92話 機械仕掛けの人形は電気羊の夢を見るのか
手持ちの金を全部叩いて、奴隷商からナナミという女を買った。
無論、最初から奴隷にするつもりではなく、俺の仕事のサポートや、雑用、事務仕事をやらせるつもりだった。
だが、このナナミは、マリアが以前話していた、超絶凄い魔法や技術を持ったゼロという男の関係者だという。
それなら、なんとしてでも、手に入れたい――。
奴隷商に少々足元を見られて、大金を支払ってしまったが、彼女からゼロの持つ知識や技術の片鱗でも、聞き出せれば十分に元が取れると踏み、それに躊躇は無かった。
「君を、お城にある俺の工房に連れていく。 そこで俺の仕事のサポートをしてもらいたい。 サポートって単語は解るよな」
「はい、もちろんです。 それと、マスター? なんとお呼びすればよろしいでしょうか?」
「う~ん、マスターって響きもいいなぁ。 しかし、ここはご主人様かな?」
「承知いたしました、ご主人様」
「おおっ。 じゃあ――凄いです、ご主人様って言ってみて」
「凄いです。 ご主人様」
いいねぇ~これぞ、男のロマン。 しかし――。
「やっぱり、ショウでいいわ」
「それでは、ショウ様とお呼びいたします」
「これから、よろしくな」
「こちらこそ、よろしくお願い致します」
白いローブを被ったまま、ぺこりとお辞儀をするナナミ。
「お城に行く前に、少々寄り道をする」
「承知いたしました」
ナナミをマリアに引きあわせてみる。 マリアを助けてくれたゼロには仲間がいたらしいから、もしかしたら、ナナミを見ているかもしれない。
マリアも、ゼロの行方を知りたいだろう。
ナナミにやってもらう仕事の内容やらを話しつつ、マリアの孤児院にやってきた。
孤児院の周りには子供達が、元気に遊んでいる。
「よお! マリアはいるか?」
「あっ! ショウ様!」
子供達がワラワラと集まってきた。
今日は手ぶらだ。
まさか、こんな事になるとは思ってなかったから、子供達に何もプレゼント等は用意してない。
子供達にお菓子でも買ってやりたいところだが、そういう物は孤児院を通して食べさせているので、勝手に買い与え等はしないでください――とマリアに釘を刺されているからな。
それでなくても、今、俺の財布は空に近い。 正直、すっからかんだ。
「悪い悪い、今日は遊ぶ時間は無いんだ。 マリアを頼む」
「ちぇ」
残念そうにしている子供が沢山いる中から数人の子供がマリアを呼びに行ってくれた。
「マリアおねぇちゃん~!」
しばらくすると、マリアが顔をだした。
「ショウ様!」
走ってきたマリアは抱きつきそうな勢いだったが、俺の隣に客人らしき白いローブがいたので、自重したようだ。
「忙しいところをすまないな、マリア。 ちょっと君に聞きたい事があって」
「聞きたい事ですか?」
「彼女に見覚えないか?」
そう言って、ナナミにローブから顔を出すように促す。
「……あっ!」
しばらく考えていたマリアだが、自分の記憶からその顔を探しだしたようだ。
「ショウ様、この方……」
「思いだしてくれたか」
「はい、ゼロ様が連れていた『人形』と呼ばれていた方です」
人形? そういえば、以前そんな話をマリアから聞いたな。 ゼロは、自分の部下として人形と呼ばれる者を連れていた――と。
「人形……?」
「私達は、正式には自動人形と呼ばれています。 ショウ様」
「自動人形って? まさか、ロボットとかそういう物じゃないんだろ?」
「そうですね。 広域的な意味では、ロボットというのが、一番近いと思われます」
「ロボット~?」
俺は、ナナミの手を取る。 柔らかく、温かい。 体温もある。
そして、顔を見る。 産毛も生えているし、唇は濡れている。
口の中には歯も生えて、舌もある。 唾液も出てるじゃん! 目を覗きこんでも、全くわからん。
ナナミの事をグルグルと見回していたら、俺の思考に何やら黒い物が混じってきているような。
なんだこれ?
