深夜のドライブ②
「でも電話で最初に話したときは、あなたはあの男に心酔しているように思えたけど」
「それなら、作戦は成功だ」早瀬が口の端から、煙を噴き出す。「そう思ってもらえるように演技してたんだよ。君と僕が、知り合いだとバレるわけにはいかないからね」
それはそうだった。早苗も、ミクルや及川に早瀬との過去のことは話していない。もちろん彼も、大川原たちに同じようにしているはずだ。
「だからって、私にまで演技する必要はなかったように思うけど」
「用心するに越したことはない。大川原は、勘が鋭いんだ。君と僕の関係は、少しも勘付かれたくない。不快な思いをしたかもしれないけど、必要なことだったんだよ」
早苗は電話でのやり取りを思い出す。早瀬は様々なことを言っていた。この仕事はモネを守るためだとか、大川原が彼を導いてくれただとか。あれは全部、嘘だったということなのだろうか。
「なにが本当で、なにが嘘なのかわからないわ」
「刑務所に行ったのは本当だ。そして、そこであの男と知り合ったことも」早瀬が苦笑する。
早苗は溜め息を吐いた。それから、前方を見る。すぐ近くに国会議事堂が見えた。その後ろには、皇居がある。早苗はそれらを眺めながら、この道は何度も通ったな、と思った。尾行され、ミクルの車で逃げたときも、美術館の下見をしてから及川の家へ行ったときも、この道を使った。あれから数日しか経たないのに、いまは早瀬と二人きりでこの道を走っている。それが、なんとも不思議なことに思えた。
「で、あなたはどうしてこんなことをしてるの?」早苗は本題を切り出すように言った。
「まず、最初に言っておきたいことがある」早瀬が言葉を切った。煙草を灰皿に押しつける。「大川原は、君たちをキングに売るつもりだ」
やっぱりか、と早苗は思った。予想していたことだったので、べつに驚きはしなかった。あの男のことだから、きっと裏切るだろうとは思っていた。ただ、そうなると心配なのはミクルだった。
「売るってのはどういうこと?」
「知ってると思うが、キングは人身売買をしている。奴隷労働者を南米に売り飛ばして、麻薬の運び人や売春婦にしている。大川原は君たちをキングに引き渡して、海外に売り飛ばすつもりなんだ」
「私たちが話していたことは、全部当たっていたってことね」
「そうだ。大川原の狙いが佐々川を潰すことも、そして手柄を自分のものにしようとしていることも、すべて本当だ」
「で、あなたはこの機に乗じて、絵を横取りして逃げようって魂胆なわけ?」
「それもある。だが、それだけじゃない」それから早瀬は真剣な顔をして、早苗を見た。「早苗、僕と一緒に逃げないか?」
「えっ?」
「僕と一緒に、逃げよう」




