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「偽物の天才魔術師」はやがて最強に至る 〜第二の人生で天才に囲まれた俺は、天才の一芸に勝つために千芸を修めて生き残る〜  作者: 空楓 鈴/単細胞
第10章 魔大陸紀行〜黒き騎士の誕生〜

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第231話 密林を越えて⑩


『美少女戦士じゃぁ……?』


『然り! 二人揃って美少女戦士ッ、ツイン⭐︎ビーナスッ! なのですッ!!』


 ズドーン! と背景に爆発を起こしそうな勢いで、目元を仮面で隠した踊り子衣装の少女達は高らかに戦場に名乗りあげた。

 そのあまりのトンチキな様相、場違いさについ誰も彼もが唖然としてしまいそうであったが……


『貴方達はここが街中であると理解していながら人々の暮らしも考えずに、しかもこれから1日の疲れを癒そうと眠りに着くはずの夜に戦闘を行ったわね』


『そしてその過程で騒音、振動、危険を振り撒いて公害となったのです! そんな公害クズどもには、我々美少女戦士が大地に……いや、民衆に代わってお仕置きなのです! 喰らえ! 美少女お仕置き滅却光砲をぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!』


 お前が一番うるさいだろとツッコませんばかりの黒髪少女ビーナスガイアの怒号と共に、金髪少女ビーナスムーンが杖から放った極太のレーザーが降り注がれたことで、先ほどまで停滞していた戦場は阿鼻叫喚となる。


『ぐあああああ熱っっっ!!!』


『お、親父! やばいぞこの魔術!!!!!』


 石畳の大地を駆け回る極光レーザーが次々と部下を飲み込み焼き焦がす光景を前に、バッカーはやむを得ずターゲットをアルク達からレーザーの主である金髪少女ビーナスムーンに変更し攻撃に移ろうとしたが、いつの間にか自身の目の前に立っていた黒髪少女ビーナスガイアに阻止される。


『とうっ!!!』


『ぐっっ!?』


 気配を全く感じられなかったことによる予期せぬ急接近から放たれた剣の一振りを紙一重で躱し、バックステップを踏んで立て直しを図る。

 しかしそれを予測していたかのように連動して距離を保つ黒髪少女ビーナスガイアの追撃に、バッカーは足を止めて防御に回ることを余儀なくされる。


『さあ、早急に戦闘をやめ撤退するのです! さもなくばお仲間が怪我することになるのです!』


『もうしとるじゃろがボケが! それに……』


 撤退などせずともお前を倒せば済む話だと、バッカーは早急に目の前に黒髪少女ビーナスガイアを仕留めようと全力の猛攻を仕掛ける。

 防御を貫通する力を持ったバッカーによる槍の連撃は、必殺とまではいかずとも並の戦士なら簡単に退けられる程の脅威であるという自負による判断であったが……


(ッ……! どうして攻撃が当たらんのじゃボケ!!!)


 その脅威も極論、当たらなければ意味がない。

 貫き効果を付与した攻撃のみ回避し、それ以外は全て受け流している目の前の少女がそれを証明していた。


『……貴方の攻めは全て読み切った、だから観念するのです!』


『ッ……お前ら撤退じゃッ!!!』


 原理は不明だが自身の動きに完璧に対応してくることから短期決戦は不可能、加えてもう一人の少女が放つレーザーの勢いも収まる気配がないことから、バッカーは感情を押し殺して被害を最小限に留める決断を即座に下す。


『お前は逃げなくて良いのかよ?』


 撤退するバッカー率いる「ルエラーク」帯を横目に、近くで同じく戦闘を繰り広げていたディンは相対する虫人族ファージャーの代表戦士にも暗に撤退を促す。

 今なら見逃すといった雰囲気を出して気さくに装っているが、当然そのような積りは毛頭ない。

 魔術を放てば未来予知を疑うほどの回避力を見せ、ならばと近接で攻めれば硬い外骨格に攻撃を阻まれるといった歯痒い場面が続いたためにディンのストレスは限界突破している。

 ——背を向けた瞬間に街ごと吹き飛ばす規模の魔術で殺してやる。

 頭に血が上ったディンは今か今かとその瞬間を待っているのだ。

 

『……確かニ、決着は次回に預けたほうが良さそうダ』


 そして予想通りにゲバルンは停戦を受け入れれ、取り巻きを連れて撤退しようとディン背を向けたその時だった。


『ぐッ!!?』


 先に動いたのはディンではなく、ゲバルンであった。

 背を向けたゲバルンにディンが魔術を放とうとしたその時、ゲバルンの背中に生えていた突起がディンに向けて弾丸の如き速度で射出され、攻撃の体勢に移っていたディンは一瞬の隙を突かれる形となった。


