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5話

 少女の言葉と同時に、影たちが由希に向かって襲い掛かってきた。

 影たちの動きは獰猛な肉食獣を彷彿とさせた。

 由希は転がるようにして何とか回避した。由希がいた場所に、巨大な穴が空いていた。

「な、何なんだよ、これ!?」

「何って……うーん、触れ合い?」

「は、はあ!?」

「こういうの好きなくせにー」

 再び影たちが襲い掛かる。由希はこけつまろびつそれらを交わす。

 混乱の余り、由希の思考回路は擦り切れてしまいそうだった。

 未だ少女の素性は知れないまま。

 それに加えて、今由希を襲っている正体不明の物体。

 少女の様子からして、由希は彼女がこの影たちを操っているのだと理解した。

 どういう理屈で?

 影にどうして質量があって、道を壊したりしてる?

 それをなぜ、少女は自分に向けている?

 疑問は枚挙にいとまがない。しかし、それをいちいち考察してる暇はないようだった。

 とにかく、今はこの危機的状況を打破する術を考えなければいけないのだ。

「ちょっとお兄さん!」

 少女が不満そうな顔で言った。

「どうして反撃してこないの?このままじゃ死んじゃうよ」

「反撃って、こんな訳のわからない奴らにどうやって?」

「そんなの、男の子たちにやったことをすればいいじゃない」

「な、なに!?」

 少女の言葉に驚きつつ、由希は自分が先日破壊した残骸が折り重なって物陰を作っている部分を見つけた。

「くそ!」

 由希は転がるようにしてそこに隠れた。

 背中に硬い感触と、死の予感を感じながら、必死で息を整える。

「ほらほら、隠れてるだけじゃあつまんないよ。反撃しないと、反撃」

 少女の挑発する台詞が由希に届く。同時に、先ほどの影たちが辺りを破壊する音も聞こえてきた。

 正直、八方ふさがりだ。あんな何がなんだかわからない物体にどうやって対抗すればいいのだ。

「……いや」

 ひとつ方法がある。

 先ほど少女が言った事を思い出す。

 先日自分が起こした不可解な現象。

 今日ここの惨状を見て愕然としたものだが、事ここにいたってはそれだけが頼みの綱だ。

 もう一度、一か八かあの状況を再現できればこの状況も打破できるかもしれない。

 しかし、どうやって?

