第三十三話:ケモ娘はお肉様に心攫われるようです。
アルカード商会を出た後は特に寄り道もせずに探求者ギルドへと向かった。
ちらほらといる探求者の合間を通り資料室へ向かう。
「おはよう、今日はすこし遅かったのね。」
昨日買った本を読んでいたアニーが挨拶をしてくる。
「おはよう、馬車の件で話をしていてな。アルカード商会の馬車に乗せてもらうことになった。」
「おはようなの。」
挨拶を返したアコにニッコリと微笑んだあとに、
「最近エルフのポーションを売り始めたあそこ?」
アニーがそう聞いてきた。
なるほど、そういう触れ込みで売っているのか。
「たぶんそこだ。」
「じゃあ、馬車は買わないみたいね。お母さんの知り合いに馬車職人がいるって話だったけど。」
「ああ、すまないな。」
「別にいいのよ、決まるぶんには悪いことではないもの。出発はいつなの?」
「2週間後だ。」
「思ったより時間があるのね。」
「そうだな。ゆっくり準備するさ。」
そう言って、席に着き本を読み始める。
アコは買ってもらった本を読んでいる。
ときどきわからないことなどをアニーに聞いたりしているがしっかりと読み進めている。
俺は第6層からの本を読み始めた。
第6層からは空を飛ぶデビルバットや砂糖の取れるシュガージャガーという変わり種といった面白いのがいる。
落とし穴では倒しづらいのは目に見えている。残りの2週間はキングボア狩りかな。
アコは大喜びだろうな。
午前中をまったりとした時間の中で過ごし、お昼を食べたあとに別れ際にアニーが告げる。
「それじゃあ、また夕方にね。」
「できるだけ早めに行くようにするよ。」
「待ってるわ。あまり早く来られても困るけれど…。」
そう苦笑するアニー。
「アコちゃんもまたね。」
「またあとでなのっ!」
アコは元気に手を振る。
そのままニコニコとしたアコと手を繋ぎ王都のダンジョンへと向かう。
キングボア狩りもすっかり手慣れたものになってきた。
俺がすることといえば扉を開け走りレバーを引くだけの簡単なお仕事なんだから当たり前だが、アコの成長がものすごい。
第五層の扉を開けるとアコが真っ先に部屋の中へと入り、手にした弓を引きしぼりながら自分のダンジョンの扉を出す。
一連の流れがほんの数秒しかかからない。
俺が扉にたどり着く頃にはアコが次の矢を放っている。
最初は分厚い皮に弾かれたりしていたが、たまにだが目や口内など柔らかいところを的確に貫いたりしている。
扉を潜りレバーの下までたどり着くと、アコが弓を放ちながら、さらにレバーを下ろすタイミングまで教えてくれる完全サポート付き。
「いまなのっ!」
という合図に合わせてレバーを下ろすだけの簡単なお仕事です。
はい。
もうながら作業だ。
完全にベルトコンベアで運ばれてきた巨大な豚をレバーを引いて落としているのとあまり変わらない。
なんか違う気がする。異世界ダンジョンというのはもっとこう冒険をして、剣を振り、魔法を操り命がけで戦うものだったはずだっ!
今から剣の練習をして命がけで戦うかと言われたら答えはノーなんだけどね。
痛いのとか嫌じゃん。
入って2時間ほどたっただろうか。
すでに8体のキングボアを倒している。
「アコ、そろそろ休憩にしようか。」
「わかったのっ!」
「ジュース、なにのみたい?」
アコにはいろいろな種類の出せる飲み物は試させているが一番のお気に入りはブドウジュースらしい、次はオレンジジュースだな。
今の中で一番ハズレなのはいちごジュースだろうか。なんというか、苦味しかなかった。
レモネードあたりもたまに飲むかな?
「ブドウジュースなの!」
アコが笑顔で返事をする。
アコにジュースを渡し、先ほど手に入れたキングボアの肉で軽く料理を始める。
今まではただ焼いていただけだったけど、たまには趣向を凝らしてみようと思う。
いつかは豚丼なども作りたいが今日はトンカツだ。
小麦粉、卵、パン粉は事前に用意した。
油はダンジョン魔力で出す。
ここの油、なんか美味しくないんだよね。ダンジョン魔力で出すと普通なんだが…。
「マスター、なにをつくってるの?」
「俺の国の料理さ。」
「マスターの国の?」
「ああ、おいしいぞ〜。トンカツっていうんだ。」
「トンカツっ!たのしみなのっ!」
おいしいぞと自分でアコのハードルを上げる。
おいしいのは確かだしね。
パンなどに挟んでも美味しんだけど、さすがにお昼も食べたばかりだし、食べ過ぎると動けなくなるからトンカツだけだけ食べることにする。
肉は食べれないほどあるしね。
そうそう、肉といえば、冷蔵庫を作ったんだよね。
大樹の家の地下に小さな部屋を2つ作り狭い通路で繋ぎ、片方の部屋はダンジョン製作スキルの中にあった氷の部屋にする。
氷の部屋はそのまま冷凍庫に、隣の部屋は氷の部屋から流れ込んできた冷気でいい感じに冷蔵庫となった。
通路付近が冷え、壁側になると気温が上がってくるから使い分けもできるとなかなかの自信作だ。
なので、アルにうりさばき切れなかったお肉は半分は冷凍庫で眠っている。
「よし、こんなもんかな?」
軽く菜箸を刺してみて焼き具合を確かめ、よく揚がっていることを確認する。
ちなみに菜箸はダンジョン魔力で出しました。なぜか10ポイントと高かった。
「完成なの?」
アコが待ち切れないと言わんばかりにこちらをみてくる。
「まだ熱いからもう少し待とう。」
冷ましている間に次のものを揚げ始める。
「もういい?もういい?」
アコが耳をピクピクとさせながら問いかけてくる。
「熱いから気をつけろよ。火傷とかするからな。」
「わかったのっ!」
早速齧り付くアコだが、
「あふっ、あっ、あふいのっ」
中から飛び出してきた肉汁に反撃を受けている。
しかし、負けじと攻勢にでるアコに根負けしたトンカツは虚しく食べられるのみ。
アコのとろけるような勝利の笑みは見てるこっちもお腹いっぱいになる。
「おいひいのっ!さくさくほくほくでおいしいのっ!」
かなり大きめに切ったはずなのにもう一枚食べ終わっている。
「トンカツは逃げないからゆっくり食べなよ。」
自分でも1枚齧ってみるがなかなかおいしい。中から出てくる肉汁がたまらないっ!
それからは揚げて食べてを繰り返した。
あと1枚あと1枚となんだかんだでお腹いっぱいまで食べてしまった。パンなんて関係なかったな…。
結局そのあとダンジョンの中で休憩するだけで2時間くらいすぎていた。
外に出るとそろそろ街がオレンジ色に染まり始めようとしていた。




