113話 一件落着
香辛料のターメリックを探して、ファルタスへやって来たのだが、この国で問題になっている違法伐採の現場に遭遇してしまった。
犯人は、なんと――隣国、帝国の公爵夫人。
身勝手な理論を振りかざし、攻撃を仕掛けてきたので、正当防衛といえども夫人を手にかけてしまった。
やむを得ない。
それに、越境しての違法な資源の取得なんて、間違いなく戦争一歩手前な行為だからな。
正式な抗議が行われれば、帝国や公爵領としても申し開きは出来ないだろう。
ターメリックは手に入れたが、こんな騒ぎの後、そのまま帰るわけにもいかなくなり、ファルタスの王都に戻る事にした。
違法伐採の現場で保護した獣人達、そして、降伏投降した帝国の真学師と共に……。
王都に着いた時は、すでに真っ暗。
所々に僅かな松明の明かりが灯るだけ。 お城の門はすでに閉じていたが、事情を話して開けてもらう。
城内に車を停め、王妃様への事情説明は、ミルーナに行ってもらった。
外様の俺達の口から伝えるよりは、この国の王女たるミルーナから事情説明してもらった方が確実だろう。
ああ、そうだ。 ファルゴーレはどうしようか。 公爵夫人の護衛だし、一味に加担してたって事になるよな……。
「ファルゴーレ、お前がここにいると拙いかもしれないな」
「まあ、私は違法伐採の一味ですからねぇ」
「う~ん、街の宿屋に泊まっててくれないか? 逃げても良いけどな」
「オッパイプルンプルンの為に、私はファーレーンへ行かねばなりませんから、逃げはしませんよ。 それに、ファーレーンにはいずれ訪れなければならないと思っていたのです。 今や、真理探究の中心は、ファーレーンですからねぇ」
「多分、4~5日は掛かるかもしれないぞ」
そう言って、奴には帝国金貨を2枚渡した。 奴も真学師なら、金を持っているかもしれんが、宿に泊まってもらうのはこちらの都合だからな。
金ぐらいは払わないと。
そして、獣人達にも声を掛ける。
「お咎め無しだったら、お前等はどうする? もう、公爵領へは戻りたくないだろう?」
「へい、許されるなら、家族と共にファーレーンへ行きたいで……ごぜえます。 ファーレーンは獣人にも差別もあまり無いと聞いてますし」
「まあ、殿下自ら獣人達を雇うぐらいだからな。 じゃあ、家族の事も頼んでやろう。 今の公爵なら、力になってくれるはずだ」
俺は、そう言ったのだが、獣人達は貴族そのものをすでに信用してないようだ。
まあ、こんな酷いことをされたのでは仕方ない。
ファルゴーレが、街の宿屋に向かうと、お城から寝間着の王妃様が現れた。
松明のオレンジ色に照らされて、ヒラヒラの間から、うっすらと見える白い肌が眼の毒だ。
「まぁまぁ! この度は、ファーレーンの真学師様にご迷惑をおかけいたしました」
「現場にばったりと、出会ってしまったものですから、なし崩し的に……。 他国の執行業務に割り込むなど、完全な内政干渉なのですが、申し訳ございません」
「何を仰るのですか。 違法伐採に手を焼き、我々では打つ手も見えませんでしたから。 こちらとしては、大変感謝をいたしております」
「王妃様、この者達の件なのですが……」
俺は、現場から連れてきた獣人達を紹介して、王妃様に寛大な処置をお願いした。
「話は聞きました。 人質を取られて、強制労働を強いられていたというではありませんか。 無論、その者達の罪は問いません。 陛下にも、その事はお伝えしましょう」
「ありがとうございます」
さすが、これが人治国家の良いところだ。 これが法治国家なら、罪は罪で括られてしまう。
「まったく、聞けば聞くほど、信じられませんわ!」
王妃様は憤慨していらっしゃるのだが、獣人達は城内の隅っこで、土下座して畏まって小さくなっている。
「王妃様、お願いついでにもう一つ。 帝国のフェルミスター公爵領へ公文書を送っていただけないでしょうか」
「公文書ですか? 承知いたしました、抗議の書簡ですね」
普通の手紙と公文書の違いは――普通の手紙は、メイドや執事、侍従に開けられて中身をチェックされる。
つまらん手紙が、主の下へ届くのを防ぐためだ。
だが、公文書扱いだと、宛名本人しか開封する事が出来ない。
公文書の中身は以下の通り――
一、貴領の公爵夫人が、我が国で違法伐採を行なっていた。 これは、両国の間に戦端を開きかねない重大な不徳行為である。 なお、犯人は逃亡し、現在行方不明である。
