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第三十九話:ケモ娘は馬車を買うようです。

「それとこれと、あとそれも!」


よく使っていることのわかる本棚が特徴的な、全体的に物が多いが綺麗に片付いている部屋。

そんな部屋のなかに元気な声が響く。


「この本棚も運んでちょうだい。」


「いや、流石にそれは無理だろう…。」


現在アニーの旅支度を手伝っているのだが、物が多すぎる。


「これから旅に出るのに、部屋のものが少なくなったら怪しまれないか?」


「いいわよそのくらい、適当に誤魔化せば。」


「アニー先生、運び終わったの。」


「じゃあ、次はこれ頼めるかしらっ」


「わかったのっ!」


アコはやる気をだしてダンジョンへの扉を往復しているし、いいのだろうかこんなんで?

アニーの部屋は予想通り本がたくさんあった。

たくさんといっても日本のように溢れてるわけではないが、本棚に溢れるくらいには詰まっている。


「それにしてもよくこんなに本を集めたよな。 高いんだろう?」


「買うと高いけれども、全部買ったわけじゃないわよ。 もらったりとか、お手伝いの報酬でもらうことが一番多いかしら。」


「ちょっとした本屋も開けるな。」


冗談でそう言うと、


「ダメよっ! どれも大切な子なんだからっ!」


強く反対された。


「冗談だって、冗談。」


「ならいんだけど…。 売ろうとしたりしたら許さないんだからねっ!」


こんな調子で旅支度という名の引越しはおわった。

ちなみにアニーはまだ両親には何も話していない。

支度を終えてから伝えるらしい。


「こんなもんか?」


「そうね。 なんだか部屋がスッキリしたわね。」


「そりゃほとんど運ばされたしな…。」


人一倍働いていたアコは、まだまだ元気そうにブドウジュースを飲んでいるのにこちらはへとへとだ。


「それじゃあ、お母さんに伝えたあとは馬車買いに行きましょうか。」


「そんな簡単でいいのか? 数日くらいいっしょにいてもいいんだぞ?」


「いやよ、もし数日もいて気が変わったりしたら大変だもの。」


アニーって意外と子供っぽいところがあるんだよな。


「それとミルちゃんの服とか買ったほうがいいんじゃない?」


「あー、そうだな。 頼めるか?」


「いいわよ。」


ていうか、お金は俺が払うのね。いや、いいけど。ミルは攫われて1銭も持ってないと言っていたし。


「アコちゃん、いきましょっ。 マスターがお洋服買っていいってっ!」


アニーに手を取られそう言われたアコは、少し心配そうな、でも嬉しさを隠せないような期待の眼差しでこちらを見てくる。

そんな顔されたらどうしようもないじゃないか…。


「あんまり、買いすぎるなよ…。」


「マスター、ありがとなのっ!」


「ふとっぱらね~」


その後、三人でアニーの家からでてぐるっとまわりブラウン商会へと向かう。

アニーとアコが服を買っている間は暇になるだろうと思っていたけど、アウラさんと馬の話をしていた。

なんでも乗馬が趣味で、今でもよく乗っているらしい。

その伝手で今回馬車屋を紹介してくれるらしい。

馬にも長距離用は短距離用などがあり、山道や街道など歩く場所により馬を変えるらしい。

日本にいたときなんて馬なんて見ることすらあまりなかったからな。


会計際にアニーがアウラさんに、


「お母さん、私この町を出ることにしたの。」


いきなりそう切り出した。

だが、いきなりそう切り出されたアウラさんは特に驚かずに、


「あら、そうなの? じゃあ、明日あたりに門出のお祝いね。」


と、にっこり笑うだけだった。


「部屋の者は大抵旅の資金にするために売っちゃったから、気にしないでね。」


「わかったわ。 お父さんには私から言っておくわ。」


そのあと二三言交わしただけであっさりと店を後にした。


「なんていうか、こんなあっさりしたものなのか? この世界の人って。」


隣を歩くアコにそう話しかける。


「アコなら寂しくてこんなすぐにおわかれなんてできないの。」


アコがそう言うと話を聞いていたアニーが、


「たぶん私の家族がおかしいだけよ。」


クスクスと笑いながらそう言ってくる。


「そうなのか?」


「私のお母さんね、元々が冒険者なの。 何十年も前にダンジョンを求めてこの都市にくるまで旅をしていたらしいの。 小さい時はね、お母さんの冒険の話を寝物語によく聴かされていたのよ。」


懐かしむように、何処か遠くを見ながらアニーが語る。


「あのアウラさんがねぇ」


おっとりとしていて、冒険者のようにはみえない。


「この都市にいついたのだって、服飾をしていたお父さんに一目ぼれしてそのまま結婚しちゃったからなのよ。 お母さん、奥手だったお父さんにものすごいアタックしたらしいわよ。」


あのおっとりとしたアウラさんがね…。


「アコ、その話ちょっと聞いてみたいの。」


アコは恋バナに興味あるお年頃ですかい?