「お兄さん……変わってるね」

 いつのまにか由希の前に少女がいた。

「だって、こんな危ない目にあってるのに反撃してこないんだもん」

「何度もいってるだろ……使い方がわかんないんだって」

「はあ......じゃあ、しょうがないか」

 少女が大袈裟にため息をついた。

「こういうのは卑怯っぽくてやりたくないんだけど」

 少女の意図が分からず、由希は二の句を継ぐ事ができなかった。

「優しいおじさんとおばさんがいるんだよね?今も由希くんの帰りを待ってる」

「......え?」

「ここで、由希くんが本気を出してくれないんだったら、その人たちがどうなっちゃうか、わかんないよ?」

 少女の発した言葉が、由希の腹の奥の感情を刺激した。

 それはつまり、俺が少女を止めなければ、叔父夫婦を手にかけるというのか。

 あまりにも露骨でわかりやすい挑発だった。

 しかし、十分だった。

 俺のせいで、叔父夫婦が危険な目に遭う。

 俺の行動のせいで。

 両親と、まひろだけじゃなく。

 優しい叔父さん、叔母さんまで。

 由希は全身の血が急速に巡るのを感じた。

 それに応えるように、周囲に変化が現れた。

 不良たちに絡まれた時と同じように、物体が一人でに壊れ始めた。

「おお、やっとやる気になってくれたね!」

「ふざけるなよ」

「ん?」

「これ以上、俺は大切なものを失いたくないんだ」

「そうだねそうだね。だから、ここで私を倒さなきゃ」

 少女は余裕を崩さないまま答えた。

 その様子に由希は覚悟を決めた。

 とにかく、この少女を黙らせる。

 由希は少女に向かって駆け出した。

 影が由希を取り囲み押しつぶそうとしてきて、その攻撃に対して由希はただ本能のまま、腕を振るった。

 すると――

「嘘!?」

 由希の手に触れた影が弾け飛んだ。

 その理屈は例によって分からなかったが、由希はそのまま他の影たちも蹴散らしていく。

 初めて少女の顔に焦りが生まれた。

 由希の勢いに釣られるようにして周囲の物体も次々と崩れたり、弾け飛んだりした。

 その中の一つ、少女の後ろにあった建物のガラスが割れ、少女に向かって降り注いだ。

「っ!」

 少女がそれを躱そうとして、目の前に迫っている由希を思い出し、視線が行き来した。

 その一瞬の迷いで、少女の判断が遅れた。

「きゃああああ!」

 少女の叫びはやがて消えた。

 そして、由希は言った。

「……大丈夫か?」

「……え?」

 少女が恐る恐る目を開けた。

 由希がガラスの雨から少女を庇ったのだ。

「ど、どうして」

「わからない。さっきまで君を許せなかったけど……それでも、目の前で怪我をされるのは嫌だった」

 由希の言葉に、少女は言葉を失ったまま、由希の瞳を見つめていた。

 心の中を見透かそうとするかのような視線に、由希は耐えきれなくなって慌てて立ち上がった。

「えっと、立てる?」

 答えないまま、少女は由希の手を取ったので、引っ張り上げた。

 少女はまだ上の空のような顔のまま、

「あ、ありがとう」

「こ、こちらこそ?」

 なんだか妙な雰囲気になってしまい、由希はこの場をどう収めればいいかわからなくなっていた。

 由希がなんとか気の利いた方法を考えていると――

「!」

 突然何かが破裂するような音が聞こえた。

 少女の頬に一筋、血が流れて、少女が音のした方向を振り返った。

 由希も釣られて目を向けた。

「……まひろ?」

 そこには、見慣れた幼馴染の姿があった。


 頬から流れ出る血を見て、少女はようやく我に返ったようだった。

「誰、あなた」

「それは、こっちのセリフ」

「いきなりこんな……傷になったらどうしてくれるの」

「オーナーはそれくらい日常茶飯事でしょう」

「へえ?その訳知りな口ぶりから察するにあなたもオーナーなのかな?その割には拳銃なんて無粋なものを持ってるんだね」

「そんなことはどうでもいい。それよりも、由希から離れて」

「なにそれ、そんなことあなたに言われる筋合いないんですけど」

「ふざけないで」

 棘のあるチリチリとした舌戦を、由希は自分に飛び火してこないことを祈りながら見守った。

 そんな由希の思いもむなしく、まひろは手にしていた銃口を少女に向けた。

「伏せて!」

「へ?」

 由希は状況を理解できず、気の抜けた声を出した瞬間、再び破裂音、つまり銃声が響いた。

「うわっと」

 少女が銃弾をひらりと躱した。

 すると、たまたま弾丸の射線上にいた由希の足元のアスファルトに小さな穴が空いた。

