深夜のドライブ③
早苗は早瀬の目を見た。それは、これまで見てきたどんな彼の目よりも、真剣な目だった。夜空に輝く星の光を反射するように、その黒い瞳がきらきらと光っている。
早苗は目を伏せた。時が止まったように感じる。心臓の鼓動が、わずかに早鐘を打っていた。彼はいつも、こうやって早苗の驚くこと、予想だにしないことを平気で言ってくる。
「ふざけているの?」早苗は言った。冷静に言ったつもりだったが、わずかに語尾がうわずった。
「ふざけてなんかいない」早瀬は再び、前を見る。「君と再会した日、あのときからずっと考えていたんだ。君を連れて、逃げることを」
「そのために今まで演技をして、大川原の部下を撃ったって言うの?」
「理由としては、充分じゃないかな。僕は本気で、君のことを逃がしたいと思った。それは、三年前の償いでもあるんだよ」
初めて早瀬が、自ら過去のことに触れた。
「もう、忘れたのかと思っていた」
「忘れたことなんてないよ。僕は君を裏切った。そのことは、ずっと申し訳ないと思っていたよ。どうにかして償いたいと思ったけど、君も知ってのとおり、僕は不甲斐ない男だ。自分から足を踏み出す勇気がなかったんだ」
早瀬が遠い目をしながら言う。
「どうして」早苗は口を開いた。これまで何度も訊こうとしたこと、訊こうとするたびに喉につかえて言えなかった言葉を、口にする。「どうして、連絡してくれなかったの?」
早瀬が横目で早苗を見る。「連絡していたら、どうにかなっていたのかい?」
言葉が、鋭い矢のように飛んでくる。彼の質問は、早苗が答えるのを窮させるのに充分だった。しばらく、黙る。
「どうなるかわからなくても、連絡するのが筋ってもんじゃないの?」ようやく、早苗は答えた。
「確かにその通りだね」早瀬はさらに、煙草を一本取り出した。火をつけ、口の端にくわえながら笑う。「正直な話、僕は怖かったんだと思う。君に自分の姿、落ちぶれて惨めになった姿を見せるのが、怖かったんだと思う」
その言葉は早苗の胸に沁みた。それは自然な言葉で、嘘や偽りはないように思えた。
早瀬が早苗から金を借り、消息を絶った日から三年の月日が過ぎた。あれから三年が経ち、今日になってやっと、早苗は彼の本心、あの出来事の真相を聞くことができたと思った。
「あなたも、申し訳ないと思っていたのね」自分に言い聞かせるように、早苗が言った。
「そうだね。そして今回、やっときっかけをつかむことができた。君に対して、罪滅ぼしができるきっかけを」
「私を逃がしてくれようとしたわけね」
「いや、違う。僕と逃げるんだ」