一、違法伐採の現場で貴領の獣人達を保護しているが、彼等は家族を人質に取られて、強制労働をさせられていたと証言している。 獣人達は、ファーレーンへの亡命を希望しているので、その家族を保護して、我国へ送って頂きたい。
これらの一部始終を目撃したと以下の者が証言している。
ファルタス王国 第一王女 ミ・ルーナ・ミ・ファルタス
ファーレーン真学師 ルビア
ファーレーン真学師 ショウ
こんなところだな。
公爵夫人については、行方不明扱いになっている。 まさか、俺がぶっ殺したとは書けないからな。
でもまぁ、リンなら解るだろ。
公文書は明日の朝一で発送されて、当日のうちに公爵領へ到着すると言う。
そこから、獣人達の家族の捜索が始まって……やっぱり4~5日は滞在する事になりそうだな。
補償やらなんやらは、無論当国間の問題だから、口出し出来ないし、するつもりもない。
だが、公爵夫人がいなくなった事で、公爵領の改革が進み、違法伐採等は無くなるはずだから――あまり大事にしないでくれとは、王妃様に進言しておいた。
「さて、お前等の寝床はどうしようか――今から30人か、宿はあるかな?」
「屋敷の部屋を開放してもよろしくてよ?」
王妃様からの手厚いご提案なのだが。
「めめめ、滅相もねぇ! あっし等なんて、そんな所に泊まれませんぜ。 城内の隅っこでも場所を貸していただければ……」
「でも、毛布ぐらいは欲しいよな」
「それじゃ、集めてきましょう!」
ここを出立する前に、俺が髪を編みこんであげたメイドさん達が10人ほど、そう言って街へ散らばっていく。
部屋は無くても、毛布30枚ぐらいなら、なんとかなるか。
もう夜半なのだが、1時間程掛かりメイドさん達が毛布を抱えて戻ってきた。
「毛布をどうぞ。 コレは、お城のお金で買ってきたので、このまま差し上げます。 ファーレーンへ行くにも毛布があった方がいいでしょう?」
「ありがとうごぜえます」
また獣人達が、ペコペコしてる。 ファーレーンの獣人達とも随分違う印象だ。
ファーレーンの奴等は――俺はやるぜ! 俺はやるぜ! って感じなのが多いんだがな。
願わくは、ファーレーンが彼等の安住の地になってほしいのだが。
――という具合に、様々な物事は進む。
だが、こういうのは本来全部、上位真学師である師匠の仕事なのだが。
師匠は、こういう事に全くと言って良いほど興味が無い。 しかも、面倒臭いので、全部俺に丸投げして、ただ見てるだけ。
植物採集に来ただけなのに、なんでこんな面倒な事になっているんだ――ぐらいにしか思ってないだろう。
俺達は、来賓室にまた泊まることになった。
疲れたので、寝ようとしたら、寝間着姿の王妃様に絡まれてしまう。
陛下がいなくて身体が寂しいとか夜泣きするとか、危険極まり無い事を言っていたのだが、ミルーナに引っ張られて廊下の暗がりへ消えていった。
はぁ、色々とあって、もう疲れたわ。
------◇◇◇------
――次の日。
朝食を頂き、話を聞きたいという王子達を振りきる無礼をして、ミルーナと2人街へ出る。
獣人達の飯をどうにかしないとイカンので、街の両替商へやって来たのだ。
公爵夫人からぶんどった金を両替して、獣人達に支度金をやるつもりなのだが――。
獣人達に帝国金貨を渡して、両替させてもいいのだろうが、絶対に足下見られるし、数字に弱い彼等が誤魔化される可能性が高い。
ミルーナの案内で、やって来たのは、御用両替商。 つまり、国の公認両替商だな。
さすが、御用商人の店だけあって、立派な石造り――正面の窓には、水晶ガラスも嵌っている。
たしかに、ここなら確実だろう。
――と、思ったのだが。
「両替拒否? そりゃ、ないぜ。 ここは御用両替商だろ?」
「そうですよ。 本来なら、貴方達のような、平民の来る場所ではないのですよ」
この店の番頭らしいのだが、位高に一段高い場所からこちらを見下ろして座っている。
「おいおい、そいつは、聞き捨てならねぇな。 平民だろうが、貴族だろうが、金貨は金貨だろうが」
「とにかく、帝国金貨は両替できません。 まあ、どうしても――と、言うのであれば、3:1ぐらいでなら換金して差し上げても良いですよ?」
「それじゃ、街端の換金率と変わらねぇ」
くそ、なんじゃそりゃ。 要は面倒だから、扱いたくないってだけなのだろうか?
