表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
獣の主人~世界再考~  作者: 狗神キラン
依頼屋
2/4

第二話「殺戮と救世」

あらすじ


少女は犬を繰り出した!

ひらりひらりと消え行く命

慈悲は無く歯向かうものは亡ぶ

それがこの時代での定め

力が物を言う時代


~第二話~「殺戮と救世」


 犬達は怯えていた。

 殺されたのだ、仲間が。

 目の前の「食べ物」によって。

 今までの「食べ物」はこいつとは違った。いや、単純にこいつが違うだけなのかもしれないが。


 今までのは大抵は怯えて腰をぬかす人ばかり。だから仕留めるのも簡単だった。

 そう、あまりに簡単過ぎた。

 よって、命を食らう価値観を失っていた。

 価値観と共に危険性も忘れていた。

 だから、誰かが命を失うのかもしれない……そんなのは犬達の脳にはなかった。

 だが、こいつは今までの「食べ物」とは違う。反抗してきたのだ。

 そして、先頭を走っていた犬……彼は一番強い犬、言わば、特攻リーダーだった。

 それが一瞬にして殺されたのだ。

 当然、怯える。怯える。リーダーが敵わないのなら俺達なんか当然、無理だろう。


 数でかかれば何とかなるだろうが、そこまで犬達は頭が働かなかった。

 なんせ、半場、戦闘の野性を忘れているのだ。呼ばれて、飛びついて、噛みつく。それだけで終わったのだから。

 後は果実を取るなり寝床を作るなりと。

 必要以外の事は追求しなかったのだ。


「さすがだな、俺の腕前!」


 苦笑いしているメオが余裕ぶる。

 焦りを感じていたのだろうが、無事助かり、余裕をかましているようだ。自分を安心させるために。

 手に持つ銃口からは、白い煙が出ている。


 メオの持つ拳銃は性能は凄い。

 オート標準、完全防水、空気弾だから弾切れはないし、リロードもない。

 でも、何かを弾にすることもできる。今日は普通の銃弾を入れている。この場合はリロードが必要だ。

 他にも機能はあるらしいがその辺は教えてもらってない。

 何でも、「自分で見つけろ」と言うのだ。


「さすがだよな。俺が作った銃」


 そう、こいつだ。センオウ。センオウ・ニドラニグル。

 この銃はセンオウが作ったのだ。

 センオウは発明家で、どんな物でも作れると言われているほど、腕が良い。

 とても考えられない物でも、センオウが作った、と、言うだけで納得されるほどの力の持ち主だ。

 主に、戦闘系の依頼ではこいつの防具、武器を装備している。


 ……いきなり音が鳴る。鮮やかな音だ。

 この音色は聞いたことがある。メオもセンオウも、犬達も。

 しかし、さっきとは音階が違う。吸い込まれるような音楽。

 そして、音がした方向を見る。


 やはりだった。あの少女だ。あの少女が笛を口に加えていた。

 しかも、その顔には怯えはない。見た目にはあの少女は13歳辺りだろう。あの幼さでこの惨劇を見たのだ。なのに、涼しい顔。

 これに、二人は違和感、そして、恐怖を覚える。


 その時、犬達が一斉に走り出す。バラバラの方向に向かって。

 メオには意味が分からなかった。何故、バラバラに走り出したのかが、分からなかった。

 が、何か策があると思って、走る犬達に向かって銃を撃ちばらまく。

 だが、いくらオート標準だとしても、こう、バラバラに走る様じゃ、当たりはおろか、かすりもしない。

 そして、犬達がとうとう、居なくなる。と、同時にメオの銃弾は底を尽きた。


 リロードの操作は必要としても、やはり、銃弾が入っている方が威力は高い。

