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第216話 そうだ! 魔大陸に行こう!

タイトル変えました。


「だからさ! なんで半日でここまで散らかるんだよ!!!」


「私の部屋なんだからどうなっていようが勝手でしょ! まず乙女の部屋に口を出すのはどうかしてると思うの!」


「この汚部屋のどこに乙女要素を見いだせってんだ!」


 ことの発端はそう、今朝方ジーナスが珍しく俺に相談を持ちかけたことだ。


 一体どんな一大事かと息を呑んだが、蓋を開けてみればラトーナへのクレームだ。

 曰く、散らかり放題なラトーナの部屋を見かねて掃除しようとすると、まだ使うから片付けるなと拒否されてしまうらしい。


 ジーナスとしてはラトーナの仕事の邪魔はしたくないため引き下がったそうだがある日、ラトーナの部屋の前を通りかかるとドアの隙間から大量の虫が出てきて等々限界に達したらしい。


 ということで家主である俺の支配権を行使して昨日全員で大掃除を強行したのだが……

 翌朝こうして起こしに来てみればあら不思議、掃除前となんら変わらぬ景色が広がっていたのだ。


「ていうか乙女どうこう以前に、まず人としてどうかと思うよラトーナ」


「ッ……言わせておけば好き放題ね! 前々から思っていたけれど、ニッポンの一般常識を押し付けられても困るのだけれど!」


「日本関係ないからぁぁ! ジーナスさんからクレーム来てますからぁぁ!! 人として最低限の恥じらいを持ってくださぁぁい!!!」


「ッ! この前私にあんなこと要求しておいて良くもまぁ恥を説けるわね!」


「話をすり替えんな! あと隣にクロハがいるんだから夜の話はやめろ!」


「……変な制服きたラトーナ姐を縛るやつより、ラトーナ姐の散らかってる部屋の方が恥ずかしいと思う」


「えっ!?」


「おい待てなんで知ってるんだ!?!?」


 さっきから隣でボケっとしていたクロハから突然の助け舟。

 ラトーナはクロハの言うことは黙って聞く傾向が強いので有難いが……

 なんでこの子があの夜のプレイを知ってるんだ。鍵もかけたし防音の結界も張ったから、外に情報が漏れるはずないのに……


「ラトーナ姐さ、大人なんだからしっかりしなよ。ジーナス困ってるよ」


「……」


 軽蔑するかのようなクロハの視線に耐えかねたのか、ラトーナは力なく肩を落としそれを承諾した。

 目的は果たしたわけだが、巻き添えで俺の尊厳すらも犠牲になったので素直に喜べない。

 プレイ内容を聞いた時のジーナスのドン引き顔が忘れられない。最悪だ。


ーーー


「悪かったわよ……ま、また手錠着けるやつやるから……良い加減に機嫌を直しなさいよ」


「はいはい、どうせ俺は異常性癖ですよーだ。ミスターアブノーマルですぅー」


 思いがけぬ巻き込み事故から昼食を経て午後、俺とラトーナは二人揃ってリディの居る「記憶の守り手」七番隊詰め所へと向かう。


 ラトーナとリディの決闘からかれこれ半年ぶりの呼び出しだ。

 正確には「記憶の守り手」への入団試験の説明やらなんやらで一度呼ばれてるが、まあ細かいことはこの際いいだろう。

 入団試験に関しても、俺含めたリオンやラトーナ同期組は元々リディに推薦を受けていたから適当に実力見せて即合格だったし、配属もリディの所と決まってたから特に語ることはない。


 しかもリディが率いる七番隊はこの王国での特例部隊。 

 単独で一つの戦場をひっくり返す力を持つと認められる戦士、世間一般ので言う『抑止之騎士アルテミットワン』に該当する人間が二人も所属するこの部隊は、他の部隊に比べてめちゃくちゃ仕事が少ない。


 鬼神リディ不死鳥ルーデルが正式に動くとそれだけで他国に要らぬ警戒をさせるというのもあるが……

 国としては彼らはあくまで兵器であって、表に出して英雄扱いされることでこれ以上影響力を持たせない意図があるそうな(ラトーナ談)。


 まあそんなわけで、この半年ほどは偶に王都巡回のヘルプに出るくらいで、あとは不労所得でぬくぬくやってたわけでございます。しかも結構給料が良いのだから、俺の罪悪感たるや。

 先ほど性癖暴露ショーも甘んじて受け入れるべきと思ってしまう……いや、あれは流石に無理だわ。うん無理。もうお嫁に行けない。


「ッ……強情ね、私がこれだけ譲歩してるのに……」


「なにが譲歩だよ。自分だって結局はノリノリでヤるくせに……ていうか元々俺は悪くないし……」


「むぅぅ………」


 結局ラトーナを許しきれず、微妙な空気のまま俺達は詰め所に到着した。


「やあやあお二人さん! 久しぶりだね元気してた?」


「どうも。それで、何の要件ですか?」


 やけにテンションの高いリディの出迎えをさらりと流し、さっさとソファに腰掛ける。

 

「早速本題とはしばらく見ないうちに冷たくなっちゃって……まあ、俺達にもこういう時期は必要かな。離れている時間が愛を強くするんだよねーってあれ? 二人とも何かあったの?」


 何やらくだらないトンデモ自論を語り出したかと思えば、めざとく俺達が少し距離を開けてソファに並んでいることを指摘するリディ。

 ノンデリのくせにどうでも良いところにばっか気付きやがって。


「別に何もないですよ。あと、俺がいつリディさんのノリに合わせたことがあるのか教えて欲しいものです」


「ふーんそっか、まあ時には喧嘩もするものだよね。離れてる時間が——」


「それたった今聞いたよ!」


 そうツッコむとリディはやれやれと言った様子で腰を下ろし、それから少ししてセコウがお茶を持ってきてくれたタイミングで本題に入った。


「察してるとは思うがディンやラトーナ、君達には少々大掛かりな任務をこなしてもらうことになる」


 声音を低くしたリディに合わせ、俺とラトーナも姿勢を正す。

 そうか、予想よりだいぶ遅くなったがようやく初任務というやつか。

 王戦絡みなのは想像がつくが、大掛かりとなると一体何をさせられるんだ?


