【ノノンマの世界】
此処はとある野球スタジアムです。
アナタは此処で2日間過ごさなければなりません。
アナタは野球スタジアム内を自由に移動する事が出来ます。
此処にはアナタ以外の人間は居ません。
球場には赤黒い裸に六腕のヒトモドキが複数人で野球を楽しんでおりますが、アナタには無関心のようです。
世にも珍しい人外が行う野球の試合を心ゆくまでお楽しみください。
スタジアム内に有る売店の商品はご自由に飲み食いする事が出来るので、アナタはこの2日間、飢える事は有りません。
座り心地の良い観戦席で睡眠を取る事も出来ます。
アナタは刺激的なショーを楽しめる2日間になるでしょう。
1日が経ちました。
ヒトモドキのやる野球の試合は思いのほか楽しく、見応えのあるモノで、アナタは夢中になって観戦しています。
ポップコーンを片手に炭酸飲料を飲みながら、世にも珍しい人外が戯れるスポーツ観戦は、アナタの日頃のストレスを解消する事が出来るでしょう。
2日が経ちました。
野球スタジアムの球場入り口に「212」と書かれた扉が出現しました。
おめでとうございます、その扉は正真正銘の外へと出られる扉です。
アナタは球場入り口に向かおうとしますが、球場に居るヒトモドキが一斉に扉に向かって動き出しました。
アナタはヒトモドキの突然の行動に驚き、目を白黒させて居ると、野球スタジアム内に放送が流れます。
扉から外に出られるのはヒトリ限りです、先着ですので、お帰りの際はお急ぎください。
放送を聴いたアナタは、急いで球場の入り口へと向かいます。
幸い、ヒトモドキの動きは遅く、アナタは充分に間に合うと確信しました。
息を切らせながらも、扉まで残りの10メートル程の距離までたどり着きました。
アナタの前には一体だけヒトモドキが扉に向けて歩いていますが、軽く走れば充分に追い抜かせます。
ホッと息を吐き歩みを進めようとした時、突然アナタの形が掴まれました。
アナタは驚いて振り向くと、一体のヒトモドキが六の腕でアナタの体を取り押さえて居たのです。
アナタは恐怖に顔を引き攣らせました。
何故なら、遠くから観戦してた時には気付かなかったが、ヒトモドキの顔面には年老いた老人の苦悶に満ちた顔が張り付いていたからです。
アナタは悲鳴を上げながら扉へと向かいます。
ヒトモドキが枷となり思うように動けないながらも、アナタは必死で扉へと歩みを進めました。
アナタは一歩、また一歩と着実に扉へと近づき、遂に扉に手が掛かりました。
ガチャリと音を立て扉を開くと、見慣れた外の世界が見えます。
アナタはホッとすると、そのまま扉を潜ろうとしました。
しかし、体が動きません。
アナタは驚いて振り向くと、そこには複数体のヒトモドキがアナタを外に出すまいと、アナタの体にへばりついていたからです。
アナタは必死にヒトモドキ達を振り解こうしましたが、アナタが藻掻いているすぐ横を一体のヒトモドキが横切っていきました。
アナタはそれを呆然と見送り、通り過ぎて行ったヒトモドキはそのまま扉の向こうへと消えていきます。
アナタはそれに続こうと必死に扉へと手を伸びしますが、その手が触れる前に扉は消えてしまいました。
絶望し、絶叫をあげるアナタの体は、徐々に変化していきます。
裸は段々と赤黒く変色し、両腕は裂けほっそりとした六腕となってしまいました。
アナタが気付いた時には、周りに蠢くヒトモドキとまったく同じ姿へと変じてしまったのです。
アナタは深い絶望と悲しみで顔が崩れ、まるで苦悶の表情を浮かべる老人の様な顔になってしまいました。
アナタはその場で何日も何週間も何ヶ月も泣いて過ごします。
数年がたった頃、アナタは考えるのをやめて、周りの同胞と共に野球の試合を坦々とするようになりました。
それから数十年。アナタは、野球スタジアム内の観客席でポップコーンを片手に炭酸飲料を飲みながらアナタの野球を観戦する、扉の奥からやって来た人間の姿見て、その口元を不気味に吊り上げたのです。