振り向いたら、マリアがじ~っと、俺のことを見つめていた。
これは、彼女から流れ込んできた、思考か。 彼女が持っているテレパシーのような能力は魔法ではないので、俺の腕輪ではシャットアウト出来ない。
マリアは、この能力を使って、相手の思考に侵入してトラウマを植え付けたり出来るらしい。
ちょっと怖い能力の持ち主だ。
孤児院には、善人ぶった人買いみたいな連中も訪れるそうだが、相手がマリアではどんな嘘も通用しない。
「マリア、ちょっと待て。 ナナミが自分を人形なんて事を言うから、確かめていたんだよ」
俺が、マリアに向かって両手を広げると、彼女はその中に飛び込んできた。
「はは、なんだ、ヤキモチか?」
マリアの黒髪を撫でてやる。
「最近、ここに来てくださらないから……」
「悪いな、お城の仕事が色々とあってな。 帝国との関係もあまり良くないし」
「戦になるのですか?」
マリアは、ちょっと心配顔だ。
「まあ、いまのところは、その心配はないだろう……と思うよ」
「ダークエルフの女の人も、お城にいると……」
「ダークエルフは、殿下の護衛で雇っているんだ。 それと、森への案内人だな。 彼等に、森での素材集めを助けてもらっている」
ナナミに、ゼロの行方を聞いてみるが、彼女も事故ではぐれたらしく、ゼロが何処へ行ったかは分からないと言う。
しかし、救助や捜索もしないで放置って、酷くないか? 余程、急いでいたとかかな?
「残念だったな、マリア」
「今はショウ様がいらっしゃるので、大丈夫です」
マリアを離し、再びナナミの身体を見る。
「人形というと、自分の意思は無くて、全部プログラムで動いているというのか?」
「その通りです」
「全然、人間と区別がつかないぞ?」
「私の身体は、完全生体ボディなので、人間と変わりません」
擬似の脳みそや、臓器も詰まっているから、バラしても解らないという。
だが、21世紀の日本ぐらいの科学力があれば――。
「電子顕微鏡や、MRIみたいので解析されると、バレるということか?」
「その通りです」
聞きなれない単語で話している俺たちに、ちょっとポカンとした顔をしていたマリアに別れを告げてお城へ向かう。
金を使いすぎて、孤児院へのご喜捨が少々滞るかもしれない旨も伝えておいた。
まったく無駄遣いで、迷惑を掛けてしまうな。
多分、無駄遣いにはならないとは思うのだが……。
街を歩きながら、ナナミに色々と質問して解ったのだが、彼女から話しかけてくることは無い。
基本が受け身だ。 俺が質問したら、それに答えるという感じ。
だから――「はい」
「その通りです」 「そうです」 「承知いたしました」 ――こんな単語ばかりが並ぶ。
これからも、人形らしいといえば、そんな感じだが――俺は、完全には彼女が自動人形というロボットだとは信じていない。
自分が人形だというように、暗示、洗脳、刷り込み等をされて、そう思い込んでいるだけかもしれないのだ。
ゼロについても聞いてみたが、ゼロの組織について、ゼロの超テクノロジーについて、どれも、回答を拒否された。
「禁則事項が多いんだな」
「そういう訳でもありませんが、現在、私はスタンドアローンで動いているので、判断出来ないのです」
「あ~、もしかして、君達を統合しているメインサーバーみたいのがあり、そこにアクセス出来なくて、お伺いをたてられないから、答えられないとか?」
「概ね合ってます」
スター○レックに出てくる、ボー○のドローンみたいなもんか?
