、待て待て。
化学実験をするのが、面白くて色々とやっていたが――。
そんな事より、蒸気機関を作るのが先決か。
俺とナナミは、スライドバルブ式の蒸気機関の設計に取り掛かった。