 これはかなりの痛手だ。何でも、こんな危険な少女に出会うことは想定してなかったのだ。

 銃弾なんか、あまり持ってきていない。

 でもまあ、銃弾の形に似た何か、最低でも、空気を撃てる事が唯一の救いだが。


 すると、急にセンオウは、あっ……! と、声を漏らす。そして、中折れ帽を自分の頭の上から押し付ける。

 苦し気な声でメオに駄目元で尋ねる。


「おい……弾、まだ、あるか?」


 メオは銃をトリガーの部分を軸にして、指で回しながら、たった今尽きた事を伝える。

 すると、センオウは溜め息を吐く。

 そして、持ってた枝を、少し湿った地面に突き刺す。


「いいか、今、犬達が逃げ出したのは撤退だ。多分、あの笛の音が合図だろう。あれだけの数が居て、撤退の合図を出したと言うことは、何か、物凄い奴がいると言う事だ」


 この事を理解していないメオに対してちゃんと、説明をする。

 メオはこの数秒後、ハッとして、地団駄を踏む。

 なんせ、プロだとしても今は戦力が少ないのだ。もしかしたら死ぬかもしれない……。

 その不安でイラついているようだ。

 そして、少女の方を見る。その顔は、真実を確かめるための顔、歯を食い閉めて、睨み付けていた。


 一方、少女は笛を口に加えたまま。

 どちらが先に動き出すか分からないまま数分が過ぎる。


 もし、メオが先に銃を撃つ。しかし、それはもしかしたら避けられるのかもしれない。そうなると、直ぐには次の弾は撃てない。

 その間に笛を吹かれ、何かが起こってしまうだろう。

 そうなれば、メオ達の負けになるようなものだ。


 反対に、先に笛を吹いたらどうだろう。

 笛を吹くことに集中して、銃弾なんか、その時に避けられっこない。

 もしかしたら、当たったときに笛が飛んでいくかもしれない。だから、いきなりは吹けない。


 この、絶妙な関係がこの時間を生み出した。

 その間に夕焼けは沈み始める。当たりは暗くなり、木の影が沈み始める。

 その間に移る白い点々……、これらは、星。

 今日は特別、星の光が強い日。

 空には星が無数に広がっている。それが白い影となりだんだん延びる木の影に、星が移っているのだ。

 さらに、森特有の涼しさもあって、これはもう、間違いなく絶景だろう。


 しかし、今の三人には関係ない。

 三人とも、集中をしているため、こんな光景は気にはしてないのだ。

 まあ、少女は、他の二人と違い、涼しい顔をしているので、よく分からないが。

 そして、どんどん時間が過ぎていく。

 ただ、沈黙の時間が続いていく。

 夏だからか、この森は涼しくて、居心地が良い。

 よって、忘れていた睡魔がメオに襲いかかってきた。

 メオは集中力をだんだん、失い始める。

 じわじわと、眠くなってくる。

 挙げ句の果てに、メオの拳銃を持った腕が、少女の方からだんだんと下がり始めた。


「おい、寝るな。俺は何も持ってきていない。お前の銃と剣が唯一の盾だ」


 センオウの一喝にメオは目を覚ます。

 そして、銃を再び少女の方に素早く向ける。

 「ガチャッ」と、音はしない。まだ、正常な証拠だ。

 だから、いきなり無音で向けられた拳銃に少女は肩をあげて驚く。

 完全に下がった頃を狙ってたのだ。

 それが、今、吹こうとしたときに、いきなり自分の方に向けられるんだから、無理はない。

 そして、笛を口から落としてしまった。

 紐が付いているから、落ちはしない物の、少女の首にぶら下がり、バンジージャンプの如く、跳び跳ねた。

 その笛は少し、重いらしく、落ちた瞬間の振動が首に伝わり、痛んだ。

 そして、直ぐに取るという、判断を忘れてしまった。


 パァン! パァン!

