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異世界で目指せ発明王(笑)  作者: 朝倉一二三
異世界へやって来た?!編

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32話 微妙な俺の能力

 

 瞬間記憶という物がある。

 まるで、頭の中に本が丸ごと入るように、記憶したページを一枚ずつめくるように詳細に記憶できるらしい。

 俺の記憶力(能力)もそれに似てはいるのだが、これが似て非なるもの。

 どうでも良い事を大量に記憶出来るのに、詳細は憶えていないという、全く使えない能力だ。

 例えば、


 1837年 大塩平八郎の乱


 というページを瞬間記憶を持っている人間なら、ページを切り取った如く記憶出来るのだが、俺の場合は……。


 18〇×年 大塩平〇×の乱


「江戸時代の年号忘れたけど、大塩ナントカの乱ってのがあったじゃん」 みたいな感じで記憶されている。

 というわけで、試験やテストには全く役に立たず、学校成績も中の下。

 メリットと言えば、女と話す時ネタに困らない程度だ。

 ――と言って、女にモテるかと言えば、これまた一言多い性格なので、モテたためしは無い。


 悲しいけど、これって現実なのよね。


 下手に記憶力がいいから、余計な事は憶えている。

 というか、忘れたくても忘れられないのだ。

 なんかのきっかけで、トラウマやフラッシュバックが起こり「うわぁぁぁぁぁ!」 と転げ回るのは日常茶飯事。

 どこかに頭をぶつけたら、健忘症になって忘れないかな? とか悩むぐらい、マジで勘弁してほしい。


 ところが、この世界へ来てからは、フラッシュバックは起きていない。

 たぶん、異世界すぎてトリガーになる物が存在しないせいじゃないかと考えているが、俺が色々と作って元世界の技術を再現しようとすると、フラッシュバックのトリガーを再び作ってしまうかもしれない。

 

 そんな俺の半端な能力でも、この世界では役に立っている。

 正確な物質名、薬品名とかをハッキリと憶えていなくても、アレとコレと混ぜればなんとかなったよなぁ~みたいな感じで、それなりに知識が使えるからだ。


 それから、魔法だが


 これもまた半端なんだよなぁ……。

 ことわりの魔法は使えるのに、呪文系の魔法は全く使えないという半端ぶり。

 ことわりの魔法も使い方次第で強力に使えるのが解ってきたので、テクノロジーと魔法の組み合わせでなんとかしたい。

 対魔法カウンターも何か手を考えないとダメだな……。

 知恵と勇気、努力と根性でクリアしたい。

 ――と、考えてる。


 そんなこんなで、ランプが出来て、とりあえずはガラス製品は一段落かな。

 ランプシェードも透明ガラスじゃないと、意味ないからな、やっぱり透明ガラスってのは、使い道豊富だ。


 あと、窓と玄関に鍵が付いていなかったので、日本の古い家屋についているようなねじ込み式の鍵を真鍮で作った。

 この世界の窓や戸はつっかえ棒で戸締りしているので、コレも売れるかもな。


 ------◇◇◇------


 

 ある物の試作のために森へ『ズミ』 というガマズミに似た赤い実を採取しに行った。


 いままでは移動するのに、テクテクと歩いていたのだが、自分の身体に重量軽減の魔法を掛けると――なんと高速移動できることに気がついた。

 移動というか、横にポーンと飛んでいく感じだけどね。

 月面を歩く宇宙飛行士の映像をみたことがあるだろうか? あんな感じで、ちょっとコツは要るが、慣れればかなり速く移動できる。

 体重が軽くなるので、ちょっと高い所を飛び下りても平気。

 もちろん、数十mだとヤバイが。

 ことわりの魔法で重力に干渉できるなら、慣性にも干渉できるはずだと思うけどなぁ……。

 なにか方法があるのかもしれない。

 ちなみに、こういう魔法の使い方を師匠達は全く教えてくれない。

 憶えるなら、自分で試行錯誤すればって感じでNO干渉だ。

 俺みたいに、発明したり発見したことを他の真学師に教えるという事もあまりしないようだ。

 これは、雇い主が代わって敵になる可能性もあるので、手の内を晒すのは得策ではない……という事らしい。


 森へ着くと、1cmぐらいのズミの赤い実が列をなして実っているのだが――これが1粒でもクエン酸を直舐めしてるように超酸っぱい!

