孤独な機関
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――声が聞こえる。冷たい誰かの声。
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――押し寄せる声の波。前よりは幾分聞き取りやすい。人が助けを求めている声だ。
世界の荒波に呑まれそれでも必死に足掻く声。
その声は海の底に堕ちていった。
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「――っと、聞いてますかー?第一号さーん?」
「え?あ、何?ヴィスナ。」
少しボケっとしていて社長室に案内するって所から全く聞いてなかった。
「つきましたよーって言ったんです。さ、ご挨拶しに行きますよ。」
と言って社長室のドアを3回ゆっくりとノックする。どうぞと言われヴィスナが失礼しますといい入っていく
「異例者をお連れしました。」
辺りを見渡す。先程までの近未来的な造りとは違い趣のある木色を取り入れたゆったりとした寛げる空間となっていた。
はっと気が付き社長らしき白衣を着た若い男性に視線を向ける。
「そんな畏まらなくてもいいさ、とりあえずそこに座りたまえ。」
「…失礼します」
勧められたとおりに座席に腰をかける。
「さて、自己紹介しようか。
私はリソルト・ベル・ビーレシア。VSFの社長、ということらしい。」
?らしい?どういうことだろう…
その考えを読み取ったかのように続けた
「この機関は私が作ったものでは無い。かと言って前に社長がいたかというとそうでも無いんだ。
いつの間にか、私が社長になっていたのだよ
なんの前触れもなくその事実が頭の中に流れ込んできたんだ。」
…全くもって分からない。集団催眠でもかけられてんじゃないかって思うけど…集団催眠の時は傍観者がおかしくなっているんだよな…
「…よく分からない、って顔をしているね。無理もないさ。突拍子もない話だからね。
それはさておき、君は、何者だい?」
一気に緊張感が増す。場の空気は張り詰め冷蔵庫の中にいるのかと思うぐらいの寒さに包まれた。それでも、と声に出す
「私は…」
…なんだ、何故私の名前がわからない。死んだからか?この緊張に呑まれてか?…私は…
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!ふむ、これが私の名前か。我ながら変な名前だ。
「私は、ビナム・アンネーム。何も無い人です!」
と、自信満々に言った。
暫くの静寂が流れ
「あっははははははっ!そうか、そうか。何も無いのか。
いやー、悪かった。君が生きたままここに来たからどんな特殊な人なのか審議しようと思ってね。」
「いえ、無理もないですよ?異例ですし…」
「まぁ、安心したまえ。君は、普通未満の人だ。」
「それじゃ褒めてるのか貶してるのかわかりませんよ。」
「…本題に移った方がいいのではないでしょうか?」
隣で話を聞いていて苛立ってきたのかヴィスナが話を切り替える
「あぁ、そうだね。さて、今日からビナム君はこの会社の実験台になってもらう。拒否権はないよ?」
「…この会社は人類に味方する会社ですか。人に味方する会社ですか。」
リソルト社長を睨みつける。
私はきっての人間嫌い。人類を育てるために働くならそんなことは嫌だと言える人だ。
この質問で正解を選ばないとこの場で自害するつもりだ。
さぁ、どうくるか
「もちろん、人の為に。」
「…そうですか、では自害するのは諦めます。
それで私の仕事はなんでしょうか?」
「んー…とりあえず後日お伝えするよ。危険な旅になりそうだからね。」
「…了解しました。では帰ります。」
引っかかることもあったが今聞くべきことではないので放っておいた。…帰るって言ってもどこに帰ろうとしてるんだろう私。
「あ、私が案内します!では私もこれでー!」
何故か逃げるようにヴィスナが私の後を追いかけてきた。何かやらかしたのだろうか?まぁ、どうでもいい事だけど。
社長室から去った後社長の叫び声が聞こえたのは幻聴だろう。そうに違いない、と納得し部屋に向かうのであった
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「こちらがビナムさんの部屋になります。」
…部屋?どう考えても空間にしか見えない。
「あ、大丈夫です。ベッドもソファも想像すれば出てきますので。」
…どういう仕組みだ…と思って自分の部屋のベッドを想像して目を開けてみると何もなかったはずの部屋の隅にあのベッドと全く同じベッドがあった。
「詳しい技術は秘密です♪それでは、私は他の仕事が残っていますのでこれにて失礼しまーす。」
といい去っていった。あれは絶対お菓子とか食べに行く気だ。そういう胡散臭さが出ていた。
…さて、ここまでの状況をまとめよう。
まず、私は電車に轢かれて死んだ。
しかし、その死体はこの研究所に飛ばされてきて、そして私の魂はこの死体に戻ってきた。
それからヴィスナに出会い、社長塩さんの所に案内された。(塩じゃないよ!リソルトだよ!
…なにやら声が聞こえたが幻聴だ。
そんで、私はこの研究所の実験台らしい。何を実験しているのか分からないが身も蓋もないことだろう。
――今までの生活は夢だったのか
――そう感じるほどに今の物語は出来すぎていた