つまり、彼女達は端末で、言われた事しか出来ない。 判断に困る事や、難しい事は、サーバーやゼロにお伺いをたて行動してるわけだ。
それで、よく生き延びたと思うが――奴隷商にいたのも、あそこに居たほうが安全だと、サバイバビリティを優先した結果らしい。
なるほどな。 そう言われればそうだ。 高価な上物奴隷になれば、大切に扱われる。
――ということは、生き残るために、自分で判断して行動に移す事も可能ということか……。
彼女はかなりの手練で、捕縛の際に犠牲者も出たとか奴隷商は言っていたから、もしかして、戦闘プログラムみたいのも入っているのかもしれない。
つ~か、本当に人形なのか? まだ、信じられないんだが。
そんな話をしながら、お城の裏門に到着して、ナナミの入城手続きをする。
「俺の所で働くことになった、女性だ。 よろしく頼むよ」
門の警備にそう言うと――。
まだ、増えるんですか? みたいな事を言われる。
こいつら、俺の所に出入りしている女達を、全部俺の愛人か何かと勘違いしているな。
ナナミを俺の工房に案内して、ローブを脱いでもらい椅子に座らせる。
ゼロの仲間らしく、透明なガラス等には目もくれないで、無表情だ。 人形っていうなら、感動って感情も無いはずだしな。
「とりあえず、ここで待っててくれ。 腹が減ったのなら、そこら辺の物を適当に食ってても良い。 君を買うために、全財産叩いてしまったので、オケラなんだ。 何処かで金策をしてこないといけない」
「承知いたしました」
「暇なら掃除でもしててくれ。 掃除道具はここにあるから」
蒸留のために作った、スチルポッドがある部屋へ行く途中の廊下に、掃除道具が入れてあるので、その場所を教える。
「承知いたしました」
「首と、手首の刺青も消さないとな」
この奴隷用の刺青は、魔法で消せるが、結構金が掛かる。
「鏡はございますか?」
「あるが……」
ナナミに鏡を渡すと、刺青の位置を確認してる。 すると――刺青が、徐々に消えていくではないか。
「魔法? じゃないよな」
「違います」
「それについても、答えられないんだろ?」
「申し訳ございませんが、その通りです」
ちょっとびっくりしたが、気を取り直して金策をしてこないと。
ナナミが生活するために、色々と必要になるだろうからな。 服だっているだろうし。
死蔵してて、手っ取り早く金になるといえば、やはり武器か。
俺が仕留めた敵から追い剥ぎした短剣やら剣が、色々と貯まっている。
下品な装飾が付いた剣なんて要らないからな。 この際だ、売ってしまおう。
というわけで、俺が鹵獲した武器を担いで、馴染みの武器屋にやって来た。
「オヤジ、買い取りだ。 頼む」
「らっしゃい、真学師様。 また、色々と持ち込みましたねぇ」
「ちょっと、入り用でな。 頼むよ」
「真学師様、こんな上物ウチじゃ無理ですぜ」
オヤジは、一瞥しただけで、こんな事を言い出した。 まあ、貴族から奪った剣とかもあるからな。
「懇意の武器屋はここしか無いんだ、頼むよ」
「そんな事を仰られても、手持ちが金貨4枚(80万円)程しかありませんで……」
「じゃあ、それで良いよ。 金貨4枚」
「ホントですかい? こりゃ、間違いなくもっと値が張る代物ですぜ?」
「急な入り用なんだよ。 アチコチ探している時間がないんだ」
「真学師様……女ですかい?」
いきなり、核心に踏み込んでくる、武器屋のオヤジ。 さすが、人生経験長いな。
「何故解る?」