「君達は良く知っているだろうが約一年前、クーデターによってミーミル王国の従属国であるヴェイリル王国が滅び、新たに東の共和主義を元にしたヴァナヘイム共和国が成った」


「はい、それでミーミル統治下にあった開拓地を巡る問題が発生しあわや交戦になりかけたところで、お隣アスガルズ神聖国がヴァナヘイムへの肩入れをちらつかせたことで事態が膠着したんですよね」


「情報を更新するならば、ここ数ヶ月前にアスガルズは正式にヴァナヘイムとの同盟を結んだ。同じくミガルズ共和国もだ」


「まさか、この状況でミーミルは仕掛けるつもりなのですか?」


 眉を顰めたラトーナに対し、リディは静かに首を横に振る


「いいや。当初はそう言う意見も多かったが、やはり三国をまとめて相手取るような危ない橋は議会も渡りたくないらしい。結果としてはマルテ王子が当初進めていた融和策を軸にする方向で進み始めているのが現状だ」


「それだと、せっかく支持を得始めていた交戦を主張する王女派は下火まっしぐらじゃないですか」


「その通ーり!」


「いやなんでそんな余裕なんですか! 俺らの立場も危うくなるじゃないですか!」


「最後まで聞いてよ。本題はここからなんだから」


 つい声を荒らげた俺にリディはやれやれと言った風に咳払いをしたのち、その本題について語り始めた。


「……つまりは魔大国連盟との軍事同盟ってことですか?」


「まあ、概ねそんな感じだよ」


 端的にいうならば、現在クロエ王女のバックにいるラーマ王率いるムスペル王国と魔大国連盟による三国同盟を成立させることで共和国同盟(仮)に対抗できる軍事力を用意し、その手柄で王女陣営の地位を引き上げるというものだった。

 言うなれば非常にシンプルな作戦な訳だが、ここで一つの疑問が浮かぶ。


「あれ、ミーミルって魔大国と元々同盟を結んでませんでしたっけ?」


「それはあくまで友好条約であって、内容は貿易に関することがほとんどだ。それに魔大国は少々複雑な国でね、地域によっちゃそういった条約が適応されないってこともある」


「なるほど……えっと、それでどういう話でしたっけ?」


「今回改めて魔大国に軍事同盟を持ちかけるって話さ」


「ああ……ん? いやでも、そんな複雑な国の一部地域と同盟を結んだ程度で戦力になり得ますかね」


「そこが肝さ。これはまだ俺しか知り得ないことだが、どうやら魔大陸の方の情勢が大きく変わりそうなんだ」


「と、言いますと?」


「条約を結んでいた中央民族帯が未知の災害に見舞われ、それを鎮めるのに元首たるスルトルガン王を含めて多くの犠牲が出たっぽいんだ。そんで、次なる元首として新たにその地位についたのは、君達もよく知るジャランダラだよ」


「!」


 これまた懐かしい名前だ。

 あの4本腕の陽気な魔人が次なる王様か。学園では近代化について積極的に学んでいたし人柄も良い、何より彼自身英雄としての武勲も持ち合わせているのだから明君の素養はバッチリだろう。

 

「すでに知っているかもしれないが、彼は大陸各地に点在する六つの大規模民族帯を一つに統合して、一つの大規模国家を成立させるという構想を持っている」


「今のうちに彼と取引しておけば、統一後の大規模国家をそのまま戦力にできる、と言うことですか?」


「その通りだ。そしてその交渉を我ら王女派が速やかに行うわけなのだが、君たちにはその護衛の任についてもらいたいんだ。場合によっては、内線を防ぐために彼らに助力することもだ」


「お待ちくださいリディアン卿」


 ようやく話が飲み込めたと言うところで、ラトーナが手を挙げて待ったをかけた。


「何かな?」


「二つほど質問が」


「許可しよう」


「では問います、どうしてここからずっと離れた大地に災害が起きたことを卿だけが知っているのですか? また、その情報は本当に確かなものなのですか?」


「最初の質問から答えよう、俺だけ……と言うのは違ったね。すでに派閥の信用できるものには教えていることだ。そして知った方法に関してだが、これは二つ目の質問と合わせて答えると、俺の『未来視』によるものだ」


 リディの話を聞くラトーナの瞳が紫色に変色している。『読心』をしようしているようだ。

 まあ、確かに今の話に引っ掛かる要素は多いから不審に思うのも当然だ。実際俺も、リディの『未来視』に関してはラーマ王曰く真っ赤な嘘だから、そこらへんのことには今ので気づいただろうが……


「そうですか。失礼致しました」


 それ以上の追求をしないあたり、情報自体には信憑性があると見て良さそうだ。

 おそらくリディが持つ本来の『遺産』の力で入手した情報なのだろう。

 まあどの道、これ以上の追求は得策じゃないがな。


「と言うわけで二人にとっての初任務はかなり重大なものになってしまったわけだが……他にも仲間をつけるし、君達なら問題ないよね」


「はい」


「愚問ね」


 斯くして、俺たちの魔大陸行きが決定したのであった。

 未知の大地か……これはどうして中々、大冒険の予感がするな。

 魔大陸や魔大国連盟なんて色々呼び名が出てますが、正式な名は「魔国共同体」なんですわ。

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