『考えることは同じだったようだナ』


『さて、何のことかな……ッッ!?』


 右腕に突き刺さった棘弾を引き抜きながらディンは再度戦闘態勢に入ろうとしたところで、不意に膝をついた。


『???……』


 ぐるぐると不規則に回り出す視界と手足の痺れ、重症化したインフルエンザのような症状が突如発症したことに動揺を見せるディンにゲバルンは得意げに語る。


『我々は体内でちょっとした毒を作れるのダ。並の魔物なら一瞬で気絶するこれを受けて意識を保っているのは驚きだガ……これで勝敗は決したナ』


 両膝をついたまま虚な目をしたディンにゲバルンは拳を振り上げる。

 部下の命を取られた怒りはあったが、それ以上に得難い強敵であったことを振り返り、せめてもの敬意として一撃にてその命を刈り取ろうと渾身の手刀を振り下ろす。

 ——はずだった。


『ナッ……!?』


 それがディンに到達することはなく、突如として地面から発生した氷塊がゲバルンの下半身ごと手刀を飲み込んでしまったのだ。


『ようやく近づいたな?』


 直後、ゆらゆらと立ち上がるディンの姿を前にしてゲバルンは自身の複眼を疑った。

 

『馬鹿ナ!』


『生憎と毒に強くてな』


 ゲバルンの不意打ちは完璧であった。

 しかし、異常な代謝能力を持つディンに対して毒による攻撃は悪手に他ならず、結果的にゲバルンは必殺の毒への絶対の自信を逆手に取られる事となったのだ。


 そして咄嗟の起点が上手くハマった喜びを見せる事もなく、ディンは淡々とした様子で速やかに下半身を氷で固められたゲバルンの眉間に指を重ね、ゼロ距離から生成したライフル弾を発射した。

 混沌極めた市街戦は、一発の銃声によって締めくくられたのだった。


ーーー

【ディン視点】


 頭に風穴の空いた虫人族の代表戦士の死をきっかけにその取り巻き達が逃げ出す中、俺は内心で肩を撫で下ろした。

 背中の棘弾にもそうだが、何よりその毒の強さにびっくりした。すぐに分解されたから良かったものの、それが少し遅れていたら俺はあのままトドメを刺されていただろう。

 油断した……というよりは不本意だが相手が一枚上手だったということだな。


「おとっつぁんとおっかさんに感謝だな」


 なんて独り言を溢しつつ、アセリアやアルク達の方も決着がついたようなので合流したのだが……


『何してんのラトーナ!?』


 変な仮面つけた少女が2人乱入してきたことは知っていたが、よく見るとその片方の金髪は我が妻ではないか。


『あ、ディン君おかえりなさい。怪我はありませんか?』


『軽症でした。先輩……あとついでにアルクの方こそ大丈夫でしたか?』


『余計なお世話だ馬鹿亜人』


 アルクの服に残る血痕の量を見るに相当苦戦したようだが、減らず口を叩く程度には回復しているようなのでまあ良し。

 ——じゃなくてそんなことよりだ。


『だからなんでラトーナがここに居るんだよ!』


『ッ……それは…………』


 バツが悪そうに口をつぐんでいるラトーナに詰め寄る。

 アマゾネス共の集落に軟禁されている、というのは元はと言えばあくまで最悪のケースではあったが……

 それにしたってこんなふざけた格好してふざけた事をやってる事についてブチギレそうなんだ、それなりの説明がなきゃ俺もおさまらない。


『お話し中に失礼! ここだと近所迷惑だしそろそろ近衛兵が駆けつけてきそうなので場所を変えるべきだと思うのです!』


『あ、そうですね……』


 だが今は黒髪少女ビーナスガイアの提案を最優先すべきということで、ひとまず俺達が取っている宿まで全員で戻ることにした。


ーーー


『——じゃあいい加減話してもらおうかラトーナ、まずその格好は何さ』


 宿の一階酒場にて、テーブルの向かいに座るふざけた格好の少女二人……主に金髪の方を問い詰めた。

 流石にこの状況では逃げられないと観念したのか、ラトーナはようやく目元のマスクをとって口を開いた。

 そしてやはり金髪少女ビーナスムーンの正体はラトーナだった。いやまあ、わかりきっていたことだが……


『え、えっとそうね……まずは誤解よ。私はふざけて遊んでたわけじゃないわ』


『ほう? 続けて』


『あれはそう……私が川の下流で目覚めた時のことよ——』


 なんでも、川の下流に漂着したラトーナはすぐさま魔術で飛んで周辺に仲間の姿を探したが見つからなかったそうで、とりあえず中央都市がありそうな方角に向けて飛んでいったらしい。