 その穴には、銃弾が確かに突き刺さっていた。

「ちょ、ちょっと待てまひろ!それ、本物か」

 由希の抗議を無視してまひろは続けて拳銃を撃った。

「うおおおおお!待て待て」

 気づけばもう片方の手にも拳銃を装備して、いわゆる銃弾の雨が降り注ぐ。

「待て待て待て、ほんと、タンマ!まひろさん、プリーズウエイト!」

「だから伏せろって言った!」

「伏せてどうにかなるレベルじゃないだろ!」

「何やってるの、あなたたち」

 由希とまひろを見て、少女が呆れたようにため息をついた。

 同時に、恐らく拳銃の方向から弾丸の方向を予測しているのだろう、少女は最小限の動きで銃弾を躱していた。

 その一方で由希は脚を奇妙なダンスを演じる羽目になったいたわけだが。

 やがて銃弾が切れたのか、まひろが手に持っていた銃を放った。すると、地面の上を転がった銃はまるで浜辺の砂で作った城が波にさらわれるかのように風に溶けて行った。

 まひろがさらに左手を宙にかざすと、空中からまるで3Dプリンタのように拳銃が生成されて彼女の手に収まった。

 その様子をみて、少女が呟いた。

「なるほど、それがあなたの力だったわけ」

「答える必要はない」

 再び銃撃。

 同時に、まひろは少女に向かって突進し、銃撃と共に高速の回し蹴りを放った。

 一瞬不意を突かれた少女は、まひろの蹴りを躱した瞬間、わずかに体制を崩した。

 不利な体勢の少女にまひろが銃を放つ。

 今度は少女はその銃弾を躱せなかった。

「うふ、無駄無駄」

 しかし、弾丸が少女に当たることはなかった。

 浮遊する影の物体が、少女に迫る銃弾を飲み込んでいたのだ。

 その光景にまひろは目を瞠り、続けて銃を放ちながら距離を取った。それらの銃弾も全て影たちに飲み込まれていった。

「さて、満足したかな?」

 戯れのように笑う少女にまひろは油断なく銃を突き付けていたが、やがて銃を放り投げ、右手を宙にかざした。

 まひろの手のひらの上で新たな銃が作り出されていく。先ほどまでの拳銃よりも巨大なようで、その正体がわかった由希は思わず叫んだ。

「グ、グレネードランチャー?!?」

 ゲームでしか見たことのない代物を目の当たりにして唖然とする由希を無視して、まひろは躊躇なくグレネードランチャーを少女に向けた。

 由希は慌ててまひろを制する。

「待て、待て、そんなのこんなところでぶっ放すつもりかよ」

「由希、伏せて!」

「いや、そういうことじゃねえだろ、絶対!」

 言いつけを無視して、由希はまひろに駆け寄り、グレネードランチャーを取り上げようとした。

「な、何をするの!」

「こんなの使ったらこの辺がめちゃくちゃになるだろうが!」

「周囲に人がいないことは確認してる」

「それでも、これ以上この場所を破壊するわけにはいくか!」

「でも、あいつを仕留めないと」

 そうやって二人でもめていると、

「君たち、何をやっている!」

 由希が声の方を向くと、そこには警察官の姿があった。

「人いるじゃねえか!」

「そんな、馬鹿な」

「あれだけ、派手に銃声鳴らしてたら当然だよね……とりあえず、今日はここまでにしようか」

 不敵に笑い少女は身を翻した。

 去り際に少女が由希の方を見た。

「それじゃあ、またね、お兄さん……今日はありがと」

 そう言い残して少女は去っていった。

 由希は小さくなっていく少女の背中を見つめた。

 結局彼女は何者だったのか。

 それはわからずじまいになってしまった。

 しかし、またどこかで会うようなそんな気がしていた。

「由希、何してるの!」

「あ、ああ」

 由希は警官に見つかっていた事を思い出した。

 慌ててまひろの後を追う。

「まひろ、これ、どこ向かってるんだ」

「……れ」

「え?どこだって?」

「あの人、誰?」

 走りながら、まひろが尋ねてきた。

 なぜか鬼気迫る声音だったが、由希は正直に答えた。

「この前、知り合ったんだ。そしたらまた今日会って、服が可愛くて。そしたら、襲ってきたんだ」

 走りながらかつ、頭の整理がまだなのにしては、なんとか掻い摘んで説明することが出来たはずだ。

 まひろが、突然空中に向けて銃を撃った。

「おわ!」

 驚きのあまり由希は転びそうになるのを何とか堪えた。

「どうしたんだよ、まひろ」

「なんでもないわ」

「じゃあ、何で銃撃ったの今!」

「なんでもない!」

 結局よくわからないまま、由希はまひろを追い続けた。

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