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5-2 じゅくじゅくの地獄、揺れる光昭

い、どちらにも決着がつかないまま、彼の体を地面に縫い付けていた。


 


光昭が動けないでいる中、周囲の大人たちが先に動いた。


 


最初に動いたのは、織田信敏だった。


 


さっきまで泥の上で「命だけは」と哀願していた天童藩主が、ドロドロに溶ける死体の臭いの中で、ガタガタと震えながら立ち上がり……そのまま杏の足元へ、額から崩れるように倒れ込んだ。


 


「せ、聖女様……!」


 


嗚咽だった。土下座ですらなかった。全身で地面に貼り付くように伏せ、両手で杏の足元の泥を握りしめながら、織田信敏は泣き叫んだ。


 


「これぞ……これぞ神宮の、天上の奇跡……! 私はずっと間違っておりました……! 大名などという器では、この御方のお力は理解できぬ……! この命、この藩の全て、桃園神宮の御旗のもとに捧げます……! 捧げさせてください……! どうか、どうか……!」


 


その背中を見た松平信庸の目が、かっと見開いた。


 


「お、織田殿……! そ、そうだ……そうだ……!」


 


松平が膝で泥の上を這い、織田の隣に並んで平伏した。頭を上げようとしない。ただ、泥の中に顔を埋めたまま、震える声を絞り出す。


 


「私は……私は上山藩主として、ずっと薩長の顔色を伺い、民を守れずにおりました……! だが、この御方は違う……! 一人の少女が、悪鬼を一瞬で滅ぼした……! これは神の御業以外の何物でもない……! 杏様……! 杏様こそが、この乱世に現れた真の救世主……! 上山の全ては、あなた様のものだ……!」


 


さらに、主人の光昭を差し置いて、黒川藩の重臣たちまでもが、雪崩を打つように膝をつき、泥の中に額を擦り付けた。


 


「神宮の杏様……! 我ら黒川の武士一同、すべてをあなた様に捧げます……!」


 


杏は、しばらく黙ってその光景を見ていた。


 


大名が泥に塗れている。重臣が額を擦り付けている。さっきまで自分たちを殴りつけていた野盗どもは、溶けて転がっている。


 


杏の口元が、ゆっくりと歪んだ。


 

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