『そこでよ、向かってくる鳥の魔物が角鬼族の子供を攫って巣に帰るところに遭遇したから助けたの』


『それが私の妹だったのです!』


 と、ここで彼女の隣に座る黒髪少女ビーナスガイアがビシリと挙手した。

 黒髪だし、カタクリから話を聞いていたのでこちらも分かりきったことだが、念のため名を尋ねる。


『はぁ、それで貴方のお名前は?』


『ふふん! 私こそが大地に愛されその抱擁を受ける者、スイレンッ!!! 異教の戦士よ、これは大地が定めし邂逅と知るが良い……のですッ!!!』


 ズビシッ!シュバッ!っと言った感じで文節ごとにポーズを決めながら高らかに名乗り上げた黒髪の少女は、やはりスイレンという事で間違いないようだ。

 しかしあれだな、一応この人はクロハの従姉妹いとこにあたるというのに、ふざけた雰囲気のせいかあまり似ていないな。まあ、俺とラトーナも顔が似てるわけじゃないが……今はどうでも良い話だな。


 ——そ、れ、よ、り、も、だ。

 この人がスイレン、『スカー』の代表戦士でありそして何より、アルクが密かに思いを寄せている存在という事になる。

 故に、ここで俺が取るべき行動は決まりきっている。


『フッフッフ……貴様も龍脈だいちに惹かれし者か。我こそはディン! 龍脈だいちを借り受けし魔術師なり! 美しき鬼の戦士よ、この邂逅は必然と言えよう……』


 ひとまず適当にノリを合わせながらスイレンの手を取って、腕を組んだままムスッと話を聞いていたアルクにチラリと目をやりつつ、俺はスイレンの手に軽い接吻を交わする仕草をした。


『なっ……!?』


 それを見たアルクは激しい動揺を見せながらテーブルから身を乗り出す。

 ふふふ、いい気味だ。元はと言えば今回の戦闘もアルクの独断専行による無駄な消耗だ。殴ってやろうと思っていたがこういった手法で仕返しするのも悪くな痛い痛い痛いッ!!!

 テーブルの下の俺の足を誰かがめっちゃ強く踏んでる……!!!


わたしの目の前で他の女に口付けなんて良い度胸ね? 意趣返しのつもり?』


『ッ、いや違くて——痛い痛い痛い!!!!』


 今度は俺の隣、誰か……というかアセリアが俺の耳を思い切り引っ張っている……!


『ディン君〜? アルク君とは仲良くしてほしいと話しましたよね?? 自分からちょっかい出して、もう忘れてしまったんですか〜???』


 二方向からの同時攻撃ッ!

 アルクを怒らせる事に夢中で潜んでいるトラップに気づかなかった……!


『そういえばアルク、傷はどうなんです!? ボロボロだったから心配なのです!』


 2人から攻撃を受ける俺を他所に、スイレンは何事もなかったようにアルクの方へと乗り出した。

 手元のキスに対してはまさかのノーリアクション、これじゃアルクも大して嫉妬しないので俺の骨折り損じゃないか、ちくしょうめ。


『……別に、問題ない』


『なに言うと——こほん! なに言ってるのです! ちゃんと手当しないとばい菌が入るので私に見せるのです!』


『うるさいッ!!!』


 和やかな雰囲気から一転、突如声を荒らげたアルクがスイレンの手を振り払って席を立つ。


『……疲労が溜まっている、俺は寝る』


 静まり返ったテーブルで、先ほどの手を差し出したまま目を見開いて硬直したスイレンを前にアルクは苛立ちを隠せない様子で舌打ちと共に目を逸らし、そそくさと上の部屋へと戻っていった。


『え、えっと積もる話もあるでしょうし、今日は解散にしましょうか……』


 怒涛の展開によってしらけた場の空気に皆が口を閉ざしていたところにアセリアがそう提案したことで今後の動きについては明日改めて話す事となり、俺はひとまずラトーナと2人で外を歩きながら今までの話をする事にした。


 もう半年近くこの章やってることに気づき戦慄。早く終わらせたい

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