そんな押し問答をしていると、後ろで見ていた、ミルーナが割り込んできた。
「其方、今すぐ店主を呼びなさい!」
「なんですか、貴方は」
「すぐに!」
彼女の気迫に押された、番頭が奥へ店主を呼びに行くと、店主らしい禿げた親父が一緒に戻ってきた。
横に幅が広い身体によって、赤い服に金糸が入った派手な衣装がはちきれそうだ。
「なんですか、一体。 面倒臭い客は、用心棒を使って追い払いなさいと言いつけてあったでしょう」
戻ってきた番頭となにやら、ヒソヒソを話していたのだが――。
「ひさしぶりですね」
「なんです……?」
店主は、彼女を一瞥して誰だか解らなかったようだ。 そりゃ、ドレスでもないし、地味な私服だからな。
解らなかったが、何処かで見たことがあると――記憶の引き出しを開けたり閉めたりしていたのだろう。
そして、1つの結論に辿り着いた。
「……お、王女殿下!」
「えっ!」
驚いた、番頭共々後ろにひっくり返り、床に頭を打ち付けて畏まった。
「しばらく顔を出さないとこれ幸い、好き勝手放題やっていたようですね」
「何卒、お許しを」
「なりません。 この件は、陛下に報告させていただきますので、沙汰を待ちなさい」
なにか、時代劇で見たことがあるようなシーンだが、さすがにミルーナが王家の紋章を出して――控えおろう! とはならなかったようだ。
「それでは、商売が立ち行かなくなってしまいます」
「まぁ! それは大変ですね。 それでは、ファーレーンかファルキシムの両替商の支店を出して頂きましょう」
なんだか、ミルーナが、喜々として悪魔のような提案をしているのだが。
「そ、そんな! 御無体な!」
そりゃまぁ、マジでそうなったら奴等飯が食えなくなるから、必死だ。
「お黙りなさい!」
「しかし、こういう事をして金儲けするって事は、単独なのかな? 普通は、裏に誰かいたりするよねぇ」
少々意地悪な質問をしてみたのだが、それにミルーナが乗ってきてしまった。
「良い事を思いつきましたわ! ファーレーンの魔女様がお城に滞在なさっているので、この者達を吟味立てして頂きましょう」
「ひぇ!」 「ままま、魔女!」
「ショウ様、如何致しましょう?」
「え? ショウ様とおっしゃると」 「もしかして、ドラゴン……」
ミルーナが黙って頷くと、店主が禿頭をキラリと輝かせて、白目をむきその場に倒れこんだ。
「ミルーナ、脅かしすぎだ。 卒中の発作だったら大変だぞ」
俺の言葉に、笑っていたミルーナも心配になったのか、店主の頭の辺りを魔法で見ているが――。
「異常は無いようですので、気が動転しただけでしょう」
頭に濡らした布を乗せてボーっとしている店主を横に、ペコペコとコメツキバッタのように頭を下げる番頭。
彼に頼み、手持ちの帝国金貨を両替してもらう。
帝国金貨は65枚あったので、ファーレーン金貨32枚と銀貨2枚。
獣人達の事を考えると、全部銀貨にしてほしいので、銀貨で貰った。 計、130枚。
彼等に金貨を渡すと、またお釣りを誤魔化されたり、両替で足下見られたりするからなぁ。
しかし、銀貨130枚は重い!
