第三十二話:ケモ娘は出発の予定が決まるようです。
「ふぁ〜」
アコが大きなあくびをする。
昨日の夜は遅くまで本を読んでいたからな。
俺が地図を読んでいる間、そばにいると眠気を我慢して買った本を読んでいた。
寝てていいって何度も言ったんだけどな。
「もうちょっと寝ててもいいんだぞ」
「大丈夫なのっ」
そう言ってアコは俺にすり寄ってくる。
「ますたぁ…」
すこし甘い声でアコが呼びかける。
「な、なんだ。」
すこしドキッとしたのは内緒だ。
「オレンジジュースが飲みたいの」
ついつい甘やかしてしまうのは、俺の悪い癖なんだろうなぁ…。
最近アコの食欲が増えている気がする。
オレンジジュースが飲み、しばらくアコは弓の練習を、俺はポーションを作った。
朝食を食べた後はポーションを売りにアルのところへ行くのが最近の朝の習慣だ。
ちなみに朝食はキングボアのステーキだった。
アコは喜んでいたが、朝からステーキはきつかった。
スープのなかにも肉があり全体的にギットリとした朝食だった。
「よぉ、相変わらず朝は忙しそうだな。」
「俺の串焼きを楽しみにしている奴のためにも仕事は午前中に終わらせたいからな。」
そういって笑顔を作るアルにポーションを渡す。
最近は顔を見せるだけで店員が二階の執務室に通されるようになった。
顔パスで通れるってのはなんでも偉くなった気がしてくる。
「聞いたか?例の奴隷商を襲ってる集団。王都軍を返り討ちにしてさらに奴隷を解放しているらしい。おかげで奴隷商は今ピリピリして頭禿げ始めてるぜ。」
笑いながらそう言ってくる。
禿げに懲りたらもう奴隷商などやらなくなるといいが、そんなこともないんだろうな。
「これで奴隷商の見分けがつけやすくなったなっ」
冗談を言って返す。
「こっちはお前のポーションのおかげで客が戻ってきて売り上げが右肩上がりだぜ。」
「そのポーションのことなんだがな。」
「なんだ、とうとう本腰を入れて薬師になる決意でもしたか?」
「逆だ、お金も溜まってきたし来週あたりにこの街を出るつもりにしたんだ。」
「そうか、元々そういう話だったもんな。」
「すまないな、やっと売れ始めてきたところだったのに。」
「気にすんなよ、在庫はたくさんある。おひとりさま1本までと制限をつけたらしばらくは持つさ。」
「できるだけここにいる間はポーションを持ってくるようにするよ。」
「助かるよ、でも、あまり目立つなよ。最近ライアードの連中がピリピリしているからな。」
「あの、ライルって町からポーションを持ってきてるところだっけか?」
誰かが儲けると誰かが損をすると、どこかで聞いたな。
「ああ、ポーションの仕入れが少なくなって値上げしている時に自分のところよりもいいポーションが売られ始めたらな。」
「それは機嫌も損ねるわな。」
「お前が望むなら護衛くらいならつけてもいいぞ。」
VIP待遇だな。
「さすがに遠慮しとくよ。これでも探求者の端くれだ。自分の身くらいは自分で守れるよ。」
「俺はお前よりもその子の心配をしているんだがな。」
「あ、アコは強いのっ!マスターを守るのはアコなの!」
アコがそういうとアルが微笑む。
「守るのもいいがたまにはマスターに守られてもらえよ。」
「余計なお世話だっ」
ポーションの売上金を数えおわり、
「ああ、そうだ。それで来週あたりには出るからいろいろご入用でな。明日時間ができるからその時にゆっくり買い物にくるよ。」
「大抵のものなら置いてるぜ。」
「それと、移動手段をどうするか迷ってるんだよね。」
「移動手段?」
「この国の乗合馬車には乗りにくいだろう?」
「ああ、そういうことか。」
察してくれた。
「馬でも買えばいいじゃないか。今のお前ならそんな高い買い物でもないだろう?」
「そうなんだが、乗れないんだよ、馬。」
「それなら歩きか海路になるぞ?どこまで行くつもりなんだ?」
「城塞都市サートルだよ。」
「サートルか。それなら俺の商会の馬車に乗るか?」
「いいのか?」
「ああ、出発は2週間後で、荷物とぎゅうぎゅう詰めでもいいならタダで乗ってもいいぞ。」
妙に気前がいいが、他に手も思いつかないしお願いする。
「頼むよ。」
「わかった、手配しておく。」
「じゃあ、これから探求者ギルドの資料室によるからそろそろいくよ。」
「下まで送ろう。」
3人で執務室を出て店の一階にいくと、男性の店員が声をかけてくる。
「アルカードさん、サートル行きの馬車に積む魔道具の準備が整ってますよ。出発は予定通り3日後でいいですか?」
それを聞いたアルがニヤニヤ笑いながら応える。
「2週間後に変更だ。ポーションを売ってもらわなければならんからな。」
なるほど、馬車に乗せてもらう料金はこれか…。
商人は何考えてるかわからないなと苦笑した後、よくわかっていないのか首をかしげるアコを見て癒されることにした。