「男が、急な入り用って言えば、博打か女でしょうや。 真学師様は博打をやるようには見えませんし、となると……」
「まあな」
「若いってのは良いもんですねぇ。 あっしも若い頃にゃ……」
「なんだ、オヤジにもそんな経験があるのか?」
「うえ? へっへっへ」
顔をくしゃくしゃにして、オヤジは頭を掻いている。
男ってのは馬鹿だねぇ。
――だが、それがいい。
金貨を持って、俺の工房に戻ったのだが――。
「うわぁぁ!」
玄関のドアを開けてると、予想外の光景が待ち受けていた。
------◇◇◇------
ナナミを奴隷商から買って、すっからかんになった俺は、余っている武器を売り金策をして、自分の工房に戻ってきて玄関を開けると――。
イキナリ、お歴々がズラリと待ち構えていた。
「なんで、こんなに早く……」
「ショウよ、此の者は?」
切り出したのは、殿下だ。 門番から、ショウが新しい女を連れ込んだと聞いて、飛んできたらしい。
「私の仕事の助手をしてもらうために雇ったナナミです」
「皆様、よろしくお願い致します」
ナナミはぺこりとお辞儀をした。
「其方が、直接雇うと申すのか?」
「その通りでございます、殿下」
師匠とステラさんは何やら反対しているが、コレだけは譲れない。
「フェイフェイは?」
「お前が何かやるということは、意味があるのだろう。 私に反対出来る立場でもないしな」
「そうそう、ダークが口を出すことじゃないな。 *&%#@%^*&*&%#@@!」
「$%#@&*^%$$#! &*!」
ステラさんとフェイフェイが、聞きなれない言葉で、言い合っている。 これがエルフ語なのか?
元々、同じ世界にいたっていうから、言葉が同じでもおかしくはないが。
「其方が、それだけ拘るということは、理由があるのだろうが……」
「実は、ナナミとは同郷なのですよ」
「なに? 真か?」
「ナナミが私の仕事を手伝ってくれれば、さらに高度な理や真理にたどり着く事ができるでしょう。 これ即ち、ファーレーンの為でございますよ!」
殿下の両肩を掴み、強引にガブり寄る。
「わ、わかった! ううむ……」
俺が、こんな強行に主張した事がなかったので、面を喰らったようだ。
「師匠も心配なら、ここで寝泊まりして、監視しますか?」
俺は、あまり使っていない蒸留器を置いてある部屋を少々改造して、ナナミの部屋にすると、師匠達に伝えた。
「あ、それ、いいじゃん。 そうしよう! ね?」
ステラさんが何やら、はしゃいでいるが……。
「あなたは黙ってて! う~」
師匠は何やら、思案をしているが、何を悩む必要があるのか? 師匠達がいようがいまいが、ナナミに手を出すつもりなぞ毛頭ないのだから。
そんな事より、やることが山ほどあるっつ~の。
「其方を信じないわけではないのだが……」
殿下はナナミが同郷だという俺の話を、まだ疑っておいでだ。
何か、証明するいい方法は――日本語で話しても良いが……。
あ、そうだ。
『ナナミ、折り紙で鶴を作れるか?』
『はい』
俺が、日本語でナナミに問うと、彼女は簡潔に答えたので、正方形に切った紙を渡した。
紙を受け取ったナナミは、目にも留まらぬ早さで、折り鶴を完成させた。
さいごに、フッと息を吹き込み、完成した鶴を掌に乗せて、殿下の前へ差し出す。
「これは、正に……」
折り鶴を見た殿下は、やっと俺の言う事を信じたようだ。 どうも俺は、信用無くてイカンな。
俺ほど、殿下の事とファーレーンの事を考えている奴は居ないと思うんだが。 やっぱり、普段の行いかね?