ファルタスは金が出ないので、独自の金貨は発行していない。
ここで、扱っているのは、全部他国の金銀貨なのだから、両替拒否ってのはかなり不自然だ。
絶対に、何かあるというのが、ミルーナの意見だが――国の恥になるので、全部自分に任せてほしいとの事だった。
無論、この国の政に顔を突っ込むつもりはない。
この価値の落ちた帝国金貨で、色々と問題も起きている。
例えば、ファーレーンでドラゴンの腹の中から出てきた貴族達の死体を帝国に送り返したのだが――。
その時の代金も帝国金貨で支払われた。
だが、換金レートがすでに変わっていたので、支払いの金貨が足りない貴族達が続出。
物品による納入が多くなった。
つまり、帝国はかなりの金不足になっているという事だ。
公爵夫人がやらかした、違法伐採も金が無くなった挙句の犯行なのだろう。
金が無くなったのなら、節制や緊縮財政に転じればいいのだろうが、贅沢の味を覚えた奴等に、いきなりの方向転換は中々に難しい。
つまらんトラブルはあったが、無事に両替できた。
その金を、城内の隅っこで固まっている、獣人達に渡す。 1人銀貨4枚(20万円)だ。
「ほら、ファーレーンへ向かう支度金だ。 これで朝飯でも食ってこい。 いや、飯屋は開いてないか……市場で食い物でも探すか?」
「銀貨4枚! ということは……」
「金貨1枚だ」
獣人達が集まって、銀貨を手にとり眺めている。
金貨と銀貨の交換すら、計算が怪しい連中がいるのだから、街に出れば良いカモにされてしまう。
獣人達は計算が出来ないせいか、貯金も出来ない奴が多い。
金を貰うと、貰うだけ使ってしまう。
ここら辺を改善したいのだが、人種的な思考の違いってやつなので、どうにも難しい。
ニニのように、商売できるやつもいるのだから、纏める存在が居れば、どうにかなりそうな気もするのだが……。
しかし、ニニのようになんとか計算出来るぐらいの頭を持ち、腕っぷしも強い。 そんな存在は稀有だ。
獣人の白骨化した頭蓋を見たことがあるが、大きな耳が発達して、頭蓋の大部分を占めている。
結果、その分脳の容量が少ない。 これでは、知能が上がるはずがないのは、生物学的に自明の理だ。
今は、ニニの下で纏まっているファーレーンの獣人達だが、ニニがいなくなったら、困る事になるな。
う~ん。
「銀貨は遠慮なく貰っておけ。 あの公爵夫人からぶんどった物だからな。 元々、お前等が貰っても当然な物だ」
「ありがとうごぜえます」
「家族の分も入れると、ちょっと少ないかもしれないがな。 もうちょっと持たせてやりたいが、手持ちがない」
ぶんどった中には貴金属もあるが、アレを換金するとなると、時間がかかるだろう。
「とんでもねぇ。 これで十分でごぜえますよ」
「ファーレーンへ行って困ったことがあったら、城下町の西にある獣人街に、オニャンコポンって店がある。 この店主を頼れば良い」
「オニャンコポンでごぜえますか?」
「そこにニニって良い女がいるから、すぐに解る」
「ニニって、『鋼鉄のニニ』 ですかい?!」
獣人の1人が、驚きの声を上げると、他の獣人達もざわついている。
「ああ、やっぱり有名人なんだな」
「傭兵を引退したって聞きましたけど、ファーレーンにいたんですかい……」
戦場で無敗を誇ったニニは、獣人達の間でも伝説の戦士なのだと言う。
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しかし、俺は何をしにここへ来たんだっけ?
……カレーのスパイスを探しに来ただけなのに。
どうしてこうなった?