 ついでに、このズミの実と、味噌を作った時に出来た溜まり醤油、そして昆布ダシを合わせ、ポン酢モドキ作って夕食は鍋にしよう。


 今回、ポン酢に溜まり醤油を使ったが、醸造醤油はまだ成功していない。

 味噌と同じように作って、塩水を入れれば醤油になると思ったんだが、これが上手くいかないんだよ……何が問題なんだろう……。

 森からの帰り、小さい子が川魚を売っていたので、6匹ほどゲット。 これで『つみれ』 を作った。


 鍋に昆布を切って投入、つみれ、野菜、肉を入れて、たまり醤油で薄く味をつけた、なんでも鍋である。 ポン酢はお好みで。

 コンロ代わりは炭鉢だ。


 鍋の匂いに釣られてニムがやってきた。 そして、またステラさんが……。

 

「美味いにゃ~美味いにゃ~!」 

 一心不乱に食べているニムの横で、ステラさんが俺の不満げな表情に気がついたのか――

 モグモグと鍋を食べながら、俺に聞いてくる。


「なんか文句あるの?」 

「いいえ~、ありませんけど。 食堂の料理人が、最近ステラさんが食べに来てくれないって嘆いてましたよ」

「だって、ショウの料理の方が美味しいんだもん」

「舌が肥えているステラさんにそう言ってもらえるのは、光栄ですけどね」


 俺は箸で食っているが、ニムとステラさんはスプーンとティッケルト()製のトングを使っている。


「また、変なの作ってぇ」

 ステラさんが、鍋を食いながらスプーンでランプを差している。


「これは灯油ランプですよ」

 俺は、ランプに火を灯してみせると、ニムが反応した。


「すごく明るいにゃ~。 欲しいにゃ~」

 明るく輝くランプに、ニムの目が縦長の猫目になって輝いている。


「ランプは良いけど――灯油は高いぞ、どうするんだ?」

「そうだったにゃぁ……」

 ニムは、現実に気がつくと、がっくりと肩を落とした。


 家でランプを使おうとすると、月に小四角銀貨4枚で約2万円ぐらいの出費になる。

 普通の家庭でそんな金出すなら、何か美味いものを食ったほうが良いって事になると思う。


「なるほど~、このツマミで芯の長さを変えて火力を調整しているのか」

 ステラさんが、ツマミをクルクル回して、火を大きくしたりして――色々と試している。


「芯を短くすると、消火も出来ますけど、回し過ぎると油層に芯が落ちてしまうので、注意してくださいよ」

「うん。 こういうガラスの使い方もあるのね」 

 彼女もランプシェードに感心してるようだ。


「それは持っていかないでくださいよ。 だいたいそんな造りじゃ、ステラさんの部屋の模様に合わないでしょうから」

「ふん」

 

 機先を制されて不満なのか、ステラさんは黙ってランプを返してよこした。

 ステラさんなら、今ので造りは解ったろうから、懇意にしている職人に作ってもらえば良いと思うんだけどね。


「ショウ様! ショウ様! この丸いのなんだにゃ? 魚の味がするにゃ!」

 ニムが、鍋のつみれを指さしている。


「それはつみれだよ、魚を叩いて、磨り潰して丸く固めたもんだ」

「どうやって作るにゃ」

「食い終わったら教えてやるよ」

「今教えてほしいにゃ!」

「え~、今かよ」


 つみれが余程気に入ったのか、すぐに教えてほしいと言う。 

 台所に魚が2匹残っているので、そいつで料理指導する事にして、俺が魚をさばいているのを、ニムが横で眺めている。 


「魚をさばくのは出来るな?」

「大丈夫にゃ」

さばいたら、川魚は小骨が多いので、骨斬りしたほうがいいだろう」 

 ――魚の身に細かく包丁を入れていく。

「そして……コレは俺が作ったすり鉢だが、普通のボウルでもなんでも良い。 魚の身を入れて、スパイスと塩をいれて……塩を入れると粘りが出てくるから、それを丸めて完成だ。 上手く固まらなかったら、デンプンを入れりゃいい」

