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とある化け物の告白(※不快な表現有)

この文章には、読後に不快な思いをされるおそれがありますので、あらかじめご了承ください。

受刑者Aの独白



* * *



 あーあー……。

 これでいいのかな。うん……。じゃあ、はじめます。


 教誨師に頼んで、ボイスレコーダーを用意してもらいました。連続使用時間六十時間だって。すごいな。その間に私の刑が執行されたりして。


 えー私は、国選弁護士を含む二十四人を殺して、死刑判決を下されました。


 これから、重要な告白をします。

 それは、私が殺人を犯した理由についてです。

 

 二十四人も殺した理由について、世間は様々な想像をめぐらせたのでしょう。

 私は幼い頃、母に虐待されていました。

 母に似た背格好の女性を狙っているとか、いろいろと考えてくれたみたいですけど。

 まあ、見当違いもはなはだしいというか。全く、違いますね。


 私が殺人を犯した理由。

 それは、殺したかったからです。それだけです。 


 邪魔、とか、恨んでいた、とか。そういったことは一切ありません。

 ただ殺したかったんです。


 疲れたときは休みたい、お腹が空いたときは美味しいものを食べたい。

 皆そう思いますよね。ね?


 私にとっては、人を殺したいという欲求は、それらと同じくらい自然なことでした。

 物心ついたときからそうでした。


 たくさん殺したいから、なるべくバレないように知恵を働かせました。

 なんかそれも陪審員の心証が良くなかったみたいですけど。


 でも、あなただって好みの異性と親しくなりたいと願ったら、好かれるように自分の外見を替えたり、趣味を合わせたりするでしょ? まったく同じことです。

 

 殺人鬼やサイコパスが、幼い頃、昆虫や、犬や猫を代わりにいたぶって殺していたって話も聞きますけど。なんで? って思います。全然意味わかんないですね。

 だって、人を殺すのと、犬猫を殺すのとじゃ全然違う。別物でしょう。


 だからって罪の重さが異なるのも理解できませんけど。

 殺しは殺しでしょ。


 国選弁護士にも正直にそう話しました。

 でも、この理由は良くない、といわれました。それだけなら許せたんだけどなぁ……


 弁護士は、私の動機をねつ造しました。

 それは頭の悪い世間の彼らが理解できるよう、ありふれた道筋をつける作業のようなものでした。


 そう、このときだけは私、腹が立ちましたね。いらっときました。

 許せないと思ったから、殺しました。これが人間らしい動機ってやつですか。

 あ、私、今人間らしくなかったですか。


(失笑するような声)


 ごめんなさい、と謝るべきでしょうか。


 私は、世間が蔑むような好奇心を刺激されるような、殺人犯、の型には入りません。

 枠外なんでしょう。

 特別、という表現もあるかもしれませんが、誇っているわけではありませんよ。

 ただ理解してわかったような気になられるとなぁ……ちょっとね、それは……ああああ~っ!


(頭を激しく掻きむしる音)


 いや、わかってる。わかってますよ。


 ようするに、怖いんでしょう? あなたたちは。


 わからない、ってことが。

 理解できないってことが。

 

 それが怖いんでしょ?

 

 どんなに恐ろしいことより悍ましいことより、『わからない』ってことが怖いんです。不快なんです。

 

 世間は理屈にまみれています。

 芸術だって、多数の共感を得られれば傑作で、得られないマイノリティーは駄作です。

 皆、簡単に理解できる、感情移入しやすい、単純なものが大好きなんですよねぇ。わかるってことが気持ち良いのかな。僕にはちょっとわかんないけど。


(ケラケラと笑う声の後、五分以上せき込む)


 はあ……だんだん疲れてきました。

 そろそろ終わりにします。


 最後に、これを聞いているあなたに、お願いです。 


 私はたぶん『人間』じゃないんです。

 人間じゃないなら、なんだろ……。『化け物』かな。


 人間の心を持たない僕の、唯一の人間らしいエゴです。


 僕を、わ、か、ろ、う、と、す、る、な。


 頼むから、

 わかった気になって物知り顔で俺を語るな。


 お願いだから。わかってほしい、なんて思ってねぇから。理解も認識もするな。

 共感ごっこは、仲良し同士でやってくれよ。


 死ぬのはいい。いいんだよ……。

 でも、死刑になった後、どっかのバカが俺のことSNSで呟くのかなあ、とか考えるだけでたまらないんだよね。


(舌打ち、溜息を繰り返す)

  

 つーか、やっぱり俺、皆殺さなきゃいけないかな……。



(「あー」「うー」など意味をなさぬ呻きが続いた後、音声が途切れる。)


* * *


受刑者Aは、翌日の運動時間中に、屋上で暴れ出した。

逃亡を試みたのだと思われる。

刑務官によって取り押さえられたものの、まもなく拘置所内で心臓発作で死亡した。


テープレコーダーには、録音内容を広く世間に公表するよう希望する旨の手紙が添えられていたが、公表は一切行われず、とある病院の精神科病棟に厳重に保管された。

世の中、理解し合うことが美徳とされている気がするけど、必ずしもそうでもないのかなあと思いまして(^-^;

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