なんで、こんな大事になるんだ。
滞在中、やる事もないので、師匠と一緒に森に散策へ出かけたり、王子達と剣術の稽古をしたり――。
陛下から、剣術を習っているという王子達の腕は中々の物だった。
文武両道、まったくもって素晴らしい。
しかもイケメン。 この国の未来は順風満帆に見える。
そんな事をやっていると、ファルタスの国王陛下が帰城した。
正式な謁見なので、謁見の間でおこなわれた。
国王陛下と王妃様も、王冠とティアラを頭に乗せた正装。
陛下は、金糸の刺繍が施された草色の上下に裏が真紅に染められた白いマントを羽織り、多段高い位置に据え付けられた背の高い金色の玉座からこちらを見下ろしている。
白いドレスの王妃様も、普段は親しみやすい印象なのだが、こうやって玉座に凛と座ると、さすがに王族――という、オーラが漂う。
この王冠だが、貴族諸侯も宝冠と呼ばれる小さな冠を持っていて、正装をする時に被るそれには――各家の独自の様式と紋章が刻まれ、貴族を象徴するアイテムとなっている。
その右側には二人の王子、左側に純白の胸の開いたドレスに身を包んだ、ミルーナ。
天窓から明かりが差し込む石造りの謁見の間には、赤い絨毯が延び、脇にはこの国の役人や大臣が控えている。
緊張感が漂う中、国王陛下が切り出した。
「この度は、ファーレーンの真学師殿の働きによって、我が国を悩ませていた違法伐採の解決の糸口が見えたのは、まったくもって喜ばしい事だ」
「成り行きながら、他国の執行業務に割り込んでしまうという逸脱行為に過分な評価を頂き、まことに心苦しい限りでございます」
「何を申される。 本当に助かりましたぞ」
一応、そう言っとかないと、この国の執行機関のメンツを潰したのには違いないからな。
よそ者がーーと、苦々しく思っている奴もいるだろうし。
「我が国とファルタス王国の絆を結ぶ糧になるならば、粉骨砕身する所存であります」
無論、この世界に粉骨砕身という言葉は無いが、それに近い言葉を並べている。
「よくぞ申してくれた、ところで――」
陛下が玉座を降り、俺の前までやってきて、立ち上がるように促す。
「何か?」
「真学師殿に甘えついでに、あそこにいる我が娘に、いつ挙式をあげるのか? 促してはくれまいか」
「お、お父様!」
「手紙を送っても、投げっぱなしの石のつぶてでなぁ。 私は早く孫をこの手に抱きたいのだ!」
なにやら力説する国王陛下。 その気持ちは解ると言いたいところだが、ミルーナが侯爵領に御輿入れすれば、完全にファーレーンの人間だ。
元世界の常からすれば、娘の孫を楽しみにするのはよくある事だが、この世界ではあまり聞かない。
まあ、そのぐらいミルーナを可愛がっている証拠なのかもしれないが……。
なにせ、結婚相手がどんな相手か確かめるために、わざわざ現地まで行って、相手に剣の試合を申し込むぐらいなのだから。
「二人の王子様のお相手をお探ししたほうが確実なのではないでしょうか?」
「そうか、王妃もな、嫁いだ先の娘の孫をみたいなどと言うのは変だと申すのだが……」
「変ではありませんよ。 あれだけ御美しい王女殿下のお子様となると、それは三国一の愛らしさだと思われますし」
「貴公もそう思われるか!」
「ええ」
――と、ここまで来て、陛下の表情がガラリと変わった。
「時に、風の噂で流れてくる話に、王女と真学師のあらぬ噂話が多分に含まれているのだが、まさか、そのような事は無いでしょうな……」
そんな事を言い出す、陛下の目が据わっている。
「そのような戯言は事実ではありません。 我が主と、アマテラス様に誓ってあり得ません」
「その言葉、信じますぞ」
陛下はホッと胸をなでおろしているようだが、そんな噂話を本気にしてもらっては困る。
謁見は終了したが、夕方の食事の席で、両替商の事を軽く聞いてみた。
帝国通貨の換金比率が悪化しているが、以前に流通していた質の良い金貨もあるわけで――。
両替商の地位を利用して、質の良い金貨も一緒に買いたたく事によって、その差分で儲けていたらしい。
その金貨の見分けには、俺が作った金の質を確かめるテスターが使われていた。
質が悪化している帝国金貨でも、金は50%は含まれている。 それ故、交換比率が2:1なのだが――。