「簡単にゃ!」

「そうだな、煮る前に揚げても美味いし、魚の身だけじゃなくて、普通の肉でも同じ事が出来るぞ」

「にゃるほどにゃ~」


 そういえば、街の料理でハンバーグとかミートボールの類も見たことが無かったなぁ。

 ハンバーグとか受けそうだけどね。


「よし、このつみれも煮て食おう」

「にゃ!」


 出来上がったつみれを鍋に入れようとしたら……。


「あれ? 肉がもう無いじゃん!」

「食べちゃった」

「食べちゃった~じゃないですよ、なんで肉ばっかり食うんですか。 野菜も食ってくださいよ」

「だって、野菜嫌いだし……」


 子供じゃないんだから……。


「しょうがねぇ、つみれ鍋に変更だ。 良いダシはでてるだろうし」


 (しめ)に入れるつもりだった、ウドンも入れちまえ。

 棚からざるに乗せたウドンを取り出して、鍋に突っ込んだら……。


「な、なに!? 虫ィィィ!?」 椅子を引いて驚くステラさん。

「は? 違いますよ。 小麦粉練って、長く伸ばした物ですよ」

 

 ステラさんは、鍋に入れたウドンをスプーンで突ついてる。


「だいたい、エルフって森の奥深くで虫とか山菜食って生活してるんでしょ? なんで虫に拒否反応起こすんですか?」

「そんなの何時いつの時代だよ。 今どきそんなエルフがいるわけないだろ」 ステラさんは、おそるおそる、ウドンを一本取って、口に運んでいる。


 やっぱり、とりあえず食ってみるのか。 食わず嫌いで拒否した師匠よりは、さすがだな。

 ステラさんの話では、こんなウドンみたいな長い虫は食わないが、木の幹にいる、甲虫の幼虫は食べると言う。



「今どきって事は、かつてはそうだったんですね。 でも、今でもそういう暮らしをしているエルフはいないんですか?」

「いるよ~、原理主義とか言われてる連中さ」

「原理主義? エルフ原理主義とか言うんですか? つまり、太古のエルフのような、人々から畏敬いけいを集めていた真のエルフの姿に立ち返ろうとかそういうのですか?」

「そうそう。 でも、私に言わせれば、そんなの偽君子ぎくんしか偽善だね」

「ステラさんみたいに、好き勝手やって、欲望のままにやりたい放題してる方が、よりエルフの原理に近いとか?」

「よく分かってるじゃない」

 ステラさんは、アハハと声をあげて、スープを飲んだ。


「その昔ながらのエルフって人達にちょっと会ってみたいな」

「止めときな、ロクなもんじゃないから。 色々とおこないをしてその結果尊敬されるならともかく、最初から畏敬いけいの念を集めたくて行動するなんて、本末転倒さ」


 このステラさんから、ロクなもんじゃないから、と言われるエルフ原理主義者ってのはどういう連中なんだろうか。


 掌を掲げて、「長寿と繁栄を」とかいうのかね?


 そんな話をしつつ、食事は続く。

 ステラさんとニムは、ウドンを気に入ったようで少しづつ食べてるが、スプーンだと食い難そうだ。


 こんな事もあろうかと!

 俺の作った先割れスプーンを二人に渡した。


 ウドンを食べるのに四苦八苦している彼女たちを横目に、箸を使って、ウドンをズルズルチュルチュルとすすったら、それを見てたステラさんが固まった。


「何それ? 変な食べ方してぇ?」

「これは、細長い食べ物と汁を一緒に食うという高度な技術なので、素人は真似してはいけません」

「そんなの私だって出来るね」

 

 とか言い出して、先割れスプーンですする真似しようとするが、上手くいかないようだ。

 気管に入ったようで、激しく咳き込み――ニムはそれを見ながらモクモクと食っている。


「別に無理して真似する事ないじゃありませんか」

「ショウに出来て、私に出来ないとかムカツクぅ!」


 そんな事で怒られてもね――ホントに子供みたいだな、中身BBAなんだけどなぁ……。


 ステラさんは散々飲み食いして、プリプリ怒ったまま帰っていった。

 まあ、食後にネチネチ絡まれるよりは良いか。

 ニムは早速、つみれを作ってみるそうだ。 余程気に入ったらしい。


 獣人は頭良くないって聞くが、こういうのは結構覚えが早いんだよな。

 学校の成績悪くても、好きな歌手の歌はすぐに憶えられるとかそういうのに近いのか? 

 

 師匠の分は別に取っておいたので、煮込みウドンを作って師匠の所へ持っていくと――やはりウドンを虫だと思って盛大に叫び声を上げた。

 説明すると納得したようで、美味しいと先割れスプーンで食べていたが……。


 この世界、小麦をパンにしか使ってないようで、あまりに食文化が貧相すぎる。

 俺の持ち込んだ料理で、少しは美味しい物が食べられるようになれば良いのだが。


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