第二話「殺戮と救世」
あらすじ
少女は犬を繰り出した!
ひらりひらりと消え行く命
慈悲は無く歯向かうものは亡ぶ
それがこの時代での定め
力が物を言う時代
~第二話~「殺戮と救世」
犬達は怯えていた。
殺されたのだ、仲間が。
目の前の「食べ物」によって。
今までの「食べ物」はこいつとは違った。いや、単純にこいつが違うだけなのかもしれないが。
今までのは大抵は怯えて腰をぬかす人ばかり。だから仕留めるのも簡単だった。
そう、あまりに簡単過ぎた。
よって、命を食らう価値観を失っていた。
価値観と共に危険性も忘れていた。
だから、誰かが命を失うのかもしれない……そんなのは犬達の脳にはなかった。
だが、こいつは今までの「食べ物」とは違う。反抗してきたのだ。
そして、先頭を走っていた犬……彼は一番強い犬、言わば、特攻リーダーだった。
それが一瞬にして殺されたのだ。
当然、怯える。怯える。リーダーが敵わないのなら俺達なんか当然、無理だろう。
数でかかれば何とかなるだろうが、そこまで犬達は頭が働かなかった。
なんせ、半場、戦闘の野性を忘れているのだ。呼ばれて、飛びついて、噛みつく。それだけで終わったのだから。
後は果実を取るなり寝床を作るなりと。
必要以外の事は追求しなかったのだ。
「さすがだな、俺の腕前!」
苦笑いしているメオが余裕ぶる。
焦りを感じていたのだろうが、無事助かり、余裕をかましているようだ。自分を安心させるために。
手に持つ銃口からは、白い煙が出ている。
メオの持つ拳銃は性能は凄い。
オート標準、完全防水、空気弾だから弾切れはないし、リロードもない。
でも、何かを弾にすることもできる。今日は普通の銃弾を入れている。この場合はリロードが必要だ。
他にも機能はあるらしいがその辺は教えてもらってない。
何でも、「自分で見つけろ」と言うのだ。
「さすがだよな。俺が作った銃」
そう、こいつだ。センオウ。センオウ・ニドラニグル。
この銃はセンオウが作ったのだ。
センオウは発明家で、どんな物でも作れると言われているほど、腕が良い。
とても考えられない物でも、センオウが作った、と、言うだけで納得されるほどの力の持ち主だ。
主に、戦闘系の依頼ではこいつの防具、武器を装備している。
……いきなり音が鳴る。鮮やかな音だ。
この音色は聞いたことがある。メオもセンオウも、犬達も。
しかし、さっきとは音階が違う。吸い込まれるような音楽。
そして、音がした方向を見る。
やはりだった。あの少女だ。あの少女が笛を口に加えていた。
しかも、その顔には怯えはない。見た目にはあの少女は13歳辺りだろう。あの幼さでこの惨劇を見たのだ。なのに、涼しい顔。
これに、二人は違和感、そして、恐怖を覚える。
その時、犬達が一斉に走り出す。バラバラの方向に向かって。
メオには意味が分からなかった。何故、バラバラに走り出したのかが、分からなかった。
が、何か策があると思って、走る犬達に向かって銃を撃ちばらまく。
だが、いくらオート標準だとしても、こう、バラバラに走る様じゃ、当たりはおろか、かすりもしない。
そして、犬達がとうとう、居なくなる。と、同時にメオの銃弾は底を尽きた。
リロードの操作は必要としても、やはり、銃弾が入っている方が威力は高い。
これはかなりの痛手だ。何でも、こんな危険な少女に出会うことは想定してなかったのだ。
銃弾なんか、あまり持ってきていない。
でもまあ、銃弾の形に似た何か、最低でも、空気を撃てる事が唯一の救いだが。
すると、急にセンオウは、あっ……! と、声を漏らす。そして、中折れ帽を自分の頭の上から押し付ける。
苦し気な声でメオに駄目元で尋ねる。
「おい……弾、まだ、あるか?」
メオは銃をトリガーの部分を軸にして、指で回しながら、たった今尽きた事を伝える。
すると、センオウは溜め息を吐く。
そして、持ってた枝を、少し湿った地面に突き刺す。
「いいか、今、犬達が逃げ出したのは撤退だ。多分、あの笛の音が合図だろう。あれだけの数が居て、撤退の合図を出したと言うことは、何か、物凄い奴がいると言う事だ」
この事を理解していないメオに対してちゃんと、説明をする。
メオはこの数秒後、ハッとして、地団駄を踏む。
なんせ、プロだとしても今は戦力が少ないのだ。もしかしたら死ぬかもしれない……。
その不安でイラついているようだ。
そして、少女の方を見る。その顔は、真実を確かめるための顔、歯を食い閉めて、睨み付けていた。
一方、少女は笛を口に加えたまま。
どちらが先に動き出すか分からないまま数分が過ぎる。
もし、メオが先に銃を撃つ。しかし、それはもしかしたら避けられるのかもしれない。そうなると、直ぐには次の弾は撃てない。
その間に笛を吹かれ、何かが起こってしまうだろう。
そうなれば、メオ達の負けになるようなものだ。
反対に、先に笛を吹いたらどうだろう。
笛を吹くことに集中して、銃弾なんか、その時に避けられっこない。
もしかしたら、当たったときに笛が飛んでいくかもしれない。だから、いきなりは吹けない。
この、絶妙な関係がこの時間を生み出した。
その間に夕焼けは沈み始める。当たりは暗くなり、木の影が沈み始める。
その間に移る白い点々……、これらは、星。
今日は特別、星の光が強い日。
空には星が無数に広がっている。それが白い影となりだんだん延びる木の影に、星が移っているのだ。
さらに、森特有の涼しさもあって、これはもう、間違いなく絶景だろう。
しかし、今の三人には関係ない。
三人とも、集中をしているため、こんな光景は気にはしてないのだ。
まあ、少女は、他の二人と違い、涼しい顔をしているので、よく分からないが。
そして、どんどん時間が過ぎていく。
ただ、沈黙の時間が続いていく。
夏だからか、この森は涼しくて、居心地が良い。
よって、忘れていた睡魔がメオに襲いかかってきた。
メオは集中力をだんだん、失い始める。
じわじわと、眠くなってくる。
挙げ句の果てに、メオの拳銃を持った腕が、少女の方からだんだんと下がり始めた。
「おい、寝るな。俺は何も持ってきていない。お前の銃と剣が唯一の盾だ」
センオウの一喝にメオは目を覚ます。
そして、銃を再び少女の方に素早く向ける。
「ガチャッ」と、音はしない。まだ、正常な証拠だ。
だから、いきなり無音で向けられた拳銃に少女は肩をあげて驚く。
完全に下がった頃を狙ってたのだ。
それが、今、吹こうとしたときに、いきなり自分の方に向けられるんだから、無理はない。
そして、笛を口から落としてしまった。
紐が付いているから、落ちはしない物の、少女の首にぶら下がり、バンジージャンプの如く、跳び跳ねた。
その笛は少し、重いらしく、落ちた瞬間の振動が首に伝わり、痛んだ。
そして、直ぐに取るという、判断を忘れてしまった。
パァン! パァン!