これを3:1にすれば、交換するだけで、手持ちの金が増える計算だ。
そして、それに合わせて、質の良い帝国金貨も買い叩く事によって、さらに金が増える――と、いうわけだ。
単独犯行なのか、それともバックがいるのかは、詮議の途中だと言うが、かつて両替商と懇意であった帝国貴族が疑われている。
こうして集めた金を鋳造し直して、贋金を作る。 贋金といえども、金の質は良いので誰も文句は言わない。
事実なら、完全な売国行為で、最悪、処刑もあり得る。
関わった帝国貴族も、帝国や周りの貴族を出し抜いた、逸脱行為で集中砲火は免れないだろう。
これは荒れる予感……。
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そして、次の日。
公爵領で囚われていた獣人達の家族が到着した。 リンから送られた公文書を携えて。
国王陛下に向けた書は、違法伐採に対する謝罪の内容だが、俺にも手紙が送られてきた。
さすがに、公爵領でも伐採の現場から戻った騎士達等に厳しい詮議が行われて、他国へ越境しての違法伐採行為が明るみに出た。
騎士達には、厳しい沙汰が下るらしいが、こういう奴等が職にあぶれて野盗になったりするんだよなぁ。
元々、正室と側室達は、それぞれ公爵領後継の座を狙って争っていたが、その要の血筋を持った娘達がドラゴンの襲撃に巻き込まれて、全員死亡。
その結果、公爵領に戻ったリンと対峙するために、正室側室達は徒党を組んでいたのだが、その中心人物だった公爵夫人が行方不明となった事で、遂に諦めたらしい。
そりゃ、所在がつかめない公爵夫人に全てを押し付けて、ここで引かないと、自分達も巻きこまれるからな。
さすがに潮時だと思ったのだろう。
これで、公爵領の改革も進むはずだ。
陛下に向けられた手紙には伐採された森林に対する補償に関しても明記されていたようなのだが、ミルーナの助言もあって、それについては保留となった。
公爵領が持ち直せば、一番近いファルタスが重要な貿易相手となるわけであるし、いたずらに関係を悪化させる必要も無いということだろう。
獣人達の家族がやって来て、城内の中庭に、獣人達の数が一気に増えた。 総勢80人ちょいで子供も20人以上いる。
皆、粗末な服、着の身着のまま。
「家財道具とかは無かったのか?」
この質問に返ってきた答えは、全員タコ部屋みたいな所へ押し込まれて、共同生活を強いられていたようだ。
幸い病気に掛かっている者はいないようだが、痩せ細った獣人が多い。
井戸水は自由に使えたようなので、皮膚病などが蔓延しなかったのが救いか。
獣人といえば筋骨隆々なのだが、そんなイメージからかけ離れた彼等が、俺の目の前に並んでいる。
全く、酷い話だ。
獣人の子供達にわらわらと囲まれて、とても可愛いのだが、彼等は、子供といえども力が非常に強い。
引っ張られたり、抱きつかれて懐かれているうちにドンドン体力を消耗してしまう。
こりゃ、マジで疲れる。
子供達とじゃれていると、大人達は出立の準備をし始めた。
「ファーレーンへ向かうのか? 獣人達なら、山越えの道が使えるかな」
「あっし等も、そう思ってました」
「それじゃ、お前たちの方が早く城下町に到着するな……道中気をつけてな」
「ありがとうごぜえます」
彼等はペコリと頭をさげると、女達と手を振る子供達を引き連れ、峠の道へ続く森の中へ消えていった。
「さて、俺達も帰るか」
街中に放流していたファルゴーレを回収するために、聞き込みをしたら、すぐに見つかった。
話を聞けば、酒場の歌姫のところへ通い詰めていたと言う。
当然、その女は巨乳だ。
「中々良い味でしたよ」
師匠とミルーナの白い視線など全く意に介さずに、そんな事を堂々と曰う奴は、俺が渡した金も全部使ってしまったと言う。
「まぁ良いけど、そういう話は、女の前ではしないでくれよ」
「おっと、これは失礼いたしました。 私としたことが。 しかし、あのような場末で、中々の逸品に巡り会えたのは――」
「解った、解った」
こいつをファーレーンに連れていくのは、ちょっと早まったかもしれない。