 森に二回、発砲の音が響く。

 メオが空気弾を撃ったのだ。今が頃合い、先ずは笛を落とさせる。

 そのためには申し訳ないが、紐を千切る必要がある。

 そして……、見事、笛の紐は千切れた。

 紐がちぎれるほどの威力だ。その紐を貫いた弾が少女の胸に当たる。

 その少女はその場にうずくまる。


 足音がする。草を踏みつけて、メオとセンオウが、少女の方に近づいていく。

 踏みつけるたびに、ガサ……ガサ……と、音がするのでだんだんと近づいているのが、少女には分かった。

 ある程度近づいたところでメオは丸形の笛を手に取り、少女に投げ捨てた。

 それが、少女の頭に当たり、跳ね返って、地面の芝生にボトッと、落ちる。

 そして、胸を押さえながら少女はメオを睨む。

 対してメオは笑顔で少女に指を指す。


「気に入った、あんた、メンバーに入らねえか?」


 月夜に照らされたメオが言い放つ。

 少女とセンオウは唖然とした顔でメオを見ていた。

 メオがメンバー勧誘なんて全く無いことだ。


 他の依頼屋は、数十人、有名な所は、数百、ましてや数千もの数のメンバーがいるのだが。

 メオのチーム、「白黒狼」は二人。

 大規模な「ギルド」、つまり、依頼屋の集団、同盟のような物にも入っていない。

 理由はと言えば、やはり、メオだ。


 もしも、ギルドに入ってしまえば依頼がどしどし入ってくる。

 と、なると、メオは依頼を受けたがらないから、放棄してしまい、もともと少ない評価が更に下がってしまう。

 そうなると、依頼屋は止めるしかないのだ。

 それを本業としている二人は生活をできはしないだろう。


 かといって、それを養える分の人数はいない。

 リーダーであるメオがメンバー勧誘をしないからだ。

 どうやら、面白い人がいない。と、言う理由らしいが。

 今、この少女を勧誘していると言うことは、何か、魅力があったのだろう。


 涼しい時間が続いていく。

 辺りはまだまだ絶景が現れている。

 月夜に照らされたメオが少女の返答を待っている。

 センオウは色々と疑問を浮かべたが、折角のメンバー勧誘だ。疑問を自問自答しおえて、メオの勧誘を認めた。


 そして、少女は溜め息を吐く。しかし、その溜め息は嬉しさがあるような感じがした。

 それに、メオは微笑んだ。答えが分かったように、安心して、微笑んだ。

 少女は笛を手に取り、ゆっくりと立ち上がった。

 二人を見るなりして、少し、微笑みを浮かべた後、笛を吹いた。


 引き付かれるような優しい音色。今までのとは全く違う。敵意はなく、仲間としての好意が現れる物だった。

 センオウは警戒して一歩下がったが、メオは、やっとか。と、顔に浮かべて喜んだ。

 やがて、この演奏が終わると、少女は自分の後ろを見た。何かを待つように。


 足音がする。草を踏みつけて、少女の方に近づいていく。

 今日は特別、月が明るい日。

 だんだんと、影が見えてきた。あれは狼だ。他の犬より、体が大きい。

 そして、少女の前に三匹の狼が出てきた。

 毛色は滑らかな、灰色だ。そして、その中の一匹だけが、武装されていて、他の狼より一回り大きい。

 少女はその大きな狼に跨がって、二人に微笑んだ。


「乗って。先に私の群れへ招待する」


 月夜に、三人と、三匹が照らされる。

 まるで、祝福するように。


「--おうっ!」


 メオが威勢よく言うと、狼に跨がった。

 続いて、センオウも、狼に跨がると、少女は狼を走らせた。


「うおっ! 速ぇ! すげぇ!」


 メオがはしゃぐ。

 珍しく、センオウも、はしゃぐ。

 なんたって、狼に乗るのは初めて。しかも、物凄い速いのだ。

 それも、風の音しか聴こえないような。

 夜の寒さと絶景もあって、気分が高まっている様だ。


 後ろでわいやわいや騒いでいる二人に対して、少女は、風になびかれるその顔に、安らぎの笑顔があった。


 「--やっと、認めてもらえた」と、想いながら。


二話「殺戮と救世」完

今回は少し、ファンタスティックにしてみました。

壁紙も黒にして、夜の出来事と、想像しやすくしてみたのでしょうが、どうでしょうか?

良い雰囲気ですか?

評価をお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