フヒヒサーセン。
結局、師匠は諦めきれず、ステラさんと2~3日監視のために泊まりこむようだ。
何もしないつ~の。 大体、人形ってその機能ついているの? まだ、ホントに人形かも分からんけどさ。
------◇◇◇------
ナナミが俺の工房に住み込む事になったので、早速準備をする。
場所は、あまり使っていない、蒸留器がある部屋だ。 街の家具屋から、中古のベッドとタンス、そして机を買い込み、部屋に配置する。
更に建て増ししたりしたら、部屋を移してもいいだろう。
ガス灯の配管もしないとな。 色々とやることが多い。
多分、彼女から情報を引き出すために、アレコレと夜分まで話し合う事が増えそうだからな。
そして、普段の服装だ。
色々と考えたが、仕事の内容と、仕事着という事に鑑みてメイド服にすることにした。
お城のメイド服を拝借しようとしたのだが、獣人用しかないと言う。
獣人用と、人間用――何処が違うのかというと、スカート丈の長さだ。 獣人用はミニスカ……。
俺がマスターなんだから、俺の好みにしよう。
ミニスカメイド服に、白い太もも丈の虫糸ストッキング、そしてガーターベルトの組み合わせ。
この世界に、下着はないが、ガーターベルトはある。 殿下も白いストッキングと共に愛用しているからな。
ナナミのミニスカメイド服を眺める。
ストレートの黒髪に、紺色のメイド服、そして白いストッキング。
う~む、素晴らしい。 さすが、俺。
感情の無いというナナミは、恥ずかしがりもせずに、文字通りの着せ替え人形のように俺のなすがママだ。
ついでだ、ちょっと気になる事を聞いてみるか――相手が人間なら、思い切りセクハラなのだが……。
「ナナミ、人形って下半身はどうなってるんだ?」
「私は完全生体ボディなので、下半身の造りも人間と同じです」
「いや、あのな、性○とかは?」
「まったく同じです。 そのための機能もプログラムも備わっていますから、お試しになりますか?」
「いや! ちょっと拙いだろ」
「そうですか。 ゼロ様のお話だと、女性の名器を参考に作られたそうですから、試す価値はある――との事でしたが」
ちょっと待て! なんでそんな所にリソース割いているんだよ。 力を入れる場所が違うんじゃないのか?
でも、しかし、ゼロに妙なシンパシーを感じてしまうのは、何故なのか。
男のロマンってのを解ってるやつだ。 もっと有り体に言えばアホだ。 もちろん、褒めている。
「へぇ、ショウってそういうのが好みなんだ。 ルビアもあんな格好してみれば?」
ナナミのメイド服を見てステラさんが、茶々を入れる。
「あんなの! あんな格好恥ずかしくて出来るわけ無いじゃない……」
この世界の女性は、脚を見せない。 なので、基本ロングスカートなのだが、例外なのは獣人達だ。
普段から毛皮を羽織って、裸でも平気という獣人の女達は、動きやすいミニスカートを愛用してる子が多い。
ナナミのメイド服姿に有頂天になっていた俺だが、ソレを殿下に見つかり、破廉恥過ぎるという事で、お叱りを受けてしまう。
だが、交渉の末、膝上丈までは認めて頂いた。
ただ、一般には刺激が強すぎると、外出する時はローブの着用を義務付けられてしまったが、これは仕方ない。
俺の目が楽しければ良いので、街の男共を楽しませる必要は無いからな。
そして、ナナミがその姿で仕事を始めると――何故か、お城のメイドさん達も同じ格好をし始めた。
紺色のメイド服に白いフリルの付いたミニスカートが、凄く新しい物に感じたのだそうだ。
それを見た殿下は、少々渋い顔なのだが。
「あれで良いのかのう?」
「動き易くて、より機能的なのでございますよ。 時代の流れというやつでございます」
「其方は、妾も脚を出した方が良いと思うか?」
「いやぁ、やんごとなき方が御御足をお見せになるのは、ちょっと早いんじゃないでしょうか」
「そうかのう……」
殿下のミニスカートを見る目が、ちょっと羨ましそうに見えるのは気のせいなのだろうか。
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工房の隣に設置されている、温室の世話をしているナナミに少々変な質問をする。
「ナナミは苗字はないのか?」
「ありませんが、正式な名称は、『42 ナナミ』 となります」
「その42って番号の意味は?」
「ナナミシリーズの42番目の機体という事になります」
という事は、これと同じタイプが最低でも42体いるって事か……。 ナナミが、事故ではぐれても救助や捜索が行われなかったのは、そういう事なのか?
