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第三十七話 自主警護

 同時刻にて登喜子達一行は、どうしているのかというと。彼女らは王都から移動して、別の街にいた。

 王都より西方にある、大きな街だが、規模は王都の半分以下である。こちらも文化のアマテラス化が進んでおり、あまり代わり映えしない、和洋折衷の風景が広がっていた


 そしてその街の、とある大きな公園にて、昨日の登喜子達が立ち会った場所と、殆ど同じような光景が広がっていた。それは野外ライブの準備をしている、公園の広間である。

 昨日との違いがあるとすれば、広場の側に大きな河が流れているか否かと言ったという程度の事だ。その河原近くの草原に、彼女らはいた。


「あらまぁ・・・・・・場所は全然違うのに、昨日と全く同じものを見せられている気分ですな。やっぱり今日も、あの娘らの歌を見なきゃいけないんですかい?」

「まあそうなるわね。券は売り切れてたから、遠くから観察することになるんでしょうけど。一応望遠鏡も買っておいたし。何かあれば転移魔法で、すぐ駆けつければいいわ。それより、あいつらの今回の待機所はどこかしらね」

「う~~ん、ずっとあの娘らを張り込んでいくんですかい? まるでストーカーみたいですわ。しかも危惧した理由が、占いでってのが、なんか珍妙な話しですけどな」

「うん・・・・・・ごめん皆・・・・・・」


 ヒューゴが随分と後ろめたい雰囲気で、そう発言している。ヒューゴが登喜子に頼んだのは、東北姫達の護衛だったのだ。

 東北姫のこの国での活動日程は六日間。最初に王都で講演し、それから王国の各主要都市を一日一回ずつ行い、そして最後に王都に戻り、そこで二度目の講演を行って終了である。

 王都では二度公園があるために、時間の都合上そっちに回す者もいる。どうやら彼らが当日でも券を買えたのは、それが原因であるらしい。


「な~~に言ってるの! どうせ他にやることもないし、断る理由もないでしょ? それに実際問題として、あの子らのことかなり心配だわ。昨日の奴は刃物でかかったみたいだけど、もし次の奴が銃を持ってたら、さすがにそこらの奴じゃ守れないしね。これは誠実な大人として、私が守って上げないと・・・・・・」

「そうですなぁ。警察も警備も、原始的な武器しか持ってませんが、姐さんは山ほど銃を持ってますからな。やばい奴らが出たらそいつで・・・・・・。」

「いや、だから銃は出しちゃ駄目だって・・・・・・」

「ああ、その通りだ止めろ。この国じゃ、玩具の銃ですら、警戒されるからな」

「「!?」」


 最後の声をかけたのは、この一行の者ではない。だが初めて聞く声でもない。一行が右横に振り向くと、案の定そこには真澄がいた。

 先日の銭湯の件があってか、もうヒューゴの前に顔を見せるのも躊躇わない。昨日は風呂場での裸の出会いだったが、今日は勿論服を着ている。

 以前ロウ王国で別れた時と、ほぼ変わらない出で立ちだ。だが腰に差されている刀は、以前とは違うものになっているようだった。


「ああ、あんたか。なんだかんだ言って、ほぼ毎日会うわね」

「確かにな・・・・・・この縁はよいことであることを祈るよ」

「しかし鰐の姐さん。前より腰の物が安物臭くなってますな。生活苦しくて、竹光に変えましたかい?」

「違う・・・・・・昨日も言ったろ。ここでは銃だけでなく、機械武器も持ち出せないんだ。だからいつもの振動剣は持ち込めなくてな。それでこの国で、臨時で武器を買ったんだ。銃を持った相手に、何の役に立てるか判らんが・・・・・・」


 そんな馴れた会話をする、次第に顔馴染みなりつつある一行。そしてすぐに、真澄はまた会いに来た理由を、小声で告げる。


「お前らがまた変わったことをしてるみたいだからな。一応私もそれに協力しに来た。言っておくが、これは機密事項だから、他には言うなよ。東北姫達は、この公園にはいない。こことは少し離れた、街の宿に、素性を隠して泊まっている。先日の件があってか、すぐ居場所が分かる場所には留まれない。警備の者達も、他の客に扮して、泊まり込んで護衛をしている」

「何だ。昨日のザルな警備も、少しは改善されたかい」


 どうやら昨日の件で、あちらも何も対策しないわけではないらしい。

 他所から見れば、かなり不審な装いで、登喜子らに顔を近づけて、その宿の場所を小声で説明する真澄。それにふとネルが思いついた事を口にした。


「ていうか、それなら正式に姐さんを護衛に雇えばいいんじゃないか? その宿に一緒に泊まり込んだ方が、都合がいいし、あんちゃんも喜ぶだろ? 小次郎会から、紹介とかできないのかい?」

「喜ぶってお前・・・・・・」

「ああ、それは無理だ。小次郎会が紹介した奴が、後から武器の違法所持で捕まったら、こっちの面子が立たないからな。今回、そっちが勝手に、無償で動いてくれたのは、本当に助かるよ。例のゴブリンの件の礼も、まだ決まってないのにな。ああ、それと礼のゴブリン女だが、ほら・・・・・・」


 そう言って真澄が見せつけたのは、礼のゴブリン女=一行はまだ知らないが、雅弘という名の人物の手配写真が映された、携帯画面である。


「あら、ちゃんと手配してくれたんだ。てっきり今回も隠蔽されると思ってたわ」

「ああ、今まで隠してきた食品強奪事件も、少しずつ公表するつもりのようだ。間もなく紙の手配書も、あちこちに張り出されるだろう。全く、最初からそうするべきだったのにな。・・・・・・まあ、警察じゃどうしようもない事件だから、どのみちお前に頼ることになるんだろうが」

