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勇者はまた眠る  作者: KURA


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01話 三千世界の鴉を殺し

瞼を開ける。眼球から頭に光が入ってきた。

頭がすっきりとしている。歯車の錆が全て取れたかのような清涼感が脳に蔓延している事に驚いた。

ここまで気持ちの良い目覚めはいつぶりであろうか。

今日は良い日になりそうだ、そう思いながら目を開くと。


手入れのされていないのか薄く錆のついてはいるものの、日の光を受けて輝いているT字のモニュメントがある。辺りを見渡すと教会のようだった。


思考が硬直する。

未成年である俺が酒を飲むはずもない。

ならばなぜこんな見たこともない場所で俺は寝ているのだ? 一人暮らしだというのに家出するような趣味は持ち合わせていない。


「……何が、起きた?」


俺は脳にほんの少しだけ残っている記憶を掘り返すことにした。

体を起こしていた俺はそのまま倒れ込み、寝転がりながらそう考える。

つーかこれ教会の椅子かよ。よく体痛くならなかったな。

学校で椅子に座りながら寝ている習慣が幸いしたのか身体が痛むという事はなかった。


確か……俺はちゃんと学校に行っていたはずだ。記憶に残っている最後の日は俺は登校したはずだ。

いつも通り寝て授業を過ごした記憶がある。

そして数少ない友人の二人である立夏と零摩の話を聞きながら帰っていた……はずだ。

断言できないのはその後、玄関を跨いだ記憶がない。つまりは帰っていないという事だ。

だが幾ら俺の家に両親がいないからと言ってそのまま遊びに行くことはないはず。

何故なら荷物が重い。


ふと親愛なる数少ない友人である二人が好むライトノベルのジャンルを思い出した。

こう、いきなり異世界に召喚されるというモノがある、というのを二人から聞かされていた。なんなら読まされた。

俺はともかく二人は人柄が良く運動神経も悪くない。違和感はないが……俺は? 巻き込まれた?

いやそもそも異世界召喚と決めつけるのも早いだろう。もしかしたら奇怪な誘拐でもされたのかもしれない。

……拘束されてもいなければ、俺に身代金を要求する家族はいない。

二人が誘拐され俺は放置されたと仮定すれば道理は通るが、一転寂れた教会に放置するという犯人の行動に理解が難しくなる。


まずは情報収集に周りの景色を見ることにする。

立ち上がり体を伸ばす。

久しぶりにこんな眠気のない朝であるからしてとても長い間寝ていたのだろう。恐ろしい音が聞こえた。

硬くなってしまった体を引きずりながらも外へ出る。


寂れた教会の外に広がっていたのは地平線の果てまで草原が広がる日本らしからぬ景色であった。

遠くに見える街も日本の建築には見えない。

あー……マジ? とても不本意ながらここが異世界というのが最有力候補になってしまった。




とりあえず寝ていた椅子に戻ってきた。

半ば冗談で考えてた異世界召喚説が現実味を帯びてきた。

思わずステータスと唱えてみたが何も起こらなかった。

なるほどね。恥かいただけじゃないか。立夏と零摩のおすすめしていた本にはそう唱えるだけで良いと書いてあったんだが。


さて異世界かもしれないという事実を認識すると少しだけ記憶が戻ってきた。

異世界という実感が記憶の鍵になっていたようだ。

確かに帰り道に光に包まれた様な気がする。

何か城のような所を見たような……夕方過ぎの俺は眠気により前後不覚に近い。故に記憶が定かではないのだが。

夕方になると俺は瞼を持ち上げるという行為が難しくなっていく。

そのせいで記憶という記憶はないのだが……ぼんやりとした記憶、この状況。

出来れば認めたくない。だが……異世界なのかもしれない。

異世界はできるだけ本で見るだけが良かった。


俺の人生は睡眠がほとんどを占めている人間だ。欲求も三大欲求の内二つは極端に薄い。

だが眠るというのを十分に享受することが出来るのは平和な世だけだ。明日食べるものが無ければ、眠れば槍に突かれるような、そんな世界では安眠などできはしない。

異世界、そしてあの広すぎる平原を見るに開発が進んでしまった日本ほど平和ではないのではないか。

そんな危惧が俺の中にある。

まぁ進みすぎた異世界というのも嫌なものではある。ディストピアとか眠ってられないだろう。


出来れば安全な世であることを願う。

理想を言うならば安全に、そして突然現れたかもしれない俺でもずっと眠ってられる素晴らしい世界である事を願う。


ま、無理だろう。

友人二人に寄生することも少し考えるが、アイツら二人も新しい世界に適応するのに大変であろう。

流石の俺にも良心というものはある。そして友人は大切にしたいという情も。

彼らは俺の睡眠を邪魔したが、俺が孤独にならなかったのは唯一彼らが話しかけてきたからだ。

そんな二人に迷惑をかけるわけはいかない。


目を瞑るとむくむくと不安が俺を襲ってきた。

二人はこの世界で生きていけるだろうか。もしも無惨にも死んでしまったら。

その不安が俺の眠りを妨げようとしている。

ゆっくり眠れる環境を作る、友人二人が困っていたら助けられるくらいの力を手に入れる。

とりあえず当面はこの二つを目標に動くとしよう。

俺は魔王のような脅威を倒すことも、悲劇を防ぐことも興味はない。俺の眠りが安らかであるために。

願わくば世界観がダークファンタジーじゃないとうれしいな。


まずは情報の把握で疲れた俺は二度寝をすることにする。次に起きた時に動き始めればいい。

なに、時間はあるのだから。

おやすみなさい。


























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