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24話

 突然響いたその声に、由希は思わず振り向く。

 そこにいたのは、

「瑠夏!」

 由希の呼びかけは、瑠香には届いていないようで、彼女の視線はその先にいるもう一つの人影に向けられていた。

 人影は、黒いローブを全身に纏っていた。

由希はその姿に見覚えがった。

そして、ローブの人物は以前と同じように能力で生成した拳銃をまひろに向けた。

「まひろ!」

由希がまひろを庇おうと動くよりも先に、銃声が響く。

しかし、凶弾はまひろに届くことはなかった。

「ミントさん!」

ミントがまひろのの前に立ちふさがり、銃弾をその小さな体で受け止めていた。

 彼女の服が赤く染まっていき、

「く……油断したにゃ」

ぼやきながら、ミントはその場に倒れこんだ。

唖然とする一同に構わず、ローブの人物は新たに生成した銃を、再びまひろに向けて構えた。

引き金が引かれる瞬間――

「!」

足元の影が歪み、食虫植物のようにローブの人物を飲み込もうとした。

 瑠香が能力の影で攻撃したのだ。

「もうやめてください、リーダー」

 毅然と、瑠夏は行った。

「これ以上、あなたが人を殺めるのなら、私はあなたを止めます」

 いつもの快活な瑠香からは想像も出つかないほどの硬い声音だった。

 瑠夏の言葉にローブの人物は一瞬ためらったようだったが、やがて狙いを瑠夏に変えたようだった。

 複数の銃声が鳴り響く。

 瑠夏の影が蠢き、彼女の前に壁となって現れ銃弾を受け止めた。

 再びローブの人物が宙に手をかざす。

 光と共に持ち主の身の丈以上もある巨大な物体が現れた。

 それは対戦車用に設計されたライフルだった。

 本来なら地面に設置して使用するはずのそれを、ローブの人物は両手で抱えて瑠夏に狙いをつけた。

 まるでダイナマイトが爆発したかのような音と共に銃弾が発射される。

 しかし、その弾丸を瑠夏は身を捻って交わす。瑠夏は弾丸の衝撃波で髪とスカートを揺らしながら、ローブの人物に肉薄し、針のように具現化させた影を撃ち込んだ。

 ローブの人物は紙一重でかわしながら、いつのまにか手にした銃で反撃する。

 ゼロ距離の展開が繰り広げられる。

 今更ながら、瑠夏がオーナーとして高い戦闘力を持っていることをユキは理解した。

 影を使った攻撃と体術のバランスは、オーナーとして生きてきた年月の長さを物語っていた。

 しかし、ユキは同時に瑠夏の動きに迷いがあることを感じた。

 後一歩の所で攻撃を止めているような気がしてならないのだ。

 やがてそれは二人の間の攻防戦に、形となって現れる。

 徐々にローブの人物の反撃が瑠夏の体に届き始め、瑠夏の表情に余裕がなくなって行った。

 そして、遂に均衡が崩れた。

 ローブの人物の銃弾が、瑠香のふくらはぎを貫き、追い打ちに数発、彼女の体に穴をあけた。

「かはっ!」

 瑠香が力をふり絞って、影の刃を飛ばす。

 ローブの人物はその反撃をかわした。

 最後の一撃を躱された瑠夏は力尽きたように崩れ落ちた。

 しかし、最後の瑠夏の一撃は、ローブの人物の被っていたフードを切り裂いた。

 慌てたようにしてローブの人物が距離を取るが、遂にローブの人物の願望が顕になった。

 そして、その場にいた全員が驚愕した。

「まさか……そんな」

 ローブの人物の素顔は、まひろとまったく同じ顔だった。

 驚きは由希とまひろだけのものではなく、瑠香も同様のようだった。

「一体、どういうこと……」

 瑠夏は血溜まりの中でつぶやいた。その問いかけに応えるように、その人物は口を開いた。

「許せないの」

 初めて聞くその声は、まひろそのものだった。その言葉は他でもないまひろに向けられていた。

「偽物のお前が由希と仲良くなっていくのが」

「......え?」

 由希は思わず聞き返した。

 まひろは驚愕のあまり言葉を失っているようだった。

 そんな二人に対して、まるで突きつけるようにその人物は言った。

「そいつはね、私が能力によって生み出した、私の複製品なのよ」

 由希はその人物の言葉が理解できなかった。

 まひろが偽物?複製品?

「一体、何を言ってるんだ」

「言葉通りよ......そいつは私が生み出したコピーなのよ」

「そんなの、信じられるわけないだろ!お前は、一体何者だ!」

「楠森まひろ」

 その人物は、毅然と答えた。

「そんなわけ......」

「……ねえ由希」

 その声音は、由希の耳に馴染みがあった。

 だから、由希は無視することが出来なかった。

「覚えてる?由希が昔に私を守るって言ってくれたこと」

 もちろん、覚えている。

 大切な人と交わした、由希にとってもっとも大事な約束。

 しかし、それは誰にも話したことがない。

 二人だけの秘密。

 だから、他に知っている人間など――

「その時に一緒に私にくれた指輪。由希が私にプレゼントって言ってくれて、名前入りの、世界に一組だけの指輪って、買ってくれたよね……由希の叔父さんたちに見せたら、小さいのにませてるなんて、言われて恥ずかしかった……でも、本当に嬉しかった」

 由希の考えとは裏腹に、その人物は由希との思い出を語る。

 その内容は、由希の記憶にあるものと全く同じだった。

「5年前に由希の前からいなくなってからも、私はこれだけを頼りに今までやってきた……」

 恨みを込めた言葉と共に、その人物は右手を突き出した。

 その手には、指輪が嵌められていた。

 それは、他でもない、由希のプレゼントした指輪だった。

 先日まひろの部屋に行ったときに、見つけることが出来なかったそれを、その人物は着けていた。

 呆然とする由希を咎めるように、その人物は叫んだ。

「だからこそ、許せなかった!そいつのために、由希がこの指輪を無かったことにしたこと。新しい指輪を買うっていったこと!」

 激しい声音は真剣そのもので、由希たちを惑わそうという意図は感じられなかった。

「だから、消さなきゃいけない」

 その人物はまひろに銃を向けた。

 まひろはその人物の言葉に動揺して動きが遅れた。

 銃声が響く。

「……え?」

 その人物は言葉を失った。

 由希がまひろを庇って、弾丸を受け止めたのだ。

 耐えがたい激痛が由希を襲う。

「由希......どうして、そいつを庇うの」

 その人物は、由希の行動に酷く動揺しているようだった。

「どうして……どうしてよ」

 そう言い残して、その人物は逃げるように踵を返した。

 彼女の目の前の空間が揺らめき、向こう側へ消えていった。

「由希!」

 脅威が去って、まひろが由希に駆け寄ってきた。

 出血の多さにパニックになっているようだった。

「俺は、大丈夫だ……それよりも、あの子を、瑠香を頼む。後ミントさんも……彼女たちの方が重症だ」

 まひろは心細そうな顔のままだったが、二人を見た後小さく頷いた。

 由希は安心すると同時に、急激な眠気が襲ってきて、やがて意識を失った。

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