「ていうか結局公表するなら、どうして今まで隠し通してたんですかい? そっちの方が、後から弁明が面倒じゃないかい?」

「政府のとある重臣が、随分必死になって、公表を控えるよう、国王に進言していたんだよ。流石にそれも限界が近かったようだが・・・・・・。今回の件で、国王が真剣に事態解決に動き出したよ。まあ、もしかしたら、民間のアマテラス人に解決されると、かえってこちらの面子が潰れると判断したのかも知れないが。それにこれには大蛇の方からも、何も言われなかったしな」

「大蛇の方?」

「ああ、そうか。獣人だからな」


 何故大蛇帝国のことが、この国の事件に出て来るのか、最初はすぐに判らなかった。だが先にヒューゴが、事件の実行犯リーダーが、獣人であったことを思いだした。


「ああ、アマテラス人が関わっているとなると、また大蛇が何か言い出すかと思ったが・・・・・・今回は全然大丈夫だったよ。どうもこの女、アマテラス人じゃないみたいだからな?」

「何でそんなことが判るのよ?」


 大蛇帝国から、大勢の獣人が渡ってきているこの国。そこで獣人が事件を起こしているとなると、普通は大蛇から流れてきた人物と思うのが普通だろう。

 だがそれを否定できる根拠が、向こうにはあったらしい。


「専門の奴らの説明によると、この女のような、緑肌で妖精人(=エルフ)のような耳を持った獣人というのは、アマテラスにはいないらしい。恐らくはこのゼウス大陸の固有種なんだろうな」

「アマテラスにはいない? そうだったんですかい?」

「まあ、専門家がそういったっていうなら、そうなんでしょうね。アマテラスの獣人種って、千種近くいて、中々判らないんだけど。勿論ゼウス大陸にしかいない種なんて知らないしね」


 一口に獣人と言っても、その種類数は膨大である。登喜子の蜘蛛人族に、真澄の鰐人族、そして東北姫達の各々の種族など、その中のほんの一握りに過ぎないのだ。

 それらの種の、全ての名前と特徴を覚えきっている者など、そう多くはいない。そのため、街中でたまたま、見たこともない特徴を持った獣人にあっても、アマテラスではそれを一々気にする者など、ほぼいないと言っていい。


「そう言えば、前に教科書にも載ってたな。このゼウスにも、昔から少しは獣人が住んでたって。元々少なかったのに、ロア教のせいで、ますます数を減らしたとか・・・・・・」


 そう口にするヒューゴの言葉は、実に時代を感じさせる物であった。

 二十年ほど前までは、どんな書籍でも、ロア教に関しては全て肯定的な事しか書かれていなかった。当時から歴史書にも記されていた暴虐行為も、あれこれ理屈をつけて、正当な行為とされてきたのだ。

 だがロア教の実態が判明し、一気に衰退してからは、ゼウス各地でのロア教の記載は、極めて批判的なものになった。

 これまで記されていた事も、新たに判明した事も、時には史実より誇張されて、かなり辛辣に言われている。ロア教がゼウス先住の獣人達にしたことも、勿論含めて。


「ああ・・・・・・ロア教が衰退してから、隠れ潜んできたゼウス獣人達も、各地で姿を現してきているという。奴もその中の一人なんだろう。獣人でも、相手がゼウス人ならば、何も問題ないと、今回は口止めされなかったようだな」


 以前ロウ王国で、アマテラス人らしき物が関与している時は、上からの圧力で隠蔽された。だが今回のようなケースは、政治的な面でも、特に問題にはされないようであった。

 アマテラス人が犯罪を犯したのでなければ、別に何でもいいということか。


「ふうん・・・・・・でもそいつが見つかったとして、警察達じゃどうにもならないのは変わらないわよね。言っちゃ何だけど、あいつの身体能力はとんでもないわよ。あのレベルだと、拳銃程度の武装でも勝てないんじゃないかしら?」

「そうだな・・・・・・その件に関して、大蛇軍の力を借りようという話しも出てきているが」

「何よ、それじゃあ何も問題ないわね。じゃあ、もう私が出て来るまでもないかしら?」


 ゴブリン女の発見に伴い、一気に国の行動が、正しい方向に動き出している。これには登喜子は、安堵と共に、僅かに残念そうな様子であった。


「そうなるかも知れないが・・・・・・万が一のこともあるしな。とりあえずお前も、身構えておけ。・・・・・・それと判ってるが、絶対にこの国で銃は出すな。お前のことは、もう王政府の方に伝えてしまっているんだからな」

「きついこと言うわね・・・・・・。ただのゴブリンの群れならともかく、あの女を銃を使わずに殺せっての?」

「できれば殺さずに、生かして捕まえてくるんだよ。あいつが全ての首謀者とは思えんしな」

「うわぁ・・・・・・ますますきついお言葉。社畜かいあんたは?」


 結構な無理難題を言ってくる真澄に、流石に登喜子も、やや怒っている様子であった。


「まあ・・・・・・確かにな。銃を使うのは、他に人がいないときの、最終手段だ。それ以外の時は、できるだけ通常武器を使うんだよ。丁度東北姫の泊まる宿の近くには、武器屋もある。少なくとも、あの金槌よりは、まともな武器があるだろうが」

「・・・・・・たく、しょうがないわね」


 かくして真澄を加えた一行は、東北姫のいる宿と、件の武器屋へと足を運ぶことになった。



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