森に二回、発砲の音が響く。
メオが空気弾を撃ったのだ。今が頃合い、先ずは笛を落とさせる。
そのためには申し訳ないが、紐を千切る必要がある。
そして……、見事、笛の紐は千切れた。
紐がちぎれるほどの威力だ。その紐を貫いた弾が少女の胸に当たる。
その少女はその場にうずくまる。
足音がする。草を踏みつけて、メオとセンオウが、少女の方に近づいていく。
踏みつけるたびに、ガサ……ガサ……と、音がするのでだんだんと近づいているのが、少女には分かった。
ある程度近づいたところでメオは丸形の笛を手に取り、少女に投げ捨てた。
それが、少女の頭に当たり、跳ね返って、地面の芝生にボトッと、落ちる。
そして、胸を押さえながら少女はメオを睨む。
対してメオは笑顔で少女に指を指す。
「気に入った、あんた、メンバーに入らねえか?」
月夜に照らされたメオが言い放つ。
少女とセンオウは唖然とした顔でメオを見ていた。
メオがメンバー勧誘なんて全く無いことだ。
他の依頼屋は、数十人、有名な所は、数百、ましてや数千もの数のメンバーがいるのだが。
メオのチーム、「白黒狼」は二人。
大規模な「ギルド」、つまり、依頼屋の集団、同盟のような物にも入っていない。
理由はと言えば、やはり、メオだ。
もしも、ギルドに入ってしまえば依頼がどしどし入ってくる。
と、なると、メオは依頼を受けたがらないから、放棄してしまい、もともと少ない評価が更に下がってしまう。
そうなると、依頼屋は止めるしかないのだ。
それを本業としている二人は生活をできはしないだろう。
かといって、それを養える分の人数はいない。
リーダーであるメオがメンバー勧誘をしないからだ。
どうやら、面白い人がいない。と、言う理由らしいが。
今、この少女を勧誘していると言うことは、何か、魅力があったのだろう。
涼しい時間が続いていく。
辺りはまだまだ絶景が現れている。
月夜に照らされたメオが少女の返答を待っている。
センオウは色々と疑問を浮かべたが、折角のメンバー勧誘だ。疑問を自問自答しおえて、メオの勧誘を認めた。
そして、少女は溜め息を吐く。しかし、その溜め息は嬉しさがあるような感じがした。
それに、メオは微笑んだ。答えが分かったように、安心して、微笑んだ。
少女は笛を手に取り、ゆっくりと立ち上がった。
二人を見るなりして、少し、微笑みを浮かべた後、笛を吹いた。
引き付かれるような優しい音色。今までのとは全く違う。敵意はなく、仲間としての好意が現れる物だった。
センオウは警戒して一歩下がったが、メオは、やっとか。と、顔に浮かべて喜んだ。
やがて、この演奏が終わると、少女は自分の後ろを見た。何かを待つように。
足音がする。草を踏みつけて、少女の方に近づいていく。
今日は特別、月が明るい日。
だんだんと、影が見えてきた。あれは狼だ。他の犬より、体が大きい。
そして、少女の前に三匹の狼が出てきた。
毛色は滑らかな、灰色だ。そして、その中の一匹だけが、武装されていて、他の狼より一回り大きい。
少女はその大きな狼に跨がって、二人に微笑んだ。
「乗って。先に私の群れへ招待する」
月夜に、三人と、三匹が照らされる。
まるで、祝福するように。
「--おうっ!」
メオが威勢よく言うと、狼に跨がった。
続いて、センオウも、狼に跨がると、少女は狼を走らせた。
「うおっ! 速ぇ! すげぇ!」
メオがはしゃぐ。
珍しく、センオウも、はしゃぐ。
なんたって、狼に乗るのは初めて。しかも、物凄い速いのだ。
それも、風の音しか聴こえないような。
夜の寒さと絶景もあって、気分が高まっている様だ。
後ろでわいやわいや騒いでいる二人に対して、少女は、風になびかれるその顔に、安らぎの笑顔があった。
「--やっと、認めてもらえた」と、想いながら。
二話「殺戮と救世」完
今回は少し、ファンタスティックにしてみました。
壁紙も黒にして、夜の出来事と、想像しやすくしてみたのでしょうが、どうでしょうか?
良い雰囲気ですか?
評価をお願いします。