「いいわよ、あとで話してあげる。」


ニッコリとアコに微笑みながらアニーが応える。


「あ、ここよ。」


話していたら馬車屋についていたらしい。


「カイドさんいますか~?」


アニーが店のなかにはいりながら人の名を呼ぶ。

ここはアウラさんが乗馬をするために通っている馬屋で、馬車は専門ではないがアウラさんがこの話をここの亭主にしたらちょうどいいものがあると話をもらってきたのだ。


「アウラさんのとこの嬢ちゃんじゃないか。 ひさしぶりだなぁ~。」


店の奥からヒゲの生やした小太りのおじさんがでてくる。


「そうですね、最後に会ったのは結構前ですから。」


「そっちのは、アニーちゃんの彼氏かい?」


そういってこちらを見てくる。


「そんなんじゃないですよ。 例の馬車を見に来たんです。」


「若いとは聞いてたがほんとにまだ若造じゃないか。」


つま先から頭の先までみてそういう。


「初めまして、旅の探求者をしているカケルといいます。」


「俺はここの亭主のカイドだ。 馬のことなら大抵なんとかできるぜっ。」


「今日は馬車がほしくてきたのですが。」


「聞いてるよ、裏にもう用意している。」


そういって店を出るカイドさんいついていくと裏手の少し広い庭に幌馬車と2頭の馬がいた。


「少し古いが、しっかりと整備してるからまだ全然使える。 この子達は最近来たばっかでこっちではまだ訓練がしっかり行き届いてないが前のところでも馬車馬をしていたんだろう、すぐに使えるよ。」


そういって2頭の馬の頭を撫でる。


「この馬は?」


「いい足してるだろ?長距離を走るのに向いてるぜ。この前王都の近くで商人を運んだ横転事故があってな、それで生き残っていた2頭なんだ。」


王都の近くの横転事故…。

うん、俺は知らんな。まったくもって心当たりがない。


「普通は馬車が転べば馬も巻き込まれるものなんだが、かなりの幸運をもっているぞ。」


馬車を転がした馬って見方もできるけどな…。いわないけど。


幌馬車のほうはそこそこの大きさで、横幅2~3メートル、縦幅4~5メートルといったとこだろうか?

幌馬車と付くようにちゃんと幌がついていて、幕を下ろせば中が見えないようになっているからダンジョンへの扉も馬車の中で出せそうだ。


「この馬、名前はなんていうの?」


アコがそんなことを質問していた。


「さぁ、なんなら嬢ちゃん名前つけてみるかい?」


「いいの?」


「名前が無いのも不便だしな、きっとこんな可愛い嬢ちゃんにつけられるならこの馬たちも本望だろうよ。」


ニカっとヒゲズラで笑うカイドさん。


「それじゃあ、この子がダルで、こっちがキリなの!」


ダルと名付けられたほうが少し大きめで眠たそうな目をしている。

キリと名付けられたほうはダルに比べ細めだが知的な目をしている。


「なかなかいいじゃねぇか。」


「ダルはちょっとダルっとしてるからダルなのっ!キリはキリってしてるからキリなのっ!」


そのまんまだった。


「ガハハ、嬢ちゃん名づけのセンスあるぜ!」


アコもこの馬が気に入ったのかアニーと一緒に触ったり撫でたりしている。


「これでいくらなんだ?」


「金貨3枚でいいぞ。 嬢ちゃんのセンスに免じて馬具はこっちで用意してやる。」


アウラさんの紹介だし、下手に値段交渉などしなくてもいいだろうとおもう。

もっと高いものだと思っていたし。


「では、それでお願いします。」


「出発はいつなんだ?」


「まだ決まっていませんが、来週中にはでるつもりです。」


「なら3日後に受け取りに来てくれ。代金もそのときでいい。」


「わかりますた。」


契約書にサインをし、店を後にする。


「アコも馬に乗れるようになりたいのっ!」


アコが帰り道にそういう。


「それなら私が教えてあげるわよっ」


「ほんとなのっ!?」


「アコちゃんならきっとすぐ乗れるようになるわよ。」


「たのしみなのっ!」


「それなら俺も乗れるようになりたいな。」


「マスターと一緒に練習するのっ!」


三人で楽しく街を歩く。

昨日あんなことがあったばかりだが、これからもこんな毎日が続くようにしっかりと守らなきゃなと、はしゃぐアニーとアコをみながら、そう思った。

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