納葵音子
今話タイトルは最終話「納葵音子」です。
「あした早く起きたら、悠くんのお母さんから料理を教えてもらえることになったわ」
部屋に戻った呉葉は、嬉しそうに言った。
ちなみに部屋割りだが、悠が一人、呉葉と夕日は自分の部屋、未来也と美樹で、大人たちは積もる話があると同じ部屋になった。
「はい。分かりました」
そんなことを悠の母が伝えに来たのが、午前0時を回ろうかという頃。まだ誰も寝ておらず、呉葉と夕日の部屋で雑談中であった。
完全なる大人の都合だが、誰も不都合ではない。というより、各々が安心して眠れる部屋割りである。
「まあ、そんなわけで、あたしらはもう寝るから。あんたらも早く寝なよ」
そんなところで、とりあえずは解散になるのだった。
呉葉と夕日。
「今日は少し緊張したけど、楽しかったわね、夕日ちゃん」
「そうだね、呉葉ちゃん」
「おやすみ」
「ん、おやすみ」
未来也と美樹。
(ねえ、未来也様?)
(なに? 美樹)
(今日は楽しい一日でしたね)
(うん。でも、まさか、納葵音子が呉葉と夕日の母親だったとはね)
(ええ。それは私もびっくりしました。十四歳、と仰っていましたか。私達も、その……)
(いや、まだ早いし、約束、覚えてるだろ?)
(もちろん。忘れるはずがないじゃないですか)
誰にも聞かれていない、二人っきりの秘密の会話である。
大人たちの部屋では。
「祈裡さん」
「なんですか、音子ちゃん?」
「永井さんの説明にもありましたが、あのあとお会いできなかったのは、別の病院に移ったからなんです。ずっと、お会いしたいと思ってました」
祈裡の表情を窺いながら、話を続ける音子。
「私の父は、治らない病気でした。当時幼かった私は、ただ頭の病気としか知らされていなくて、それが、いったいどのような病気だったのかは分からないのですが、とにかく、治すことができない病気だと、教えられていました」
ここでいったん言葉を切る音子。今度は、祈裡、一樹、遙の表情を一通り眺めてから、話を続けた。
「私が十歳のときでした。私は両親に連れられ『動物屋敷』に泊まりました。翌朝目覚めてみると、両親はいませんでした。消えてしまったのを知っていましたが、というよりも、目撃してしまっていましたが、私は帰ってくることを疑いませんでした。夜になって、朝になって、次の日も、またその次の日も。
那子、という少女に出会ったのは……少女といっても、外見の年齢では当時の私よりもお姉さんでしたが、その最初の夜でした。私によく似た女の子で、一時的に、名子に身体を預けることで、消滅を免れたんです」
今まで誰にも、呉葉や夕日にも話していなかった話。祈裡に聞いてもらいたい。ただそれだけで、唐突に話始めたのだ。
「一週間経った日に、何の気なしに外に出てみると、二人分の白骨遺体がありました。それが両親だと直感した私は、とにかく、急いで逃げることにしたんです。あれじゃあ、殺人犯みたいだから。
数日後のニュースで、両親の遺体が『音木』邸ではないところ《・・・・・・・・》で見つかったと聞いてとても驚きました。『音木』邸が現れるのは週一回。正午から十二時間のみ。そんなことを知らなかった私は、ある日たまたま見つけた音木邸で、那子に教えてもらったんです。内側にいる限りずっとそこにあるけど、時間外に一旦外に出ると、一週間入れなくなると。
両親を失った私は途方に暮れていましたが、幸い今の半分くらいの収入があったんですよ。それでなんとか学校に……子供たちにと……生きてこられたんです」
最期には目に涙を溜めて語る音子を抱きしめる祈裡。一樹も、遙も、なんと声を掛けるべきか分からなかった。
最後の部分はずっと音子の語りでしたね。これはこれで中途半端に思う方もいるでしょうが、この物語はこれにて完結です。長らく(およそ二年)の連載、お付き合いいただき真にありがとうございます。
それでは、またの機会に。
なお、本日午後7時には、簡易な設定集的なものを投稿する予定なので、よろしければそちらにも目を通していただけると、解決する疑問がいくつかあると思います。本編中には語らなかった微妙な設定が混じっていますが、全てお読みいただいた方には意味が分かると思います。