――ただの端末で、代わりはいくらでもいる。
ってことなのか? う~ん。
「ナナミは、計算は得意なんだろ?」
「はい」
「じゃあ、2の平方根は?」
「何桁必要ですか?」
「小数点以下10桁」
「1.4142135623」
「じゃあ、2の立方根は?」
「1.2599210498」
すげぇぇぇ! 答え一発! じゃん。 その後、色々と計算させてみたが、どんな桁数でも、瞬時に答えが出てくる。
まさに、人間コンピュータ。 いや、人形というロボなんだから、当たり前って言えば、当たり前なんだけどさ。
俺は、ナナミが人形だということに、まだ半信半疑だったのだが、徐々にコレってマジで? に変わり始めた。
懸案だったナナミからの情報引き出しだが、ゼロの周りについての情報はガードが強固だが、その他一般知識に関しては、制限はないようだった。
例えば、物を設計する際の計算式やら、物質を合成する際の化学式やらは、ノーガードだ。
こいつは、知識という宝の山だ。 ナナミから引き出した情報を使えば、もっと凄い事が出来る。
俺の心は舞踊った。
ナナミに大量の紙と、インクを買い与えて、時間が空いている時に、必要な情報を書き出してもらう事にした。
基本、彼女は疲労した時の休息以外は、寝なくても大丈夫のようなので、主に夜中に書き出しを行っているようだ。
それを、分類して閉じれば、これはもう百科事典。
書かれている文字は、全部日本語なので、そう簡単には情報が漏れる事はないだろう。
ナナミと情報についてやり取りをしているときは、日本語なのだが、俺自身この世界に来て2年ほどで日本語をかなり忘れているのに驚いた。
すぐに言葉が出てこないんだよな。
しかし、彼女との会話には、この世界にない単語が沢山出てくるので、日本語じゃないと都合が悪い。
ここは、日本語の訓練も兼ねて、ナナミとの打ち合わせには日本語を使うとしよう。
もしかして、他の転生者に会う可能性も捨てきれないしな。
そんなナナミと俺とのコンビ生活を、じ~っと横目に見ている人が――師匠だ。
何が気に入らないのか、俺の部屋に毛布まで持ち込んで泊まり込んでいる。
ナナミと何かイケナイ事をするつもりは無いって言ってるんだけどなぁ……。
どうも、信じてもらえないようだ。
仕方ないので、気が済むまで泊まりこんでください――と思って放置したまま工房で作業をしていたのだが、突然、師匠の叫び声。
何事かと思って、部屋へ飛んでいくと――深い紺色のミニスカートの師匠が居た。
おっと、これは!
一緒にいたステラさんもミニスカートにしたエルフ仕様のドレスを着ているので、彼女に強引に履かせられてしまったようだ。
師匠は顔を真赤にして、スカートの裾を掴み、必死に脚を隠そうとしている。
「どう? ショウはこういうのが好きなんでしょ?」
ステラさんが、ドヤ顔でストッキングを履いた長い脚を見せつけてくるのだが、BBAの脚なんぞどうでも良い。
だが、師匠の脚は一見の価値アリだ。 ムチムチの太ももに、白いストッキング。
う~む、エロい、エロ過ぎる。
我を忘れて、穴が開きそうなぐらい見つめていたら、羞恥心の限界が来たのだろう。
「いやぁぁぁぁ!」
師匠が叫ぶと、ステラさんの顔面にグーパンをかまして、玄関ドアから遁走した。
予想外の所からグーパンを食らったステラさんは、ぶっ倒れた拍子にテーブルに頭をぶつけたらしく、床に転がったままピクリとも動かない。
「あ~あ、どうすんのよ? これ」
それからしばらく、師匠は、俺の所へ顔を見せなくなってしまった。





